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南大陸攻防戦 12 報告

反省会です。

 後の日本側公称ヘパストイ島沖海空戦は、ディッツ帝国と日本はヘパストイ島攻略を阻止し、戦略的には勝ち。ただ、このヘパストイ島攻略が枝作戦と分かったのは戦後だった。

 戦術レベルでは引き分けだった。

 

 この世界ランエールにおいての、航空攻撃での初撃沈をディッツ帝国海軍空母部隊が成し遂げた等、初物づくしの戦いだった。




 部屋の中では書類をめくる音がそこかしこから聞こえる。

 書類の内容は、損害報告。戦果報告。戦訓報告。


 ヘパストイ島沖海空戦における日本海軍の損害


喪失

戦艦  陸奥 

重巡  吾妻 

軽巡  那珂 黒部 

駆逐艦 敷波 清霜 春風 松風 夕凪 追風 朝凪 


大破

戦艦  長門 

軽巡  球磨 

直衛艦 花月 


中破

空母  海龍

重巡  石鎚

軽巡  九頭竜 

駆逐艦 浦波 綾波 早霜 


小破

駆逐艦 磯波 秋霜 神風 

 


航空機損失 廃棄を含む

 戦闘機 三八機

 艦爆  一八機

 艦攻  二七機


戦死・行方不明

 三千四百二十六名 

 搭乗員

 戦闘機 二十八名 

 艦爆  三十五名 

 艦攻  六十七名  

負傷者

 一千三百十六名

 内予後不良

 百八十三名

 


 大損害だった。しかもこれは現場が取り急ぎ作成した物で、修理期間は工廠に入れてみないと分からないのだった。

 人員の損害も痛い。充分に余裕を持たせ育ててきた熟練将兵だ。怒られるかも知れないが戦時のにわか仕立てとは違う。


 変わって戦果だが


空母

 三隻撃破


戦艦

 三隻撃沈

 三隻撃破 二隻は小破程度


重巡

 一隻撃沈

 三隻撃破

 

軽巡

 一隻撃沈

 二隻撃破


駆逐艦

 七隻撃沈

 五隻撃破


 大戦果だが空母を沈められなかったことは悔やまれる。

 どう見てもお互いボロボロの引き分けだった。



「酷いな」


 軍令部総長有賀幸作中将が漏らした。海軍イ事件で次長席に有ったがその対応を認められ総長就任となった。


「確かに言われるとおりですが、戦艦六隻相手です。健闘したと言っていいと思います」


 連合艦隊参謀長太田三智也少将が返す。連合艦隊は日露と第一次世界大戦以来の結成だった。


「これは我々の手落ちだろう。空母を四隻としたことのな」


 連合艦隊司令長官日野正造中将が言う。


「だが、ギルガメス王国連邦にも派遣している。余裕が有るわけでは無い」


 海軍次官金本慎二中将が言う。


「翔鶴・瑞鶴がギルガメス王国連邦沖に展開。凍鶴・黒鶴はドック入りしています。海鳳・天鳳は東鳥島へ派遣。第二機動艦隊は真鶴・西鶴・野鶴・仙鳳で構成。赤城と加賀は練習空母で最近故障がちと聞きます。火龍・雷龍は本土周辺とシベリア大陸の警戒配備です。瑞鳳・翔鳳は対潜部隊へ配置。余裕は有りません」


 軍令部作戦部長萩田蓮司大佐が発言した。


「そうだな。余裕は無い。しかも最強たる海龍がドック入りは確実だ。次官、陸軍さんにギルガメス王国連邦での航空隊編成状況を聞いて貰えないだろうか。向こうで陸軍が対処出来るようになっていれば翔鶴・瑞鶴を帰還させます」


 有賀中将が要請をする。


「そうですな。承った。聞いておきましょう」

「ああそうだ。徴兵制が始まる。教育部隊の増員を行うので実戦部隊は人員構成が二年先くらいまで窮屈になるかも知れない。気を付けてくれ」


「遂に…」

「始まるのか」

「艦隊を一部…・」


 など、次官の発言を受けて独り言の渦だ。 


「次官、政府はどう考えているのだろう」


 日野中将が聞く。


「ガミチスが降伏するまでと腹を決めているらしい。長期戦も視野に入れているというか、短期での終結は無いと考えている」


「では、戦力が充実するのを待てるのだろうか。相手は人口が倍だぞ?」


「ディッツ帝国には悪いが、当面の主戦場をディッツ帝国と考えている。陸軍が主体で海軍は周辺脅威の排除だ」


「そう言えば通商破壊戦が展開されていたな」


 会議は続いた。












「日本よりも先に空母の航空攻撃で撃沈したか」


 アドルフ・シルバーバウム皇帝が先の海戦についての結果報告を受けている。


「はい、名誉なことと考えます」


 答えたのはメルカッツ伯爵だ。


「ゼークト海軍卿、良くやってくれた」


 皇帝が海軍卿を褒める。


「有難き幸せにてございます」


「うむ。しからばゼークト海軍卿。何か望みはあるか。フェザー平原で差し込まれているのでな。久々の朗報だ。褒美を取らせたい」


「有難く。しからば、空母を。日本が運用しているような大型空母と最新の搭載機が欲しいのです」


「ム!それは難しいな。メルカッツ。紫原はなんと言っていたか」


「はい。四隻空母を導入しましたな。同じ空母をあと二隻譲ることが出来るそうです。日本にも余裕が無く、今はこれだけと」


「日本でも余裕が無いのか」


「はい。聞くところによれば、日本はかなり遠い東の国と国交を持っております。そちらの支援に大型空母二隻が取られているので手が空かないと。ただ、建造中の空母が配備されれば多少は余裕が出る。それまで待って欲しいと」


