接触 困惑 挑発 奇襲
いよいよです
日本がガミチス帝国の事を聞いたのは二十五年八月のことだった。
ディッツ帝国で西海岸開拓中に時たま目撃されるようになった潜望鏡。
この話自体は二十四年十月くらいから聞いていた。
こちらを覗くが自らの姿を晒さないと言うことは、友好的とは言えない。ディッツ帝国は不明なるも非友好的存在として認識していた。
対潜作戦をするかというと万が一攻撃してしまえば相手に言質を与えることになるとして、発見しても攻撃はしないよう厳命されていた。
ディッツ帝国は少ない西海岸防衛戦力を強化しようと努力する。
旧キナム教国・現フェザーン自治区には有望な地下資源が存在し渇望した大規模油田さえもあった。
国内開発は旧領土内での大規模開発が出来ないくらい進んでいたため投資先としては適していたこともあり、重点的に進められることになる。
この地域の防衛はディッツ帝国にとって重要だった。
しかしディッツ帝国にとって西海岸防衛力強化は一筋縄ではいかなかった。元々人口希薄地域で有りキナム教国滅亡後、奴隷階級の人達を赤道多島海へ開拓嫌療養へと、東多島海へも同様に送り出してしまった。
無人地帯だった。その方が色々やりやすかったからだが。
資源開発と同じ時期に基地や周辺居住地域も同時に開発することになった。その中心となるのが西海岸に存在する奥が汽水湖となっているベルフィス湾に作られるベルフィスヘルム軍港だった。ベルフィス湾は開口部三十キロ奥行き三百キロの名目上は巨大汽水湖であった。その湾口から三十キロほどの南部に水深が二十メートルほどの大型艦も余裕を持って係留できる部分があり、そこに軍港を建設した。ベルフィス湾の平均水深は三十メートルであったが湾の中央が深く陸際は浅瀬が多かった。
順調にいっていたのだが、日本時間二十五年四月に突然部族連合地域がガミチス帝国への編入を宣言。
ディッツ帝国との接触は一切無い国家への編入を宣言されてしまい、唖然としたディッツ帝国であった。
ガミチス帝国とはなんぞや?何故突然?ディッツ帝国に激震が走る。
当然ながらディッツ帝国としては看過できるわけも無く、部族連合との間にあった細い外交ルートから状況説明を求めた。
部族連合との会談ではディッツ帝国の随行員で来ていたササデュール人が驚いていた。部族連合の人の目が赤いと。ディッツ人も注意して見ると、全員では無く七割くらいの人間の目が赤かった。
何故ディッツ帝国では無くガミチス帝国なのかという疑問に対しては、ガミチス帝国が部族連合の将来にために色々援助してくれると言ったと言う。
いや、ディッツ帝国も最初に接触したとき同じように援助すると言いましたが。
そうすると、ガミチス帝国のデストラー総統は素晴らしい人物であり自分達の忠誠を捧げるに望ましいとまで言い出した。
結局話がかみ合わずに会談は終了。また機会を作ることとなった。
交渉団が帰還後、ササデュールやエルランの資料を調べると、瞳が赤いのは魔族の特徴であるが白目部分まで赤くなるのは
魔王影響下に有る為と判った。
日本とも協議せねばなるまい。皇帝は決断をする。
そして日本時間正和二十五年八月
ガミチス帝国艦隊がディッツ帝国に対して国交樹立を目的に西海岸唯一の港ベルフィスヘルムを訪れた。
まずは部族連合を編入して隣国になった挨拶からだった。
ディッツ帝国はそのこと自体認めていないが、日本以外の近代国家だと言うことで会談自体は行った。この会談にはメルカッツまで出てきた。如何に重要視していたかと言うことである。
ここでディッツ帝国はガミチス帝国総統が魔王なのかを問うことになる。
会談参加者
ガミチス帝国側
交渉団代表 クロンシュタット侯爵
次席代表 サザビー中将
団員 ケストレル伯爵
団員 オストマルク子爵
他数名
ディッツ帝国側
交渉団代表 アーデルライン侯爵
次席代表 メルカッツ伯爵
団員 ベルヒ中将
団員 シャハト男爵
他数名
会談冒頭、挨拶が終わったばかりだというのに
「ディッツ帝国は、その軍備を解きわがガミチス帝国に下るように」
いきなりクロンシュタット侯爵が言った。
唖然として無言のディッツ帝国陣。
ようやく立ち直った面々の中でアーデルライン侯爵が
「何をバカなことを言われるのか。今のは聞き間違いとして流しましょう。さあ、本当のところを」
「何、聞き間違いなどではないよ。我が国がお前達の国を征服すると言っているのだ」
「ほう、それは戦いの宣言ですかな」
メルカッツが相手を観察しながら言う。
「我々の敵にかね。君達の技術力は観察した。複葉機しか運用できない小型空母に最大三十四センチ砲の戦艦。ボルトアクションの小銃。四十ミリ砲しか積んでいない主力戦車。そうそう、君達の爆撃機を見たが遅いね。アレでは我が国の戦闘機の良い的だよ。クックック」
「どこから…」
ディッツ帝国の若い団員が思わず呟いた。
「我が忠実なる国民に決まっているでは無いか。そのようなことも判らないか」
「部族連合か」
アーデルライン侯爵が言う。
「そうだ。今では我が愛すべき国民なのだよ」
