対住血吸虫作戦 村人から駆逐せよ
寄生虫対策です
間は寄生虫対策を任され、高揚と共に緊張にさいなまれていた。
何しろあの中で一番若い。それは経験不足という事実を無情に突きつけてきた。
他の先生方が、村人の健康診断(説得した上に物資という餌も付けた)を実施いている間に、いろいろ助言をしてくれる。
準備が遅い。
君は、我々が成功しなければ多くの命が失われると言うことを理解しているか?
もう少し、患者の気持ちを考えろ。
すべて自分の経験不足と、理解力が足りないことだと言うのは分かる。しかし、感情は別だった。
イライラして物に当たったり、独り言を言ってしまう。
「クロ、如何したの。あなたがやるのでしょう」
ケイルラウが励ます。彼女も村の仲間が助かるかもしれないのだ。彼には頑張ってもらわなければならなかった。
クロとは、間九郎なのだが、ハザマは家名だというと、名前がクロウね。いや違う、クロウだ。クロウでしょ。違うクロウ。どうも微妙に違うので、もうクロでいいよ。と言ったら、そう、クロね。言いやすくていいわ。となって、クロと呼ばれるようになった。
「僕、いや、俺は経験不足なんです。なのに専任を任されていい気になってしまった」
「経験など、今も積んでいるじゃない」
「今も?」
「そう、今も。あなたは行動する。間違う時もある。正解な時もある。それはすべて経験なの」
「すべて経験」
「誰だって最初からうまくいくわけがない。すべて正解を選ぶことの出来る者などいない。間違うことも経験なの。あなたは間違うことを恐れている。恐れるのは分かる。でも、それじゃ駄目なの」
「間違うことを恐れている?」
「そう、あなたは正解しか選ぶことのない愚かさを知らない」
「なぜですか。正解を選ぶのが正しいでしょう」
「それは違う。間違えなければ、なぜ間違ったのかが分からない。正しい答えしか知らない者は、間違った時の対処が出来ない」
「よく分からない」
「なぜ分からない?あなたは間違うことがないの」
「俺はいつも間違う」
「なら、分かるはず。間違えるから正しい道が分かる。正しい答えしか知らない者なら、道を間違えた時に元の道に戻れないし、新しい道も分からない」
「ありがとう、ケイルラウ。なんとなく分かってきた。俺たちの国には「失敗は成功の母」という言葉がある」
「失敗は成功の母?」
「間違えても、それを糧に正しい答えにたどり着く。そんな意味だよ」
「ふーん。中々いい言葉じゃない」
「俺の言葉じゃないんだけどね」
「いいじゃない。あなたがその言葉の通りなら必ず正解にたどり着くわ」
「・・良し!やるよ」
間は、立ち直った。背中には何か気合いを感じさせるものが有った。
ケイルラウに顕微鏡で卵と幼生を見せた所、人が横になっても余るくらいの大きな台に何か複雑な模様を描き始めた。
丸と三角、四角、五角、六角、七角、八角、五芒星、六芒星、それに文字を書き込んでいく。初めて見る作業だった。
あまりにも真剣に作業をしているので声もかけられなかった。
いつの間にか後ろに村長がいた。
「何か魔力がうごめいていると思ったら、こんな大がかりな魔法陣を作っていたか」
「魔法陣?ですか」
「そうだ。魔法陣とは、完成すれば魔力を通すだけで誰でも魔法が使えるようにするための手段だ」
「俺にも、いえ、日本人に魔力は有るのでしょうか」
「なんだ、魔法を使いたいのか」
「患者の役に立つのなら」
「ほう、いっぱしの医者だな」
「どれ、手を出してみなさい」
手を出してみた。如何するのだろう?
村長が手を重ねてきた。間の手を挟み込むように。
「何か感じないか」
「村長の手が温かいなと」
「なんだ。それだけか」
「それだけとは」
「今魔力を私の両手の間に通した」
「はあ」
「なんだ、気が抜けるな」
「すみません」
「今度は両手を出しなさい」
両手を出すと、手のひらを重ねてきた。
「どうだ」
「何か変な感じがします。なんと言っていいのか、むずむずすると言うか、気色悪いというか」
「ふむ、魔力は感じるようだな」
「そこ!うるさい!男同士でイチャイチャするな!するならここから出て行け」
ケイルラウに怒られた。
「「はい」」
「出ていきます」
「イチャイチャじゃないんだがな」
二人は小屋から出て行く。
「まったく、もう。五月蠅いから間違えそうになったじゃない」
などと言いつつ、魔法陣の確認と修正を繰り返していく。
「ケイルラウに怒られてしまったな」
「はい」
「だが、お前には魔力は有るぞ。あれで感じるのだ。我々に比べれば少ないだろうが、全く無いというわけでは無い」
「あの魔法陣は・・」
「無理だな。あれはかなりの魔力を必要とする。私でも発動出来るかどうか」
「あの魔法陣は一体何なのでしょう」
「一部を見たが何かを殺す。と、出す。だったな」
「殺すと出す、ですか」
「そうだ、なにか心当たりは無いか」
「そう言えば、寄生虫の卵と幼生を見てもらいました」
「では、それらを殺して、体の外に出す魔法だろう」
「体の外に出せるのですか」
「出せる。と言っても、体の一部に穴を開けてそこから出すのだが」
「穴を開けてですか。後で塞がるのですか」
「塞ぐさ。治癒魔法でな」
