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漁業戦艦『信濃』誕生秘話 対カニ戦

サメに続いてカニです。

短編を改修したものです。

読み飛ばしても本編への影響はありません。

 超巨大サメ型混沌獣、ジョ・ウズを撃退して一年。ようやくドックから出てきた信濃。

 ギルガメス王国連邦沖から日本の横須賀海軍工廠まで二ヶ月半、後進でノロノロと進みドック入り。

 途中、南アタリナ島で休養するも艦長を始めとする航海関係者と機関関係者の疲労は大変なものだったらしい。


 艦長は脆弱なバルバスバウでラム戦を仕掛けた事で懲戒処分も有ると考えていたが、有ったのは厳重注意と半年間の減給に、引き続き信濃艦長を務めるべしと言う処分だった。

 最新鋭且つ日本最大の戦艦が混沌獣に食われて損傷した時点で、海軍関係者から信濃は既に厄物扱いだったのだ。


 そんな信濃が、移動で去った乗組員に替わってやって来た新人達の錬成が終わると再び活動拠点である南アタリナ島にやって来た。

 信濃不在の間にはイカ事件など混沌獣関連の事件が少なからずあった。 


 それでも日本は不退転の覚悟でもって混沌獣に対するのであった。ものによっては対抗・管理可能な勝手に増える資源である。資源不足で悩んできた日本からすれば放置など問題外で積極的に関わっていくべき存在であった。


 訓練と南アタリナ島南部の海洋性混沌領域で活動を続ける信濃に再びギルガメス王国連邦沖への出動命令があったのは正和二十五年も半ばだった。


 捕漁船二隻が相次いで沈没。生存者無し。捕漁母船もカニらしき超巨大生物に襲われ積荷の海洋性混沌獣を奪われ船自体も沈没しそうな損傷を負い海域を離脱。後に沈没した。死傷者も多数出ている。


 信濃にはこの超巨大カニを最悪沈めてもいいので退治するよう命令されたのだった。

 もちろんカニである。アレルギー反応を起こす人には悪いが、確保が最優先だったのは言うまでも無い。


 カニが出たのは捕漁船団がシロッキ漁をしていたときだった。豊漁に笑い顔だった連中が恐怖に引きつるまでの時間は短かった。

 聴音機が大きな音を聞いたと思ったらシロッキの群れがいきなり算を乱して散っていった。いきなり捕漁船が一隻転覆した。

 船団長は直ちに対潜警戒を発令。船団は速度を落とし聴音に注意した。一隻の捕漁船から左舷後方から大きな音が聞こえると連絡があった。

 船団長は爆雷戦を許可。探針儀を使用する。そして散布爆雷を発射。吹き上がる水柱。だが効果は無かったようだ。

 探針儀を使用し爆雷を発射した捕漁船が巨大な何かに叩き潰されたのはその時だった。

 アレはこの船団で対抗出来ない。直ちに全船全速で離脱を命令した。ギルガメス王国連邦駐留の海軍にも救援を要請。

 海軍は至急、空母を派遣。艦載機を向かわせるが既に捕漁船二隻は無く捕漁母船は酷く傾斜してノロノロと進んでいるのを見た。重油タンクがやられたのか油の帯を引いている。

 後部の扉は開放され積んでいたシロッキは囮として捨てたと言う。救援と邂逅するまでの支援を要請される。海軍は航空機で近寄ってくる混沌獣を爆撃。近寄らせないことに腐心した。

 捕漁母船はやがて軽巡と邂逅し、乗組員退去の後沈没した。

 死者二百名近く、重軽傷者数十名の大惨事だった。 


 捕漁船団で生き残った乗組員の話を聞くと捕漁船を叩き潰し捕漁母船の船腹を切り裂いたのはカニのハサミに見えたという。


 信濃は対カニ戦に入った。

 再びトローリングである。今度の餌はジョ・ウズの切り身だ。

 航空偵察を繰り返す内にシロッキの群れが発見された。直ちに向かう。上空は駐留海軍の艦載機と飛行艇が援護のため飛びかっている。飛びかっていると言っても元の機数が少ないので常に上空に在るのは数機だった。

 トローリングを開始すると数時間後に浮子が沈んだ。ワイヤーを切り離し全速で回り込む。上空に上げた零式観測機によるとワタリガニに見えると言う事だ。大きさは二百メートくらい有りそうと言う。

