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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
16/219

上村部隊 村到着

ようやく村に到着するようです。

 船長と艦隊司令の挨拶を受けた三人は、まだ唖然としていた。


 ジンイチに案内されてきた部屋が、想像を超えていた。帝都で近衛をやっていたアビゲイルでも今の自分たちが案内されるのはふさわしくない部屋だと思っていた。部屋自体は見慣れた感じの貴族や富豪が使う部屋に似ていた。

 アビゲイルでそれだからして、モーリタとタマヨの驚き具合は滑稽だった。

 

 この船の船長と艦隊司令が挨拶をしに三人の前に訪れたのだ。

 アビゲイルは平然としたものだったが、モーリタとタマヨの狼狽え方は村の者が見ていれば絶対に笑い転げただろう。


 船長も艦隊司令もこの地の足がかりになる三人に対して、ずいぶん気を遣っていた。アビゲイルもそれには気づいていたが、二人の狼狽えように対応よりも二人を落ち着かせるのに懸命だった。

 挨拶が終わって去った後、二人は舞い上がっていた。


「ねえ、アビゲイル。私どこかのお嬢様だっけ?」

 モーリタは初めて飲む紅茶とそれを入れてくれたパーサーに我を忘れていた。

 ソファーも体験したことが無い座り心地だった。

「このベッドふかふかだー」

「わー。タマヨ、そこで跳ね回るな」

 タマヨはベッドで跳ね回っていた。


 いかん、俺がしっかりしなければ。アビゲイルは思った。この部屋の物は俺が見ても分かる。かなり高価な物だ。壊したら何を言われるか。


 しかしアビゲイルの思いは二人には伝わらなかった。


「キャー、この鏡凄い。こんな鏡見たこと無いわ。ゆがみが無い鏡よ。私はきれい?」

「アビゲイル、アビゲイル、これお風呂だよね。上についているのなんだろう」

「へー、これがあの人達の使うトイレなんだ。凄いきれい」

「いや、違うからな。この部屋はかなりの金持ちとか偉いさんが使う部屋だから。普通のジンイチみたいな人は、もっと安っぽい作りの部屋だと思うぞ」

「アビゲイル、私ちょっとトイレ使いたい」

「ああタマヨすまん。ほらモーリタもどいて」


「アビゲイル、困った」

「なんだタマヨ」

「使い方わかんない」

「「え?」」


 聞かれても困るアビゲイルだった。

 そう言えば、困ったときはこの電話という奴を使えと言っていたな。

 確かこうやるはずだ。受話器を上げ耳に当てる。


「お困りでしょうか」


 女性の声が聞こえた。


「実はトイレの使い方が我々の物と違うので、分からない。教えて欲しい」

「少々お待ちください。係の者が伺います。名前は内田です」

「うちだ、ウチダですね」

「はい、女性です。それではしばらくお待ちください」

「ありがとう」


 アビゲイルは受話器を置いて良いのか分からなかったが、受話器から「お客様、そのまま受話器を元に戻してください。それで要件は終わりとなります。またのご用命をお待ちしております」という声が聞こえたので、受話器を元に戻した。


 ドアをノックする音が聞こえた。

「ウチダです。ご用命を承ってまいりました」

「どうぞ」

「失礼します」


「トイレの使い方でよろしかったでしょうか」

「そうです。我々の物と違うので使い方が分からない。教えて欲しい」

「承りました」


「まず、こちらの蓋を開けます」

「これで女性と男性、両方使えます」

「それは分かります」

「ありがとうございます。次にもう一つ上げます。これで男性の小用となります」

「わかりました」

「用を足し終わりましたら、この紙で拭いてください」

「この白い紙ですか」

「そうです。きれいになるまで使って頂いてけっこうですから、ご遠慮なくお使いください」

「これはずいぶん高価な物では?」

「いえ、どこのご家庭でも使っている物です。決して高価な物ではありません」


 嘘だった。この時代、日本では水洗便所などごく一部であり、尻拭き用の紙も白く無い。普通の家庭は灰色の安い再生紙だった。ましてやトイレットペーパーなどごく一部にしか無かった。彼等を安心させるよう、船長から言いつけられていた。


「拭き終わりましたら、トイレの中に落としてください。用が済みましたら、この紐を引くと水が流れ洗い流します」


 ホへー、だった。


「ただあまり大量の紙を使いますと、詰まりますのでご注意ください」

「どのくらいですか」

「これは困りました。私にも分かりません。使って慣れて頂くしか有りません」

「ありがとうございました。ではまた困りましたら、お呼びしても?」

「はい、私はドアの外で待っています。困ったことがありましたら、ドアを開けてお呼びください」

「ありがとう」


 ウチダは出て行った。出て行く際にも丁寧なお辞儀をしてから出て行った。我々の扱いがかなり上級だと分かった。


「さあ、タマヨ。トイレを使え」

「え、うーん、モーリター」

「アビゲイル、あなたはどっか行ってて」

「お、おう、分かった。向こうの部屋にいる」


 二人は無事トイレを使い終わったようだ。紙がとか、葉っぱの方がとか、感想を言っている。


「俺も使うか」


 うん、やはり消臭と滅却は欲しいな。そう思ったアビゲイルだった。


 夕食の豪華さに驚き、舌鼓をうち、タマヨが苦しくなるまで食べたり、風呂ではシャワーから熱いお湯が出てくるのに驚き、シャンプーとリンスと石けんで体中きれいになって驚いたりした。

