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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
15/219

日本人 魔法を見る そして村を救いに出発

どうやら村へ向かう事が決定したようです。

 上村中尉は指揮下の医師の数を確認した。

 中尉の勘定では、小隊の各一名、防疫部隊に一名ないし二名、学者先生達の中に一名くらいはと思っていた。

 最低でも三人はいるはずだ。


 嬉しい方への予想外だった。

 医師は、小隊の二名、防疫部隊に二名、本部に一名、学者先生達の中に三名いた。

 都合八名であった。

 衛生兵や看護師も一五名いた。

 医療品も二個小隊向けとしては非常に充実していた。


 特に本間という医師は、すべての医師が知っているほど高名だった。

 なぜそんな人がここにと思わないわけでは無いが、医師のリーダー格に出来そうである。助かった。

 同じ立場の人間の間の意見の対立ほど面倒な物は無いからな。


 アビゲイルに医者は八名いるが、「君たちの体の事を知らないから力になれないかもしれない」と言っていたと言う。


 彼はそれでもいいから見て欲しい。参考にでもなればありがたい。と言った。


 彼等の承諾が得られたとして、村に向かう事になった。村はどこだ?


「村は、あなた方の最初に作った家の北に有る。歩いて半日くらいだな」


 皆衝撃を受けた。そんなに近かったのかと。


「では、ここからはどのくらいなのかわかるのか」

「ここからでは二日だな。途中に歩いて渡れない川が10本位有る」

「川越はきついな。別に道は無いのか」

「山登りをすれば、歩いて渡れない川は2本に減るが、山はきついぞ」

「では我々が最初にいた所からではどうだ」

「あそこからなら、歩いて渡れる川だけだ」

「それなら・・・」


 本間医師が途中で発言した。


「駄目だぞ、あそこらの川は。日本住血吸虫に近い生物のいる可能性がある。医師の立場からは許可出来ん」


「それがありましたか。では仕方ないですね。彼等の跡をたどりましょう」

「待て、なにを話しているんだ。分かるように説明してくれ」


 アビゲイルが問題にした。


 本間医師が話し出す。なぜか医師が皆寄ってきた。そんな先生だったのか。


「では説明しよう。私たちが最初に宿舎、ああ家だな。それを作った所のそばに川が有ってな、大変危険な生物がいる可能性が高いのだ」


「川?」 


 アビゲイルは分からない。


「南の川だよ。アビゲイル」


 タマヨが言った。


「南の川か、あそこは気持ち悪い小さな巻き貝が一杯いるんで好きじゃ無いな」


「でも、南の川のそばはおいしいキノコとか木の実が多いから結構行くよね」


「そうだな。確かにあそこのキノコはおいしい。違う、タマヨ変な話題を振るな」


「えー」


「ふむ、では村の人達は結構頻繁に行く場所なのかな?」


 本間が聞いた。


「んーとね、キノコと木の実を取りに結構行くね」


「川に近づくのかな」


「川を渡らないと大回りになるから皆川を渡るよ」


「では聞くが、村の人の中におなかが大きくなっている人はいないかな」


「うん、メリダおばちゃんはもうすぐ子供が生まれるんだよ」


 医師達は力が抜けた。


「そうか、それは良い事だね。じゃあ他の人達は如何かな?」


「男の人が四人、女の人が三人かな。太ってないのにおなかだけ大きいんだよ」


 医師達がざわめく。


 アビゲイルが聞く。


「それは何か、大変な事なのか。あなた方のその態度は何か有るのだろう」


「有る。大変な病気だ」


 本間が言い切った。


「助かるのか?治療出来るのか?」

「すまない。我々も原因は分かっているのだが、有効な治療法はまだ無い」

「助かるのか」

「難しい」

「難しいのか」


 アビゲイルは難しいの意味を正確に受け取った。


「ねえ、皆助からないの?お医者さん一杯いるんでしょ。ねえ」


 泣き出したタマヨをモーリタが抱きしめる。モーリタも涙目だ。


 本間は


 「医者としてはこんなことを言うのは軽率だが、この世界には魔法や信じられない効き目のある薬草があると聞く。私はそれに賭けたい」

「ならば、助かる可能性があると?」

「分からない。確約は出来ない。あくまでも可能性だ」

「可能性でも良い。希望があればすがるのが人だろう」

「だが、魔法や薬草についてなにも知らないのだ。我々は」

「大丈夫だ。俺は魔法使いだ」


 挿絵(By みてみん)


