総技研再び タービンロケット
奮進するゾ
タービンロケットというのはジェットエンジンの大日本帝国海軍での呼び名でした
総技研にガスタービン開発の手伝いが依頼されたのは二十三年のことだった。
耐熱材料が問題になっていると。
総技研は魔石添加剤を開発してその特許料だけで食べていける事が明らかになり、適当な研究開発をして遊んでいた。遊んでいたのでは無いが、外から見れば無駄な事をして遊んでいるようにしか見えなかった。
そんな暇してると見られた総技研にやって見ろと白羽の矢が立つのは当然だった。
先ほど開発者達にきつい目を向けられてきたところだ。まだ日本の技術開発者達には混沌獣素材や魔石を訳の分からない物として嫌う風潮が有った。
そんな風潮に穴を空けるように総技研は我が道を行く。
今回久々の自信作である工作機械各種と各種工具を使ってタービンブレードを作る。半導体の失敗は記憶の彼方。
ドワーフとの共作である。一部では狂錯の間違いだろうという声も。
ドワーフが中心になり長い年月を掛けて開発をしてきた金属に魔石の粉を定着させて強化する技術。
総技研は一品物ならドワーフには勝てないだろうが、ある程度の質の確保をした上での量産なら日本でも可能では無いかと考えた。
取り敢えず造ってみることにした。
最初のブツはボール盤に使うドリル刃。穴開けするのはボラールのウロコ。ただのドリルでは相変わらず舐めてしまう。
そこでドリルの焼き入れ工程に魔石添加剤使用焼き入れ油を使用した。
これは工具メーカーの技術者と呼んできたドワーフで組んでやって貰った。総技研には焼き入れに詳しい人間はいない。
およそ二ヶ月掛けてようやく物になった。
その間どれだけの一升瓶が転がったことか。工具メーカーの人の二日酔いの酷いこと。我々総技研に出来た事は工具メーカーの人を早期に飲みから助け出す事と壽屋の角瓶を差し入れることだった。
そして研ぐのであるが、ちょっと待て。最初の人造砥石はいい。作れるからな。その後だ。高級砥石がいきなり凄い速さで削れていく。これでは堪らん。国内の高級砥石がすぐに枯渇してしまいそうだ。
試作のドリルが完成した後で総技研は砥石探しの旅に出た。勿論総技研の面々に砥石の目利きなど出来るわけが無い。犠牲者は砥石屋と地質学者だった。
聞けばドワーフも砥石には苦労しているという。魔石砥石とか無いのかと聞いたら無いと言われた。ドワーフも付いてきた。
ドワーフは普段は魔石で鍛えたヤスリ数種類でかなり表面を整えてから砥石を使うのだそうだ。素人が見れば砥石いらないんじゃ無いかくらいまでヤスリで磨いてから砥石を使うという。日本には高級品が沢山在るから楽しいな、と。
まず確実にありそうな南アタリナ島へと向かう。有りました予想通り。砥石屋大興奮です。ぱっと見だが国内需要の数十年分は有りそうだと。当然ながら持って帰る。
その後順調に進み各種魔石焼き入れドリルが出来上がる。高級砥石の消費がすさまじい。
ボラールのウロコに簡単に穴が開く。すさまじい切れ味だ。
これには工具メーカーの人もびっくりだ。そのコストにもびっくりだが。この後、工具メーカーが旗振りをして人造砥石がどんどん良くなっていく。
ドリルの次はノコギリや研削加工用カッターだ。これはドリルより難しいのでは無いかと言う気がする。あくまでも総技研の目だが。
再び工具メーカーの人の苦労が始まる。ドワーフは目を輝かせている。酒を用意しよう。
結局ドリルとほぼ同じである。砥石は更に使用量が増えた。これはコストと工具の能力・寿命がバランス取れるのかな。
だがこれでボラールのウロコを機械加工で量産する目処が付いた。今までは工作機械を使っても加工が難しく一品料理だったからな。
ウロコから原型となる形を切り取っていく。前方は厚いが後方は薄いので全部の活用は出来ない。残りは包丁やナイフになりそうだ。
切り取った後は温間プレスで成形していく。相手が相手なので型の消耗が激しい。プレスの型には魔力を通せるように魔石装甲板と同じ製作方法で作っている。型にはボラールの神経を加工した紐を取り付け作業員と繋ぐ。作業員は強化して魔力を扱える人間がやる。
成形後バリ取りを行うがここでもドワーフ製ヤスリが活躍する。まだ日本人には作れない。
次いで冷間プレスを行う。魔石添加剤使用鍛造油を使う。これで更に強度と耐熱性が上がる。添加する魔石はオーク以上の上位種が最高なのだが、売ってくれないのでボラールの魔石を使う。
耐熱合金鍛造削り出しという贅沢な加工をしたタービンリングに填め込む。これで精度を見て完成なのだが、何か穴がありそうな気がする。分からない。まあこのまま持って行こう。
図面を渡されて八ヶ月。「ようやく出来ました」と研究所に持って行く。
研究所では填め込まれたタービンブレードを見て驚いた「こんなやり方があるなんて」。
総技研としては、ただウロコの大きさが一体加工できる大きさでは無かったから填め込みにしたのだが。
総技研で作ったのは後方の圧縮タービンだ。ここには燃焼後の高圧高温の排気が流れ込む。研究所ではこのタービンブレードの焼損や欠落などの破壊で開発が進まないらしい。
それでも十時間まで頑張れるようになってきているという。
組み立ててて試験してみた。
五十時間は問題なかった。バラして点検をするが問題が見つからない。
