カストロプの乱 4
一気に乱戦はありませんでした。
最後の方で始まります。
スタンピートとばかり思い込んでいたらスタンピードでした。
以降スタンピードと表現します。
カストロプ子爵領からのカリス自治領沿い侵入者は総人数不明だが、ほぼ無力化したと見られた。荒らされた村落は八個。死傷者多数の被害が出ている。王国連邦エンキド守備隊のてによってあきらかにされた被害だ。
日本が航空攻撃をしていなければ更に被害は広がっただろう。
感謝された。攻撃後を調査に行った守備隊が多数の戦利品を獲得。中には高級な魔法の杖まであった。
侵入者の生き残りはいても少数であるし、普通なら情報を持ち帰るために撤退しているはずだ。
脅威は排除されたと判断された。
日本からの増援は第一陣がエンキドダンジョン周辺に展開を完了した。第二陣は二週間後の予定だ。
工兵連隊は滑走路建設を行っており、こちらには師団付属の工兵部隊しか来ていない。それでも数台のバックホーやブルドーザー、ダンプカーなどの建設車両も持ち込まれている。
長居する気は無いので大型テント型兵舎を持ち込んでいる。民間に提供される予定だった消臭と滅却の魔道具を供出して貰った。以前から問題視されていた緊急展開時の衛生確保への課題となった。平時は如何しても軍で貯め込むよりも民間優先となっていた。匂わない&お釣りが来ないを経験するとボットンには戻れない。
「子爵様、エンキドを荒らすよう命じました者が戻ってございます」
「早いのでは無いか」
「全滅だそうです」
「何?先に言え。その者に会うぞ」
「畏まりました。怪我をしております。兵舎の救護室に居ますれば、少しお待ち頂きたく」
「そのくらないなら良い」
「失礼します」
屋敷の執務室には二人の男が呼び出されていた。包帯には血がにじんでいる。薬草や軟膏で治ると思うが、それには使わないのがケチ臭いカストロプ子爵だった。
「その方らにはエンキド領内を荒らして、守備隊を混乱させる仕事を割り当てたはずだが、何故こんなに早く帰ってきた?」
「畏れながら申し上げます。始めは順調でした。八個の村落を潰したところまでは良かったのです。その後、奇妙な空を飛ぶ道具に攻撃を受け部隊は三人を残し全滅。一人は途中で息を引き取りました」
「奇妙な空飛ぶ道具だと。そう言えばエンキド周辺で度々目撃されると話を聞くな」
「空から礫を目に見えぬ速さで大量に飛ばしてきました。全員その礫でやられました。魔道士のヨーマルサイ殿は空飛ぶ道具に一撃を当て落とすことこそかないませんでしたが、撃退は出来ました。その後もう一つの空飛ぶ道具に立ち向かったヨーマルサイ殿は惜しくも討ち取られましてございます」
「ヨーマルサイがやられたのか。杖は回収したのだろうな」
「いえ、逃げるに精一杯で無理でございました」
「お前らあの杖がいくらしたと思っている。ボラールの杖だぞ。おまけにドワーフ作だ。もういい。お前達は怪我が治るまでは休んでおれ」
「ありがとうございます」
二人の男は出ていった。
「子爵様、あのように無様を晒した者を罰せずともよろしいので」
「何、この程度で罰していたら先が続かん。それに余裕を見せんとな。これからギルガメス王国連邦を本家と供に手に入れるにはもっと血が流れるだろう。奴らはその時最前線に送る」
「承知しました」
「しかし、あの杖は痛いな。高かったのに」
「当家にはあの杖は残り三本です。エンキドで手に入れるしか有りませんので今後入手は難しいかと」
「まあ良い。まだ切り札はある。叔父上が到着したら、そこからが本番だ」
「先程、あと二日ほどで到着されると先触れがありました」
「フム、あと二日か。エンキドで偉そうにしている奴らに目にもの見せてくれるわ」
「魔王様、あの宝玉を使わせてしまって良いのですか」
テュエリー・ロマが魔王ナポレーン・ボナパルトに問いかける。
「構わん。どうせ二等品だ。大型種や上位種を制御出来る物では無い。今はどうなっているのかな」
「はい。今は中型種を誘導しています。大型種は餌を追って中型種に付いていきますが奴らは大型種も誘導できていると思っているようです」
「バカだな」
「バカでございますね」
「奴らが自滅しようがどうでもいい。こちらに目を向けさせないためなのだから」
「それについて。日本が空飛ぶ道具を持ち出してきました」
「空飛ぶ道具だと?あれほど我に献上せよと申したのに。許せん奴らだ」
「ラプレオス公王も献上させようとしましたが、断られましたからね。どういたしましょうか」
「今はラプレオスを掌握することに専念する。さすがに幾つも手を持ってはいない。ラプレオスの首都レイソンに有るあの道具を手に入れれば空飛ぶ道具など脅威では無い」
