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南大陸攻防戦 3

ボチボチと

 オッサーシュミット社ではOs109E3の能力不足が軍から指摘されていたが、経営陣がウィルヘルム五世へ多額の賄賂を送ることで低い原価で高い機体の納入をしていた。

 ウィルヘルム五世の乱によりこの関係は崩れたが、それでも以前の機体を作り続けていた。賄賂の無くなった分自分達の懐に入れているためだった。

 財務当局の査察によりこの事実が発覚すると、当然関係者全員が処分された。

 軍は改めて性能向上型を作るよう命令すると、既に設計は終えているので試作に入ると答えが有った。

 主翼の大型化と胴体延長によって燃料タンクの大型化と機体の安定性向上を図るとした。

 主翼の大型化は翼内にMG14を左右一丁ずつ搭載可能になったほか翼内燃料タンクの増設を可能とした。MG14は主翼根元に設置されその弾倉を納めることも可能になっていた。

 胴体延長により大出力エンジンで大型化する補機類を無理なく納めることが出来、整備性の向上に繋がった。

 各部の強化により、急降下中の運動制限を緩和する事に成功。急降下中の高機動を可能にした。従来は尾翼付近の強度不足により危険であった。

 強度向上は水平尾翼を支える支柱の撤去を可能にした。

 尾輪が固定式から引き込み式になった。

 主脚も強化されたが、相変わらず取り付けが胴体であり、離着陸時の不安定さは変わらない。ただ主脚折損の事故は大幅に減った。離着陸時の安定性はG型で主脚のトレッドを広げるまで変わらなかった。

 量産性を上げることを目的に構造の簡略化を図った。

 防弾も従来の不完全な8ミリ弾防御から向上しており生還率も上がっている。

 構造強化と防弾強化のために重くなっていて、新型エンジンを持ってしても速度向上は推定値よりも低くなったいた。

 エンジンはMB601となり同じ倒立V型十二気筒のMB600よりも若干大型化していたが、その大きさから既に出力限界と思われていたMB600に対して三百馬力の出力向上と将来的に余裕を持たせていた。

 このMB601は最初からモーターカノン装備を前提に設計されており、MG20/M3の装備を改造無しで可能としていた。

 胴体の延長はモーターカノン装備時の整備性を良好とすることも目的だった。

 従来のMG8は撤去され機首上面の胴体銃は装備から外された。

 最高速度は高度六千で六百キロを超えあの「覗きカラス」を捉えることが可能と思われた。

 これはディッツ帝国から入手した高品質ガソリン精製技術のおかげもあった。


Os109F/2

前幅 10メートル

全長 9.2メートル

全備重量 3.4トン

最高速度 610km/h 5600メートル

エンジン

MB601/B

離床出力 1350馬力

1速公称出力 1260馬力/2200メートル

2速公称出力 1100馬力/5000メートル


航続距離

 巡航 1000キロ 投下タンク装備時+五百キロ


武装

 20ミリモーターカノンMG20/M3 一丁装弾数100発

 MG14 二丁 装弾数各150発

 爆弾

 200キロ爆弾1発


 従来のE3に比べると破格の性能向上がなされている。

 特にMG8四丁から武装の強化が著しい。


 MG20/M3はMG20モーターカノンでM1がMB600用、M2がMB601/B用装弾数60発、M3が装弾数100発だった。いずれもドラム弾倉である。戦争終結までベルト給弾化はならず、最後までこの仕様だった。






 そんな機体がフェザーン前進基地に配備が始まったのは戦争開始後1年半以上待たなければいけなかった。その間のパイロットの喪失数はバカに出来ないほどだ。

 まず本国で教育・錬成用に配備が始まり、次いで南ソレイル島、最後にフェザーン前進基地だった。


 ディッツ帝国での戦いはガミチスがジワジワと戦線を押し上げて遂に本国まで百キロまで迫っていた。

 ガミチスはクルツブルクと硝石鉱山の情報を得たようで主攻線が完全に南部戦線になっている。中央戦線や北部での部族連合による攻勢は牽制の為がほとんどで、ちょっと手を出してはすぐに後退ということをしている。それでもディッツ帝国としては戦力を対応せずにはいられないため厄介だった。特に中央部が開戦後強化されたとは言えほぼ無防備に近く、多くの労力を割かれた。

 通商破壊戦も行われており、開戦後百万トン近い商船が沈んでいる。これは保有商船の半分に達する大被害であった。これは転移前、海上輸送の多くを費用の安い植民地や属国にやらせていたためで、帝国自体は内海で大陸国だった為に鉄道輸送も多く経済規模に対して商船の数は多くなかった。

 対潜能力自体も一応装備していると言う程度で、機材の性能も艦船乗り組み員の能力も足りていなかった。転移前の状況では対潜能力は重視されておらず周辺国の潜水艦も能力の低い船が少数という状態では仕方が無かったと言える。

 転移後も日本が大型海洋性混沌獣を警戒して領海以外には潜水艦を進出させていないという現実から、対潜能力の強化はされていなかった。


 その結果がこの大被害であり、ディッツ帝国の沿岸航路以外は航海が難しい海域になっていた。石油輸入は日本タンカーが頼りだった。

 ガミチスは日本という正体不明国家に対する警戒はしており、日本船舶に対する攻撃は一切無かった。

 接触すれば日本が敵になる確率は高く、接触も禁止されていた。

 ただこれまでの情報から、ディッツ帝国が戦争を継続できているのは日本在ってこそと理解はしていた。


 

