警戒態勢 青から緑へ
出しちゃいました。
D-806船団が報告した潜望鏡の件で政府や軍部は混乱している。
その中で国防に関わる人間は民主光輝党の政策に反対だった。
「友好的に接しよう。必ず分かってくれる。戦争など無い」
?何言ってんだ此奴ら。相手の正体も分かっていないのに何故そんな事が言える?
朝と毎の両新聞は、平和は良いことだと盛んに持ち上げる。確かに良い事だが、相手の正体も分からない内からそんなこと言って良いのか?結構な数の人間がそう思った。
民主光輝党の党首で現首相の筒井は、二十年十一月・二十二年三月と続けて起こった大災害への対応の不手際から批判が多く退陣間近と言う雰囲気だ。未だ前首相である鳩村の影響力は大きく「戦争は悪、言葉で平和を」と言うお花畑思想が党の大勢でもあった。
ここで国際平和を掲げて粘る気だろうというのが政治関係者の言葉だ。
そんな政局だから、潜望鏡案件への対応が(事件では無く案件にされてしまった)危機感を持った物になるわけも無く、しばらく様子見と言うのが政府・民主光輝党の大勢だ。
もちろん一部の民主光輝党議員は国家安全保障会議の開催を求めた。だが、緊急性は無いとして下げられた。
そういう危機感を持った各党議員は党利・党略を超えて、非公式に軍と接触をし警戒態勢を整えて欲しいと訴える。だが現在平時であり軍にやれるのは南方での哨戒体制の強化くらいだった。潜望鏡の報告があった時点から行っている。これ以上は軍の独断になってしまう。それは出来なかった。
建艦計画は前政権の残した大建艦計画に基づいて行っている。出来たのは転移前に制式化した航空機の次世代開発と混沌獣への威力不足が懸念された陸上兵器の開発だった。これには政権の理解も得られ事なきを得た。ダメだったら移住者基金を当てにするつもりでいた。
そんな中、移民担当大臣山下中将は軍から接触を受けた。(注)
「久しぶりですな、山下大臣」
「お久しぶりです。有賀軍令部総長」
「分かっていると思いますが潜望鏡の件でやって来ました」
「はい。警戒態勢に移行ですか?」
「軍は動けません。そちらで勝手にやって欲しいのです」
「交戦権は?」
「現状自衛のみで」
「では既に通常体制から警戒態勢が青になっていますので緑に上げましょう」
「助かります。それと頼みがあるのですが」
「何でしょうか」
「新型機開発は耳にしていると思います」
「良いのが出来ると良いのですが」
「その事ですが、軍いや海軍だな。イカ釣船事件の影響で予算が厳しくて。そちらから援助して貰えないだろうか」
「あの事件は恥ずかしかった」
「全くです。軍令部の風通しが良くなったと思ったら海軍省。たまったものでは無い」
「そんなに厳しいのか」
「現場には風当たりは強くないが、事務方への風当たりはずいぶん強いのです。海軍省は完全に事務方だから、予算折衝も厳しい物が有ります」
「分かりました。移住者防衛力強化のためにも新型機開発は援助しましょう」
「助かります。ありがとうございます」
「実はダンジョンスタンピートの後で陸軍の接触も受けまして」
「ほう」
「戦車を新開発するので力を貸して欲しいと」
「噂によると主力戦車が通用しなかったとか」
「そうです。次に同じ事が起こったときに対処したいが、現政権の軍事軽視では海軍同様予算面で厳しいと」
「では戦車開発に援助を?」
「当然です。開拓者保護も任務の重要な部分です。必要とあらば出し惜しみをしてはいけない」
「今日は良い話が出来ました。次の機会もこう言った良い話が出来ると良いですな」
「こちらこそ」
有賀はその足で航空本部に出向き、移住者基金から新型機開発費の補助が出ると伝えた。
相手が転移前のアメリカくらいの相手だと厄介どころか勝てる見込みも無いが、ディッツ帝国を引き込めばあるいはと考える。その場合にはかなりの技術流出が避けられないが負けるよりはいいだろうと思う。
噂のあの国はいないものとして考えないといけない。軍令部内にはあの国を当てにする部員もいるがいないものとして考えるよう、厳に戒めなければ。
軍令部総長の悩みは尽きない。
潜水艦V-105は無事母港に帰投した。重要情報を持って。
水上排水量五百トン級潜水艦の長距離運用はかなり無理があり、今回の偵察行でも発射管二門予備魚雷四本だが予備魚雷を降ろして食料などの物資を積んでいる。冷凍庫の故障で後半は缶詰と堅パンだけを節約して食べた。商船と出会いその場で帰投を決めたのはこのせいも有った。
建造技術の問題か造船所のせいか知らないが、今回は深度四十で水漏れがわずかだがあった。安全深度は六十メートルのはずだ。
こんな船はごめんだと思うが潜水艦は現在これが主力だ。採用後八年は経つが。
現在開発中の七百トン級では発射管4門、安全深度百メートルとなっている。早く作ってくれと思う。
艦長はそんな事を思いながら現像した写真を持って軍務省海軍部へと向かう。
「グリューネ大尉、この写真は本当なのか」
「それが本当で無ければ何が本当だというのですか。ワグナー大佐」
「商船が二軸ディーゼルで二十ノット近いだと?誰が信じるのか」
「酷いですね。カルス少佐」
「まあ落ち着きたまえ。グリューネ大尉、君はこれが最優先情報だと判断して帰投したと」
