山東半島 スタンピート 終焉
スタンピートの終わりです。
光るアビゲイルは?
光り輝いて後、龍人となったアビゲイルが無傷なオーガ上位種に対して攻撃を始めた。
剣では無く槍でも無い。パンチ・チョップ・キックであった。
オーガ上位種も負けてはいない。繰り出される攻撃に的確に反応しているように見えた。
だが見えただけだった。
アビゲイルの一発はオーガ上位種のガードを弾き次の一発で腹に決まる。オーガ上位種の繰り出す金棒はアビゲイルがガードして届かない。だんだん不利になり追い込まれていくオーガ上位種。
オーガ上位種が反撃も出来なくなり防戦一方になった。
そして、遂に必殺技が出た。
『ドラゴン・ロア』
アビゲイルが宣言して口が開いた。開いた口の前面に光の粒子が発生した。光の粒子が濃くなっているのか派手に明るい。アビゲイルの体自体も青白く発光している。
オーガ上位種もバカでは無い。反撃に出た。しかしアビゲイルには金棒が通用しなかった。通用しないどころか折れ曲がってしまった。通用しないと分かってからは逃げる。だが、アビゲイルはそれを追わない。まるでこれで終わりだ。俺にこれを使わせた以上、逃げられはしないと言っているようだった。
オーガ上位種がアビゲイルから二百メートルくらい逃げただろうか。五秒も掛かっていない。凄い運動能力だ。
そこまでだった。
ひときわ輝いたアビゲイルから光の筋が走った。
オーガ上位種の頭を貫通して更にその向こうの有象無象を貫通していく。
オーガ上位種が一匹討伐された。
残りの奴は片腕を切り落とされ寄って集ってタコ殴りに遭っている。
そして残りの奴も倒された。
安心したその時だった。
「ヴァウォォ--」
一頭のモスサイ上位種が残っていた。
一式中戦車の七五ミリ砲が火を噴く。九十七式中戦車の五七ミリ砲も火を噴くが通用しない。
周囲ではオーガの上位種二匹の死亡で混乱していた混沌獣が今の一声でまた整然と動き出した。
モスサイが近寄ってくる。速い。オーガの全速と変わりない。それにあの質量だ。戦車もひとたまりも無いだろう。
撃ちまくる一式中戦車。全力で後退していく九十七式中戦車。
オーガ上位種を倒した冒険者の魔法が飛んでくるが戦車に一目散だ。
二十両の一式中戦車から集中射を浴びてもひるまず戦車に向かっていく。
狙われた戦車も全速で前進して体当たりに行く。
そして一両の戦車が弾き飛ばされた。
三十トンを超える戦車がぶちかましで負けた。八〇ミリの前面装甲がひしゃげている。アレでは乗員の命はあるまい。
モスサイ上位種は再びい勢いを付けるべく一時離れる。
それでも残りの戦車は撃ちまくる。
魔法も飛んでくるが、弾かれているようだ。剣士は砲弾の中にはさすがに飛び込めない。
その時モスサイの巨体のそばに着弾があった。
モスサイ上位種は気にせずに次の獲物めがけて走り出した。
その時着弾があった。だが、そこにはもう居なかった。
撃ちまくる戦車砲によってようやく出血し始めたモスサイ上位種。だが突進は止まらない。
次に狙われた戦車は後進を選んだようだ。撃ちながら後進で逃げるが時速百キロくらいは出しているモスサイ上位種に追いつかれ激突された。
角が車体下面に入ったと思ったら戦車が跳ね上げられた。
五メートル近く跳ね上げられた。砲塔を下に地面に落ちる。衝撃で砲塔が外れ車体は横倒しになって止まった。
モスサイ上位種がそれを見た。
そしてその短い鼻で乗員を吸引して引っ張り出した。まだ息があるのかわずかのに抵抗する。
((((止めろ!!))))
