神の干渉 デストラー再び
デストラー復活回。
後は細々とした神目線での説明回です。
ランエールは帰ってきた。
部下に対して指示を出す。
「私がウィルヘルム五世に憑いている制御用の宝玉を破壊する。君達はその後、帝国民に付いているGスレイバーの傷痕を消すように」
「畏まりました」
「ランエール、帝国民の精神ケアはどうしますか」
「やらなくてもいいが。そうだな、デストラーを少し手助けしてやるか。デストラーが地力で返り咲いたように世論誘導を」
「良いのですか。隷属化が解除された後で発生する罠で確実に魔王化すると思われますが」
「どのみち元々魔王化する可能性は高かった。ならば、後押してやろうと思ってな」
「ですが、魔王化しない可能性もあったかと」
「あの国の歴史から来る社会全体にある世界征服への野望は充分彼の魔王化を為し得るよ。早いか遅いかだ。それに地域限定になりそうだしね。旧来の地域への影響は限定的だろう」
「まあ、言われる通りですが。交戦国はガミチス帝国対ディッツ帝国・イギリス連邦・ファイウォール公国・日本ですか」
「ガミチスは厳しいね。出足は良くても最終的には負けるだろう」
「他の国は戦争準備などしていませんから」
「日本がずいぶん海軍艦艇を増やしていますよ」
「それはディッツ帝国からの移住者護衛艦隊という奴で、向こうの管理者に結構きつい縛りを受けているからね。自分達、移住者と移住者護衛艦隊に被害が無い限り戦争への参加は禁止されている」
「ガミチスはそんな事知りませんよ」
「確実に攻撃するだろうな。大型優秀商船の群れだ。一番の目標となるだろう」
「つまり日本の海軍力は大幅に上がると」
「それでも航路警備にかなりの数を取られる。商船護衛にもな」
「序盤は有利ですが、最後はガミチス帝国での陸上戦ですか」
「そうなるな。人口で半分、生産力で三分の二だ。いくらガミチス帝国以外が転移の影響で海外貿易を絶たれ経済的に混乱しているといっても、戦争となれば軍事生産にかなりの資源を投入するはずだ。ガミチスに勝ち目はないよ」
「しかし、国家間の意思統一が図れるとも思えません。また気になる兆候もあります」
「何かな?」
「バビロン大陸のギルガメス王国連邦以外のガンディス帝国とラプレオス公国に魔王化の兆候が見られます」
「聞いていないぞ」
「最近見つかったばかりで、まだ確証が得られませんでした」
「理由は何か」
「ガンディス帝国は日本の影響ですね。自らが日本を否定しながらギルガメス王国連邦が日本との国交で混沌領域を押さえ込むことに成功し始めて、社会の安定化と栄えていることに嫉妬しているようです」
「ガンディス帝国か。技術自慢だったな。そう言えば、日本という魔法も使えない下等な奴らとは取引などしないと言っていたようだが」
「嘆かわしいことにその通りです。未だに魔法と鍛冶優先で根本的な自然科学を向上させようという気は薄いようです」
「だから進歩が遅いんだよな。あの大爆発までは結構な進捗だったのに」
「バビロン大陸の東側一千キロが吹き飛びましたから。爆心地にある巨大海洋性混沌領域が発生したのはあのせいでしたね」
「あれから三千年くらい経つが若干技術力が上がった程度か」
「それも痔主勇者やジャンヌ・ダルクとファウストを始めとする人々が来なければ・・・」
「そうだな。確実に冒険者ギルドの世界共通制度はなかったな。やはり異世界からスカウトしなければ魔法だよりの世界では進歩は遅いか」
「しかし、現地の神との交渉で、死にかけている人間か現地から放逐される国家・民族・集団だけと言う規則は厳しい物が有ります」
「いいじゃないか。イギリス連邦と日本は全員死にかけだろ。ディッツ帝国は究極ボンビーされたわけだし。ガミチス帝国はこちらで受け入れてやったのにあんな事しやがって。ファイウォール公国なんだよな。かなりまともな国なのに何で放逐されたんだろう」
「あの世界の神が絶対神を演じているようでした。それでどうしても絶対神への信仰を受け入れられないファイウォール公国を放り出したようです」
「そうだっけ。そう言えばあいつの所で神殺しをしこたま飲まされたな。ファイウォール公国が来たのはその後だ。なんで思い出さないんだろうな」
「その時何か弱みを握られませんでしたか」
「ん?・・・・そんなことあったけな?」
「それならいいです・・」
「おい、そう言えばガミチスの西に島が有るよな。あそこの残った普人族以外の人種だがガミチスはどうすると思う?」
「科学技術はこの世界の十年以上前のレベルですので興味は無いかと。少なくとも有能な為政者なら他国と戦争を起こそうと言うときに武力制圧はしないでしょう。精々交渉をして資源探査程度では」
「そう思うか」
「はい」
「では放って置くか」
「はい」
「ラプレオス公国の魔王化はどうか」
「ラプレオス公国の場合は強欲ですね。日本に対して全ての物を献上しろですから」
「酷いな。日本は相手にしているのか」
「最近は無視しているようです。それで怒り心頭に発するようでして」