 日本人達はざわめく。初めて魔法使いを目にした。


「魔法使いとは何が出来るのですか」


 もっともな質問が飛んだ。


「そうだな。まずはこれか」


 アビゲイルが、呪文を唱え杖に「我は空にあり」とつぶやく。そして、軽く地面を蹴った。

 アビゲイルが浮き上がった。高さは三メートルほどだろうか。落ちてこない。


「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」


 日本人達は言葉も出なかった。初魔法である。皆ぽかんとした表情でアビゲイルを見つめている。


 アビゲイルが少し仕草をすると、ゆっくりと降りてきた。


 おお!凄い。あれが魔法か。俺もやれるかな。等、様々な言葉と嘆息が行き交う。

 皆興奮していた。


 少し落ち着いたタマヨが


「あれは龍属性しか出来ないのに」


 と、ポソッと言う。

 モーリタも


「知らない人相手にはああやって自分の凄さを見せつけるのよね」


 と、小声で言う。アビゲイルよ、少し好感度が下がったぞ。



「魔法では治療は出来ないのですか?」


 本間が聞く。


「出来ない事は無いが、怪我が主で病気にはあまり効かないな」

「では、病気には薬草と言う事ですかな」

「まあ、そうなりますね」

「アビゲイルさん、あなたは病原体とか細菌、あるいは寄生虫とか聞いた事はありませんか」

「重要なのか」

「重要です」

「病原体と細菌は聞いた事も無い。寄生虫はある」

「寄生虫は有りますか」

「魚の皮膚やエラ、内臓。獣の内臓にも良く居るな」

「寄生虫を魔法でやっつける事は出来ますか」

「俺は出来ないが、出来る者はいる」


 日本人医師達がざわめく。出来るのか。なら治療も可能か。などとしゃべり出す。


「静かに」


 本間の一喝で静まる医師達。


「アビゲイルさん、おなかが大きい人達の病気がもし我々の知っている病気なら、魔法で治療出来るかもしれません」 

「可能性はあるのか。今までは見ている事しか出来なかった。しかし、治療出来るなら・・・」

「あくまで可能性です。絶対ではありません」

「かまわない。今までに腹が膨らむ病気で一〇人くらい亡くなっている。それが阻止出来るのなら」

「少しいいですかね」


 本間とアビゲイルの会話に上村がお邪魔する。


「アビゲイルさん、タマヨさん、聞きたいのですが、あの気持ち悪い巻き貝が居るのはどの辺りまでなんでしょうか」


「あの巻き貝がいるのは、南の川でしょ。あとは村までの川には、えーと、南の川から北に向かって村までの距離の半分くらいの川にいるよ」


「そんなにいるのか」


「うん、もう行かない方が良いかな」


「そうだな」


「では、西側は如何なんでしょうか」


「西はいないよ」


「いませんか。なら途中の川を遡りましょう。陸軍の船で行けるはずです」


 上村が言った。


「だが、けっこう流れが速いぞ」

「すぐそこの広い川くらいですか」

「あれよりは弱いが、船で遡るのは大変だと思うぞ」

「あれより弱いですか。ならいけます。本間先生もそれでよろしいか」

「楽に行けて、あの巻き貝がいないなら文句は無いですな」

「では、少し交渉してきますので、しばしお待ちを」


 上村は座を外した。


「アビゲイルさんでしたか。寄生虫を殺せる方なのですが、あなた方の村にいらっしゃいますか」

「そんな丁寧な言葉を使わなくてもいい。こちらも息苦しい。楽に喋ってくれ。それで寄生虫を殺せる者だな。一人いる」

「おお、それでどういう条件なのでしょうか。寄生虫を殺すのに必要な条件です」

「魔法でやるのでな。魔法というものは自分で見た事や想像出来る事なら出来る。魔法使い本人の能力にかなり影響されるが」

「つまり寄生虫が見えている、あるいは見た事があるから殺せると」

「まあ、その理解で間違いない」

「希望がわいてきました」

