ディスカバリー・ジャパン
サブタイトル通りです
イギリスは困っていた。
ガミチスの侵攻。対抗は出来ていない。転移後しばらくは資源不足で工業生産が落ち込んでいたことが軍備の不足に繋がっている。
それは今も変わらない。石油はある。必要にして充分。なんだったら数年先は輸出できるくらいには有る。
金属資源は交流を結んでいるファイオール公国と合わせれば充分にある。しかしその重要性にもかかわらず足りないものが有った。
綿とゴムだ。絹も無いが産業用途なら性能は落ちるが代用品で足りる。
インドゴムの木は有るが性状や収量の関係で、パラゴムの木ほどの製品にはならない。いや、特定の分野ならこちらの方が向いている。
タイヤとかパッキング・シールなどに使うにはパラゴムの木の方が良かった。
ファイオール公国でも探したと言うが西には無かったと。
ならば東だろう。今神倉庫に有る生ゴムの在庫が切れる前に是非探し出す必要があった。
また綿も足りなかった。栽培はしているが絶対量が足りない。
東と言えば、極東だな。日本か。この世界にいるらしいが、どこにいるのだろう。
かくして資源捜索隊、マルコ・ポーロ艦隊が結成された。
艦隊は超長距離航海を想定。往復二万海里という計画だ。海底じゃ無いが遠い。
マルコとポーロ、ふたつの艦隊で編成された。
マルコ艦隊 ポーロ艦隊
旗艦 戦艦 ラミリーズ 旗艦 戦艦 レゾリューション
軽巡洋艦 ペネロピ 軽巡洋艦 オーロラ
駆逐艦 エンカウンター 駆逐艦 エコー
エレクトラ エクリプス
補給艦 四隻 補給艦 四隻
タンカー 二隻 タンカ- 二隻
東インド大陸南端から寒い海域に出るまで北上、その後東へと進路を取るマルコ艦隊
東インド大陸南端から直線で東へ向かうポーロ艦隊
いずれも海図など無い大航海時代とも言える航海だった。
初期編成では大型軽巡と大型駆逐艦だったが、本土防衛の名の下、小型軽巡と小型駆逐艦になった。
マルコ艦隊はどちらかと言えば資源探査。ポーロ艦隊はまだ見ぬ他国との接触を主任務としていた。
1951年10月、ランエール北半球では秋。
東インド大陸南端を東に変わって二千六百海里。何も無かった。晴天の中、オープントップのブリッジでエコー艦長グライムズ少佐はパイプを吹かしていた。
今日もいい天気だ。潮風の中で吹かすパイプはなんともいえん。
私の指揮するエコーは艦隊前面に出て警戒役をしている。本隊は十海里後方だ。明日はエクリプスの番。明後日はオーロラか。戦艦は、まあそこでどっしりとしていて貰おうか。
「本日も異常なし。実に順調な航海だな。ナンバーワン」
「サー。ここまで何も無いと一周出来てしまいそうな気になります。サー」
「ムフン、一周するには油と食料がな。どこかに落ちていないか」
「ブリッジ。こちらレーダー室。対空レーダーにエコー有り。本艦正面、真方位八十七度。距離四十マイル」
「「へ?」」
思わずナンバーワンと顔を見合わせてしまった。
「レーダー室、ゴーストでは無いのか」
「キャプテン、何度も確認しました。間違いなくエコーです。航空機です。おそらく小型の単機」
「キャプテン、旗艦に連絡は?」
「出来れば聞かれたくない。隊内無線は届くのか。ナンバーワン」
「サー。お喋り屋に聞いてみましょう」
「通信室、ブリッジだ。隊内無線で旗艦と通話可能か」
「ブリッジ、通信室。可能です。繋げますか」
「頼む」
「アイ」
『艦隊司令ドレークだ。エコー、何が有った』
『サー。エコー艦長グライムズです。レーダーに反応。航空機です。艦隊正面四十マイル』
『なんだと!』
『サー。対応はどうしますか』
『まあ待て。・・エコーは単艦速力を上げ対象と接触を図れ』
『イエス・サー』
『グライムズ。いいか良く聞け。変なことはするなよ。分かったな』
『サー』
『聞いているのか、グライム「通信終わりだ。通信室切っていいぞ」おいコラ「終了、アイ」』
「聞いていたな、ナンバーワン」
「サー、キャプテン。しかし、良かったのですか。通信を一方的に切って」
「いつもの小言だ。聞いても同じなら聞く必要は無い」
「そうですか」(だからあんたは好かれないんだ)
「機関室、ブリッジ」
「アイ、機関室」
「これからしばらく機関に負担を掛ける」
「アイアイ、キャプテン」
「両舷、前進第二戦速」
「両舷前進第二戦速、サー」
「レーダー室、目標は捉えているか」
「アイ、キャプテン。ですが報告後直ぐに進路を南方に向けました。現在は失探。探知圏外に出ました」
「南方か。どちらから来たと思う」
「サー、東から来たように思われますが」
「分かった。引き続き監視を」
「アイ」