 クルツブルクと硝石鉱山への航空攻撃は激化の一途を辿っている。硝石鉱山は10%の能力低下が見られ、クルツブルクでも少なくない被害が出ていた。

 敵戦闘機の航続距離が短く硝石鉱山への航空攻撃には護衛が付いているが、クルツブルクへの航空攻撃には護衛が付いていないと言っても良かった。

 硝石鉱山への航空攻撃の護衛はOs109E3であり、護衛目的ならかろうじて果たせた。

 クルツブルクへの航空攻撃には護衛戦闘機が航続距離の関係でOs109E3では不可能でOs210Bが就いていた。

 Os210Bは双発復座で到底迎撃に出てくる単座戦闘機の相手が出来る機体ではないが他に無いのも事実だった。

 爆撃機は双発の小型爆撃機Os97DはMB600の双発で爆弾1トン搭載、航続距離二千キロという小型爆撃機としては十分な物だった。速度も爆装で四百六十キロ出る優秀機だった。投下後は四百九十キロ近くでる機体で、最大速度五百十キロのOs210Bと大差ない。

  クルツブルクへの航空攻撃では護衛を果たせないことも多く爆撃機隊からは「役立たず」「囮」呼ばわりされていた。

 

 この状況が変わったのがOs109F/2が配備されてからで必要上十分な航続距離とシュニッツァー4よりも優速であったことから護衛能力は格段に上がった。

 武装も大幅に強化された新型機の前にシュニッツァー4は犠牲を増やしていく。

 地上での被害が増加したのは、護衛任務から外されたOs210Bが爆弾を装備して爆撃を始めた事による。更に投弾後、地上を機銃掃射して行くためだった。

 Os210Bの本領が発揮されてきたと言える。機首に集中装備されたMG18四丁の威力は炸裂弾と言う事もあり威力を発揮した。


 これに対するディッツ帝国の対応は、ようやく自国生産が始まり、練度も上がったオスカー1を当てることだった。オスカー1は零戦四十三型のことで最大速度三百三十五ノット(六百二十キロ)であり、運動性能もOs109F/2よりも良好だった。航空機関砲が九十九式一号二型とホ-103は降ろされ、ディッツ帝国製AG142四丁に変更されている。

 他にオスカー2として飛燕に自国製倒立V型十二気筒1300馬力エンジンを搭載した機体が少数投入されていた。これは運用実績と戦訓を得るためで今後の生産に生かされることになる。V型十二気筒から倒立V型十二気筒への換装は大凡上手くいった。最高速度は六百キロであった。航続距離は通常一千五百キロ、落下タンク付きで二千三百キロだった。


 この2機種の投入により、防空戦で負けないようになった。オスカー1とオスカー2が対戦闘機でシュニッツァー4が対爆撃機の分業で上手くいった。


 ここに来て航空戦力の質的均衡からガミチスの進撃速度が遅くなる。未だ量的にはガミチスが上回っており戦況は有利だが、いずれして敵にも量的にも均衡する時が来るというのがディッツ帝国側の分析だった。ただこれは今の敵補給状態からの推測で、敵が補給を上積みすれば崩れる程度のものだった。

 この時ガミチス陸上戦力は七十万を超え、航空機一千二百機、戦車八百両が上陸しているのだが、ディッツ帝国で掴んでいるのはその八割だった。




「フム、補給は上手くいきすぎているくらいで怖いものが有る」


「なにをおっしゃいますか。良いことでしょう。ドメル閣下が選ばれた人材が答えてくれています」


「おべっかが上手いな君は」


 ドメル東部戦線司令長官とファーレンファイト中佐が会話をしていた。


「ですが事実は事実だと認めて頂かないと」


「まあそうだな。実によくやってくれている。特に補給品が航空機から戦車、弾薬・食料・医薬品まで要求の2割増しで届くとはな」


「あの喋らない男は思ったより優秀です。ですから先程の作戦会議でも一時大規模な攻勢に出ましょうと」


「まあそうなんだが。どうにもタイミングが悪そうでな」


「タイミングですか?」


「そうだ。敵最重要地域で有るクルツブルクへの航空攻撃は最近、成果が低調だと聞く。これは敵もようやく態勢を整えてきたと言うことだ。そして、空軍情報部や情報第七課が当てにならないということも分かった」


「敵の航空機が思ったよりも高性能でしたね」


「と言う事でだ。ファーレンファイト、情報を奴らよりも先に入手しろ。捕虜が出来たら重傷で治療中だとでも言って奴らに手を出させるな」


「隠してもいいですか」


「構わん」


「仰せのままに」


 情報第七課は東部方面の情報を取り扱う部署で、おかしな事に東部方面軍にも情報を隠すことがある。本国に苦情を言うとその時だけはまともになり、いつの間にかまた秘匿するようになる。

 そのせいで東部方面軍からの信用は無かった。

 ガミチス軍内での情報の取り合いがおかしな方向に向かっていく。

 大きな組織である。上が変わったからと言っていきなり全てが変わるわけでは無かった。

 



クルツブルクが取られるか破壊されれば、ディッツ帝国の息の根が止まりそうです。

次回、多分攻防戦続き。


次回 五月十七日 05:00予定

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