「首都を落とすには、あと三週間ほど掛かります」
「それは仕方が無いな。皆殺しにしてしまえば早いのだが、それでは我が兵士になる者がいなくなってしまう。徐々に影響力を高めるように」
「畏まりました」
「叔父上、ご健勝の程お祝い申し上げます。そして、いよいよですな」
「おお、我が甥よ。息災であったか。お前の所の大規模混沌領域に我が国から連れてきた混沌獣を入れたぞ」
「では、あと数日ほどすれば」
「エンキドめがけて、大規模なスタンピードが発生するだろうよ」
「ではその後を付いていけば」
「エンキドには入る手前で制御して、エンキドの奴らを跪かせる。さすれば我が一族の栄光は末代まで続くだろう」
「叔父上」
「うむ、言わなくても良い。お前にはセーラムから南、ラプレ河までをやろう」
「ありがとうございます」
「カリスは如何するのだ。あそこの次男はお前と仲がいいだろう」
「多少協力はさせましたが、それ程こちらに有利に運んだわけではありありません。ただ、所領安堵を認めてやれば靡く者も多いかと」
「そうよの。力で押さえつければ反発もあろう。では今味方に付けば所領安堵すると触れを出すとしようか」
「良きお考えかと」
皮算用は続いた。
その頃エンキドでは王国連邦首脳が頭を悩ませていた。
日本から入った偵察結果が最悪過ぎたのだ。
カストロプ子爵領の大規模混沌領域にカストロプ王国から来た混沌獣が入ったと。
いずれ信じられない規模のスタンピードが起こることは確実視された。
それと同時にカストロプ王から各地に味方になるよう魔道通信が有ったと言う。所領安堵をすると条件がもたらされている。
カストロプ周辺の小領主や小国ではこちらに伺いを立てながらも、被害を抑えるために一応味方になると言う連絡が入る。
移動が馬車と徒歩の国だ。召集を掛けても集まるのに時間が掛かる。それでも集まってくれた人達、集めて送ってくれた人達には頭が下がる。
さあ、進撃だ。カストロプ子爵領から出てくるだろうカストロプ軍との決戦である。
我々の戦いはこれからだ。
秋津中将は困っている。
カストロプ軍との戦いもそうだが、問題は混沌獣だ。
増援の戦車連隊は全て混沌獣対策に回すとしても、歩兵師団を如何するか。
第七師団の師団長と打ち合わせをすると、一個中隊規模の狙撃兵部隊をカストロプ軍の阻止に回そうと言うことで話がついた。
狙撃兵部隊と言っても純粋な狙撃兵は少ない。技量の上位者を回すという事になる。本職の狙撃兵は古式ゆかしい六十七式歩兵銃を使っている。一式自動小銃よりも長距離狙撃には向いていると語るが。
戦車連隊の将兵はトラックに分散して地形を見て回っている。
大規模なスタンピードは山東半島のダンジョンスタンピードで経験した。その資料や戦訓が回ってきている。
あと数日で到着する第十一師団は進行規模にもよるが全軍混沌獣対策に回ることになりそうだ。
その十一師団が到着する前に、カストロプ子爵領境界線で対峙していた両軍が緊張に耐えきれずに動いた。どちらが先に戦端を切ったのかわからない。とにかく始まった。
「始まっただと?早いぞ。指揮官は何をしていた」
「それがその・・・・」
「如何した。言って見ろ」
「では失礼ながら申し上げます。王太子マクシミリアン様が敵の挑発に耐えきれず、直卒部隊を引き連れて突撃してしまいました」
「・あの馬鹿者が」
オイゲン・カストロプ王は誤ったかと思った。やはり経験など積ませようと思わなければ良かったのか。
戦線は境界線上で始まったが、カストロプ軍は何故かエンキド街道北側には展開しようとしなかった。全てエンキド街道南側でカリス自治領までの範囲で戦い始めた。
その日の戦いは小競り合いに終始した。日が暮れようとしたので両軍とも引いた。
日本軍は狙撃範囲まで敵軍が来なかったので戦果は無しだ。
翌日・翌々日も同じだった。何かおかしい。そう思う者は多かった。
四日目、カストロプ軍が何を思ったか全力出撃をしてきた。一気に戦場は血が吹きすさぶ荒々しい場所となった。
そしてその日の午後、日本の九十七大艇から緊急連絡が入る。
カストロプ子爵領大規模混沌領域にて大規模スタンピード発生と。
圧力が弾けました。
山東半島のダンジョンスタンピード以上かも知れません。
さあ、自走機関砲車が活躍するよ。秘密兵器も幾つか用意済み。
試製**と言う奴ですが。
改翔鶴級二隻もキドレン沖に展開完了して出撃を待っている。
次回 五月八日 05:00予定 カストロプの乱 5
投稿にちょっと疲れてきたかなと言う感じです。五月八日までは頑張ってみます。