山東半島 スタンピート 始末
スタンピートは今回で終わりです。
現場は酷い物だった。
最初はお互いに統制が取れていたので混沌獣の死骸も纏まっている。死骸も酷く傷付いた物は無く素材の回収も容易と思われた。
最後は狂乱だった。戦車砲でオークを打ち抜いたので上半身がバラバラに飛び散っている。魔石などかけらも無い。
多数の小銃弾で見るも無惨なケンネル・ハイシシ・ハイドッグ。
突進が止まってからも撃ち続けられてボロボロのグレーボア。
サイモスの一部は倒れてからも戦車砲が撃ち込まれ皮を大きく使えるかどうか分からない。
元がなんだったか分からない物もある。
その中を回収部隊が幾つかに分かれて回収作業を行っている。軽輸送車が走り回っている。最初は注意深く走っていたが遂には血飛沫をまき散らし肉片を挽きつぶしながら走っている。
日本軍は新兵はもちろんのこと、ある程度の経験者でも体調を崩している。そこら中にゲロが散らばっている。
冒険者も三級以下の連中は同じだった。特に一級二級の連中が酷い。素材の回収のみ、戦闘無し、日当多しに惹かれてやって来たのだろうが予想外につらい作業になったようだ。
中でも一頭のサイモス上位種の解体は注目された。目の前で戦友を食われた日本軍が戦友を出来るだけ回収したいと言っている。
もちろん日本軍にはサイモス上位種の解体技術は無い。内臓をやらせて欲しいと言ってきた。これはギルドの解体職人も断れなかった。現場ギルド長の了承を得て日本軍に恐らく居るであろう胃袋を渡す。時間的に腸までは行っていないはずだ。
日本軍遺体回収班は両手を合わせ黙祷した後、胃袋を切り開いた。
何人かがその瞬間戻した。耐性が強いはずの軍医でさえ両手を膝に付け上体を支え耐えている。
軍医はそれでも立ち上がり、認識票のみ回収した。遺体は軍服も溶かされていて軍人手帳も無く個人の特定が出来そうに無かった。
その後荼毘に付すため遺体を出来る限り回収した。
遺体と認識票に対して回収班全員が敬礼をした。
「そうか、認識票だけか」
真田司令官が確認する。
「はっ、遺体は個人が特定できる状態では無く本官の判断にて認識票のみの回収としました」
軍医であった。
「聞くが報告を受けている人的損害は戦死四十八名で間違いないな」
「本日になり十三名が息を引き取っております。合計で四十八名です。また現在三十七名が重傷となっており意識不明の六名は大怪我用魔方陣に入ったまま。残りの三十一名が様子を見ながら大怪我用魔方陣と怪我用魔方陣の間を行き来しております。その三十一名は回復見込みがありますが・」
「六名は難しいのか?」
「本官の見立てでは。この世界の薬品の威力は凄い物がありますがそれを持ってしても後は患者の生きようとする力だけかと」
「現状は分かった。残りの軽傷者は問題ないのだな」
「ありませんが、従来の医療であればまだ重症で入院という者も多く廃兵も出ております」
「どういう事だ?」
「ひょっとして治るのが早すぎて、計数に入っていないのでは」
唐沢参謀長が発言する。
「そうです。あくまでも現在の重軽傷者であり、既に治癒した者は入っていません」
「ではその軽傷者も従来であれば重傷者だというのか」
「間違いなく。単純骨折であれば従来はギプスが外れるまでおよそ四週間ですが、こちらの薬と怪我用魔方陣を併用すれば一日で治ります」
「とんでもないな。早いとは聞いていたがそんなに早いのか」
「はい。ですから指の切断であれば既に治癒しております」
「そうか。それも問題だな。負傷後の処遇が問題になりそうだな。参謀長、参謀達に案を出させてくれ。この部隊は半ば独立しているようなものだ。贅沢にやっていい」
「了解しました」
「軍医殿もご苦労だった」
「はっ、失礼します」
解体現場となった戦場跡では、多くの人間が動いている。一番忙しいのは肉を回収している人間だった。早くやらないと温度が高いために腐ってしまう。大型種以上なら二・三日持つのだが、中型下位以下は急がないと腐り始めてしまう。初日に撃破された個体はすでに腐り始めた個体もあり、それらは魔石を取った後全て焼却とされた。肥料にするにも腐りかけは良い肥料が出来ないらしい。
