東インド大陸沖海戦 3
この距離、しかも資料が何も無い海域。
当たるのかね。
「敵艦隊、二分しました。艦隊両側へと針路取ります」
クリムエ参謀長がハウスラー艦橋で参謀と艦長を交え敵艦隊への対応を考えているときにもたらされた、レーダー情報だった。
「挟撃する気か?」
「それしか無いでしょうね」
「余り戦力は変わらんだろう。南側をA集団、北側をB集団とする。せっかく相手が小さくなってくれたのだ、各個撃破する」
「レーダーです。敵艦隊後方に大型艦二隻」
「大型艦か」
「戦艦、ですよね」
「順当に考えればそうなんだろう」
「本艦が脅威なので対抗上別行動としているのでは」
「他に理由は無いな」
「どうしますか」
「艦隊南側の艦隊が輸送船団の脅威になる。南側をやる」
「了解です」
「レーダー。距離は」
「南側艦隊三万二千。北側四万五千」
「艦隊面舵」
「艦隊面舵了解」
「レーダーです。A集団こちらの頭を抑える行動に出ました。距離二万五千」
見張り員からも
「A集団、艦隊前方に針路取っています。あ!敵艦発砲」
こんな距離で当たるわけは無い。牽制の一発だろう。案の定、水雷戦隊への影響にもならないところに着弾した。変な報告が有った。水柱がオレンジ色をしていると。なんだ?海にいた生物にでも当たったのか?
「艦長、本艦も撃ち返せ。二発でいい。単発で二回な。この距離では当たらん」
「了解」
「砲術長、A・B砲塔でA集団に向けて発砲。どちらもb砲で一発だ」
「了解しました」
「艦隊。A集団と同航戦に入る。面舵九十。駆逐艦は一万で撃ち方始め」
「艦隊面舵九十、発動します」
艦隊は敵A集団と距離を詰め同航戦に入るべく面舵を切った。
「いかん。参謀長、距離を取って下さい」
作戦参謀ヘンシェル大佐が突然言った。
「なんだ。理由は」
「先日の海戦で敵に高性能魚雷がある可能性が高いと報告されています。近い同航戦は危険なのでは」
「魚雷だ?報告書に有ったアレか」
「レーダー。A集団との距離は」
「一万に近づきます」
「艦隊、直進に戻せ。戻した後、百八十度回頭。艦隊増速、三十ノットへ。A集団後方に回り込む。サディスブルクは二十二水雷戦隊を引き連れて先頭で航行せよ。ケイネブルクは二十三水雷戦隊を引き連れてだ」
「了解」
「A集団面舵。同航するようです」
見張りから報告が有った。良かった。上陸船団のことを全員忘れていた。一直線にいかれるところだった。
「距離は」
「一万一千です」
「このまま上陸船団から引き離す。針路このまま。A集団との距離を保て」
「レーダー。B集団はどうだ」
「同航戦でしょうか。現在一万五千。徐々に近づきつつあります」
どちらも駆逐艦に被害が出始めている。轟音と衝撃があった。B砲塔b砲での発砲だ。変針が多くようやく二発目の発射機会が来たのだろう。
前方に水柱が上がったのはその時だ。赤いだと。先程の報告でオレンジと言ったな。ひょっとして奴ら色を付けているのか。やはり、奴らはおかしい。確信した。
「前方四百着弾」
見張りから報告が有った。
「クリムト参謀長。敵戦艦を放っておくと危険と考えます」
「どうする。敵戦艦も二隻だ」
「やりましょう。それにあと五分で攻撃隊発艦開始と連絡がありました」
「では行こうか。駆逐艦部隊の指揮は巡洋艦戦隊司令ライドリヒ少将に任せる」
「了解。指揮委譲をします」
「艦長、本艦針路。敵戦艦だ。砲戦距離は二万を保て」
「了解しました」
じわじわと距離を詰める敵水雷戦隊、距離は一万二千になろうとしている。こちらの砲撃で三隻落後させたが、こちらも二隻落後した。
その時だった。いきなり艦隊の中に二本の水柱が上がった。ほとんどの艦が面舵一杯で魚雷を避けようと転舵した。艦隊は混乱の極みだ。戦訓に有った高性能魚雷の事は皆頭に入っていたのだろう。
冷静に対応できるかというと、話は違ってくるが。
「奴らいつ発射したのだ」
「分かりません。発射したような態勢にはなっていません」
「針路を戻すよう命令を出せ。このままでは各個撃破されるぞ」
艦隊が混乱から立ち直り針路を戻したところに今度は左舷側に命中弾の水柱が上がった。
一万四千でイギリス艦隊が発射したイギリス仕様の五十三センチ酸素魚雷だった。イギリス海軍が従来使用していた魚雷の寸法に合わせたので九十五式よりも炸薬量は少なかったが空気室は大きく射程は伸びていた。四十二ノットで一万八千、ギリギリの距離で発射した魚雷だ。炸薬の威力も日本の炸薬よりも二割増しであり、破壊力は余り変わらない。
駆逐艦九隻、一隻八本+軽巡四本の合計七十六本だった。こちらも三本しか当たらなかったが敵へ与えた衝撃は大きい。
命中魚雷は百二十二本発射して五本と言う情けなさだが、海流も分からない状況での遠距離発射でよく当たったという事だろう。
英日艦隊にとっては残念なことに、ガミチス艦隊にとっては運のいいことに、命中したのはすべてGA級駆逐艦だった。それでも戦列から五隻が失われたのは痛いので有るが。
ガミチス艦隊はおそらく酸素魚雷と予想される高性能魚雷を警戒する余り、見事に挟撃を受けたのだった。
