エンキドダンジョン 秋津口 ただ今遊ばれ中
秋津口のその後です
エンキドダンジョン秋津口は日本軍秋津口専従部隊で賑わっていた。
専従部隊が必要なのは余りにも異質だからだ。
お笑いの要素が必要と判断され、ここに配属を受ける前に国内各演芸場でお笑いを通算で一ヶ月ほど鑑賞するという有難いのか迷惑なのか分からない講習が発生する。
漫才から奇術、講談・寄席まで多岐にわたる。
更に将校は歌舞伎鑑賞の他、能や浄瑠璃・狂言まで加わる。
下士官には、サーカス見物や各地の伝統芸能を学ぶことが課せられた。
将校・下士官は、兵よりも一ヶ月は余計に掛かった。
それを通常の訓練や軍務を挟んでやるのだ。
最初の一個小隊は、配属されるのに四ヶ月掛かった。
この研修が後に日本の芸能文化の継承と研究に大いに役に立ったのは怪我の功名みたいなもので、意識して行われたものでは無かった。
その間、ダンジョンのマッピングが行われた。最初にここへ来ていた部隊の残りと補充された九名に海軍陸戦隊の八人だ。
ムカライは止めた方が良いと言っていたが、その後の調査で危険度小であると判断されムカライも一層のマッピングに同意した
当初もっと人数を掛ける予定だったが、山東半島のダンジョンの現状が知らさると秋津少将の判断で中止された。
冒険者も危険度の高いダンジョンに入りたくない人間のみがここに残った。このダンジョンに通算一ヶ月以上入った冒険者は他のダンジョンへの進入が禁止された。日本で設立されたエルラン冒険者ギルドの判断だった。
エルラン冒険者ギルドの本部は山東半島に有り、開拓地の中に作られた都市エルランに置かれた。エルランは今は亡き帝国の名前で忘れないようにと思いを込められた。
日本軍秋津口専従部隊
部隊長 神田雅弘少佐
副官 アドルフ・馬羽大尉
他支援八名
陸軍攻略部隊
隊長 宮田中尉
副隊長 芸鈴具中尉
部隊副官 原田少尉
砂田二曹
向井三曹
山田兵長
ロンメル上等兵
荒井上等兵
加藤一等兵
海軍攻略部隊
部隊長 中川少佐
副官 中山中尉
陸戦隊
隊長 近藤中尉
先任 太田少尉
笹本曹長
木田一曹
本山二曹
鈴木兵長
田中上等兵
川村一等兵
一層のマッピングは終わった。
そう、つもりでいた。
二ヶ月後に部屋が違うとはどういう事だ?幸い通路は同じなので道順は困らない。ただ部屋が変わることが有るのだ。通路が変わらないと誰が言えよう。
これが原因で過剰なまでに補給品を貯め込むようになった。
一層のマッピング終了時点で各自拡張袋[小]を二個持っている。その中に弁当入れや各種保存袋を入れてある。
拡張袋1には予備の小銃と弾薬、鉈などの副武装。保存袋。保存袋の中身は水・保存食や薬品などの医療品と着替えの他、経時変化が少ない事が求められる資材を入れている。
拡張袋2には寝袋、テント、天幕、携帯魔道コンロ等野営用資材を入れてある。保存袋の中身は水・保存食や薬品などの医療品と着替えの他、経時変化が少ない事が求められる資材を入れている。
それぞれに弁当入れに入れた熱々の飯やおかずが入れてある。着替えなどもそれぞれ入れてある。水は一日二リットルが飲用として定められた。体を拭いたりする雑用水は各自判断だが最低一日四リットル以上とされた。
なんだかんだで二週間分の資材をそれぞれの拡張袋に収めた。都合一ヶ月はダンジョン内部で活動できることになる。
一年分の資材を入れてあるというムカライに比べれば可愛い物だった。
幸いだったのは未使用状態の拡張袋は拡張袋内に収納出来た事だ。未使用状態は中身を入れていない状態だ。
拡張袋に入れてはいけない物として常時携帯を義務づけられたのが小銃と銃剣、鉈などの副武装。小銃弾五十発、手榴弾二個。水筒二個。二食分の食料。救急用品。寝袋。寝袋は背嚢内のクッション代わりだ。
もちろん鉄鉢は被っていく。日本陸軍自慢のクロームモリブデン鋼ヘルメットはやや重いのが難点で有った。
連続での攻略はすぐにアイテムの減少に繋がり同じ部屋は五日おきという原則が出来た。二日おきでアイテムが復活するのだが、二回も繰り返すと出が悪くなる。五日おきなら大丈夫だった。
彼等がもたらしたダンジョンアイテムは山東半島の攻略、特にダンジョンの攻略には重要な役目を果たしている。
ダンジョン探索は困難を極めた。今までのダンジョンの常識が通用しにくい。特にムカライが嘆いたミズスマシカクセイ対策だ。日本の早口言葉などこの世界ランエールで分かる人間がいたら日本人だけだろう。
通常の攻略では無理でムカライでさえ力業で仕留めたという。それを早口言葉で弱体化させれば誰でも討伐可能など分かるか!
リアクションやボケが気に入らない時は天井から大型ハエ叩きが出現して部屋から文字通り叩き出されるのだった。
通路の場合は押さえつけられてベシベシされるという屈辱もある。
リアクションやボケが受けたときの見返りは大きく小だった拡張袋は中になる事もある。薬草もランクが上になったりする。トキワ草テヅカ種が出たときは踊りそうだった。この時は陸戦隊の近藤中尉が『コンドーです!』とやって受けたのだ。他の人間がやっても受けないどころかハエ叩きの刑に遭った。
最高だったのは陸軍の加藤一等兵で、何か音楽が流れてピンクの照明が照らされたときに『ちょっとだけよ』と言ったのだ。
見事、拡張袋[大]を手に入れた。
ひょっとして寝転んで片足を挙げて手を添えれば特大が出たかも知れない。
これも真似をしたがハエ叩きの刑だった。どうもタイミングがあるらしい。
何でこれでと思ったのが、荒居上等兵の時だった。水が落ちてくる部屋で水を被ったときに『なんだバカヤロー』と言ったのだ。これでポーンと言う音と共に保存袋[中]時間経過一千分の一が出た。
他の人間はハエ叩きの刑だった。
やはりタイミングが重要なのだろう。
攻略部隊では感状は部隊へのものとして個人には出さないようにして貰った。その代わり特別善行章の授与や除隊後の待遇等の見返りを付けて貰うよう上層部と協議の上で合意した。
加藤一等兵の場合はギルガメス王国連邦であれば、貴族への叙爵と年金だが日本軍としての業務であり昇進など一切考慮されなかった。これは後に続く面々が無理をして怪我をしたりダンジョンに気に入られなくなるのを防ぐ狙いもあった。
加藤一等兵には特別賞与数年分と除隊時進級が約束されたという噂だった。定かではない。
数年後、この部隊には頻繁な転属が無いと言う噂が立ち安全第一で行きたい将校には人気が出る。出世欲の強い人間には人気が無かった。本土から遠く離れて帰郷機会も少ないので家族持ちにも人気薄だった。
二ヶ月で部屋が変わる(恐らく神や見えざる者達が遊んでいる)ダンジョン。
このダンジョンに慣れてしまうと他ダンジョンでは平気で死ねます。
次回は、艦船関係かな。
次回 二月二十九日 05:00予定