「治癒魔法ですか。いつか覚えたいです」
「まあ今は先にやることが有るだろう?」
「はい、皆さんのお体を健康にすることです」
「そうだ、目的を見失うなよ。若者」
「若者って、もう三十なんですが」
「私は七十だぞ」
「へ?」
「七十だ」
「またまた」
「ほんとだぞ。エルフの寿命は二百年くらいだが見た目が年を取らない」
「・・・・」
「まあ初めて知ることだ。信じられんのも無理は無い」
信じられない。どう見ても三十前くらいにしか見えない。上村隊長は知っているのだろうか。
「君らからしたら三十くらいにしか見えないらしいな」
「はい」
「エルフは寿命で死ぬときでも人から見れば四十くらいにしか見えん。それは知っておきなさい」
「はい」
間は、これまでに聞き取り調査した結果を持って本間達の元に向かった。
本間達は興奮していた。なんだこの健康診断の結果は。
「先生、如何しました。皆さん興奮しているようですが」
「間君か。聞き取り調査は終わったかね」
「終わりました。村で半数の人が南の川付近で何かに刺されたことが有るようです」
「いかんな。半数の人が感染した可能性があるのか」
「はい、でも明確に症状の出ている人は七名です。他に怪しい人が五名です」
「多いと言っていいのか少ないと言っていいのか、データが少なすぎて分からん」
「はい。そう言えば、ケイルラウが卵と幼生を殺す魔法陣を作っていました」
「ん?魔法陣?なんだねそれは」
皆集まってきた。
「魔法を誰でも使えるようにするための手段だそうです」
「そう言えば、魔道具があったな。あれはいいな。消臭と滅却」
「うむ、最高だな」
「いきなり消えるのではなくて、大小の状態を見てから消せるのが良いな」
「確かに。そこは重要だな」
「待て、卵と幼生を殺すと言ったな」
「はい」
「そう言えばケイルラウさんは、寄生虫を退治出来るのだったか」
「はい」
「そうか、卵と幼生を殺すだけでも、かなり感染症の発症は防げるな」
「そう思います」
「そうか。完成したのか」
「まだだと思います」
「待ち遠しいな」
「はい。それで皆さん興奮していらっしゃいましたが」
「ああ、あれか」
「獣人族の健康診断の結果がな」
「驚いたな」
「なんですか」
「心拍数が低いのだ」
「低いのですか」
「驚くなよ。平均四十だ」
「四十ですか?普通六十から七十ですよね」
「そうだ、彼等は恐らく強靱な心肺機能を備えていると思う」
「種族によるが、朝から昼まで平気で走り続けるそうだ」
「凄いですね」
「それも装備を背負ったままだという」
「信じられません」
「だが事実だそうだ」
等と、いろいろ報告しつつ時間は過ぎていく。
「出来たわよ」
ケイルラウがやってきた。
「出来ましたか」
「試験もしてみたけれど、魚はうまくいったわ」
「凄い。これで治療に道が見えます」
「ありがとう。でも問題もあるの」
「問題ですか?」
「あの魔法陣、凄く魔力が必要なのよね」
「魔力ですか?」
「そう魔力、うちの村でまともに発動させることが出来るのはアビゲイルと村長にあと二人くらいかな」
「でも魚ではうまくいったと」
「人と魚では大きさが違うでしょ。対象が大きくなる分魔力も必要になるの」
「では日本人ではとても無理ですね」
「なに、魔力有るの」
「先ほど村長に魔力は有ると見てもらいました。ただ少ないとも言われました」
「じゃあ駄目ね」
「村長も発動させる自信はなさそうでした」
「さっき見ていたので理解したか。さすが村長」
「でもあと三人に方が発動させることが出来るかもしれないのですね」
「そうだけど、村長で自信が無いとするとアビゲイル以外は駄目ね。あと二人の魔力は村長と大差ないもの」
「ではアビゲイルさんに頼めば」
「それは駄目。彼は村の守りの要。むやみに消耗させてはいけないの」
「魔力を使うと消耗するのですか」
「そこからか。魔力を使えば使うほど疲れるのよね。疲れたほど回復にも時間は掛かるの」
「どのくらい回復に掛かるのですか」
「平均だけどね。完全に消耗すると、回復に五日くらい掛かるわ」
「では頼めませんか」
「駄目ね。村長も許可しないと思う」
「でも自分たちの命が掛かっているのですよ」
「すぐに死ぬわけではないでしょ。なら、村の安全が優先されるの。わかるでしょ」
「では如何すれば」
「魔力はね、混沌獣も持っているわ」
「はあ、まさか捕まえてくるのですか」
「そんな危険なことしないわよ。混沌獣は体の中に魔石を持っているの。その魔石を使えばいいわ」
「それは混沌獣を殺すと言うことですか」
「そう。それで魔石を取り出すの」
「この村には魔石はあるのですか」
「有るけれど、残りが少ないの。こういうことには使いづらいわね」
「では取りに行くしかないと」
「そ、正解」
上村中尉は、降って沸いた混沌獣退治になんだと思った。
遂に混沌獣退治か。
上村は如何する。
魔力は完全に消耗するとフラフラになります。
完全に消耗すると平均で五日くらい回復にかかります。
自然回復以外の方法はあります。それで約半分に短縮出来ます。
アビゲイルは龍属性というチートと言っていい属性なので、二日もあれば完全回復します。
次回 混沌獣
九月二十一日 06:00予定