新型機 押すのである
本編に困ったときはこれですよ
その頃千葉飛行機では、特異な形状の機体を試作していた。
先尾翼形状で後方に配置された主翼は後退角をもっていた。
何より注目を集めるのは機体後方のプロペラだ。
始祖に倣い推進式である。
海軍空技廠の大尉の提案によって始まった研究から実戦で使えないかと発展した機体だ。
実験機体なので様々な新装備が試験のため搭載されていた。そのために反って開発が遅れるのであるが「実験機だしね」の一言で済まされる。久々の有望な遊び場所だ。頑張っちゃうぞー。
そのせいで設計自体は十九年に始まったのに試作機が出来たのが二十三年の暮れだった。
この機体で試験された装備は主に
射出座席
高機動服
与圧室
高高度飛行服
単座機用電探
と言った具合で詰め込みすぎた。
射出座席は後方にプロペラが有ると言うことで必須だった。
プロペラを吹き飛ばそうと言う意見もあったが「空戦のさなか吹き飛んだプロペラが手裏剣のごとく飛んでくるのはどうかな」と言われて、「うん、そうですね」で終わった。
どこからともなく飛んでくる棒手裏剣とか四方手裏剣は脅威であろう。
高機動服とはGスーツのことである。
機体形状からして水平旋回は苦手なのだが、先尾翼であり垂直旋回はかなり得意であろう事は予想が付いた。頭部への血流を保護して視界を失うこと無く意識も正常に保つための仕掛けだった。この研究で流星に実装された。
与圧室の密閉は日本のゴム技術ではまだ無理だった。しかし、混沌獣素材を使うことで解決される。シロッキの腹膜と例の接着剤である。一万メートルでも高度四千程度の気圧が保たれた。構造は繭型だった。ただし気密を保持した上で良好な視界を得られるようなアクリル技術が無くやたら窓枠が付いている。結局重量がかさみ視界も悪く射出座席を打ち出す際上部のキャノピーを吹き飛ばす構造が技術力の不足で出来ず緊急時脱出不能であり、要研究として継続して研究されている。空調にも重量がかさみ、単発機では導入困難とされる。
高高度飛行服は与圧室の飛行服版だと思えばいい。与圧室と組み合わせて高度二万メートルでの生存を可能にしようというのである。更に軍用であり高機動服の機能を備えている。
混沌獣素材が潤沢に使われ、お値段はかなり高くなってしまった。実用化の際には軍が直接混沌獣を狩る予定だ。
気密と温度維持は当然として視界の維持に手間が掛かった。ヘルメットは当然気密であるが気密であるが故に中の空気がこもり正面ガラス部が曇ってしまうのである。高高度飛行服内部に空調を導入してみたら内部は曇らなくなった。装着者もジメジメしないで快適だと。ただ温度差で外側に結露してしまう。結露対策は細い電熱線を取り付けて熱することで解決した。この熱線の取り付け方向が縦派と横派に分かれて議論された。結局縦の方が視界の邪魔にならないということで細い熱線を縦に取り付けることとなった。
ガラスは強度的に危険だということで厚みを減らし合わせガラスに変更された。重いのは耐えさせることになる。
この開発は成功で値段さえ考えなければ広く導入できるだろう。
単座機用電探は表示器の小型化が進まず無理だった。当然計器板に組み込むのであるが、他の計器との兼ね合いもあり装備位置が操縦桿で隠れてしまうような場所にしか付けられなかった。電探自体は機首に格納できる小型のものが開発された。この電探は若干大型化して探知距離十キロとして閃竜夜戦型に搭載された。
主脚は後部にプロペラと言うことで当然前輪式だ。離着陸時のプロペラ接地を防ぐために大変長い主脚となっている。まるで鶴の足のようだ。
プロペラは最初トルクを打ち消すために二重反転プロペラにしようとしたが、数機しか作らない実験機にそこまで金を掛けるのもという意見が出て普通の四翔プロペラになった。
発動機は誉を予定したが金星になった。実験機なのでそこまで性能は狙わなくて良いと言われた。密かにプロペラ機の限界と言われる七百五十km/hを目指していたのに。
ようやく試作機が出来上がり地上試験をしている。あ!コケた。何?方向転換しようとして左のブレーキを踏んだらバランスを崩して前輪が折れたと?これはマズい。地上試験ならゆっくりと動くが実戦ならもっと早く移動するだろう。やはりステアリング機能が必要なのか。その前に脚の強度向上だな。
いよいよ足出し飛行である。
