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南大陸攻防戦 2

じわじわと後退し続けるディッツ帝国

 戦争開始から一年が過ぎた。

 ディッツ帝国は戦時体制への移行が進み徐々に戦争に必要な物資の生産量が増えている。

 徴兵も順調に進み志願者が押し掛けたこともあって、陸軍は二十個師団を増加させている。問題は急に増えた人員への対応が間に合わないことか。一部では徴兵したのにお帰りを願うこともあった。

 一年後には陸軍百万人体制が整う。二年後には二百万人を目指している。

 新兵を前線に送った代わりに予備役動員で前線に送った兵や長期に戦線にいた兵を下げ教員に当てている。


 後方戦力が整うまで遅滞戦術でじわじわと後退し続けるディッツ帝国軍は遂に本国まで二百キロの所まで後退した。

 さすがにもう下がれない。ここから五百キロ東方には旧所属世界でも最大規模だった硝石鉱山がある。試算によればガミチスを押し出し更にガミチスへと侵攻しても十分な火薬を生産可能な量が眠っている。

 だが戦線圧力は重く日々後退している。最終防衛ラインを本国国境としているが、そこまで下がる気は無かった。


挿絵(By みてみん)


 硝石鉱山の更に東方には南部重要都市クルツブルクがある。工業生産の三分の一を占めるこの地域は絶対に守らねばいけなかった。特に豊富な硝石をベースにした化学工業は半分以上がここに集中している。その中でも火薬の九十%以上ここで生産されている。

 クルツブルクを落とされる、または破壊されることはディッツ帝国の敗北に繋がるのだった。


 


 偵察機は今日も飛んでいる。追いつく敵機がいない。いつもは楽な偵察である。ただ今日はかなり敵後方まで踏み込む。いくら高速機とは言え危険度はかなり高い。


「ベレンコ中尉、フェザーンまで後三百キロです」


「了解、シュガシビリ曹長。敵機は見えないな」


「現在クリアです」


「了解、外部タンク投下、高度を上げる」


「中尉、タンク落下確認」


 今日は特装で落下式タンクを付けている。オリジナルには無い装備だがこちらでやった。これにより一千キロ近く航続距離が伸びている。でなければフェザーンまで偵察は出来ない。


 わずかに得られている捕虜の情報によるとフェザーンに一大基地を構築しているようだ。今からそこへ飛んで行く。迎撃機がお迎えしてくれるだろう。今日は機体が長距離偵察仕様で重いがそれでも先程迎撃機Os109をかろうじて振り切った。今のところこのスワンに追いつく敵機は無いが待ち構えられていれば迎撃も可能だろう。

 ベレンコ中尉はこのスワンが速度も速く姿も美しいので気に入っているのだが、唯一気に入らないのが後席との間に有るでかい燃料タンクだ。後席とは通話装置でしか安否の確認が出来ない。顔も当然見えない。


