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西のブルドッグ VS 東のブルドッグ

どうなるんでしょうね。

 遣英艦隊はポーロ艦隊と共にイギリスはロンドンを目指す。

 台湾を過ぎ、シベリア大陸南端の泊地も過ぎた。第三西方警戒戦隊は分離している。

 艦隊周辺の哨戒は空母二隻が担当している。

 イギリス側がシベリア大陸南端の泊地と東インド大陸南端の中間点という場所で通信中継艦となる艦隊型輸送船を駆逐艦二隻の護衛を付けて分離。この海域で待機して貰う。一千三百海里なのでシベリア大陸南端の泊地までは届くと言うことだ。

 未だにシベリア大陸南端泊地と言う名前しか付けられていない、かわいそうな泊地だった。地名を正式化するのは手順が必要で、付ける地名が多すぎて名付けが間に合わないのであるが。

 艦隊は十四ノットで更に進み、東インド大陸南端を認める。日本は遂に次の大陸発見だ。先に発見したのがイギリスなのでイギリスに権利は在るだろうが。

 ここでまた通信中継艦を駆逐艦二隻の護衛と共に分離。イギリスの電波はここまで届くという。通信試験をすると、不安定であるが本土と通信が出来た。

 この先はガミチス潜水艦目撃情報があり注意が必要だという。

 ポーロ艦隊にはロンドンと連絡を付けて貰う。ずいぶんと混乱しているようだ。

 日本を発って六十日。ついにイギリス圏に入った。

 


「太田一等兵、早くフライング・スコッツマンを見たいな」


「早川中尉、イギリスにも神線路はあるのでしょうか」


 この二人はどこの世界にもいる(はず)の重度の鉄道ファンだった。


「本場のスコッチが飲めるのか」


「酒を味合わせてやる」


 飲兵衛共だった。


「ようやく新しいスーツが新調できますな」


「是非、サヴィル・ロウで仕立てたいものです」


 日本のブルドッグと外交官達だった。もっともブルドッグは葉巻の良い物が有ればなと思っているのだが。


 イギリスが現実となると艦隊内はいやでも浮かれてきている。


 遂にイギリス本国艦隊と邂逅した。迎えに来ていた。日本を発って七十日。長かった。

 大和とフッドが併走して挨拶を交わしている。どの船も甲板に人が溢れている。


 遣英艦隊はポーツマスに導かれた。道中一緒だったポーロ艦隊はデヴォンポートが母港だという。サヨナラだ。

 遣英艦隊の中でも旗艦である大和と外交団が乗船する橿原丸に通商物資が載っている貨物船はロンドンに招かれた。



「司令長官、司令長官。島崎司令長官」


「ん?おお、中川君か。済まんな。アレを見るとな」


「儀仗兵と楽隊ですが」


「馴染みが無いからな。誰を迎えるのだ」


「司令長官、現実から目をそらさないで下さい」


 中川参謀長からお叱りを受ける遣英艦隊司令長官島崎中将だった。艦橋から双眼鏡で見ていたのだ。


「いやだ。行きたくない。変わってくれ」


「ダメですよ。本官もあの前を歩かなければいけないのですから。憂鬱なのは分かります。先頭は吉田大使ですから、後ろを歩けばいいんです」


 それでもヘタれる島崎だった。


「イギリス政府からの要請です。礼を失してはいけません。礼装では無く第一種で構わないと言ってくれただけいいでしょう」


「やれやれ、仕方が無いか」


 普通は最低でも大使以外にはやらないだろう儀礼は、10年ぶりの再会と言う事で拡大実行されたようだ。

 正和二十七年二月下旬、西暦で言えば1952年2月であるが、ランエール暫定歴では10月。秋の始まりであった。

 従兵に第一種軍装に汚れや乱れが無いか確認させ、司令官公室を出て下船する。大和が接岸している岸壁から橿原丸が繋がれている岸壁まではイギリス海軍差し回しの車で送り届けられた。


「なあ、中川参謀長」


「なんですか」


「物凄い車なんだが」


「そうですね。日本車とは全く違います。さすがイギリスです」


 イギリス海軍差し回しの車は、ロースル・ロイス・ファントムⅢだった。

 二人ともフロントグリルとボンネット先端の女性像は見なかったことにしたようだ。


 モーニングコートを着用した吉田大使を先頭に外交官、次いで島崎と中川がレッドカーペットの上を儀仗隊の栄誉礼を受けながら進む。吉田茂以外は躓かないようにするので必死だった。


 これだけで疲れた海軍の二人はバッキンガム宮殿での拝謁にとどめを刺された。

 その後の会食では味が分からなかったようである。余裕の吉田茂とは対照的だった。


 翌日、吉田茂を始めとした外交官は政府間交渉への道を付ける為の交渉に入った。

 島崎と中川は海軍省に招かれた。作戦参謀、通信参謀、航海参謀の三人を選抜した若手士官 (日本を出る時に追加された。陸軍中堅もいる)と共に呼び寄せてある。もちろん各種資料も。



 

