南大陸攻防戦
場面切り替わります。
ディッツ帝国では宣戦布告無しの開戦から一気に攻め込まれ一大重要拠点であるフェザーン油田を失った。
これは同国の戦争経済に於いてかなりの痛手となっていた。当然のことながら日本からの原油及び精製品の輸入量が増えた。日本は最北端と言っていい樺太・オハの油田からでは無く輸送経路短縮という観点から南アタリナ島からの輸出に変更していた。この頃には自噴圧力も弱くなり、日本の国内消費で充分に油田のオーバーフローを防ぐことが出来るようになっていた。
このタンカーを含む日本からの商船は南大陸東端とも言えるカムランが主な目的地となっていた。カムランよりも北西の港湾は入港禁止とされた。南部工業都市のクルツブルクを目指す便もあった。航路も東へ大幅な迂回航路を取るように当局より指導された。商船の中には赤道多島海の中継点で荷下ろしをして替わりの積荷を受け取り帰る船もいる。
マライタ島とガダルカナル島の港湾能力は継続的に強化されている。中継点としての能力を上げた。特にマライタ島の石油タンク群は日本国内よりも大規模で最近稼働を始めた製油所はディッツ帝国向けが主でディッツ帝国企業と初の合弁事業である。将来的には赤道多島海周辺への供給基地も目指している。
移住者護衛艦隊は戦争勃発を聞き移住者輸送を船団で護衛付きの当初型式に戻した。
問題は最近赤道多島海付近でもガミチスの物と見られる潜水艦が目撃されていることだ。駆逐艦や航空機が接近すると潜行してしまい、接触はできていない。電探を装備している模様だ。ただ、浮上しないので敵性潜水艦として認識されている。
移住者護衛艦隊は追い払う以上のことは出来ないが、日本海軍は対応を如何するか検討中だ。ディッツ帝国は自力でガミチス帝国に対処すると言っているので勝手に攻撃は出来ない。かといって自国艦船が攻撃されていないのに先制攻撃もためらわれた。
結局攻撃された場合はやり返す。後は追い払う程度と移住者護衛艦隊と同じ対応になった。ディッツ帝国と同盟を結んでいるわけでもないので、態々こちらから首を突っ込むことは無い。
現状ディッツ帝国は、本国手前で持ちこたえているという情報が入っている。ガミチスの方が兵器の性能レベルは上だが数で対抗しているという感じだ。航空機は戦闘機で同程度の性能。速度が若干速い液冷機は武装が貧弱でこちらは被弾しても急所に当たらない限り帰投できている。初期に出会った空冷機は艦載機のようで内陸に戦場が移ってからは見ることが無い。
航空戦はガミチス戦闘機の火力不足で互角に持ちこたえているが、戦車戦は負けが込んでいる。
総合的にはジリジリと押し込まれている。これはガミチスの初期投入戦力が多く増援も続いているようで、戦力が途切れないためだ。
ディッツ帝国はここに来てようやく予備役を戦線に投入できるようになった。開戦後に始めた徴兵で集まった兵はまだ戦線に出せない。予備役が消耗する前には投入できる見込みだ。
兵器生産もようやく上昇傾向にある。工場の拡張や増設がまだ出来ていないので、人を遣り繰りしての増産だ。日本から得たライセンスで各種兵器を作り始めるのはまだ先になりそうだ。
日本から入手した零戦・九十七艦攻・九十九艦爆他は、錬成中でまだ前線に出すのは早いという評価だった。中途半端な練度で出して損害を出すよりも十分な練度を確保してからの方が戦力になると言う判断からだった。
先に空母と一緒に導入している海軍航空隊は練度は日本海軍からも一目置かれるほどになったが、有るだろう艦隊戦の切り札的存在で、初期に少し投入されたが現在は空母部隊に戻っている。今消耗するのは避けたかった。
そんな中、待望の新型戦車R5が量産試作を終え本格的に量産に入っている。R5/1型は四十五ミリ砲を予定通り積んでいる。ただ、ガミチスの大型戦車には対抗が難しいと思われ、日本から急遽五十七ミリ戦車砲を輸入。2型として生産している。五十七ミリ戦車砲の数に限りが有り1型と2型は平行生産されている。五十七ミリ戦車砲は口径57mm砲身長60口径と言う長砲身砲であった。ただ命数を確保するために初速は九百メートル/秒に抑えられている。
更にR6を開発中だ。R6は七十五ミリ砲搭載の二十五トン級戦車になる予定だが装甲の積み増しが戦訓次第ではあるだろう。
装甲はR5から日本の九十七式中戦車の外観を参考に傾斜装甲を導入している。日本としては悔しいことに視界良好なペリスコープを先に開発されてしまった。日本は輸入しようかどうか迷っている。
R5のエンジンは自国製ガソリンエンジンで旧型の航空機用液冷V型十二気筒を改造、搭載している。四百馬力は出る優秀エンジンだ。潤滑系の整備性が良くなっており稼働率も高い。
航空機は日本から首無しの飛燕が輸入され陸揚げされている。自国製の液冷倒立V型十二気筒エンジンとのマッチングに入っている。
これまでのディッツ帝国液冷航空機はラジエターが機首下面だったが飛燕は胴体後方下面となっている。
武装は飛燕が十三ミリ四丁だったのを自国製AG142を四丁搭載。寸法がや大きいので心配されたがが無事収まった。
艦船は対潜水艦対策として日本から導入したアクティブ・ソナーを最新型に更新しつつある。元はイギリスのアズディックだ。
対潜兵器も二式対潜迫撃砲を新たに装備している。今までは爆雷投下軌条と爆雷投射器だった。元はイギリスのヘッジホッグだ。
来年就役予定の戦艦主砲には日本から売り込みのあった三十八センチ砲を装填機構込みで導入している。毎分二発なら安定動作する。日本は少しでも量産効果を得たかった。
今まで三十四センチ砲が最大だったディッツ帝国海軍では三十八センチ、四十センチを狙っていたが日本に良い物が有るなら買おうと決めた。この砲はイタリアOTO社製で苦労して日本が国産化した物である。
空母は改翔鶴級の図面を買って国内で建造することとした。日本としては今後建造する空母は全て奮進発動機対応であり、改翔鶴級でも奮進発動機対応にはやや小型と思われたため許可が出た。
後に改翔鶴級では艦型が大きく量産には向かないとして雲龍級が問題点を修正の上、量産されることになる。
ディッツ帝国北部で海中に潜む者がいた。
ガミチス海軍の潜水艦だ。通商破壊戦を展開すべく情報収集中だ。既に一部潜水艦は商船数隻を沈めている。
「艦長、どうも警戒が厳しいです」
「あの島は重要拠点なのだろう。避けて大きく迂回すべきかな」
「思い切って島の南を突っ切りますか」
「大胆だな。俺は嫌だぞ」
「自分も嫌ですよ」
「じゃあ何で言った?」
「艦長がその気なら付き合おうと思っただけです」
「その気は無い。安全第一だ」
今日も偵察潜水艦S-105は安全第一をモットーに偵察行を続けている。
天気はガミチスにもディッツ帝国にも平等だ。雨も降れば風も吹く。
前線の将兵はそんな事は関係なく、今日も戦っている。
彼等の手元に新兵器が届くのはいつだろうか。
次回十二日の更新は休むかも。
一応五月十二日更新が無ければ十四日です。
時間は05:00予定