南大陸攻防戦 7 北岬沖航空戦
ランエール初の空母戦ですよ。
いつも誤字訂正ありがとうございます。
日本の機動部隊が交戦圏に入る二日前、ディッツ帝国はガミチス帝国に対して
友邦・日本が参戦することになった。
今のうちならば降伏を認める。
直ちに国外に退去せよ。
追って謝罪と賠償を当国に対して行うこと。
追加で
日本のガミチス帝国に対する勧告文。
日本からの宣戦布告文。
勧告文や宣戦布告文は本来敵国政府に渡されるべきで有るものの、ガミチス帝国の位置不明なことからこういう事態となった。
大雑把に言ってこう言う内容の文書を通信筒に入れ、百式司令部偵察機に白旗を掲げさせてフェザーンの敵司令部と思われる付近に投下した。
撃墜した敵機から回収した無線機で通告後行ったのだが、銃撃はしてこないものの威嚇的な行動をとる戦闘機に囲まれてパイロットは生きた心地がしなかったと言う。
ガミチス東部戦線司令長官ドメル中将は、総統直々に「いかなる事態があっても、作戦目的を完遂するように」と言う言葉を受けており、この文書を無視。作戦を続行した。一応、文書を本国に送ることも忘れない。
ドメル東部戦線司令長官はこの時
「ディッツ帝国と日本が降伏すれば二等市民として遇しよう。このまま戦闘を続ければ三等市民としてしか扱えぬ。植民地人がいいのか奴隷がいいのか考えて返答を求む」
と、どう考えても受け入れられない要求を返答とした。
ディッツ帝国国民はこの要求に激怒。軍の募集所には長蛇の列が出来た。
日本も到底受け入れることは出来ないとして、ガミチス帝国占領まで終わらない戦いを決意する。
ディッツ帝国から追い出して終わりの限定参戦では無く、全面戦争になった。
かくして北岬沖航空戦が始まった。
ガミチス空母部隊はレーダーの使用により、大凡の位置は掴まれていた。ディッツ帝国軍はこの位置を最大強度の無線で発信。日本海軍機動部隊へと伝えた。
日本海軍機動部隊は艦隊速力二十ノットに上げ急行しているが、なお一日が必要だった。
日本海軍第一機動艦隊
旗艦 空母海龍
第一航空戦隊
空母 海龍 仙鶴 慧鶴 夕鶴
直衛艦 花月 清月 大月 葉月
菊月 浦月 清月 雨月
第四戦隊
戦艦 長門 陸奥
第五戦隊
重巡 石鎚 吾妻 飯野 道後
第十三戦隊
軽巡 球磨 那珂
第三水雷戦隊
旗艦 九頭竜
第四駆逐隊 磯波 浦波 敷波 綾波
第五駆逐隊 清霜 朝霜 早霜 秋霜
第五水雷戦隊
旗艦 黒部
第六駆逐隊 神風 朝風 春風 松風
第七駆逐隊 追風 疾風 朝凪 夕凪
空母海龍は同型艦のいない装甲空母で仙鶴、慧鶴、夕鶴は改翔鶴級空母。
海龍は飛行甲板の先端から後端までを全面装甲としたため格納庫が一層となり四万三千トンという排水量の割に五十五機しか積めない。その代わりカタパルトを三基搭載しており緊急発進で威力を発揮する。
改翔鶴級は翔鶴を大型化した空母で性能も良い。飛行甲板に装甲は無い。
大型新造空母はまだ竣工後まもなく、実戦に出せるレベルでは無い。
長門と陸奥は旧世代最後の戦艦でそろそろ退役の頃だ。おそらくこの戦役が最後の花道だろう。
大和と武蔵がドック入りしていたためお役目が回ってきた。
新型戦艦はまだ慣熟中だ。
第五戦隊の重巡は越百級。
水雷戦隊の旗艦は阿賀野級軽巡で五千五百トン級の代替で艦名も一部引き継いでいる。隻数は五千五百トン級に数隻足したくらいで止まっている。