「それでは」

「あくまでも希望です。確実には分かりません。ですが、その方の想像力次第ではないかと思いますな」

「いやいい。希望が持てると言う事はいい事だ」


 上村が戻ってきた。


「許可は取りました。船を使います。ただ海軍の方でミヤイリガイの心配をしています」

「上村さん、ミヤイリガイは流れの速い川には住めません。手こぎの船で遡るのが大変な川なら、いないはずです」

「分かりました。海軍にはそう言って船を出してもらいます」

「お願いします」




 タマヨは上村と共に川辺に行く。何か気に入ったようですぐそばに行きたがる。チョロインか。だが相手は娘がいるぞ。


 

 上村が皆に手順を説明する。


「これは航空写真を元に簡単に書き起こした図で位置関係が分かるだけのものです」



挿絵(By みてみん)



「すぐ東の川に船が来ます。そこから一度泊地に向かい、装備や食料を整えてから、ここまで移動します」


「モーリタ、タマヨ、俺たちは如何する?来た道を引き返すか?」


「私、一緒に行ってみたい」


「私も見てみたいわ。あの人達の船を」


「そうか、ではジンイチ、悪いが俺たちもそちらと共に行くぞ。良いな」


「それはかまいませんが、多分じろじろ見られますよ」


「少しは我慢するさ。すぐ飽きるだろう」


「どうですかね。まあいいです。本隊に受け入れを要請しておきます」


「頼む」


「ねえ、アビゲイル、小舟は如何するの」


「後で俺が取りに来るよ。一人なら飛んで行けば速いしな」


「それならいいわ」



 上村の指示で全員が川辺に集まり、船を待つ。


 来た。大発だ。六杯来た。流が速いので歩くくらいの速度しか出ていない。流れの速い川で強引に横向きになり碇を投入する。

 大発が流されないのを確認した後、前扉が開いた、いや前へ倒れたか。


 タマヨ、モーリタ、アビゲイルの三人はぽかんとした顔で眺めている。

 初めて見た奴は大概こうだな。


 全員が乗り込んだのを確認すると最後に上村が乗り込み艇長に出発を促す。すでに他の大発は川を下り始めている。


 

 泊地に到着するまで、三人はぽかんとした顔を続けていた。

 曰く、何で帆もオールも無い船が進むの。こんなに速く。

 泊地に近づくにつれて見えて来る、大きな船。

 タマヨは前に見た船よりもずっと大きいのでびっくりする。(前に見た船は駆逐艦。今見えているのは霧島)

 アビゲイルはその巨大な銃に注目した。こんなもので相手をしなければいけない存在がいるのか。

 モーリタはただただ驚ているだけだった。


 連れて行かれたのは、貨客船・出雲丸。見た目だけなら霧島よりもデカい。

 出雲丸は最新最高級の貨客船だった。ひょっとしたら、現地の偉いさんとの接触があるかもしれないと言う事で用意された。

 純粋な客船で無い所が日本の限界だった。

 乗客に軍人はいなかった。学者先生達と防疫部隊だった。まあ一部(本間先生とか柳沢教授クラスを除いて)を除いて三等客室だったが。

 船長と艦隊司令は一等客室の使用を認めた。何しろ、ランエール初のお客様である。

 事前に入った連絡によると、三人とも四則演算が出来るらしい。かなりの教育を受けていると見た。

 特に男性は、軍人臭い雰囲気と育ちの良さがうかがえると言う事で、重視された。

 ひょっとしたら重要人物かもしれないという考えもあり、高級な船室が用意された。


 ただ、明らかな国家重要人物で無いため、特別室の使用は見送られた。


 三人は結局、船室に入るまでぽかんとしていた。



 

ようやく白地に帰った来た。

村は次回です。


橿原丸級貨客船・出雲丸は空母改装など視野に入れた設計では無く、純粋な貨客船として設計・建造されました。


次回 九月一七日 05:00予定

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