「どのくらい待つのだ」


「二年と申しておりました」


「二年か。長いな」


「日本が言うには近代の全面戦争は物量勝負であり、小出しにしてはいけないと」


「つまり日本が戦いの準備に二年掛かると言うのだな」


「真に持ってその通りでございます」


「のう、メルカッツ。日本には移住者護衛艦隊という強力な艦隊があったな」


「アレを先制で使うとボンビーされてしまうそうです」


「使えんのか」


「如何にも。ただし、ガミチスからの攻撃を受ければその制約が外れます」


「当てには出来んな」


「移住者護衛艦隊もわざと航路を西に逸らすことはしていないようです。却って航路を通常よりも更に東にとっております」


「ボンビーは理不尽だからな」


「「……」」


「いや済まん。忘れてくれ。でもおそらく国民の多くは思っているはずだ」


「確かに」


 内線が鳴ってメルカッツが受けた。


「陛下、フェザー平原での戦いについて陸軍卿より話したいことがあると」


「呼んでくれ。海軍卿。ご苦労だった。日本にはもっと戦力が欲しいと言っておく」


「有難き。失礼いたします」



 変わって陸軍卿クローネンカーン伯爵が入室する。


「陛下におかれましては、ますますのご健勝ぶり。臣民の幸せにてございます」


「クローネンカーン陸軍卿、言い慣れない言葉は無理が有るぞ。聞いていて鳥肌が立ったわ」


「これは失礼。ではいつものように」


「うむ、それでよい」


「陛下。フェザー平原ですが日本から陸上戦力と航空戦力を支援する用意が有ると打診が有りました」


「そうなのか?」


「はい、これは日本代表部からの正式な打診です」


「どうするかな。メルカッツはどう思う」


「受けて良いかと」


「理由は」


「日本の実力が海軍以外にも分かります。我が軍の刺激にもなるでしょう」


「まるで我が陸軍が役立たずのようだな。メルカッツ」


「そうは言っていない。日本陸軍を見れば何か得られる物が有るかもしれないと言うことだ」


「確かにな。現状手詰まり感がないわけではない」


「そうか。では、受けると返事をしてくれ。代償はいるのか?」


「こちらでの行動に自由を欲しいそうです。また、こちらの作戦の邪魔はしない、協力もすると」


「いいだろう。メルカッツ。日本代表部の者を呼べ。正式に受けると」


「畏まりました」













 ヒルベルスト海軍長官とブランデン海軍参謀長は緊張していた。先日出した報告書の事で聞きたいことがあると呼び出された。今から総統閣下との面会で有る。執務室のドアがやけに大きく感じる。


「「ハット・デストラー」」


「ハット」


「お呼びと伺い参上いたしました」


「良く来た。まあ、掛けたまえ」


「「ありがとうございます」」


 二人はドキドキで有った。多分海戦のことだ。それ以外にはない。あの多大な損害をどう言われるか。不安で有った。


「先日の大規模な海戦のことだが、日本海軍の実力はどうだったのかね」


「多大な損害を出してしまい、申し訳ありません」


「損害?そんな事はどうでもいい。いや、どうでも良いわけでは無い。それよりも奴らの実力だ。どう思う」


「はい。報告書には目を通されたかと存じますが、強いの一言です」


「強いか」


「強いです」


「報告書によると戦艦三隻に一隻の戦艦と水雷戦隊で突っ込んできたと記されている」


「聞き取り調査でも事実のようです」


「それと一万以上の射程を持つ無航跡魚雷か」


「実に厄介です」


「航空機の性能は日本の方が上」


「事実です」


「報告書の要約には、今回の海戦での損害の多くは航空機の性能差による。となっているが、どう思う。君達の出した報告書だ」


「はい。報告書の最後の方にもありますように、新型機の早急な配備が必要かと」


「雷撃機と爆撃機が敵戦闘機に阻まれて実際に攻撃できた機数は少なかった。帰還した機数も少なかった。そうなっているな」


「貴重な熟練パイロットを多数失っています。一刻も速い新型機の配備が望まれます」


「理解した。出来る限り海軍の希望に添った機体の開発を急がせよう。もう空軍機の転用は出来る限りやらない。それで良いか」


「お願いします。海軍も独自に機体開発を行っていますが今まで空軍がやっていたことを早急にと言う訳には行きません」


「よろしい。航空機は大凡理解できた。奴らの気力もな。艦艇の性能差は如何なのだ」


「伯仲していると見ます」


「では今回、空母と戦艦の数で上回りながら引き分けたのは航空機と正体不明の高性能魚雷が原因とな」


「そればかりではありませんが、主要因はそのふたつかと」


「では今後海軍は、ディッツ帝国相手にどう戦うのか」


「空母部隊の再建が優先されます。当面は潜水艦による通商破壊戦と機雷設置かと」


「そうか。忙しいところを悪かったな。今後の活躍に期待する」


「「ハット・デストラー」」


 退室した二人は腰が砕けた。廊下の椅子にへたり込む。

 しばらくしてから再起した二人は、航空機会社を回るのだった。









酸素魚雷は日本だけ。

新型機と艦艇が続々出てきそうです。


そう言えばそろそろGBの出番が・・


次回 六月四日 05:00予定

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