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カストロプの乱 2

先手を取られて混乱

 それは戦端が開かれる五日前、九十七大艇で撮影した地上写真からの解析で得られた結論だった。カストロプ子爵領とカストロプ王国への偵察行の結果を解析して得られた。


「カストロプ王国で混沌獣の移動が見られる」


 意味不明だった。

 スタンピートでは無いらしい。複数箇所からまちまちの数で移動している。

 これまでの常識が通用しない。しかも解析した結果、大型種が入っていない。従来の混沌領域周辺での混沌獣がする行動では無かった。


 翌日の偵察結果では、更に事態が悪化している。大型種が混沌獣の群れを追っているらしい。また。方向性も明らかになった。

 カストロプ子爵領の大規模混沌領域へ向かっているらしい。あの混沌領域はこの大陸でも上位の大規模領域だ。

 そこへ入り込もうとしている?訳がわからない。

 もし、あの領域に入ったらどうなるのだ?

 超大規模スタンピートでは無いのか?

 カストロプ王国に報告を求めるた。

「漸次、掃討作戦は実行中。あと数日で平定予定。助力不要」

 と白々しい返答があった。いつもそうだ。それで手に負えなくなると連邦に助けを求めてくる。今回またもやと連邦側が思ったのも無理は無い。だが今は戦争に備えて動員中だろう。変では無いか?それに戦争を起こせばそちらに手を割ける余裕は無いはずだ。

 第一、写真では混沌獣を攻撃しているような痕跡は見えない。

 

 日本に対して偵察を密にしてくれるよう要請があった。これを受けて偵察頻度を上げると共に偵察高度も七千から五千に下げた。

 それまでは内戦や隣国との地上戦なら陸上戦力と飛行師団の派遣とで済むとしていたが、大規模な混沌獣の変化があると聞き東鳥島周辺で警戒に当たっていた改翔鶴級二隻と中心とする機動部隊の派遣を決めた。現地到着まで五日だろう。

 

 ガンディス帝国とラプレオス公国はまだ戦線がギルガメス王国連邦まで届かない。あと二ヶ月は掛かる見込みだった。


 連邦政府は統合ギルドに、緊急事態に備えるよう要請を出した。王国連邦対カストロプ子爵とカストロプ王国との戦争なら冒険者は手を出さないような協定があった。内戦には手を出さないと。これは冒険者ギルド成立以降守られている。冒険者ギルドが商業ギルドと合併して統合ギルドになってもそれは守られている。


 これを受け統合ギルドは物資の集積と上位冒険者の行動把握と予備召集を始めた。日数の掛かる依頼は緊急性の高い物を除いて全てキャンセルされた。ダンジョン行きも深い階層には行かないよう指示が出された。


 カストロプ子爵領とカストロプ王国周辺の地域には対混沌獣警戒態勢を取るよう指示した。

 周辺地域はまたかと。それでも被害が発生しないよう警戒は強めた。








「ランエール、カストロプ子爵とカストロプ王が、あんな物持っていますが」


「仕方が無い。アレはラプレオス公国の魔王が開発した物なのだ。神が口出しすべきでは無いよ」


「日本に期待ですか」


「ギルガメス王国連邦では押し切られるだろうな」


「上位種は無理。誘導できるのが中型上位までですか。でも、餌が無くなるから結局中型種を追ってきますよね」


「奴ら大型が出てきたら如何するのだ」


「如何するのでしょうね」


「日本は十ミリ自動小銃ですか。アレで中型中位までは阻止可能ですね。それ以上は少数の選抜兵が二十ミリ対戦車銃ですか。戦車まで持ち込んでますね」


「問題ないだろうな。有るとすれば数だけだが、こればかりは予想できん」


「いざとなれば爆撃で吹き飛ばす気でいるようですが」


「混沌獣だけだろう。人には使う気は無いようだが」


「指揮官だけ狙撃するようです」


「ギルガメス王国連邦も気張るな」


「そうしないと国内問題を他国に任せた弱い政府として問題になるでしょう」








 

 カストロプ王国から兵力の移動があったのは混沌獣の移動が判った日の翌々日だった。一応混沌獣を追っているようには見える。

 だが、ここへ来て王国連邦は混沌獣を何らかの手段で誘導しているのでは無いかと考えるようになった。

 日本からもたらされた偵察結果でも混沌獣が周辺の人口密集地に向かわず、一直線にカストロプ子爵領の大規模混沌領域を目指しているのが判った。

 