「駆逐艦GA25、27、33、37、38が被雷しました。25、27は沈没。33、37は総員退艦だそうです。GA38は艦首切断「航行に不安有り、追随できず」とのことです」
「クソ! シュワルツグリフ、ボルネジを主隊から分離。二十二水雷戦隊支援へ。ディスターラント、エストブルク、シュワルツメルケは二十三水雷戦隊支援だ。GA38は輸送船団と合流せよだ」
「了解」
クリムエ参謀長は焦っていた。
なんだあの魚雷は。最低一万三千以上の射程が無ければここまで届かないぞ。
「主隊はこのまま前進。敵戦艦を撃滅する」
「了解。砲術長、目標敵戦艦に変更」
「了解しました。目標敵戦艦」
敵戦艦まで後三万を切った。観測機が上げられない状態ではレーダー射撃の補正が光学装置に頼らなくてはいけない。今撃っても無駄玉だろう。
「アレ?おかしいな…」
水上レーダー担当のレーダー手が独り言を言っている。
「レーダー手、どうした。報告ははっきりとしろ」
「はっ!申し訳ありません。実は敵戦艦二隻ですが大きさが違うようです」
「どういう事だ」
「反射波の大きさが違います」
「どちらかが小さいと言うことか」
「いえ、一隻大きいです」
「分からんな。そこまで観測できるものなのか」
「この星は曲率が小さくて、三万でも二万以内くらいの反射波が帰ってきますし、この距離なら減衰も気になるほどでは有りません」
「それで」
「敵は二隻で我が艦の斜め前方向に進んでいますが、反射波が明らかに違います」
「君の見立てだとどうなる」
「はい。一隻、先頭の艦はハウスラー同等と思われます。後ろの奴は一回り大きいと考えます」
「ハウスラーより大きいだと」
「見張り員。敵戦艦の大きさは確認できるか」
「艦影が初めて見る船です。大きさが分かりません」
「では、どちらが大きい?」
「後続艦です」
こちらよりデカいだと?速度も出ている。装甲の薄い高速戦艦なのか?だが、違う世界の船だ。ガミチスのいた世界に当てはめると危険だな。では、どうする?
「クリムエ参謀長、攻撃隊進撃してきます。指示を求めています」
「来たか」
「雷撃隊は全機敵戦艦に向かって欲しい。爆撃隊は手当たり次第で良い」
『了解。雷撃隊は目標戦艦。爆撃隊は目標各自設定』
「頼む」
『お任せを』
既に上空の敵水上偵察機は戦闘機の接近によって退避するか撃墜されている。一方的に撃たれることは無いだろう。
「敵戦艦、二万五千」
だが見張り員の報告は
「敵戦艦、発砲」
この距離で撃ってくるか。
「発砲は後続戦艦。先頭の艦はまだです」
今度は対空レーダーから聞きたくなかった報告が有った。
「敵と思われる編隊、二時から接近中。距離八十キロ。高度百。機数、単発機なら六十機」
敵も空母を伴っていたか。高度が低いので近づいての探知か?
「味方には通信済みです」
上空を見ると味方機が前方へと向かっていく。
着弾は前方百メートル、遠近で言えば近二百メートル当たりに落ちた。
腕のいい奴とはやりたくないものだ。
「デカいな」
「そうですね」
ガミチス帝国海軍空母アルナヘイム所属航空隊で今回二十四機の雷撃隊隊長を勤めるカールマン少佐とパイロットのライシャワー中尉だった。三座機の通信担当ヨルストム一等飛行兵曹は母艦からの通信と旗艦からの通信を聞きのがさまいとしているので、会話に加われない。
「隊長。雷撃隊はデカい方優先でと旗艦が言ってきました」
「後ろの奴がデカいな」
「では隊長どうしますか」
「追信です。敵編隊接近中。七十キロ」
「よし早いとこ片付けて帰還する」
「「了解」」
「カールマンだ。雷撃隊全機。アルナヘイム一中隊と二中隊は前の戦艦。他の全機は後ろの奴だ。攻撃開始」
「「「おう」」」
一中隊隊長も兼ねるから俺がデカブツをやるからも前らは小さい奴とは言えない。率先して小さい それでもハウスラーと同じくらいだ 戦艦に雷撃を敢行する。
機体は軽快に反応する。先日まで配備されていたCP/Mと比べると雲泥の差だ。Do社のS3、その小改良型Do/S3.1は魚雷を抱いていても反応が早い。
先日の北岬航空戦では敵雷撃機は高度十メートルで飛行して投雷したという。真似したいが腕の方はともかく新型魚雷の最適投下高度が二百メートル投下速度二百八十キロを上限に高度百メートル速度百八十キロまでなので真似は出来なかった。速度を落とせば投下高度を下げることが出来る。その代わり的になる時間が長くなる。最適値以外では水中に潜ってからの雷道が不安定で最悪海面から飛び出てくると言うことだ。その代わり従来の魚雷の速度を上回る四十六ノットと増えた炸薬量があるのだが。
CP/Mの中にはかなり高度と速度を落として雷撃した機体があったという。その機体は帰還したそうだ。低い高度に生還の可能性があるが、魚雷の性能が許さない。
「ライシャワー行くぞ。手筈通り右舷から一中隊、左舷から二中隊。続け」
「「「了解」」」
伸びたった。
伸ばしたとは言えない。勝手に伸びた。
次回 六月二十日 05:00予定
二百話完結も怪しくなって参りました。