 モーリタが余りに綺麗になったのだ。アビゲイルは惚れ直した。


 視界の隅でタマヨが私も綺麗になったアピールをしているが目に入らなかった。


 クローゼットの中の寝具は自由に使って良いと言われ、女子二人で再び舞い上がっていた。

 肌着の新しい物が用意され、返さなくても良い。持ち帰りしていいと言われまたまた舞い上がっていた。何しろ質がまるっきり違った。


 翌日、また朝食で驚き、驚き疲れた頃、ジンイチがやってきた。村へ向かう準備が出来たと。

 見送りに来てくれた船長とウチダに別れを告げ、小舟に乗り込む。

 昨日は6隻だったが、今日は10隻に増えていた。

 聞くと、様々な物資と荷車だそうだ。


 小舟は船団を離れ、湾の奥にある河口から上流を目指す。速い、これは楽だ。

 やがて見覚えのある地点付近で開けた所を見つけて川から上がった。


「ここからなら、村まで八キロメータ位なんだよ」

 

 タマヨが言う。


「ここから先に開けた場所は有りそうかな。我々が全員休憩出来るような」


 ジンイチが聞く。


「ないよ」


「無いのか。少し待ってくれ。それと、ニャがついていないよ。タマヨさん」

 

 タマヨは真っ赤になった。アビゲイルとモーリタは笑いをこらえていた。


「お待たせ。あの少し高い所を切り開いても良いかな?」

「別にかまわないが、わざわざ聞かなくても良いぞ」

「やはり、先に住んでいる人に聞かないとね」

「ここは誰の領地でもないし、国でも無い。自由に使ってかまわない。村の生活を脅かさない程度なら」

「良いのか、そんなこと喋っても」

「かまわない。争いになったら戦うだけだしな」

「そんなことにならないよう努力する」


 失礼すると行ってジンイチは自分の部隊の方へ行った。



 上村中尉は部隊に戻ると、部隊参謀を呼んだ。


「重要な情報が分かった。連隊長に連絡してくれ」

「重要な情報?」

 中村中尉が聞く。

「ここはどこの国にも属していない。誰の領地でも無いそうだ」

「それでは」

「自由に使って良いと言っていた。村に害が無ければだが」

「直ちに連隊長に通信します」


 工兵小隊の所へ行き、あそこの少し高い所を切り開いて拠点にしたい旨依頼する。了解は得られた。

 軽戦車改造ののこぎり戦車(皆こう呼ぶようになった)が活躍しますよ。工兵少尉が言う。


「和田主計参謀、村に渡す物資だが漏れは無いか」

「持って来すぎた気もします。百五十人程度と聞いていますよ。

「多めで行こう。ケチ臭くならないようにしたい。最初が肝心だと思う」

「なめられないですか」

「昨日戦艦を見て考え込んでいたから、それは無いと思う」

「では、大盤振る舞いといきますか」

「頼む」

「ロープだが、長さは足りそうか。八キロくらいと言っていた」

「二十km持ってきています。足ります」


 柳沢が待っていた。


「上村君、村まではどのくらいかな」

「八キロメータと聞いています」

「八キロメータ?」

「大凡、八キロメートルくらいらしいです」

「なぜ同じような単位なのだろうね」

「神様に聞いて下さい」


 上村にはそれしか言えなかった。そして恐らく正解だろう気がした。


「そうするとしよう。道は良いのだろうか」

「分かりませんが、良いと言うことはないと思いますよ」


 木立を指しながら言う。


「あの中を八キロか、堪えるな」

「単独や少数の行軍ではありません。これだけの人数だと時間もかかります。休憩は多いですよ」

「それは助かる。それで時間はかかりそうなのかね」

「およそ四時間から六時間と思われます」

「頑張るか」

「お願いします。けれど駄目なときは言って下さい」

「そうするよ。後からついて行くことにしよう」

「駄目ですよ。学者先生達は先発です」

「なに?」

「途中でへばることは想定しています。休憩を多めにとって下さい。抜いていきます。隊列は伸びますし、護衛に二個分隊を付けます。心配しないで下さい」

「すまんな」

「お気になさらず。村に着いたら先生達が主役です」

「そうだな。それまでに疲れてはいけないか」

「はい」


 タマヨの先導で進んでいく。獣道程度だ。後続の兵が鉈やノコギリで大きく切り開いていく。さらに後続がロープを張っていく

 上村はタマヨのすぐ後ろを進みながら、獣道でも出来るほど歩いているのか本物の獣が作った道なのか考えていた。

 途中数回の休憩を挟み、タマヨが村まで後一キロメータと言う所まで来た。


 どうも見られている気がしてならなかった。村まで近いので、監視されているかもしれない。

 最後の休憩を取り、村まで一気に進む。もうすぐ日が暮れる。


 タマヨが


「長とランランばあちゃんだ」

 

 と言って走って行ってしまった。

 気持ちは分かる。いくら仲間がいても心細かっただろう。


 上村部隊は村に着いた。先生達もじきにつくだろう。

 先生達の戦いが始まろうとしていた。



ようやく村に到着しました。

先生達の戦いが始まろうとしていた。と偉そうにしていますが、医療知識は皆無です。

どうしよう。


敬語は苦手です。言い回しが怪しいが、許して。

橿原級貨客船はもし貨客船として建造されていたら、客室部分には贅を尽くされたようです。


次回 九月十九日 05:00予定



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