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ベルフィスヘルムが燃えた日

ベルフィスヘルムは燃えているか

 ベルフィスヘルム守備隊は歩兵三個師団と戦車一個連隊に砲兵一個連隊だった。

 後年、何故もっと多く配置しなかったのかと言われるが、部族連合がガミチスとなった今、部族連合との境界線に多くの兵力を取られていたのが事実である。

 実際に部族連合領域から越境攻撃もあり、戦時体制移行前のディッツ帝国陸軍五十万人では旧本土防衛と部族連合境界線警戒に多くを取られ、ベルフィスヘルム守備隊に回せるのはそれが精一杯だった。

 それでも軍は本土防衛戦力から二個師団、戦車一個連隊、砲兵二個連隊を抽出。ベルフィスヘルム守備隊へ加えるべく輸送中だった。更に空軍機二百機も空中にあった。ただやたら広くなってしまったディッツ帝国領域に旧来の空軍機では航続距離が足りず、途中で三回の給油が必要だった。

 

 ガミチスの攻撃が有ったのはその頃だった。それらの戦力が充足されていれば充分守備は可能だっただろう。

 実際はガミチス帝国の攻撃が予想を超えて早くディッツ帝国の態勢が整わなかったのであった。

 ディッツ帝国上層部は旧来の常識に囚われ、宣戦布告は必ず有るものと考えていた。それがディッツ帝国が在った世界の常識だったから。責めるのは酷であろう。


挿絵(By みてみん)


 部族連合はディッツ帝国が新たな北部要衝として建設中のエルメに向けた侵攻とササデュール自治区中部重要都市、更にはササデュール自治区首都ササデューへも侵攻の手を伸ばした。

 兵力は少ないものの侵攻を受けたのは事実で多くの戦力をさかねばならなかった。特にエルメは鉄鉱石重要産地ヘパストイ島防衛をササデューはフェザーン油田防衛に重要地点であり向けられた兵力も手厚かった。


 ディッツ帝国陸軍は五十五万人五十個師団と言う戦力だが、内訳が教育三個師団、補給四個師団、航空一個師団、砲兵三個師団、戦車二個師団、工兵二個師団他衛生、通信等となっており、実際に動かせる歩兵師団は三十個師団を超える程度だった。

 元の世界では緊張を孕みながらも平和だったこともあり、本土防衛戦力が主だった。属国や植民地は現地人を育成して戦力化していた。いざ防衛と言う時には鉄道網を駆使して迅速な展開を図ることで戦力の肥大を防いでいた。ケイニヒボンビーが守る国として攻め込もうという気概のある国が百年無かったのでこれで充分だった。

 ランエールに来てもその長年にわたって培われてきた侵攻されないという考えが引きずられていた。




「曹長、五番街酒屋向こうに敵戦車」

「よ~し。よく見つけた、ワイマン二等兵。聞いたな。ボッシュの酒屋だ。引きつけて撃て。敵の装甲がわからん」

「了解、二百くらいで良いですか」

「ゲイツ上等兵、酒屋まで二百じゃないか」

「そうでした」

 少し笑いが起きる。大分初期の混乱と精神的ショックから立ち直ってきたようだ。

 サジウル曹長が率いる機動対戦車砲分隊は市街地にこもり敵戦車を狙っていた。全員これが近代軍隊との初めての実戦だ。ランエールに来てからこの大陸を征服はしたが近代軍隊はいなかった。

「撃って効かなかったらすぐ逃げるからな。いいか」

「了解です。まだ機会はあります。絶対に負けません。生き延びてやり返します」

「おお、それでいい」


 彼等機動対戦車砲分隊が装備するのは次期主力戦車に採用されるという噂の新型四十五ミリ対戦車砲だった。従来の主力戦車R4に搭載されている四十ミリ戦車砲に比べると格段に威力、特に装甲貫徹力が上がっている。これでダメなら次期戦車への搭載は無いだろう。

 エンジン音とキャタピラの地面をこする音が聞こえる。もうじきだろう。あの角を超えれば良い的だ。


「カメラ屋、しっかり撮れよ。ウチの分隊の初戦果だ」

「分かってますよ。これでも実家はカメラ屋なんです。任せて下さい」


 見えた。カクカクした戦車だ。砲身が短いな。R4と同じような感じだ。まだだ。今は車体が斜めだ。装甲で滑るといかん。酒屋の交差点をどっちに行く。側面を向けろ側面を。

 横では写真を撮りまくっている。フィルムが高いとか言ってなかったか。

 クソ、正面を向きやがった。斜めの時に撃てば良かったかな?

 ん?止まった?あ!砲塔がこちらを。見つかったか。


「ファイエル」

「ファイエル」

 ドンとでかい音がして撃ったが、やった。正面装甲を抜いた。


「やったぜ。どんなもんだ」

「やった、やった」

 

 敵戦車は動きを止めた。砲弾は無垢の徹甲だ。爆発はしない。説明によると爆発しなくても中の戦車兵は貫通すれば死んでいるか衝撃波や飛び散った破片で重傷、更に徹甲弾が車内で反跳する可能性があるから内部は悲惨になる。だから無力化は出来るといっていた。

 この時彼等が撃破したのはⅢ号二型で砲塔正面装甲四十ミリ、車体正面装甲三十五ミリのガミチス帝国陸軍現行主力戦車であるⅢ号四型と同じ装甲厚だった。


「おい、カメラ屋。着いてこい。あの戦車を細かく写す」

「はい」

「デニッツ上等兵は俺たちの援護。他の者は撤収準備。ハイネマン二曹指揮を執れ」

「「了解」」

 

