東インド大陸沖海戦
少し短いです。
水上機の発進は空冷エンジン搭載の日本艦隊からの方が早かった。液冷エンジンは暖気に時間が掛かり一分一秒を争う緊急発進には向いていない。
利根から発艦した瑞雲、利根二号機は電探情報を基に敵艦隊へと接近していく。上空に機影は無いと言うことなので少し無造作に近づく。後方を確認すると友軍機が見えた。
「大友一飛曹。隊内無線は届くのか」
「機長、この距離だと難しいです」
「では電信で頼む」
対空砲火が始まり爆炎が周囲に出現する中、利根二号機機長脇田飛曹長は以下の概要を利根に向けて打電した。
『敵艦隊 真方位二百三十度 距離三十八海里』
次いで
『戦艦二 大型空母二 大型巡洋艦三 十隻程度の水雷戦隊二 輸送船多数に護衛の戦艦二 水雷戦隊二』
「打電しました」
「返信?「瑞雲は上空の敵偵察機を撃退せよ」です」
「よし。敵機が上がってきたのか。迎撃する」
「本気ですか。利根は」
「翼の二十ミリは何のために付いている」
脇田は本気だった。瑞雲を上回る格闘戦性能を持つ水上機はゼロ観しか知らない。ガミチスにもこんな機体は無いだろうと言う希望的観測で、空戦を挑むべく向かっていった。
艦隊には脇田機以外にも報告が届いており、水上偵察機発進の報を受けていた。空母が速力を上げ風上に向かっていることも。
ガミチス艦隊は東インド大陸へイギリス攻略の橋頭堡を築くべく、上陸船団を伴い大きく迂回航路を取って進んでいた。潜水艦による偵察によると、東インド大陸沿岸を沿うように時たま小型艦艇が航行しているからだ。直交なら被発見率も低く、これだけの艦隊を用意すれば数隻の小型艦など一撃で葬り去ることが出来る。
そう考えての針路と陣容だった。
上陸船団は陸軍歩兵二個師団、工兵一個師団、装甲二個連隊、飛行二個連隊他だった。それを四十隻の輸送船に載せ、後百二十キロで上陸と言う時に
「前衛の駆逐艦シュワルツグリフから報告。レーダーに艦影。単艦。反応は駆逐艦とみられる」
「こんな時に。構わん。主隊を前進させ、一気に撃沈する」
ガミチス帝国前進拠点確保部隊制海艦隊司令ワルメルーズ中将が下命。
「はっ。各艦に命じます」
「細かい事は任せる」
「了解しました」
艦隊参謀長クリムエ少将が受令した。
(細かいか。どこまでが細かいと言っていいのか)
司令官公室を出た彼は旗艦である戦艦ハウスラー艦橋で
「ワルメルーズ中将から委任を受けた。今後の艦隊指揮は私が執る」
(艦隊が上陸地点につけばいいのだな。それが司令の仕事だ。それ以外は細かい事にしておこう)
と言った。
「「「了解」」」
艦橋の面々も当然のことと受け取った。
(((あの下品な奴は、仕事を放り投げたか。人の手柄は自分の手柄とか、図々しすぎる。まあ、これで艦隊が上手く動く)))
司令に人望は無かった。
「艦隊を前進させて単艦行動と思われる駆逐艦を一気に沈めよとの事だ」
「偵察機を出さないのですか」
「ウム。主体を前進。一気に押しつぶせと」
「信じられん」「その程度だろう」「よくアレで中将に」
人望などと言う物は存在しなかった。大事なことだから二回言う。何故将官になれたのかガミチス海軍の不思議の一つに挙げられるが、誰も分からなかった。おそらく運だけは異常にいいのだろう。
「クリムエ参謀長。艦隊増速します」
航海参謀ワイツネッガー大佐が確認する。
「よろしい」
そして遭遇戦で艦隊戦という事態になっていた。慌てて水上偵察機を発進させた。
「機長左逃げます」
「見えてる。任せろ」
「敵の三座水偵はやはり鈍いですね」
「ウチのも同じくらい鈍いぞ」
脇田は敵偵察機を捉え二十ミリ機銃を撃った。
「お見事」
「降爆も出来るのだ。この程度当然だな」
ドヤ顔で語る脇坂だが。
「機長。右同高度。機影」
「二匹目か。行くぞ」
「了解」
二匹目は居るのか。
『利根二号機、そいつは俺の獲物だ』
「誰か」
『大井の村田中尉だ。よろしく頼む』
「はっ。利根二号機。脇田飛曹長です。お任せします」
『ベテランにでかい口をきいてしまった。許せ』
「大丈夫です」
空では星の数よりメンコの数か、腕前が上の方が指揮を執る。が、日本軍では常識になりつつあった。
艦隊では瑞雲に敵機迎撃を命じたのだが、瑞雲の性能を分かっているからこそだった。
水上偵察機に二十ミリ機銃二丁を装備して降爆をさせる日本海軍がおかしいのだが、出来る機体を作るメーカーもアレだった。
瑞雲は水上偵察の中では異質だったのである。
瑞雲の活躍で敵水上偵察機を始末したので、敵艦隊の目は無くなった。この時八機撃墜した。撃墜二機を誇る猛者も出たという。
瑞雲の活躍も有り敵偵察機を排除できた英日艦隊は商船隊を大陸沿岸で北上させることにした。
艦隊は商船隊と敵艦隊の間で頑張るしか無かった。
空母四隻は針路を大陸よりに変え増速、まず直援機、そして攻撃隊の準備を急ぎで行っている。
遣英艦隊司令長官島崎中将は、駆逐艦に夕雲級が欲しかった。松級でも艦隊戦は出来るのだが、夕雲級なら縦横無尽の活躍を見せてくれるはずだ。内実は艦隊の夕雲級は先日のヘパストイ島沖海空戦でかなりの損害が発生。とてもこちらに出せる数が無かったのであった。
時刻はまだ午前だった。商船隊を逃がす闇がここまで遠いと困る。
英日艦隊は踏みとどまるしか無いが、合同演習などやったことが無いので、英国海軍と日本海軍は別行動を取るしか無かった。
問題は両軍が見敵必殺を実行しようとしたことだ。
両軍は一部艦艇を数隻ずつ商船隊の護衛に着けることで合意した。
戦艦 ハウスラー
ガミチス最新鋭戦艦
四万七千トン
四十センチ三連装砲塔三基
二十センチ連装砲塔四基
十一センチ対空砲連装八基十六門
機銃多数
十九万馬力 三十ノット
の高速戦艦。
まだ砲声が響きません。
瑞雲を活躍させたかった。
次回 六月十六日 05:00予定