「どちらも魔王化しても魔王のレベルは低いか」
「そうですね。ギルガメス王国連邦と日本が手を組めば充分対抗可能です。航空戦力がほとんど有りませんので地上戦力は空から圧倒されて終わりでしょう。最後は上級冒険者が魔王を片付けておしまいです」
「そのギルガメス王国連邦だが、内部は大丈夫なのか」
「いくつか気になる貴族領や加盟国家が有ります。おそらく魔王侵攻と共に蜂起することが考えられます」
「国が割れることは?」
「二大勢力は均衡を保ったままですし、国内が発展していますので不満は減っています。王国連邦の将来の在り方で食い違いがあった程度ですので割れることはないと考えます」
「では魔王軍は日本が相手にすることになるか」
「その可能性は高いと思います。日本はあのダンジョンを失いたくないでしょう。それに今は保護対象としても科学技術が同等程度になれば貿易対象としてくるはずです」
「そうだな。世界が活発になれば私も嬉しい。イギリス連邦と日本の航海技術と造船能力はこの世界に必ず変化をもたらすだろう。負けた後のガミチスの技術もな」
「日本はどの程度の兵を出してくると思う?」
「日本の参謀本部試算では最大で五十万人だとされています。それ以上は距離の関係で兵站が持たないと」
「だがそれは日本自国で支える場合だろう。ギルガメス王国連邦でも食料は負担できるはずだ」
「その場合でも百万人が限度かと。日本国内の産業基盤に影響が大きくそれ以上は覚悟が必要だと」
「どういうシナリオを予想している?」
「ガンディス帝国もラプレオス公国も魔族が魔王化します。そして国内を掌握した後にギルガメス王国連邦へ攻め入ってくるかと考えます」
「同時ということは無いか」
「可能性は低いですが無いわけではありません。誰かが暗躍していない限り無いと思われます」
「その可能性は」
「先ほどお話ししたギルガメス王国連邦内の貴族と加盟国家に南北両国の貴族ですね。可能性はあります。調べますか」
「いやそれはやり過ぎだ。しなくて良い。
「畏まりました」
「それでは私はウィルヘルム五世の所へ向かうとする。宝玉を破壊するので帝国民のケアをするように」
「「「いってらっしゃいませ」」」
ランエールはウィルヘルム五世の前に立った。
「なんだお前は。どこから入ってきた」
ウィルヘルム五世が聞く。
「ああ、どこからか。ランエールの中ならどこでも行けるんだよ私は。ランエールなのだから」
「ランエール神か。よし、お前この魔王ウィルヘルム五世の力になれ」
そう言って飛びかかって来るウィルヘルム五世だが、あっさり額の宝玉を破壊される。
崩れ落ちるウィルヘルム五世。もう息はない。
「さて帰って一眠りするか。後は下級神の仕事だ」
ランエールは神界へ帰った。
「ここでいいのだな」
「デストラーが監禁されている場所ならここのはずだ」
一帯は監視の兵が倒れている。もちろん殺してはない。眠っているだけだ。
「デストラー総統。聞きなさい」
デストラーは声の方を向いた。聞き慣れない声だった。
「我々はランエール神の代理である。君を解放する。ウィルヘルム五世は倒された。帝国民に掛けられた隷属の魔法は解かれた。これからはまた君が国の行き先を決めれば良い」
「ランエール神の代理だと?あなた方もまた神なのか。礼を言うべきなのだろうな」
「礼はいらない。神というのは確かだ。駆け出しだがな。礼の代わりにこの世界が大きく動くきっかけになって貰う」
「大きく動く?」
「君の意思とは関係なく君は魔王になる。民衆がそれを望むからだ。外国との戦争もするだろう」
「私は魔王になるのか。それに戦争をしても怒らないのか」
「人と人の問題だ。我々は世界が変な方向に行かないようにしているだけだ」
(色々楽しませてくれよ)
「私がいや、ガミチス帝国がこの世界に覇を唱えてもいいのだな」
「問題ない。ランエール神もそれは認めている」
「聞きたいことがある。何故助ける?」
「ウィルヘルム五世がもっていた人々を隷属化する道具は君達の元の世界の神が持たせた物だ。そしてそれは神の間では禁止事項に当たる。だから修正しに来た」
「人々の心はどうなる」
「隷属化していた間の記憶は何でこんな事をしたのかとしか覚えていない。それで君がウィルヘルム五世を倒したことにするのだ」
「ウィルヘルム五世は」
「ランエール神が直々に倒された。君には悪いがな」
「それはどうも。私はどうすればいい?」
「これからウィルヘルム五世の所へ行って、そうだなハンマーは無いか。棍棒でも持ってくれ。ウィルヘルム五世を倒したポーズでいい」
「そこで皆目が覚めると?」
「正解だ。後は君達の健闘を祈る」
そう言って神々は消えた。本当に神なのだなと思うデストラー。
皆を解放してウィルヘルム五世の所へ行くか。
こんなものでしょう。
軍団ではなく分隊ですから筆力もその程度です。
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