軽巡吉野はシベリア大陸南端から西方への警戒航海に出ていた。ガミチスを警戒してのことだ。
第二西方警戒戦隊は石狩を旗艦として松級駆逐艦四隻で構成されていた。第一、第二と付けてもこの二戦隊が西方警戒戦隊の全てだった。
第二西方警戒戦隊
旗艦 吉野 阿賀野級軽巡洋艦
葛 (くず) 蔦 (つた) 桂 (かつら) 楡 (にれ)
四隻の松級は最新設計の汎用駆逐艦であり、性能よりも扱いやすさと航洋性を主眼に開発された。十八年、実質十九年初頭から量産が開始された。計画工期は十二ヶ月で有る。個艦性能重視の夕雲級とは対照的だ。お値段も夕雲一杯で松二杯とか言われる。
松級
基準排水量 一千九百トン 満載 二千百トン
水線長 九十二メートル
水戦幅 十二メートル
八十九式12.7センチ連装高角砲改二 一基 同単装一基
魚雷発射管 五連装一基 予備魚雷無し 六十一センチ酸素魚雷
一式33ミリ機銃 四連装一基 連装四基
九十九式二号一型20ミリ機銃 単装八基
爆雷投下軌条二基 爆雷三〇発
対潜迫撃砲二十四連装 二基
機関出力 五万馬力
速力 三十三ノット
航続距離 七千海里 十八ノット
十二号電探 二基 水上捜索レーダー
二十二号電探 一基 対空捜索レーダー
三十二号電探 一基 射撃照準レーダー
二式音波探針儀 一基 アクティブソナー
二式聴音機 一基 パッシブソナー
まだ艦隊型駆逐艦として使えるだけの贅沢な性能だった。
戦争が進むと一千三百トン、主機ディーゼル、速力二十三ノット、発射管無し、ほぼ平面構成の無骨な護衛駆逐艦 後に海防艦 が登場する。
対ガミチス戦の発生で出帥準備として、一二号電探が潜望鏡でも見える性能の十三号に換装された。
他には変わりない。
十三号電探は移住者護衛艦隊と移住者輸送船に優先され、海軍への供給はまだ全艦に行き届いてない。
石狩から発艦した瑞雲は西へと向かい定点で南下した。
少し前、ガミチス艦隊と第一機動艦隊が激突して双方ボロボロの引き分けだったと聞く。緊張感は高い。
瑞雲は哨戒飛行を終え帰投する。今日も発見はならず。
戦隊はあと三百海里西へ向かい水上機で哨戒。なにも無ければシベリア大陸南端の小さな泊地に戻るだけだ。
エコーは、第二戦速のまま東へと進む。
あのあと、無線電話が入り怒られた。さすがドレイクの末裔を称するだけ有って迫力はあった。もっともグライムズに響いているかと言えば疑問である。
さすがに夜間は前方警戒で速力を八ノットまで落とす。海図は無い。レーダーが有るとは言っても良くて少し頭を出している程度の暗礁が有っても不思議では無い。
夜が明けると共に第二戦速に戻したのだ。夜明け前にブリッジに来たグライムズに引き継ぎをすると、夜明け過ぎまで当直にいたナンバーワンは眠りに行った。
「ブリッジ。レーダー室。エコー有り。単機と思われる機影十一時方向三十五マイル。突然出ました。おそらく母艦がいます。そして良く聞いて下さい。IFF反応有り」
「レーダー室。グライムズだ。IFFだ?もう夜は明けているぞ。いつまで寝てるんだ」
「サー、IFF反応有りです」
「事実なんだな」
「サー、間違いありません」
「本艦が先頭だ」
「アイ」
「IFFか。日本、でいいのか」
「サー、事前の情報ですと日本以外にはあり得ないかと」
「対水上レーダーには」
「サー、まだ反応ありません。小型空母か軽巡程度では無いかと」
「引き続きよく見張るように」
「アイ、キャプテン」
グライムズは考えようとしたが、止めた。
考えるまでも無い。日本なら邂逅するまでだ。
「両舷、前進第四戦速」
「両舷前進第四戦速、サー」
「通信室、ブリッジ」
「ブリッジ、通信室」
「至急電を頼む『本艦至近。新たなエコーを確認。IFF反応あり』以上だ」
「繰り返します『本艦至近。新たなエコーを確認。IFF反応あり』よろしいですか。サー」
「結構だ。暗号で無くていいぞ」
「サー、平文でいいのですか」
「構わん。やれ」
「アイ、キャプテン」
ブリッジから後ろを見ると煙が余り黒くない。見つけて貰うには薄いかもな。
「機関室、グライムズだ」
「アイ、キャプテン」
「済まんが煙幕までは行かなくてもいい。もう少し排煙を濃くしてくれ」
「了解です。サー」
HMSエコーはIFF反応が有った方向へと向かう。
遂に邂逅なるか。
文中の「サー」とか「アイ」は適当です。
ナンバーワンは先任または副長です。
駆逐艦などの小型艦艦長は一番危険な日の出日の入り前後は艦橋にいます。
グライムズと言えばダンボ耳にでかい鷲鼻。彼の子孫はアッダーの艦長になって宙へ。たぶん。
次回 六月七日 〇五:〇〇予定