帝国対帝国+帝国?
素直に帝国対帝国に帝国が追加されるようです
ヘルシング卿は案内された部屋で交渉すべき相手と相対していた。初めて見る人種だった。
港に入ったときに驚いたのは彼等の肌の色が青かったからだ。更に目が全部赤いとかなんだ此奴らはと思った。
「あなたがイギリスですか?わがガミチス帝国との交渉を望む国は」
(交渉か。早く降伏すれば痛みは少ないぞ)
「そうですね。イギリス先遣交渉団代表、ヘルシングです」
(礼儀やしきたりが分からんから普通に話そう。余り丁寧にして舐められるといかん)
「私はガミチス帝国北方戦線司令長官オスマイヤー中将です」
「北方戦線ですか」
(どこかと戦争でもしているのか)
「はい、本国より北に有るのでね。そういう呼称になっています」
(間違っていないぞ)
「呼称ですか。国によっても違いますからな」
「全くです。文字は分からないが言葉が通じるのが不思議ですな」
「本当に」
「さて、本題に入りましょうか。我が国との関係を築きたいとのことで間違いないでしょうかな」
(属国か奴隷以外無いのだが)
「その通りです。まずお互いのことを知ることから始めないと」
(何かうさんくさいな)
「それには同意しましょう」
「では、予備交渉と言うことで良いでしょうか」
「そのように思います」
その後、連れてきた実務担当者がお互いの言葉で予備交渉の下準備を始める。
「では、お互いに本国に照会してと言うことでよろしいか」
「同意します」
「では次の会合はいつにしましょうか」
「そうですな。本国での協議進展具合にもよりますが2ヶ月後でどうでしょうか」
「2ヶ月後ですか。確かに納得できる時間ですね。ではそのように」
その場は握手をして別れた。
「ネルソン司令。貴国だ」
「ヘルシング卿、その顔では」
「顔に出ていたか。いかんな」
「艦隊出港準備」
通信参謀が各艦に発令する。
ボイラーの圧力が上がり、各艦から出航準備完了との知らせが入る。
「抜錨」
錨が巻き上げられる。
「ガミチス艦先導する模様」
暗礁や浅瀬を避けるよう先導してくれると言うことだった。如何だろうな。案外機雷源かもしれん。
ガミチス艦が速度を上げる。
「出航。アマゾンを先頭に各艦定めに従い出航せよ」
艦隊は一路帰路に就いた。
「オスマイヤー中将、イギリスとか言う国はなんと言ってきたのだ」
「はっ、こしゃくにも我が国と対等な条件での国交及び貿易関係の構築と言っております」
「ほう、対等とな」
「はい。交渉を纏め得ぬ事、誠に申し訳なく思います」
「いや、問題ない。二ヶ月の時間があるのだろう。それまでに東大陸のディッツ帝国をどこまで押し込めるかだな」
「ゼークト中将で大丈夫でありましょうか」
「君は気になるのか」
「彼の人物はどうも良い繋がりが無いようです」
「ん?始めて聞くな。陸軍参謀長、聞いているか?」
「申し訳ありません。個人の対人関係をそこまでは掌握しておりません。性格に少々問題が有りますが作戦遂行能力には関係ないと判断しました」
「うむ、それは仕方が無いか。表面上の経歴は申し分ないものだと思うが」
「失礼ながら、社交上の関係にてございます」
「軍務とは違うところでか」
「はい。彼の妻の実家がウィルヘルム五世派の中堅処と仲が悪かったようでした。彼自体はウィルヘルム五世派とは距離を置いていました」
「そうだな。そう言った人間は排除したのだから」
「それで彼の妻の実家が問題でして、言いにくいのですが、一族そろって自己の能力を過大評価する傾向にあります。ウィルヘルム五世の乱で上手く立ち回ったことから余計に増長していると聞きます」
「良く知っているな」
「以前迷惑を被ったことが有りまして。気に掛けては居ます」
「そうか。分かった。ゼークト中将の周辺と東部戦線司令部の人間関係と今回の作戦をもう一度評価し直すか」
「差し出がましいようですが、その方がよろしいかと」