もちろん保存袋もあるのだが、東大陸と違い場所的な問題も有りダンジョン探索が盛んではない南大陸の人間は高性能な保存袋や拡張袋を余り持っていない。
それでも魔道具職人の作った時間経過五分の一程度の袋に足の速い物から入れて後方へと送る。肉屋は忙しいだろう。肉不足の開拓地では喜ばれるはずだ。
そんな中、ケイルラウは嬉々として上位種の解体をしている。何故かクロも手伝いに駆り出された。他にもカラン村から何人か来ている。ドワーフは全員来た。
拡張袋の持ち主は引っ張りだこであった。ムカライのように大を二つ持っている人間などはいないが中や小を持っている人間もいて協力をさせられている。中身は日本軍の監視の下厳重に保管するという条件で空にして貰った。
ムカライも協力した。ついでに使っていない時間経過五百分の一と言う高性能な保存袋も貸し出した。
陸軍はギルガメス王国連邦にある秋津口ダンジョンで入手した拡張袋や保存袋を全部投入した。
無論それだけでは足りない。腐らせてしまうならばということで展開している部隊や冒険者は肉祭りである。ただ解体に参加している人間は参加自由とした。
二日後ようやく解体は終わった。後は焼却するための人員と警戒要員を残して撤収だ。皆酷く臭いので鉄道は無蓋貨車に乗せられた。温泉でさっぱりする。通常は有料だが、今回は無料とした。温泉は宿の分だけでは到底足りず、野戦用の簡易風呂に温泉をひっぱてきて大人数に対応している。
今回は従来の記録に無いほどの規模で起こったダンジョンスタンピートで有り、特異なケースと見られた。少なくとも持ち出すことが出来た資料には無かった。
今回のダンジョンスタンピートでもたらされた損害は
日本陸軍
戦死者 五十二名
負傷による除隊または後方勤務要員化した者 二百六十三名。
精神的に軍務の継続が無理と判断された者 八十六名
冒険者
死者 六名
負傷による引退 十名
精神的に引退をする者 十六名
スタンピートの規模から言えば非常に少ない損害だと冒険者ギルドは言うが、それでも大きな被害をもたらしたのだった。
得られた素材の中でも上位種や大型種の皮は医療用魔方陣の材料とされた。
その他は武具の材料として欲しい部分が有れば冒険者に支給された。これは依頼主が日本軍で有り素材は一括で管理するとされていた為。
オーガ上位種は前面に出ていた二体の他にもう四体確認された。ただ現場の声を聞くと七五ミリ戦車砲で始末できたという。あの二体は特別なようだ。
サイモス上位種も同様で異常に打たれ強かったのはあの一体で他の十三体は七五ミリ戦車砲数発で始末できたという。
このオーガ上位種とサイモス上位種の素材は別途保管されたが冒険者が主力で倒した事もあり、素材の提供は行った。
終結より一週間後、ギルドにダンジョン探索依頼が出た。依頼者は日本政府。
距離が結構有るが、道路を鋭意造成中である。また、日本政府から拡張袋や弁当入れを始めとする保存袋多数が貸与された。
この拡張袋や保存袋はギルガメス王国連邦で活動中の部隊が入手した物である。
探索依頼掲示後、多くののチームやクランが依頼を受けようとしたが、経験不足などの理由でかなりの数が受けることを許されなかった。
結局、ギルガメス王国連邦に行ったときのようにムカライが中心となって臨時クランを結成。簡易な探索をする事に成った。ダンジョン内の混沌獣を間引くような本格的なダンジョン探索は人材が育ってからとされた。
ダンジョンの攻略。つまりダンジョンコア破壊はダンジョンが増えるという現象を起こすので禁止された。攻略した者には極刑が待っている。
この事件は国内を騒がせたが南アタリナ島を含む旧日本領には混沌領域もダンジョンも無いと言う事で多くの国民は安心した。
後数話間話を書いて、外地交流編は終わりです。
次章は最終章となります。
多少派手になる予定ですがどうなんでしょう。
あの国も参加か?
次回 二月二十七日 05:00予定