ガミチス
戦争へとむかうガミチス
国内固めだ
「その罪、贖いがたし。よって極刑を申し渡す。刑は枷付き島流し」
最高審判所中央法廷で下された判決に、傍聴人からどよめきが起こる。
審判長が木槌で机を叩き静かにさせる。
「被告マルケス・ヒウムラーは国家安全機構最高責任者として、その組織をもって国民の生活を監視。自らの欲望によって国民の財産・生命を収奪。逆らう者や邪魔な者には脅迫し強要を迫り、それでも言うことを聞かない者には冤罪を捏造。いわれの無い罪で収監し拷問を加え治ること無い傷を残し、さらには殺人にまで至った。上司であるウィルヘルム五世の命令であると被告は述べるが、部下の証言や状況証拠によって自らの欲望に寄って実行された事例多しと当法廷では認める。被告は自らの国家に対する貢献をもって情状酌量の余地有りと申すが、国家安全機構によって処罰された国民の多くは無辜の人物であったと当法廷は判断。よって情状酌量の余地は無い物とする」
ヒウムラーが叫び出すが、直ちに審判所警備員によって取り押さえられ猿ぐつわをされる。
枷付き島流しか、悪い刑では無いな。十キロの錘を付けた鉄の足枷を付けて直径五キロ程度の無人島に置き去りにする。一週間分の食料は持たせるが後は自力だ。十年くらい生き延びた剛の者も居るが奴では二週間持つかどうか。
島は海軍の厳重な監視下に置かれ、逃亡を図っても幇助した者も同罪となると助けにも来ない。家族・親族や友人・知人が食料などを渡すのは認められているが、そんな事をしたら周囲から総スカンにされてしまうので滅多にいない。
磔で奴の汚らしい姿を晒すのも国民の目を汚す。絞首刑や銃殺刑では被害者が納得しないだろう。この辺りが落としどころか。
特別傍聴席で判決を見ていたデストラーは思う。
あと二年待てと陸軍と海軍に言ってから一年。
ようやく以前から行っていた国家安全機構の無力化に成功。今日そのトップであるヒウムラーの有罪判決が確定した。国家安全機構では他に数百人が死刑判決を受け、ほとんどの職員が有罪判決を受け収監された。専用の刑務所を作って収監しようと思ったが、一般受刑者と混ぜておいた。どんなリンチが繰り広げられるか。刑務所が足りなくなったので何カ所か増設したのは予算的に痛いが奴らの財産を没収して当てた。残された家族への風当たりが強いらしいがそこまでの面倒は見れん。
前総統であったウィルヘルム五世は、国家安全機構を使っての婦女子に対する誘拐・暴行・強姦・殺人で起訴されている。
この動きを知った途端にかなりの財産を持ち出し姿をくらました。亡命できるような国家はない。周りは全て海だし、第一他の国家と交渉も無い。国家安全機構には恨みしか無い警察が姿を追っている。近いうちに捕らえられるだろう。
空軍は歴代と今の長官と参謀長がウィルヘルム五世と国家安全機構が誘拐した幼子!から成人男女に対して暴行・強姦・殺人を行っていたことが判明。全員逮捕され死刑が確定した。他に空軍高官多数が起訴。死刑や実刑判決を受けている。
同様の罪を犯していた政治家や有力者もかなりの人数が逮捕され、死刑や実刑が確定した。
もちろん財産は没収だ。
被害者への救済に当てて人気を取ったのは言うまでも無い。
後は私への復讐を考えている連中を排除すれば国内は安定するだろう。
権力は握った。国民の人気も取った。これで世界征服へと近づいたと思う。
国家安全機構、空軍の予算がかなり着服されたことも判明している。
世界征服のためには空軍予算を余り減らすわけには行かんが、少し減らしてやらんと世間が五月蠅い。
国家安全機構の予算は陸軍と海軍、警察に振り分ける。
ウィルヘルム五世が総統だった頃に、好き勝手に使用可能にした国家予算が0になったのは素直に嬉しい。貴金属や宝石に換えきれなかった奴の個人口座や有価証券は全て没収した。あのじじいいくら国家予算を使い込みやがった。
これで厳しい財務状態は多少マシになった。
疲れたから早く静養したい。が、無理だろうな。
国内経済は転移による属国や植民地が無くなったことに寄る経済ショックと政情不安から来る信用不安でインフレが起こっている。
ウィルヘルム五世などから没収した金額は現金で国家予算の二割に達する。相場が崩れるから現金化できない貴金属や有価証券などを現金換算すれば全て合わせて国家予算半年分だ。
かなりあるとは考えられていたがこれほどとは。
魔神に「そんな事では勝てんぞ」と言われるわけだ。全力を挙げてとか口当たりの良いこと言っていた奴らが裏では着服か。国家の全力など出せるわけも無い。
被害者への補償のほかは全て景気対策に充てる。私の人気は更に高まるだろう。世界征服の暁には多少好き勝手やっても許されるだろう。・・・ハー**とか・・・。うん、疲れているのかな。おかしいことを考える。ハー**よりも面白いことは有るだろう。