 戦端が開かれる二日前、遂にに誘導していると判断。統合ギルドに緊急要請を発動。

 日本にも対策を求めた。

 兵力も子爵領で休憩した後子爵領の兵力と合同でエンキドへ向かっているのが偵察結果で判断できた。


 王国連邦は一日前に連邦加盟各国と自治領・独立領主に対してカストロプ王国とカストロプ子爵が反乱を企てていると連絡。

 カストロプ王国とカストロプ子爵に釈明を求めるも返答は無かった。

 王国連邦はこれを反乱と断定。

 連邦加盟各国と自治領・独立領主に対してカストロプ王国とカストロプ子爵が反乱を起こしたと連絡。

 連邦加盟各国と自治領・独立領主に対してカストロプ王国とカストロプ子爵の反乱を鎮圧することを命令した。

 これにより親王国連邦か、敵対勢力。あるいは日和見でいる油断ならない勢力、日和見だが思考停止状態で日和見になっている勢力に分かれるだろう。


 日本にはかねてよりの計画通り指揮官を狙撃して貰うことになる。中には主家の命令でやむなく従っている者もいようが戦争なのだ。倒れて貰う。







「秋津司令長官、いささかマズい事態だと考えますが」


 司令部作戦参謀の村山中佐が発言する。ここは長ったらしい名前が付いているが通称派遣軍司令部だ。


「何敵が増えただけだ。気にするなと言っても無理か」


「おっしゃるとおりです。兵の中には動揺している者もおります」


「君は如何なのか」


「私ですか、まあその、いささか動揺はしております」


「ウム、正直でよろしい」


「村山中佐、そこまでだ。司令長官も判っておられる」


 参謀長の板垣大佐が諫める。


「失礼しました」


「状況だが、カストロプ王国とカストロプ子爵が反旗を翻し、更に混沌獣を何らかの手段で誘導しているようだな」


「はい。王国連邦ではそのように判断しております」


「この周辺は如何なのだ」


「王国連邦によりますとカリス自治区で動きがないので警戒する方が良いだろうと言ってきております」


「カリス自治領か。カストロプ家に圧迫を受けているな。それで手を貸すのか、判断が付きかねて傍観しているのか。どちらだろう」


「カリス自治領は、現在当主不予により跡継ぎ選びで混迷したいるとの情報があります。統合ギルドを使って調査した結果、事実でした。当主が決まらない限りどちらかに付く事は無いと思います。ただ、継承順位三位の次男がカストロプ子爵と大変仲がいいと言うことで警戒は必要かと」


 情報参謀の秋山中佐が述べる。


「それは、王国連邦でも掴んでいるだろう?」


「我々が掴んでいるくらいなので」


「継承順位三位では、たいした兵力は動かせないと思うが、一応警戒しておこう。それに第一陣が到着した。兵力に不安は無い」


「その兵力ですが、戦車連隊の構成が少し変わっています」


 板垣大佐が発言する。


「通常では無いのか」


「三十三ミリ機関砲と二十五ミリ機関砲搭載の自走機関砲車が多いですね」


「まあ対人ならその方が役に立つのではないか」


「狙撃を中心という方針に反するかと」


「まあ、狙撃中心と決まったのは増援が日本を出てからだからな。機関砲車の出番が対人戦で無い事を祈ろう。混沌獣相手に掃射してくれるなら助かる」


「秋津司令長官、工兵隊ですがよろしいでしょうか」


「言ってくれ」


「現在、カストロプ子爵領との街道にはトーチカと塹壕を、境界線の侵攻可能と思われる場所には監視哨を建設完了しておりますが、近づかれて魔法を使われるといささか防御に問題があります」


「あー魔法か。我々には無いからつい忘れるな」


「他には新たに混沌獣に対する阻止線を築かなければなりません」


「問題だらけだな。それは増援の工兵隊と協議してくれ」


「場所をどこにしますか」


「奴らは通常大きい川を渡ることは無いと言うが、誘導されているとなると判断に苦しむな」


「司令長官、とにかくサラム川を越えさせないようにしないといけません」


「橋を落とすか?」


「それは王国連邦が許可するでしょうか」


 会議は踊る。





 その日の午後、カストロプ子爵領からエンキド街道沿いに侵攻が始まったと王国連邦から連絡があった。

 他に少数の別働隊がカリス自治領をかすめるように西進しているとの情報も入る。

 まだ前衛部隊であり王国連邦のエンキド駐留軍で対処は可能と思われた。








もう後戻りは出来ないカストロプ家


次回 五月六日 05:00予定

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