部族連合との国境は曖昧な上にとてもじゃないが有効な見張りを置けるような環境ではないしな。部族連合の人間をスパイに仕立てて我が国内に入り込まれたか。
シャハト男爵は理解した。
アーデルライン侯爵とメルカッツ伯爵は目でわかり合い
「今日はお帰り願おう。旗下に入るような事は無いと思うが、皇帝陛下にお伺いを立てなければならないのでね」
「旗下だと。何を偉そうに言うのかね。征服して奴隷にするに決まっているだろう。何を思い違いをしているのだ」
「こいつ・」
思わず席を立ちかけたベルヒ中将の肩をメルカッツ伯爵が抑える。
「そうだね。君達が半年先まで降伏しなければ旗下に加えても良いだろう。私は二ヶ月もあれば十分だと見ているが」
「「おのれ」」
「おお、怖い怖い。まあ頑張りたまえ。それでは今度会う時は謁見の間を用意をしておくように」
「待て、デストラー総統というのは魔王なのか?」
「総統閣下だ。魔王様と呼べ。下等民。会見する値打ちも無かったな。二ヶ月後には鞭で打ち据えてやる」
出ていくガミチス代表団を怒りの余りただ震え得ながら見送るしか無かった。
駐留艦艇に追尾させるが妨害が激しく基地の発見は出来なかった。
会談決裂は内容と共に皇帝陛下に報告された。怒りで打ち震えたという。
皇帝陛下の命で直ちに全軍緊急召集と、最高警戒態勢への移行を行う。
駐日本代表に対してディッツ帝国は侵略を受けそうだと伝えた。
紫原中佐にも同様のことを伝える。
これを受け現地判断でブレスト・キール両港へ停泊中の日本船に対して帰路はカムラン港発のDK船団に合流するよう要請を出した。まだ強制できるような情勢では無いため要請だった。
バラン島では、クロンシュタット侯爵がドメル司令に交渉は決裂。奴らは従うつもりは無いと報告した。
この報告を受けドメル司令はベルフィスヘルム攻略戦を発動。同時にディッツ帝国への通商破壊戦を下命した。
バラン島各軍港から機動部隊に護衛された攻略船団は出航した。
空母六隻・戦艦四隻・巡洋艦八隻・駆逐艦三十八隻に護衛された、一隻辺り八百人搭乗の大型兵員輸送船四十隻と三百人搭乗の揚陸艇搭載揚陸艦三十隻、戦車揚陸艦十二隻、大型舟艇二十隻を搭載する揚陸支援艦他多数だった。
ガミチス帝国は部族連合を取り入れディッツ帝国の内情を探っていたのだった。そして西海岸は兵力が貧弱であるとの確証を得ていた。ただ、極少数を除いてはササデュール自治区内での行動しか出来なかったため、東海岸での兵力や最新軍事情報は良くわかっていなかった。
この程度の情報で開戦するのはおかしいが、魔王化とその影響を受け思考力がおかしくなっているようだ。
日本時間正和二十五年九月、ベルフィスヘルムは攻撃を受けた。
対ガミチス戦の始まリである。宣戦布告は無い。
ベルフィスヘルムにはディッツ帝国製のレーダーが配備されていた。ただ、日本から技術供与を受け内製化を始めたレーダーでまだ熟成には遠かった。特に低空ではシークラッターの影響を排除しきれず解像度がイマイチだった。またディッツ帝国が自国内に攻め込まれたことは百年以上無かったことも油断を生んでいた。上層部は自国基準でいた*前世界は同級国家が多く有り条約が守られていた*ために宣戦布告無しの攻撃は無いと考えていた。
空襲警報が鳴らされたのは攻撃十分前で迎撃に上がれたのは迎撃待機していた数機の戦闘機だけだった。哨戒機を上げていなかったのが後で問題となる。
接近高度は全機五十程度で練度の高さが分かる。陸が見え次第高度を上げ攻撃態勢に入った。
この時点でレーダーがシークラッターと目標との区別が付き、空襲警報が発令された。
最初に攻撃したのは戦闘機に護衛された爆撃機だった。旧態依然の低速固定脚機ユンケルンJu86であるが信頼性は高くパイロットの人気は高かった。
この機体がかなりの精度で飛行場と周辺施設、レーダー基地を爆撃。初期の反撃能力が低下した。
迎撃に上がった少数の戦闘機シュニッツァー4は最高速度五百五十キロという高性能を生かす事無くガミチス帝国の新型艦上戦闘機ユンケルンJu98に数の差をもって全機撃墜された。
次いで爆撃機ヒルティHi33の水平爆撃で飛行場に大被害が出た。
第二次攻撃隊は軍港を攻撃。出港準備を急いでいた艦艇に攻撃を加えた。この攻撃で巡洋艦三隻と駆逐艦五隻が軍港内で着底。沖に向かっていた巡洋艦二隻と駆逐艦三隻は撃沈された。
湾内に戦艦と巡洋艦それに駆逐艦を伴って兵員輸送船が入ってきた。艦艇の支援の基、堂々と埠頭に着け兵員の上陸を始めた。
この時ベルフィスヘルム守備隊は歩兵三個師団、戦車一個連隊、砲兵一個連隊の規模であった。
会談決裂移行増強を進めていたのだが、ここまでだった。肝心の飛行場がやられてしまい制空権を取られた陸軍に活躍できる場は少なかった。海軍と空軍は壊滅していた。
ディッツ帝国侵攻が始まりました。
作者勘違いでガミチス帝国の人口をガミチス人だけで一億三千万人、総人口一億五千万と勘違いしていました。ガミチス人一億五千万人+ガミチス人以外二千万人です。
投稿した回は修正しました。
次回 四月二十一日 05:00予定