駆逐隊は全て夕雲級で統一されている。艦数的に主力は松級だが見栄を張った。艦名は引き継いでいる。
従来は軽巡一隻・駆逐艦十六隻が正規の編成だったが、任務の多様化を考え軽巡一隻・駆逐艦八隻に変更された。
直衛艦は秋月級直衛艦である。正規空母一隻辺り二隻が配置されている。
航空打撃力であれば日本最強で在ろう第一機動艦隊がガミチスとの交戦圏に入るまでに、ガミチス-ディッツの航空戦は始まった。
初撃はディッツ空軍だった。日本から聞いた「空母?飛行甲板を潰せばただの箱だ」を信じ、護衛のシュニッツァー4四十機と鈍足の双発爆撃機五十五機と四発爆撃機十二機合計百七機が百キロ爆弾を抱え水平爆撃を試みた。
レーダーで探知したガミチス艦隊は直衛機の他に迎撃機を上げた。合計で百機ほどだ。ディッツ空軍はシュニッツァー4で迎撃を妨害するも多勢に無勢であり、次々と突破される。
それでも二十機程度の爆撃機が艦隊上空に取り付くが対空砲火で更に数が減る。結局爆撃に成功したのは十四機で水柱を上げただけだった。
帰還できたのはシュニッツァー4が二十二機、双発爆撃機二十三機、四発爆撃機二機と全滅みたいなものだった。
だが彼等の犠牲は無意味では無かった。これらの攻撃が終わる頃、ディッツ帝国海軍第一機動部隊がガミチス艦隊に襲いかかった。なけなしの空母四隻から放たれたのは八十機の攻撃隊だ。
零戦三十二機、九七艦攻二十四機、九九艦爆二十四機の攻撃隊は日本海軍の厳しい指導を受け一人前との評価を得ている。
爆撃を回避するために乱れた艦隊には更に迎撃機を上げる余裕は無かった。
上空に在った迎撃機は先程の戦闘で派手に撃ちすぎたので残弾に余裕が無かった。更に戦闘で被弾したり撃墜された機体があり、迎撃できたのは七十八機だった。
自分達のJu98よりも高性能な零戦に対して数で立ち向かった。さすがに護衛任務を果たせず攻撃隊は次々に被弾して数を減らしていく。それでも途中で弾が尽きたのか撃ってこなくなった敵を引き連れ突撃した。攻撃隊は目標を空母としていたものの迷った。的が多すぎる。こちらは少ない。一番近い空母を目標とした。艦攻は高度を落とし艦爆は高度を上げた。ここで敵機は味方対空砲火を浴びないように離れた。その敵戦闘機は次々と零戦の餌食になっていく。反撃手段が無い。速度も機動性も劣る。撃たれるだけだった。
「隊長。空母まで敵だらけです」
「行くだけだ。ここまで来れば魚雷をぶつけてやる。聞けば日本海軍もまだ空母による航空戦は演習しかしていないという。俺たちが先にやるのだ。自慢になるぞ」
高度二十メートルまで落とした九七艦攻ではそんな会話がされていた。
「四番機被弾、墜落」
「もう少し下げろ」
「危険です」
「弾に当たるか、海に当たるかだ。下げろ」
「下げます」
敵空母が回頭する。逃がすか。編隊長機が機体を滑らす。艦尾に爆炎が上がった。艦爆がやったな。奴が一番か。
「五番機海面に突っ込みました」
追随しきれなかったのだろう。
「敵空母まで後二千」
「一千で投下する」
「トーピード- ロス」
魚雷が投下された。後続機も次々と投下している。
パイロットが機体を必死に抑える。今上がってしまえば弾幕の中だ。
後方で光った。抑えきれなかったのか。
「低くだ。低く飛べ」
「判ってます。死にたくないです。低く低く海面に注意」
九七艦攻の操縦性は良かった。良く舵に付いてくる。対空砲火の弾幕が途切れて少ししてから高度を上げた。