 観測機に弾着観測をさせ主砲を撃った。近距離だ外したら恥ずかしい。有効弾は一発と報告があった。後は弾かれたと。いくら着弾の角度が浅いとは言っても三十六センチ徹甲弾を弾く化け物がいた。青白く発光を始めたと報告がある。勝負の時が来た。十斉射ほどすると弾火薬庫から弾詰まりという報告が上がる。新型の自動装填機構のトラブルだ。信管は着いていない無垢玉だから暴発の危険も無いので、装薬のみ格納するよう指示を出す。「ワレシュホウコショウ」「キュウエンコウ」と僚艦の甲斐に要請。甲斐は混沌領域外縁で待機している。ここまで全速でも三時間は掛かるだろう。

 再びラム戦のようだ。前回の経験を元に艦首は強化されている。代償重量として一番前方の高角砲が左右一基ずつ撤去された。

 艦首を向けたい信濃だが、カニの方も向きを変える。中々相対できない。どちらもでかすぎて一回向きを変えると再び変えるのに苦労している。

 甲斐が水平線に見えた頃ようやく機会が回ってきた。勝負だ。機関全速で突入する信濃。ハサミを振り上げて威嚇するカニ。その時とんでもなくでかいハサミに初めて気がついた。艦長が慌てて「機関、十ノットで加速を止めろ」と指示を出す。さすがにアレに高速でぶつかれば艦や乗組員にどれだけ被害が出るか分からない。マズいかも知れない。

 艦長が「でかい奴にぶつける。総員衝撃注意」と艦内放送を出す。機関全速と言っても信濃の巨体なので加速するのに時間が掛かる。ぶつかるまでに相次ぐ変針で失った速度をどこまで回復できるのだろうか。

 イスに座れる人間は座ってベルトをしている。他の人間は何かにつかまっている。

 信濃が八ノットまで加速した時、激しい衝撃が艦を襲った。かましたのだ。

「各部被害報告」艦長が指示する。

「機関、後進一杯急げ」 

 各部から被害報告があるが若干の浸水と負傷者の報告だった。

 艦橋からは浮き上がって動かないカニが見えた。でかい。発光が収まっていて灰色で余り旨そうには見えない。

 信濃がカニから後退で離れる。 

 一千くらい離れて再び前進全速と号令が出た。

 その時カニが再び発光する。

 再度勝負だと思ったらカニに回り込まれた。そしてハサミの攻撃があった。

 カニには、外側百ミリ装甲板を貫通された。その上艦底部をはさみで切り裂かれ、左舷二番機械室全没、後部弾火薬庫全没という、沈没一歩手前の損害を与えてくれた。

 こいつには有効な反撃手段がなく、五十番急降下爆撃でも甲羅にはじかれただけだった。混沌領域外周部にいた第二戦隊を組んでいる甲斐が急行し主砲で甲羅をかち割って沈めた。勿論回収したのは当然だった。

 修理時外側装甲板を剥がしたときに、内側装甲板に大きな亀裂を発見。もう少しで内側装甲板も貫通されるところだった。

 カニは足を広げると体長二百五十メートルにもなる化け物だった。



 海軍艦艇は対混沌獣対策として炸薬の代わりに同重量の砂を詰めた徹甲弾を使用する様になっていた。

 また、海洋性混沌獣の未回収が問題になり、大型の緊急展開フロートが開発されていた。

 未回収とは、海で戦うのである。浮いていれば良いが、沈んでしまう物も多かった。

 回収出来れば大儲けの海洋性混沌獣を、沈むのを眺めるだけだった状態を何とかしようと開発された。

 

 緊急展開フロートはボラールのはらわたを混沌獣素材で袋になるよう接着し、内部にはボラールの浮き袋多数を詰め込んである。

 通常、内部には空気がなく格納状態では長さ十メートル直径四メートルの円筒状である。

 圧搾空気で展開する。展開時は、長さ十メートル、直径二十メートルの円筒状まで膨らむ。

 このフロートにワイヤーを使って混沌獣を繋ぐのである。ワイヤーは遠隔操作の小型潜水艇で混沌獣の下をくぐりフロートに接続する。

 繰り返し利用が可能で在り、この開発によってかなりの数の混沌獣が沈むことなく回収された。


 前述の、ジョ・ウズと今回確認された勇者命名によるド・ウマンも、この緊急展開フロートを複数使うことにより沈むことなく回収された。



 ド・ウマンの肉とミソは海外には出さなかった。当たり前である。ただ、ごく一部が惜しまれながらも海外の皇族・王族に渡った。

 

 このカニ、ド・ウマンを解体するのにボラールの刃物に魔力を通しても歯が立たなかった。

 ジョ・ウズの歯を使った道具でないと解体できなかった。


 肉とミソを大雑把に取り除いた後は、細かくされて直径数メートルの大鍋で煮込み素晴らしいコクと旨味のある出し汁がとれた。摂れた出し汁の量は総量五十万トンに及び、日本全国の食卓を賑あわせた。