百時間試験は八十時間で壊れた。バラして見ると、ブレードの熔解と欠損が見られた。ヒビの入っている奴も多い。
おそらく六十から七十時間くらいで急に疲労と耐熱限界が来るのだろうという想像をした。
生物素材でここまで持つことがおかしい。とは開発者の声だ。
耐熱性の問題は冷却すればいいじゃないかというと、今までやってなかったらしい。なんで気がつかないのかね。まあ当事者なんてそんなものかとも思う。
冷却は空冷でやることになった。毎分数千回転で回る高温のタービンの冷却は水冷では無理と言うことになった。
問題はボラールのウロコは最大でも五ミリしかない。
宿題が出た。
開発陣の方は冷却空気が漏れないように(シールは不可能だから)どうやって精度を高めるか問題となる。
タービン周りよりも高圧なら高温の排気が逆流しないだろうと言って高圧の空気を流すことになった。これは後で高速回転するタービンにはそこまでの高圧を掛けなくても逆流しない事が分かり機構的には助かった。
問題の冷却用空気を通すには穴を空けるか中空構造にしなければいけない。
穴空けることは出来ない。素材が薄過ぎた。ならば、貼り合わせて中空構造となるのだが、総技研にはその技術が無かった。
困った時のドワーフだ。
「そういう技術はあるが・・・」
言葉を濁された。
「何故?」
「混沌獣素材と、ある草の実から採れる汁を一定の決まりに沿って合成すれば出来るよ・・俺はやらんからな!」
「何故?」
「その草の実の汁がとんでもなく臭い。草の名前はエリャー草だ。混沌領域に生えているが混沌獣でさえ避けて通る」
「うわ~」
「それだけじゃ無いぞ。合成中がまた・・・」
「分かった言わんでも良い」
作り方は普通に膠を作るのに近かった。うん、それだけでも臭い。
「出来たら分けてくれ。作り方を教えたじゃあないか」
「持っているのか」
「持っている。だが残り少ない」
「自分では作らないのか」
「余りの臭さに輪番制で強制だ」
「うわ~」
「それにエリャー草の実をギルドに採取依頼出しても、中々受注してくれん」
「難儀だな」
「その代わり接着力は凄いぞ。接着してからまた焼いて鍛冶をしても耐える。溶けた鉄を流しても剥がれん」
「トンデモナイデスネ」
その後、接着剤係という生け贄を選ぶ儀式は阿鼻叫喚の騒ぎだった。
ギルドにエリャー草の実を採取依頼を出しに行くと高いですよと言われる。それくらい人気ありませんからと。
そこは総技研と言う御大尽様である。金は積んだ。
接着剤が出来るまでにブレード形状をガスタービン開発者と共に検討する。
さすがに仕切りは欲しいので、この加工が問題となった。
内部側に溝加工を施しそこに接着剤で固定となった。溝は途中までで外周側までは届いていない。
新たに金型を起こしプレス成形した物を仮組みして確認する。
前段の送風タービンもボラールのウロコで作ってみることになった。
前段も後段もタービンを何段にすれば良いのか全く分かっていない。それ程までに未経験の領域だった。
前段は綺麗な流れを作るために反対向きの固定ブレードを設けて二重反転風になるようにするのが良いのか、それとも全部同じ回転方向で良いのかさえ議論中だった。
ようやくギルドで受注されたブツがやって来た。ギルドではどこのバカが発注したと聞かれ「日本ですよ。ドワーフと仲がいい方達です」と答えると、仕方が無いかと銀級冒険者が出張ってくれた。過去に受注したことがあり臭いを抑えるコツを知っているらしかった。
接着剤の製造は離れ小島に設備を設置した。瀬戸内海だから許してくれ。同僚。
後日完成したと連絡がある。事務方から接着剤係が有給休暇と特別手当を要求していると聞く。
完成した接着剤はほぼ匂いが無いのだが、途中の作業中は匂いで気絶しそうになったと。
防毒マスクはと聞くと
「最初それで失敗した」
?
「匂いが良くわからなくなった」
?
「匂いの変化が重要だった。匂いが消えれば出来上がりだが、それを通り過ぎて作業を続けるとただのゴミになる」
ご苦労様である。
ドワーフにこれでいいのか聞くと
「上等だ。良い物が出来たじゃ無いか」と言われる。
同僚には一週間の温泉旅行が贈られた。
接着剤を試験すると信じられないことに一千二百度以上まで接着剤としての効果を保ったままだった。溶けた鉄を流し込めるというわけだ。
百時間耐久試験は楽に合格した。分解しても痛みは見られない。まだいけると言うことで壊れるまでやってみることになった。
二百時間を経過し三百時間となり、三百六十時間で壊れた。
信じられなかった。
かろうじて三百時間はいけそうですが、飛ばせるのでしょうか。
積むとしたらやはりアレを出さないと
主翼下にポットで積むようなことはしない
エンジンはケツから抜くのだ
プレス機械は型にボラールの神経で出来たケーブルを繋ぎ上の型と下の型それぞれ別のケーブルを繋いであります。
プレス機を動かすときは魔力を両手で別のスイッチに流さないと動きません。両手で別のスイッチを操作しないと動かないのは安全装置の基本です。
この頃のノコギリはまだチップソーはありません。
超硬チップをろう付けするようになるのは史実だと戦後しばらくしてからのはず。
次回 話は戻ります。まだ戦闘は先です。有るとは言う。
作中時間で二年くらい先かな。
次回 三月十五日 05:00予定