デストラーの苦悩
魔王化します
ガミチス帝国では戦時体制に移行が始まろうとしていた。
それは国民からの圧力を受けデストラー総統の魔王化が始まったからだ。遅かれ早かれなっていた魔王化だが、あの事件の影響で早くなってしまった。
魔族の魔王化は、自らの野望でなる場合と周囲からの圧力でなる場合が有る。
デストラーは野望もあったが、それよりも[ウィルヘルム五世の乱]で国民の心がおかしくなってしまったことに主原因があった。
自らの野望で魔王化した場合は、魔族内にも敵対勢力は多く魔族内で魔王が滅ぼされることもある。某天魔王とか。
だが、周辺からの圧力でなった場合は敵対勢力も少なく国内を纏めやすかった。更に魔王としての能力は自ら魔王になった者を確実に上回る。
実に厄介な魔王なのだ。
デストラーは何故だと考えていた。
確かにあの時、神が解放をしてくれたときに言った。魔王化は避けられないと。
ウィルヘルム五世のように神が干渉して魔王になった者なら神が滅ぼす。だが、君のように望まれて魔王になった者は滅ぼす理由が無いと。
この力は未だ分からない。単純に腕力という意味では国内最強だろう。小銃を曲げてしまったのは自分でも驚いた。
魔法とか。既に魔法が衰えて久しい。多数を相手にするのは科学技術で作られた破壊兵器の方が効率が良かった。治癒魔法は衰えていないが、攻撃魔法はすかっかり衰えている。錬金術は薬の製作も有りそう衰えていないが、金属関係は弱くなっている。鍛冶師などは趣味の品を製作する事で生きながらえている。鍛冶師がコツコツ打つ一品物の武器は確かに強い、そして美しい。だが時代は大量生産の時代になった。最上の物を一振りよりも上物に近い物を大量に必要とした。銃の開発も有り、鍛冶師は急速に勢力を衰えさせてしまった。
だがどうだ。私が作る薬は最上であり、希少金属の抽出や合金化も楽に出来る。呪文*恥ずかしいが言わないと発動しない*を言えば木立が吹き飛び、草原が火の海になる。川が凍り、雷が落ちる。地面が自由に姿を変える。
精神魔法も使うことが出来た。恐ろしいことに相手の思考が読める。かなりの集中を必要とするが。
一番楽しかったのが空を飛べたことだ。速くは無い。車が走る程度だ。飛行機の方が早いだろう。でも自分で空を自由に飛ぶのがこんなに楽しいとは思わなかった。
問題は、この万能感と共に自分やガミチス帝国が持つ世界征服への野望がより強く感じられることだ。
時々、自分でも気がつかないうちに次々と世界征服に向けての命令を出していた。
自分が自分で無くなるような気がして恐ろしい。これが魔王化か。
やがて、この思索も出来なくなるのだろう。
考えることは世界征服しか無くなるのか。それはいやだなと思う。
しかし、既に賽は振られた。もう戻れない。それならば自分の野望に正直に生きよう。総統としての責任もある。国民の心を受け止めねばな。私はウィルヘルム五世とは違う。
デストラーは正気な時間に妻と子供へ手紙を書いた。妻には離婚届も添えた。夕食の時に渡そう。
デストラーはこの時、妻と子に出来るだけの物を残そうとした。もう個人としての財産はいらない。全て家族へ渡そう。
デストラーは二週間後、白目の部分が白い時間は無くなっていた。常に赤くなっている。
完全に魔王化した。
国内は全て影響下に入り、全国民が赤い目をしている。これはガミチス人のみならず移住者・避難者まで影響下に入った。本来、同じ魔族にしか影響を与えないはずであるが、未曾有の魔王の誕生であった。
デストラーは距離があって影響下に置くことの出来ない二つの島へ視察に出て影響下に置くべく行動をした。
次回 四月十八日 05:00予定