表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/219

登場

伏線を幾つか出してありましたが、遂に登場です。

 貨物船ポーツマスⅣはファイウォール公国から母港のポーツマスに向けて順調に航海している。

 

 見知らぬ世界に突如放り出され最近ようやく海図が整ってきたところだ。単独航行も許可されたのはつい最近だ。

 チーフオフィサーのマクレーンは正午の天測を終え海図に記載する。さてお茶でも頂こうか。


 今は転移後7年経った、西暦1948年夏。


 海図台から顔を上げるとキャプテンと目が合った。


「チーフオフィサー、航海に問題は無いな」


「アイ、キャプテン。順調です」


 この船は船歴20年以上になるベテランでもう少し古ければ重油専焼缶でタービンでは無く石炭缶でレシプロと言うこともあり得た。

 ポーツマスで鉄鋼を積みファイウォール公国で降ろす。ファイウォール公国で混沌獣素材や木材を積み帰ってくる。

 往復で3ヶ月だが航海速力が速い船なら2ヶ月以内で済むだろう。この船の航海速力は巡航12ノットだ。

 今回の航海ではファイウォール公国で良い土産があった。息子は喜んでくれるだろうか。何回か前の航海から帰ってきた時は「誰この人?」と言う表情をされ悲しかった。


 その古い貨物船は海中に潜む船から見られていた。


 イギリスの貨物船はほとんどの船にレーダーが装備されている。ただこの船に装備されているのは海軍のお下がりで、潜望鏡が見えるような性能のレーダーでは無かった。船主が伝を辿って安く放出されたお品を手に入れたのである。高性能で有るわけも無かった。





「フィリップス提督、最近は周辺海域が静かだね」


 イギリス海軍省では海軍長官マウントバッテン元帥が親指トムこと軍令部部長フィリップス大将と話をしていた。


「そうですね。潜望鏡を見たという話は出ません」


「良いことだと思うかね」


「思いませんね。正体が分からないというのは困ります」


「そうだな。敵対するのか、友好的なのか」


「電波傍受では我が国の電波以外入りません。彼等はだれてきています」


「まあ平和だしな。無理も無い」


「困るのですがね」


「ナチと遣り合っていた頃よりはずっと良いと思うが」


「撃ってこないのでナチの潜水艦では無いのでしょう」


「日本なら良いのにな」


「日本だったら浮上してきますよ」


 あの日、混乱と困惑の日々の始まりだったが海外に居たイギリス人が次々と帰ってきた。

 その中には日本に居た者も居て、星空の写真を撮ってきたのだった。月が全く同じだった。同じ半球に居るのは間違いない。どこに居るのだろうか。

 あの時、最後の別れとばかりに技術交換をした。

 こちらの方がどう見ても持ち出しだろうと思った。最新レーダー、アズディック、無線機等。マーリンエンジンの資料一式まで付けた。

 そうしたら如何だろうか。あちらから来たのは酸素魚雷という世界中が諦めたと思った純酸素駆動の魚雷だった。他にはアメリカが中々売ってくれない航空用100オクタンガソリンの精製技術が来た。これは助かった。

 そして驚くべき技術が有った。トランジスタだ。これによって我が国の電子技術は飛躍的に向上した。

 レーダーやアズディックの性能も飛躍的に向上した。

 あの真空管とスイッチの塊だったコロッサスがわずか三分の一の大きさになってしまった。

 現在さらなる高性能化を狙って研究している。研究者によると汎用電子計算機が完成するかもしれないと言うことだ。

 トランジスタの応用技術であるトランジスタ点火装置も素晴らしい。ガソリンエンジンの出力が5%~10%向上したという。しかも磁気接点式のディストリビュータは長期にわたるメンテナンスフリーを実現した。コンタクトポイント式では接点が焼けるので定期的に清掃・調整・交換をしなければならない。その手間たるや。気筒数の多い航空機エンジンではその有り難みが良くわかる。


「マウントバッテン卿、我々はもう引退ですが後継者は決まっているのでしょうね」


「心配するな。私の後釜には地中海艦隊司令長官だったモールトン大将だ」


「良いですね。では私の後はコースロス卿ですか」


「そんなところだ。後3ヶ月何も無い事を祈ろうじゃ無いか」


「その後もですよ、卿」


「確かにな。あの転移で年寄りの時代は終わったのだろう。これからは次世代が頑張る時間だ」


「転移のせいとは言え、長く努めすぎましたな」


「私はバラに精を出すよ。君はどうだね」


「機会を見てファイウォール公国を見て回りたいと考えています」






 フィリップス提督は一人考えに耽っていた。


 イギリスはあの転移で王国連邦としてひとまとめに固まってランエールに放り込まれた。

 混乱はひどかった。無線が7割しか届かない。海図が通用しない。星座も分からなければ緯度経度も分からない。海底ケーブルが切断され海外との通信が途絶した。インドはいずこ?南アフリカは?東南アジアは?イランが無いと石油が。生ゴムが無い。紅茶が無い。綿が無い。


 悲惨だったのはオーストラリアとニュージーランドを始めとする南半球の地域だった。纏めて北半球に移された。オーストラリア北部の亜熱帯地域に雪が降るようになってしまった。家の造りが環境に対応していない。冬はつらかった。また北から日が当たる設計なので南から日が当たるようになると、家の環境が悪化した。盛大な建て替え需要が始まった。