「その通りです。大佐」
「この写真のネガは今艦まで取りに行かせている。海軍部情報局が分析する。ただこの煙突と煙の濃さだとかなり性能の良い機関で無ければそんな速度は出ないだろう。と言う事は我が国よりも技術力で上回ると言うことになる」
「信じられません大佐。我が国が世界で一番です!!」
「落ち着け少佐。事実を事実と認めてこそ現実に対処出来る。我々は国家安全機構とは違う」
「しかし、我が国の最新型の商船でもディーゼルで十八ノットが最高です」
「だから落ち着けと。この写真で見ると親子連れなのかこの写っているのは」
「そうとしか見えませんでした」
「では、体格を我々と同じとしてみようか。女性は百六十センチだな。平均で」
「はい、確かそのくらいだったと思います」
「ではそこからこの船の大きさはどうだ?少佐。憶測で良いぞ」
「はあ、そうですね。推測ですが七千から一万と」
「我が国の最新ディーゼル商船は十八ノットでモクモクと真っ黒い煙を吐いているぞ。こっちは薄いな。それでいて速い。認めろ少佐。此奴らの方が上だ」
「悔しいです」
「少佐、もっと現実を認めろ。でないと戦場で死ぬし、作戦を立てる立場になってもろくな作戦は立てられん」
その後、昼食を挟んで話をしていると情報局員がやって来て「準備が出来ました。おそらくゆゆしき問題だと思うので一緒に総統府に向かいます」と言われ、愕然とする。行きたくない。大佐と少佐を見るとやはり同じような表情だ。
情報局員は困ったような顔で「行かないと困ります」と言う。
彼も陸軍と空軍と国家安全機構が支配する魔窟には行きたくないようだ。
海軍であそこが好きな人間は珍しいだろう。
仕事だと言って大佐が促す。
車で着いた総統府はやたら威圧的な造りだった。
「「「ハット、デストラー」」」
総統を前に右の二の腕を水平にやや前に出し手のひらを前にして前腕を垂直に立てる。疲れるポーズだ。
この挨拶は嫌いだ。何で普通に敬礼じゃいかんのかね。四十肩五十肩の奴は泣いてるぞ。
「うむ、良く来た。重要な情報だそうだが」
「はっ、東海域へ長距離偵察に・」
「まあ掛けたまえ、長いのだろう」
「はっ、それでは失礼します」
「お茶を頼む」
「はっ」
「それでは話を聞こうか。参謀長も座りなさい」
「失礼します」
陸軍と空軍の参謀長が居た。これであのピーーーがいれば勢揃いだな。
「どういう情報なのだね」
「東海域へ長距離偵察に行きましたV-105潜水艦が他国の商船を発見しました」
「他国か、商船を使う文明国家が有ったのだな」
「はい、それが我が国よりも技術水準が高いと思われます」
「「おい。冗談は寄せ」」
「ディーゼル推進で十八ノット前後で航行していました。それも船団です」
「でたらめを言うな」
「陸軍参謀長、落ち着け」
「失礼しました」
「こちら今日着いたばかりのV-105潜水艦が撮影した物です。通常の写真と引き延ばした物をお持ちしました」
「それで如何なのだ。我が国よりも優れているという根拠は」
「この排煙を注目して下さい」
「煙か。それが如何したというのかな」
「こちらが我が国最新のディーゼル商船の全速十八ノットでの写真です」
「「「む!」」」
「分かって頂けたでしょうか」
「同じ速度でこんなに違うのか」
「観測を間違えたと言うことは無いのか」
空軍参謀長が聞く。
「V-105の艦長、このグリューネ大尉ですが中々優秀です。視界に入れた時間と角度で計算しています。まず間違いないかと」
「では聞こう。海軍はどう考える?」
「私は海軍の代表ではありません」
ワグナー大佐が答える。
「では君の意見を聞こう。これなら良いだろう」
「では、後数年は国力の向上に努めるべきかと」
「そんな悠長なこと言っている場合か。残された時間は少ないのだぞ」
空軍参謀長が言う。
「まあ君達、落ち着きなさい。では海軍というか君は速やかなるこの世界の支配には反対というのだね」
「まだ数年分の物資はあります。近くに資源も発見されました。今は情報収集に努めるべきかと」
「北で発見された商船は我が国と大差なかったな?ワグナー大佐」
「そう聞いております」
「国旗も違うから別の国か。どうするかな」
デストラー総統は自分の金髪を手でもてあそんでいる。
少しずつ出していきますよ。
どこかで見たようなアレですが、まあアレです。
排煙が薄いのは魔石添加剤使用の為です。使わなければおそらく真っ黒と。
警戒態勢は平時に近い方から
青
ブルー 一週間以上の長期休暇は不可 哨戒レベルを上げるくらい ブルードーム集合なんてね イ-六潜か
緑
グリーン 72時間以内に集合可能な場所にいる事。基地で兵器・資材の即応準備をゆっくりとだが整え始める
黄
イエロー 36時間以内に集合可能な場所にいる事
燈
オレンジ 12時間以内に集合可能な場所にいる事
赤
レッド 臨戦態勢 即応待機
注
いつの間にか首相直轄移民担当官から移民担当大臣にされてしまった。軍部現役大臣制度はなくなって久しいのだが、移住者護衛艦隊は日本軍とは違い独自資金で動いており日本軍とは違う、と屁理屈をこね現役のまま大臣でいる。
日本の兵器関連を二話入れます。
次回 三月十日 05:00予定