「オスマイヤー中将、ありがとう。良く言ってくれた。イギリスへの対応は二週間後までに決める。今日から十日間休暇を出そう。休暇を楽しんでくれ」
「ありがとうございます。ハット、デストラー」
オスマイヤー中将は退室した。
「では分かっているな。ベルフィスヘルム攻略戦の洗い直しだ」
「「「ハット、デストラー」」」
陸海空の三軍参謀長は指示を実行すべく退室した。
その後の調査でマズい実態が判明した。
東部戦線司令部にはドメル中将が要請した分の援軍が派遣されていたのだが、それをベルフィスヘルム攻略戦には使わずに部族連合内部を通過してディッツ帝国中部要衝への攻勢を行おうと実行中であった。
それは歩兵三個師団と戦車二個連隊、補給部隊多数であった。
直ちに作戦中止とベルフィスヘルムへの移動命令を出したのは言うまでも無い。
また空母二隻を基幹とする機動部隊は追加されて出航したものの東大陸北部からディッツ帝国海軍が襲撃してくることを警戒するためにベルフィスヘルムからかなり北へ移動。ベルフィスヘルム攻略戦には全く寄与しなかった。
これをやったのはゼークト中将の判断では無く、ロボス参謀長とフォーク作戦参謀他取り巻き数名が行ったもので、フォーク作戦参謀の自己満足による独りよがりの作戦とも言えない作文によって実行された。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀は叔父・甥の関係であり、ロボス参謀長の家はゼークト中将の妻の実家であった。
ゼークト中将はロボス参謀長が差し出す書類にろくに目を通さずサインして認めていたという。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀は帝国参謀本部に提出する作戦記録を自分達に都合良く改竄。ゼークト中将は確認せずに認めていた。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀及び加担した者は全員銃殺刑となった。島流しはと言う問いには「燃料の無駄」と答えたという。
海軍機動部隊は、その北部海面での哨戒活動自体は間違ったことでは無いため不問とされた。
現在東部戦線司令部はドメル中将が代理としてバラン島司令と兼任している。いずれ東部戦線司令長官に任ぜられる予定だ。
「お帰り。ヘルシング卿」
「ただ今帰りました。首相」
「如何だったかね」
「ダメでしょうな」
「ダメなのか」
「対話する気は無かったようです。これが彼等と交わした国交予備交渉の文書です。実になりそうなことは一つもありませんでした」
「戦争になりそうなのか」
「彼等の代表が北部戦線司令長官でしたから」
「政治家や役人は出てこなかったのか」
「本国から呼ぶ気配もありませんでした」
「分かった。ご苦労だったな。休暇を出そう」
「ありがとうございます。後は軍の仕事です」
「そうだな。一応次回交渉のたたき台は作成しておく。無駄になりそうな気がするよ。その時はまた頼む。やりたくはないが相手がいることだしな」
「過去と来るべき未来はベストに思える。現在の事柄は最高に悪いのですよ」
「来るべき未来が明るければいいが」
「それは私の仕事ではありません」
「招かれない客はさっさと帰ってほしいものだ」
「実に同意します」
「ありがとう」
「では」
その後三軍首脳との会談で二ヶ月後にどれだけバージン島の強化が出来るか協議したが「攻勢に耐えることは困難。補給の問題も有り撤収が望ましい」とされた。
あと半年有れば十分な要塞化が可能であった。その時間は無かったが。
せっかく作った拠点を放棄するのは反対意見も根強かったが、推定される攻勢とバージン島の防御力を考えると無理な防衛はしない方が損害は少ないとされた。
出来る限り破壊して撤収を行った。
苦しい書き方であります
次回 四月二十八日 05:00予定 日本です