 勿論一気に出し汁には出来なかったので、多くは冷凍保存した。

 出し汁は高級カニスープとして海外にも出した。好評であった。


 肉・ミソ以外の甲殻や足・ハサミは、全て出し汁にしようとした日本だが、冒険者やギルドの強い要望で一部が素材として提供された。勿論肉はこそぎ落とした。


 これらカニ素材の売り上げは膨大であり、カニの被害で一年半もドック入りした信濃の修理代を賄ってなお、お釣りが来た。


 魔石はさすがに日本の国庫に納められた。いつか使うつもりである。国宝にはしなかった。



 カニ系混沌獣はその後タ・ラバとズ・ワイ、サンセイ(三つ星)にエイチ(H)が捕獲されたが、攻撃力はド・ウマンには劣り、味もド・ウマンには届かなかった。しかし、超高級品には変わりなかった。武具の素材としては最高級品であったがド・ウマンには劣る。

 現状ではカニ系最上位種が、ド・ウマン。次いで、ズ・ワイとタ・ラバ、中位種にサンセイとエイチとワタリ。ずっと小型になる下位にマネキとイソーがいる。

 過去の勇者によって書かれた書によると、タカアシ元帥なる超巨大カニがいるようだが、目撃したものはいない。



 信濃は、サメ・カニとの激闘後、海洋性混沌獣専門になっていくのだった。サメとカニは国庫に莫大な収入をもたらしてくれた。特にカニ。


 その収入と味は国を狂わせた。海軍に信濃を対混沌獣に特化するよう要請がきた。あくまでも要請ではあるが、半強制だった。


 艦尾にあった飛行機設備を撤去して、クレーンで使うような巨大なワイヤー巻上機を装備。スチールワイヤーの先には緊急展開フロートを小型化したような浮子とその先には釣り餌としてジョ・ウズの肉が錨に括り付けてある。

 ジョ・ウズの肉は魔方陣で強化した冷凍倉庫に保管してあり、十年くらいは品質を維持出来るようだった。保存袋を利用すれば更に持つ。

 大型の混沌獣は素材の劣化が遅く、ジョ・ウズやド・ウマンになると、一年くらいは平気で常温保管出来た。


 ワイヤーは急激な引っ張りによって切られないように、カタパルトの代わりにアームを設置。アーム先端からワイヤーが流れ出るようになっていた。アームは空気式と油圧式のダンパーを使用して衝撃を吸収するようになっていた。口の悪い連中は釣り竿と呼んだ。正式名称は衝撃吸収機構付き可倒式デリックである。


 他にも上部重量軽減対策として、使う見込みのない一式12.7センチ連装高角砲半数を撤去、主砲を三連装の中央1門の撤去。この主砲1門の撤去は大幅に導入された機力装填機構の調子が悪く、連装なら実力発揮出来るのであるが三連装だと途中で詰まるのであった。表向きは軽量化のためだが、実際は継戦能力の維持のためだった。中が抜けて見た目が悪くなったので、張りぼての砲身を付けた。

 一式12.7センチ連装高角砲の後には、わざわざ旧式の12.7センチ砲を両舷に連装四基、海面打ち用に改造して搭載した。他の砲座には三式対潜迫撃砲を両舷二基ずつ搭載。残りの砲座は将来余地とされた。

 両舷舷側に爆雷投射器も搭載した。


 カニにやられた修理と改装が終わったときが、信濃が漁業戦艦になった瞬間だった。信濃を支援するために雲龍級空母一隻と対混沌獣用に強化された軽巡一隻や駆逐艦二個駆逐隊と回収用の母船等で艦隊を組んでいた。船団だろうという声に対しては断固として艦隊であると答えた。実際、海軍の編成表にも海洋性大型混沌獣対策艦隊として正式に載っていた。


 信濃の漁獲量はめざましく、国庫に膨大な収入をもたらしてくれた。建造費の元も取れたようである。

 一部ではサメの歯や皮、カニの甲羅などの供給過多で値崩れした物もあり、冒険者向け素材の市場への放出には慎重になった。


 信濃は建造以来、他国との戦闘には参加せず、東鳥島南方の小規模海洋性混沌領域と東大陸西の大規模海洋性混沌領域にて主に活動。同海域では守り神と言われた。


 

食いたい。どんなに旨いのか。

漁船では無く漁戦です。

漁業戦艦はバロン吉本作「どん亀野郎」の言わばオマージュです。


最終章は三月七日から投稿開始します。時間はいつも通り05:00予定です。

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