「わかった。これより上昇する。酸素用意」


 今日は特装だった。酸素瓶は通常より増えている。今まで落下タンクを使っていたので燃料も満タン近い。上昇する機体が重い。


「高度五千で酸素吸入開始」


「了解、五千で酸素開始」


 速度と高度が少しずつ上がっていく。偵察高度は八千から一万で状況によって選ぶことは許可されていた。


「曹長、八千で航過する。写真用意」


「了解、八千で撮影します」


 今まで八千で追いつかれることは無かった。Os109ならどの高度でもこちらの方が速い。


「中尉、針路少しズレました、修正願います」


「了解」


「右へ三度」


「右へ三度了解」


「針路乗りました。定針願います」


「了解」


 もう曹長はカメラに集中するだろう。見張りはひとりになってしまうな。


「目標確認しました。撮影開始します」


「了解」


 見回すが敵機は見えない。


「中尉、一回目撮影完了。複航で別目標を撮影します」


「了解。ここからでも判る。でかいな」


 ディッツ帝国が自治領化した後で建設した基地を更に拡大しているようだ。


「本当です。進路変更まであと十秒、五、四、三、二、一、変針」


「変針」


 ん?何か見えたような。


「定針しました」


「了解、曹長。少し見張れ。何か見えた気がする」


「中尉、目がいいですね。後上方七時機影らしきもの。遠い」


「わかった。速度上げる。全速だ。撮影開始しろ」


「了解。追いつかれませんように」


 後上方七時か。首を伸ばすが見えん。でかいタンクが邪魔だ。


「撮影開始」


 ジリジリする。まだ終わらないか。


「撮影完了」


「よし。敵機はどうだ」


「待って下さい。近づいてきます。高度が若干上の模様。まだ射程外ですね」


「機銃は構えなくていいぞ。キャノピーを開けると速度が落ちる」


「了解。ここで震えています」


「こいつの速度を信じろ」


「いつも信じています」


「速いは正義だ」


「同意します。敵機近づきますがゆっくりです」


「高度を上げた方が良いか。最大高度で逃げるぞ」


「逃げると言うと怒られますよ」


「誰も聞いてない。問題ない」


 上昇する機体。じわじわと上がっていく。


「敵機、同高度」

「敵機、距離変わらず」

「敵機、離れていきます」


「曹長、後ろはいいが、前から悪い知らせだ」


「別口ですか」


「二機だな。だが動きが悪い。進路を変えれば迎撃されないだろう」


「お任せで」


「任された」


 進路を変更すると案の定、敵機は着いてこれない。危機は去った。


「曹長、酸素はどうか」


「中尉、あと三十分です」


「ではあと十五分高度を維持。その後高度を落とす」


「了解です」


 彼等の乗機はスワン。百式司令部偵察機三型改である。三型のキャノピーを流線型から以前の段付きに戻した機体だ。速度は若干低下したが推力式単排気管採用でその差をカバーどころか十キロ以上速度が上がった。

 高度八千でも六百三十キロは出ている。

 この機体のエンジンは海軍で導入した戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機と同じエンジンだが、日本はこの機体に専用チューンのエンジンを搭載しているようで、専用ガソリンを付けて提供してきた。

 試しに少しだけ専用燃料をシュニッツァー4に使ったところ最高速度が二十キロ以上上がった。

 日本にこの事を問うと予想していたようで「供給量に限りが有り、他国への提供は今のところ出来ない。ただ偵察機の重要性に鑑みて提供をしている。供給量を増やす算段はしているが余り期待しないで欲しい」と答えるに止まった。


 

 彼等の持ち帰った偵察結果は並々ならぬ関心を持たれた。帝国が自ら作った基地を更に拡張している。途中にも幾つか建設中だった。

 推定兵力は三十万以上五十万。航空機数百機。戦車五百両以上。恐ろしい数だった。

 爆撃をしようという声は当然あるが、爆撃機が低速・弱装甲の機体しか無い。Os109がいくら弱武装とは言え被害は大きいだろう。

 日本から導入という声にも「そこまで往復できるのは四式爆撃機だけで戦闘機の護衛が無いと被害ばかりだろう」と言われて焦らないよう指摘される。

 地道に奪還していくしかない。




 


「偵察機だと」


「はい、ドメル閣下」


「堕とせんのか」


「忌々しいことに向こうの方が性能が上でして」


「そう言えば、最近報告に上がるな。高速でOs109では追いつけない奴か」


「そうです。今回もレーダーで接近を探知。戦闘機八機を上げましたが、迎撃地点に達することが出来たのが六機。うち、接敵に成功したのが三機です」


「なにか機数が合わないが」


「はい。レーダーの性能で方位と距離は良いのですが高度が上手く測定できません。六千以上と迎撃司令は指示したのですが、奴らは八千で接近。七千から八千で待ち構えていた機体は速度で追い付けず失敗。奴らは往復しましたがそれにも追随できませんでした。三機は高度九千まで上がり待ち構えていました。ですが高度を維持するのが一杯で大きな戦闘機動をすればかなり高度が落ちます。それで一機だけ追尾に成功したのですが射程に収めることが出来なかったと言っています」


「要するにOs109の性能不足であると」


「そうです」


 ガミチス軍部ではOs109E3の能力不足については認識しており、対策は取られていた。

 戦争中盤の主力機になるOs109Fが登場する。



ディッツ帝国に一大拠点を築き上げたガミチス。

奪還はなるか。



次回 五月十六日 05:00予定


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