 ダウニング街10番地では首相で在るアンソニー・イーデンが待っていた。

 チャーチルと会うのを楽しみにしていた吉田は、少し当てが外れた。海軍さんの話ではチャーチルだったはずだ。このことを疑問にして聞いてみると、


「彼は心臓を悪くしてね。首相の座を退いたのだ。先月のことだ。暫定で悪いが私が首相である」


「これは事情を知らないとは言え、大変失礼いたしました。どうか気を悪くされませぬよう」


「いや、問題は有りません。船の上だったのでしょう。情報が手に入らないのはどうしようもない」


「ご理解いただき、ありがとうございます」


 いかん。イギリスの地を踏んだことで気が緩んでおった。かの有名人に会えると思って心躍っていたわ。これは気を引き締めねば。しかし、今のはこちらに少し非がある。ある程度の譲歩をせざるを得ないか。

 吉田はこんな事を考えていた。

 腹を据えて改めて現首相イーデンに向き合う。この大国の首相だ。油断は出来ん。





 その頃海軍省では挨拶も終わり、実務に入っていた。陸軍中堅将校は陸軍省だ。

 イギリス陸軍ダストン大佐が確認する。こちらは陸軍省であった。


「つまり、戦車では不利であると?」


「長砲身75ミリ砲とタングステンを大量に使った徹甲弾が確認されております。1000メートルで100ミリを抜きます」


「100ミリだと。傾斜か垂直、どちらなのだろう」


「垂直です。同じ厚さで耐える装甲はありますが製造に問題が有り量産できません」


「その戦車がガミチスの主力戦車なのだろうか」


「いえ、少数配備です、主力は60ミリ50口径戦車砲を搭載したⅣ号3型です」


 陸軍の阿南中佐は書類を渡した。判明している限りのガミチス陸戦兵器だ。


「おお、これは有難い。いいのだね」


「参考になれば」


「カーネギー参謀長、これはセンチュリオンの量産をしなくてはなりません」


 ダストン大佐が陸軍参謀長に向けて発言する。


「そうだな。ダストン大佐、君が音頭を取ってくれ。私が認めたと言って行動して構わない」


「ありがとうございます」


 ダストン大佐はカーネギー陸軍参謀長から戦車を任されたようだ。



 空軍省には陸海の航空関係者が廻った。日本の空軍は四式爆撃機を主に運用しており対戦経験は無い。実際に対戦経験のある陸軍海軍から選ばれた。


「Os109F/2と言うのがかなり厄介な存在です」


「どうしてですか」


 陸軍航空隊内藤中尉の言葉にイギリス空軍のハンプステン中佐が尋ねる。


「最初対戦したのはOs109E3と言う機体で武装は貧弱、速度も並み、運動性は悪いという平凡以下の機体でした。それが改良版のFシリーズになってからです。武装に20ミリモーターカノンを装備、13.5ミリ機銃も2丁装備されるようになりました。E3の8ミリ4丁に比べれば格段の強化です。速度も540キロ時程度でしたが600キロ程度出るようになりました。運動性もE3は500キロ程度の速度ですと機体強度の関係で高機動は危険だったようですが、やはりFシリーズになってからは自由に動いています」


「それは難敵ですな」


「そうです。主戦線の主役であるディッツ空軍では自国製で対抗出来る機体が無く日本の機体をライセンスして使っています」


「ほう。興味深いことをお聞きしましたな。我が国の機体も輸出可能かも知れないと?」


「そうですね。我が国の生産能力にも限りが有り、有力な機体が大量に有れば戦場で感謝されるでしょう」


「良いことを知ることが出来ました」


「次いで海軍の艦載機です」


 大桑海軍中尉が始める。大桑中尉はヘパストイ島沖海空戦で実際に戦闘機搭乗員として参加。撃墜一を持つ。


「海上での戦闘で実機を確保できないので対戦した限りの感触で申し訳ないです」


「いや構わない。それさえも貴重な戦訓なのだろうから」


「ありがとうございます。戦闘機ですが敵の機動力はなかなか高いものが有ります。前述のOs109は液冷ですが空冷で被弾にも強いようです。」


「速度は?」


「速くありません。540キロ出ればいいところかと。機銃ですが13.5ミリ機銃を4丁と侮れません」


「それでは他の機体はどうですか」


「爆撃機は固定脚で速度も出ません。二百ノット、ああ、370キロです。出るかどうかですね。爆弾搭載時はもっと遅かったですね。雷撃機はなんでしょうね。魚雷を抱いてようやく飛んでいる感じでした。固定脚の爆撃機よりも遅いような感じだと報告が有ります。おそらく早急に新型機が出て来るのでは無いかと考えています」


「ずっと使ってくれれば良いですね」


 ハンプステン中佐が希望を込めて言う。


「そうですね。そうなればいいと思います。実感としては1940年くらいの水準でしょうか」


「Os109Fが登場したので海軍関係も新型機で性能を上げてくるだろうと?」


「まさしく。海軍ではそう考えています」


「厄介ですな」




「ガミチス艦艇の性能は我々と大差()()ですか?」


「はい。防御力も砲力も変わり有りません。ヘパストイ島沖海空戦で戦艦の数の差を埋めたのは水雷戦隊と酸素魚雷でした」


「では相当な難敵という考えですか」


「人口が一億五千万と聞いています。軍事国家と言うことなので軍事生産力は転移前のアメリカ並みの可能性もあります」


「アレですか」


「アレです」


「つまり正面からぶつかると数で押し切られると」


「はい」



 軍人達は敵の強大さに改めておののく。







タイトル詐欺発覚。

英国のブルドッグは退場していた。病気療養中。

歴史が変わっていますので、フッド健在です。


英国は軍事協力、特に兵器売却に力を注ぎそうな。斜め兵器は止めて欲しいと思うのは誰だろう。


次回 六月十三日 05:00予定

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