私はウィルヘルム五世と対決姿勢だったから誘われもしなかった。却ってそれが良かったのかもしれん。私も予算の流用をしてないわけでは無いが微々たるものだ。
「総統閣下、新任の空軍長官と空軍参謀長が到着いたしました」
「うむ、はいりたまえ」
「総統閣下。ガーランド空軍長官及び、ヘフナー空軍参謀長出頭しました」
「良く来た。まあ掛けたまえ」
「「ありがとうございます」」
「君達は何故呼ばれたか分かっているのだろう」
「はい。早急なる空軍の立て直しです」
「そうだな。その通りだ。綱紀粛正は上手くいっているのかな」
「正直に言いますと手を付け始めたばかりで、部下の掌握を手始めに行っております」
「うん、頑張ってくれたまえ。期待している」
「ありがとうございます」
「今日来て貰ったのは、それとは別に若干の組織変更をして貰おうと思ってな」
「組織変更ですか?」
「そうだ。そろそろ来る頃だが海軍長官と陸軍長官からのたっての希望でな」
「はあ」
「失礼します。総統閣下。ヒルベルスト海軍長官並びにモーデル陸軍長官、到着されました」
「よろしい。入室を」
「ヒルベルスト海軍長官参りました」
「モーデル陸軍長官参りました」
「良く来た。君達も掛けたまえ」
「「失礼します」」
「君達も知っての通り、一年後北の国家に攻勢を掛け征服する。その時にだ、今の空軍組織では都合が悪いのだ」
「何故ですか閣下」
「うむ、空軍長官としてもっともだな。海軍長官」
「はい。前・前々空軍長官が海軍で使用する機体と人員は全て空軍のものとしてしまったのでね。大変都合が悪いのだ」
「何故でしょうか」
「君達は新任だし以前は後方勤務だったことは知っている。だから知らないのだろう。空母だけが空軍との2重指揮にある。これが艦隊行動にどれだけ支障があるか分かるか」
「それは、困りますね」
「そうだろう。空母艦載機だけでは無いのだ。水上機も全て空軍の管轄にされてしまった。それがどれだけ支障があるか」
「誠に申し訳なく思います。至急、改善をします」
「ありがとう」
「海軍は良いか。では陸軍だ」
「陸軍もですか」
「そうだ。君とは以前補給部隊で会ったな。モーデルだ。君達には期待している」
「ありがとうございます」
「うむ。それでだな、陸軍も同じなのだ。歩兵直協の戦術攻撃機だけでは無く、偵察機まで空軍の管轄とされたのだよ。戦場でいちいち空軍にお伺いを立てなければ行けない。分かるかな。飛んできたときにはもう遅いのだ。それでは困るのでそれらを陸軍の管轄にしたい」
「それもですか、おっしゃることは理解できます」
「ではよろしいな?」
「はい。至急、改善をします」
「ガーランド君には悪いがな、根回しをしている時間が無いのでここに集まって貰ったのだ」
「いえ、今初めて知ったことですので戸惑っているだけです。直ちに改善を行います。ヘフナー?」
「はい。それでは、空母艦載機と水上機、それらのパイロットと整備員を全て海軍へ。教育はどうされますか?現状では、空軍で飛べるようにしてから海軍で専門教育が良いと思うのですが」
「海軍としては指揮系統が問題なのでね。それで良い。お願いする」
「了解しました」
「海軍さんは終わったか。では陸軍だな。要求は同じだな。歩兵直協機と戦術偵察機は陸軍へ渡して欲しい」
「了解しました」
「話は終わったか。では1年後の征服開始までに出来る限りの努力を期待する。外交で征服できれば損害が無くて良いのだが」
「総統閣下。そういう訳には行きますまい。陸軍、海軍、空軍は総力を挙げて閣下の偉業を支える所存です」
「うむ。頼もしいことだ。我が国の目標は魔神の前にもろくも崩れた。だがこの世界は手に入れよう」
「「「「ハット、デストラー」」」」
人がいなくなった執務室で思案に耽るデストラー。
東の国は艦艇は旧式だし数も少ない。空母は有るが複葉機だ。若干の派遣で充分撃破可能だろう。海軍戦力をつぶしてから上陸して征服だな。北の国に攻勢を掛けている間に横から手出しされないようにしなければな。
艦載機は北の国も同じようなものだという報告だ。艦艇の質は北の方が上だとのことだから主目標は北だと国家戦略会議で決定したことだ。
やれるな。
この世界を手に入れる。
歴代総統が出来なかったことを私がやるのだ。
世界征服が国家目標。
軍事国家ですね。
生産力・軍事力とも有り余っています。
初期戦力は多いと思われます。
下はガミチスです。
魔神によって切り取られました。接していた地形のままこの世界へ。
海に面しているのは北と東です。
錨マークが主要軍港。飛行機マークが主力軍用飛行場。
次回 三月二十九日 05:00予定