 他に敵影が無い事を確認しながら撃破した戦車に向かう。戦車のそばまで来てハンドサインで「待て」をする。

 充分に周辺警戒をしてから戦車に近づき写真を撮りまくらせる。構図など考えるな。とにかく撮れ。俺もメジャーを用意して大きさや厚みを簡易測定する。

 デニッツ上等兵が音が聞こえる。と言うので撤収をする。どのくらい資料になるのか分からんが今後のためになればいい。

 皆の所に戻った。


「ハイネマン、ご苦労。後退するぞ」

「どこまで下がりますか。上空は敵機しか見えません」

「もうこの基地と街はダメだろう。小隊はおろか中隊まで連絡不能だ。目標、フェザーン油田だ」

「遠いですね。一千キロ近く有ります。」

「街を離れたら夜間移動しか無いな。ライトを点けずに」

「幸い月は明るいです」

「食糧は確保してあります。水もあります」

「ワインとビールが多いのは何故だ。食料もハムとソーセージばかりじゃ無いか」

「ボッシュの酒屋に協力して貰いました」

「無断徴発かよ。あのオヤジに生きていたら金を払おう」

「では出発ですか」

「よし、行け」


 牽引車嫌兵員輸送用トラックのエンジンを掛け発進する。砲弾を積んだ弾薬車も追随する。こちらにも食料や水が詰め込んであった。どこの誰に支払えばいいのか。が、すぐに進めなくなった。避難民の列だ。皆着の身着のままで逃げている。さすがに見捨てて逃げることは出来なかった。

 そこへ上空からエンジン音が聞こえてきた。皆不安そうに上を見る。中にはこちらを見るものもいる。俺たちに期待されても困るよ。対空装備など何も無いのだから。


 飛行機は四機編隊だった。うち一機が高度を落としこちらへ近づいてくる。一応無力だろうが小銃を向け意地を見せる。避難民がいなかったら逃げの一手だが。

 前にいる避難民が両手を挙げて大声で騒いでいる。なんだ?

 近づいてきた機体の国籍標識は緑の四角に黄色い斜め帯。味方だ。ディッツ帝国空軍様のお出ましだった。遅いぞ。ありがとう。


 挿絵(By みてみん)


 ベルフィスヘルムとフェザーン油田との間には幾つかの中継点が在った。航続距離を考えれば一番近い空軍基地は十二番中継所だ。そこから飛んできたはずだ。普段は中継点で機体は常駐していないと聞いている。本国から来たのだろう。

 避難する人達の中に先頭で率いている将校がいたので話しかけた。


「失礼します。第二十三師団所属機対隊戦車砲第二中「いいから」・、は。サジウル曹長です」


「私は一般住民を避難させるよう師団長命令を受けた師団司令部参謀マルクス中佐だ。鉄道が工事中の四百キロ先まで移動したい。だが、この隊列には小銃を持つ者が数名いるだけだ。対戦車砲は実に心強い。出来れば殿を努めて欲しい」


「殿でありますか。了解しました」


「うむ、有難い。先ほども味方機が飛んできたな。今日中に出来れば二十キロ先の十九番中継所に辿り着きたい。車両不足で車に乗っているのは怪我人と妊婦、それに小さい子供だ。君達の牽引車はどうか。空きがあればそういう人達を乗せて欲しいのだ」


「そういう事であれば直ちに空きを作ります」


「頼むぞ。サジウル曹長」


「了解です。マルクス中佐」


 サジウル曹長は隊に戻り、先ほど中佐から言われたように歩くのがやっとという人達をトラックに乗せた。避難民の中からトラックの運転できる者を探して都合良く居たので運転を押しつける。小銃を杖に怪我をした足を引きずっていた兵隊も有無を言わさず乗せた。「お前の任務は後方警戒だ。そこなら高いからよく見えるだろう。後ろを見てくれ」

 乗せるときに邪魔になった食料や酒・水は降ろして、先行する住民達にも分けた。数百人だ。全員に分けるとカケラしか無いがそれでもありがたがってくれた。

 後十キロも行けば緊急避難所に水や少量の食料もある。そこまで頑張れ。


挿絵(By みてみん)


 サジウル曹長は分隊全員で協議の上、まだ来るであろう後続のためにここで待機することにした。

 それを中佐に告げると、ありがとうと言われ丁寧な敬礼を受けた。何かこそばゆい。中佐にはベルフィスヘルムでの対戦車戦で撮影したフィルムを預けた。これも感謝され、絶対に届けると。

 対戦車砲をトラックから切り離し据え付ける。移動の時は弾薬車で牽引しよう。弾薬車での牽引は禁止されているが仕方が無い。一応人力でも移動は可能だ。あくまでも一応だが。


 空軍機が少数ずつだがベルフィスヘルムへ飛んで行く。帰ってくる機体の数は減っている。厳しい戦いなのだろう。



鉄道は工事中で、ベルフィスヘルムまで開通していません。そういう資源はフェザーン油田と本国間に全振りです。ベルフィスヘルム開発の大部分は船舶輸送ですが陸路も一部使われています。鉄道敷設の前段階も兼ねています。フェザーン油田から四十キロおきに中継点。中間の二十キロ地点に緊急避難所を設置してあります。

ベルフィスヘルム-フェザーン油田は約八百キロです。


次回 四月二十一日 05:00予定

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