「よく我慢したな」
「必死です。空母はどうなりましたか」
「命中はしたぞ」
「爆弾二発と魚雷三本が当たりました」
「マルクス一等飛行兵、沈んだのか」
「いえ、空母に魚雷が命中したのは確かです。他に爆弾一発命中です。後は他の船に当たりました」
「そうか、まあいい。俺たちがこの世界で一番初めに雷撃と爆撃に成功した。凄いと思うぞ」
空母に帰ったのは、零戦二十四機、九七艦攻十一機、九九艦爆十三機だった。被弾した機体も多く、もう攻撃隊は出せない。
「消火急げ。その機体は邪魔だ。捨てて良い」
(奴ら六隻の内この船だけを狙いやがった)副長で、ダメージコントロール指揮官であるカリナス中佐はついていないと思った。飛行甲板後部に命中した敵弾は舵取り機室上部まで貫通後爆発。一時ショックで舵が取れなくなった。そのせいで魚雷が回避できなかった。
後部エレベーター後方の格納庫で機体が破損、火災が発生した。被雷により傾斜もついている。あっちは任せて大丈夫だろう。だが格納庫の火災はなんとしても早急に鎮火しなければならない。
空母で唯一被弾したアドラスではダメージコントロールを頑張っていた。
艦隊での被害は
空母アドラス 被雷一、被弾一、至近弾二
飛行甲板後部に命中した敵弾により火災発生も現在は鎮火。傾斜も復旧。飛行甲板は修理中で着艦可能になる見通し。水線下の破孔により全力発揮不能。格納庫内で三機損傷。内二機は火災による損傷が酷いので投棄。
大型巡洋艦ヨートルマッシュ 被弾一 至近弾一
水上機とカタパルトが全損。戦闘に支障なし。
駆逐艦G7 被雷一 沈没
航空機
戦闘機三十五機被撃墜、二十三機被弾。八機は損傷が酷く修理不能。
おそらくランエール初の航空機による撃沈をディッツ帝国海軍は成し遂げた。
「たったあれだけの攻撃隊でこの被害か」
艦隊司令長官ケルトマイヤ中将が愚痴をこぼす。
「初めて攻撃を受けましたから不慣れであったのは事実でしょう」
艦隊参謀長のハルダー少将が答える。
「演習ではこういう異方向時差侵入の訓練もあったが実戦は違うな」
「そうですな。貴重な戦訓です」
「敵機が高性能だったという報告もあるな」
「情報部が当てにならないと警告はありました。奴らの艦上機は複葉機かマシでももっと性能の低い機体であったはずです」
「ウチの航空隊だが、あの高度を飛べるのか?航空参謀」
「訓練次第と思われます。ただ低空性能が良くないので無理をすると墜落です」
「はやり海軍専用機は必要と言うことだな」
「全くです。戦闘機はJu98が有りますが。雷撃機と爆撃機は空軍機からの転用でああ言う超低空飛行での攻撃は難しいでしょう」
艦隊は沈没したG7の生存者を救助の後、一時後退した。
味方潜水艦からの一報は艦隊司令部を戸惑わせた。
【発S-227。ヘパストイ島北東五百キロに大規模空母部隊発見。大型空母二隻以上戦艦を含む艦隊】
敵機が去って行く方向とは違う。距離も遠すぎる。明らかに別の艦隊だった。
魚雷三発命中と爆弾二発命中は戦場によく有る誤認だった。爆弾は合っていたが魚雷は至近弾と見間違えたのだろう。
地味ですね。技量不足で派手には書けません。
次回 ガミチス空母部隊に襲いかかる第一機動艦隊。
おかしい。五月中で終わりの予定でした。既に六月一日から新作予約投稿をしてあります。どうなるやら。
次回五月二十四日 05:00予定