 神様は何だろうか。コアラや自力での移動が難しい生物を南部に移し替えていた。環境ごと。

 タスマニア島もそうだ。島ごと北に移された。

 混乱の内に海外からの帰国者が出始めた。他の国も同じように混乱していると分かった。


 そのうちに神の祝福?が有ることが分かった。主イエスよ感謝します。と思ったら、主イエスは信者が多すぎて一人一人には微々たる祝福しか与えられなかったと判明。それでもひとりが1年は過ごすことの出来る物資だったが。

 イギリスに多くを与えてくれたのはケルト神話の神々だと判明。キリスト教の連中はカトリックもプロテスタントも国教会も必死になって否定しているが事実は覆らないだろう。大昔とは違うのだ。

 各地で神話の発掘と祭事の復活が行われ始めた。キリスト教は急激に社会的影響力を減らしている。


 そのうちオーストラリア南西部ビクトリア砂漠で油田が発見された。採掘はすぐに始まったが探査の結果イランにも匹敵する油田地帯と判明。どの神に感謝すれば良いのだろうか。

 多神教が復活を始めた。いろんな祭りがあって面白い。


 周辺地域は北には何も無かった。アイスランドはあったが、その北は以前と変わらず北極海のよう。

 南は三千海里行ったところにソロモンやカリブのような中小の島々の多島海が在った。

 東は二千海里ほどの所に南北に長い大陸?が有った。まるで東の壁のようだ。

 西は三千海里ほどの所で文明と出会った。ファイウォール公国だ。


 その探索中に数隻の船が大型魚にやられたのか行方不明になっている。大型魚の居る海域は決まっておりそこを縫うように航路が設定された。

 果敢な漁業者によって捕獲されている。素晴らしく美味しい個体が有るし、ほとんどが美味しい。ただ犠牲も多く、専用船の建造も行われている。

 ただあの体の中にある不思議な部分は何なのだろうか。学者達は議論を交わすが全く判らない。

 ウロコの他、皮や骨も強靱で何か使えないかと研究しているがはかばかしくないと聞いている。


 西のファイウォール公国とは国交を結び現在通商も良好に行われている。特に鉄と石炭が輸出出来るのが大きい。ボーキサイトは彼の国では産出されていないので有効な輸出資源だ。アルミ地金として輸出されており付加価値は高い。

 我が国、王国連邦だが域内では生産量が少ないクロムとモリブデン等を代わりに輸入している。

 ただ人口比で行けば秩序無き貿易は国内産業の破壊を招くとして制限を掛けられている。

 当面は資源貿易が多くの比率を持つだろう。


 東インド大陸は、まあなんだ。インドがサヨナラしてしまったので悔し紛れに付けた名前だ。あれだけの広さだ、豊富な資源が有ると信じたい。名付けの原因はインドゴムノキが発見されたからだ。どうしてもインドの代わりにしたいらしい。

 東インド大陸から東はまだ探索の手が伸びない。

 南の多島海で貴重な香辛料やコーヒー、お茶の木が発見された為、全力で開発が行われている。

 我々は紅茶とコーヒーは必需品だからな。



 フィリップスは考え込んでいた所を現実に引き戻される。


「海軍卿、南は多島海の守りを固めるという方針に変わりは有りませんか」


「ケンブリッジ卿、何度も言うが現状の海軍力ではそれが最善だと考える」


「しかし産業界としては貿易相手がいないと国内経済だけでは生産力や海運力が過剰なのです」


「そこは食料生産に目を向けて欲しい。工業だけが産業では無いでしょう。綿も不足している。絹など何年も見たことが無い」


「どうしてもこれ以上の領域拡大はしないおつもりですかな。海軍卿」


「問題が有りましてな。生ゴムがないのですよ。神倉庫に有る在庫はこのままだとあと10年持たないらしい。インドゴムノキは性質の違いから生産量や品質がパラゴムノキとは違い代用にしかなりません。つまり今のままでは十年後には大分生活レベルや軍事力を落とさないといけない。そのためにもインドゴムノキの栽培拡大とゴム技術の向上をしている。違いますか?産業大臣殿」


「よくご存じですな。その通りです。だが工業生産者がすぐに農業生産者になれるとお思いか」


「他に道が無ければなるしか無いのでしょうな」


「だがそれでは資本家や経営者が黙っていられない。そのためにも今以上の海外探索をお願いしたい」


「結局はそこですか。だがその事業を実行すると生ゴムや石油の在庫を大きく使うことになる。よろしいか?」


「どういう事ですかな」


「今海軍艦艇の稼働率は30%に過ぎません。それは石油が無いためです。幸いオーストラリアで大規模な油田が発見された」


「もちろん存じております」


「だが、本格操業が始まったばかりで産出量は需要を満たしていない。あと1年掛かるはずですな」


「そう聞いておりますよ。ですが供給は確実です。在庫を切り崩しても外に行ってもらいたいのですよ」


「これ以上の進出は議会の採決が無いと権限が有りません」


「ええ、その前にお話をと思いまして」


「なるほど、もう根回しは終わっていると」


「そういうことです」


「では議会に通して下さい。海軍は従います」


 聞かなければ良かった。フィリップスは思う。引退前に酷い仕事をさせられそうだ。

いつ日本と邂逅するのでしょうか。

これで役者は揃ったのかな。

後は最終話まで新たな存在は出てこないはずです。

途中で思いつかない限り。


次回 3月24日 05:00予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