見物客が多いな。あの機体だ。珍しいのだろう。
おお!飛んだ。すぐに着地して戻ってきた。さて、感想を聞かせて貰おうじゃ無いか。
・・・・・
「細い足は不安だと?コケたときよりも強化してある。問題は無いはず」
「ブーストが上がらない。吸気に問題が有りそうだ」
「本当ですか。ソレはマズい。至急検討だ」
「昇降舵が敏感すぎる。アレではかなりの事故が起きそうだから、もっと鈍くしてくれ」
「分かりました」
「やはり懸念していたとおりにトルクで振られる。金星でこれだ、誉だったらまともに飛べないと思う」
「厳しいですね。タブではダメですか」
「現状で一杯にしている。コントラプロペラは許可にならないのか?」
「予算の都合と機体後部が重くなりすぎるのでやめたんだが」
「予算て、ここまで色々やっといてそこでケチるのか」
「軍もお役所です」
足は重くなるだけなので結局移動の時は注意することとなった。多分この機体がそのまま実戦ということは無い、実験機で終わるだろう。気を付けろ。
ブーストが上がらないのは空気取り入れ口の問題で、既に金型まで作ってあるしと言う事で経費節約と開発時期の短期化を目的に空気取り入れ口外側の外にバルジ形式で取り付けることになった。左側に過給器空気取り入れ口、右側に滑油冷却器空気取り入れ口だ。
これが誉だと更に冷却用空気を必要とするな。どうするんだ。
敏感すぎる昇降舵は前に置かれた先尾翼を全浮動式にして翼全体を昇降舵にしたのがマズかったかも知れない。潜水艦の潜舵からヒントを得たのであるが。これは離着陸時の安定性を確保するために先尾翼の面積をやや増やして固定とし通常の昇降舵にして解決できた。前縁スラットを付けた。
プロペラのカウンタートルクはどうにもならん。二重反転プロペラで無いと直進もおぼつかない。
発動機の排気でプロペラが熱を持つ問題は排気を周辺空気を混ぜて冷却するという排気を推力に出来ない方法で解決した。エンジンナセル外側にバルジを設けそこで排気と外気を混ぜることにしたのだった。
どんどん重くなるな。確実に空気抵抗も増えつつある。
プロペラは直進もおぼつかない機体ではこの形状の特性を調べることも出来ないと色々な方面に訴え、何とか数基なら良しと二重反転プロペラの製作が許可された。
二十四年八月に各種改修と二重反転プロペラを装備した実験機が完成。試験を始める。
主脚は常に搭乗員の不安となりつきまとう。実験機だから我慢しろとしか言えない。
着陸時の仰角制限はプロペラ保護のため必要であるが三点着陸が基本の海軍搭乗員ではついうっかりもあり得る。主翼プロペラ影響外の位置に取り付けられた垂直尾翼の下部に尾輪を取り付ける。また空気抵抗が増えた。
ブーストはちゃんと上がるようになった。滑油も加熱しないようだ。
水平安定性は敏感すぎる状態から気を遣わなくてもいい状態まで改善された。
カウンタートルクで機体が振られる現象は二重反転プロペラによって抑えられた。直進性も良くなった。
気になるのは飛行特性であるが、水平旋回は苦手である。垂直旋回は素晴らしいとなった。
苦手な水平旋回も高速で機体のバンク角を垂直くらいまで持って行けば垂直旋回と同様の素晴らしい軌道を得られるとなった。
当然ながら前方視界は素晴らしいとなった。
その後様々な試験を行い機体特性の調査は終了した。
この機体の戦力化については、主脚の問題。着陸時の仰角制限が問題。下半分は主翼の陰という発動機整備性の悪さ。機首に配置予定の機銃が機体を小型化しすぎて装弾数が多く取れない。等の問題が有り実用化は見送られた。
後年、この機体のフォルムが人気が出る。ロールスロイス搭載や誉で六翔プロペラという実現不可能と諦めたスケッチが流出。カッコいいと。
この時の実験結果から得られた物は大きく、奮進式の次世代航空機の開発に大いに役立った。
震電もどきですね。
この物語世界では、九州は人口密度が高く航空機工場やそのための飛行場の余地が無いほど。千葉の茂原あたりかな。
実機でも空気取り入れ口外側のバルジ状の空気取り入れ口は後付けです。記憶によれば。
繭型気密室はキ-108で。
ヘルメット前面の防曇熱線を縦にしたのは日本。記憶によれば。
震電の垂直尾翼の尾輪は後から付けたもので固定式。
先尾翼の前縁スラットは震電も付いていたような気がします。
次回 本編に戻ります 多分 四月十六日 05:00予定