誰もがそう思った。
そして食べた。咀嚼する。そして飲み込んだ。
次の乗員を引っ張り出している。戦車の砲撃が始まったが気にせず二体目の乗員を食べた。
そこへ着弾があった。今度は先ほどの着弾よりも大きな土埃が上がった。十五榴だ。対混沌獣対策の無垢弾なのだろう。爆発は無い。十メートルほど離れた。
一式中戦車が離れていく。
モスサイ上位種は気にせず三人目の乗員を引っ張り出す。食べた。
そこに着弾が集中した。砲兵部隊の十五榴と十加の集中射だ。残りの一人が気になるが食べられるなら介錯をと言う事なのかも知れない。
しばらく激しい土埃で視界が悪くなるほどの砲撃だ。
やがて砲撃が止んだ。
ボロボロになったモスサイ上位種が立っていた。まだ動いている。戦車砲が一連射浴びせられ、そこに冒険者が突撃した。
よろよろとしているモスサイ上位種。魔法と重戦士のハルバードが打ち付けられる。光を纏って飛んでくる矢。
悲鳴を上げるモスサイ上位種。
その短い鼻を振って叩きつけようとするが盾に阻まれシールドバッシュを受けて反対に弾かれる。
弾かれた鼻を剣士が切りつけるが、浅い傷しか付けられない。
それでも徐々にモスサイ上位種の体力を削っていく。
後ろ足の膝に打ち付ける鎚。尻尾を切り落としたハルバード。徐々に切られていく鼻。
遂に足を折ってへたり込んだモスサイ上位種。
もう頭と鼻を振って抵抗することしか出来ない。
目に矢が突き刺さった。
ひときわ大きい悲鳴を上げるモスサイ上位種。
そこに矢をめがけて雷光が飛来した。矢はドワーフ特製の鉄の矢だった。
動きが止まったモスサイ上位種。だがまだ生きている。麻痺しただけなのだろう。
そこへ鉄の矢めがけて打ち下ろされる鎚。矢が更に奥へと進んだ。
また電撃が飛んだ。ビクッとした後動きを止めるモスサイ上位種。
遂に倒された。
歓声を上げる冒険者達。
ハッチを開けて身を乗り出す戦車兵。唖然としている。周囲ではまだ戦闘は続いているが上位種が全て倒されたのだろう。烏合の衆でしか無かった。
航空偵察では三ヶ所のダンジョンからの流出が止まったという報告があった。また近くに発生した混沌領域からも出てこないと言うことだ。
その翌日、スタンピートであふれ出した混沌獣は全て殲滅された。統制する上位種が居なくなったのでかえって散らばってしまい時間が掛かる。その上夜間も襲ってくる。夜通しの戦闘になった。
殲滅が確認され、前線で戦った部隊や冒険者と入れ替わりに後方から後始末という地獄に動員された部隊や低級冒険者がやって来る。全員で一千五百人ほどだ。後方に避難していたブルドーザーやバックホウもやってきて穴を掘り始めた。盛大な火葬場を作る。
スムーズに解体をするために解体要員の内、冒険者全員にボラールのナイフが貸し出された。貰えたと思って喜んだ冒険者もいたが貸し出しと聞いてがっくりしている。
軍が解体するのは、山になった奴。低級冒険者が解体するのは昨日から今朝に掛けて殲滅された混沌獣とされた。これは経験の少ない若手に解体経験を積ませようという事から出た区分けだ。実際には金の無い若手に収入を掴ませることであったが。
時々生きている奴がいるので要注意だが、たいていは力尽きかけている奴なのでその場でぶっすりだ。
希に生きのいい奴がいても多勢に無勢でやられてしまう。
それに五級冒険者が所々で監視している。手に負えなくてもすぐにやってきて片付けてくれる。
難しい解体はギルドから来た職人が行っている。また解体指導もしている。
軍の方は十三連隊の面々が暇だというしょうもない理由で監視役を買って出た。実際、後方で待機しているだけで暇であった。遂に戦線は破られなかったのだ。
解体で残すのは魔石と、肉、皮と大型種以上の牙や爪だった。肉は最初の戦闘日の奴は腐っているといけないので処分する。
二日目の奴もグレーウルフ以上のクラスだけ確保して後は焼却処分だ。
最終日から今朝までの奴は全て確保とした。
共通しているのは内臓で、全て確保の後選別。いらない奴は肥料となる。
「損害は、軍が三十四名、冒険者が五名か」
真田司令官が確認する。
「はい。最終日だけでした。それまでは上手くいっていたのですが」
唐沢参謀長だ。
「映画を見たが、あのモスサイ上位種はとんでもないな。戦車を吹き飛ばすし、潰してしまうし」
「それですが、東鳥島ではそんな威力は無かったそうです。十三連隊の連中に確認しました」
「ではあいつは特別な個体だったのか」
「そう考えないといけないと思います」
「七五ミリ戦車砲では威力が足りなかったと報告が上がってきている」
「東鳥島では通用したそうです。十発くらい当てれば倒せたそうです」
「そうだよな。こちらもそのつもりで準備をした」
「想定外では済みませんな」
「そうだな、経験不足の一言に尽きる」
「そう言えば、冒険者の代表が先ほどやってきましてオーガ上位種は普通では無かったと言っておりました」
「奴も特別な個体か」
「そのようです」
「なんで差が出たのだろう」
「村長とムカライ殿が言うにはダンジョンが溢れたせいでは無いかと。それまで時間が掛かっていれば強くなっていても不思議では無いと」
「蠱毒なのか」
「分かりません。ただダンジョンのスタンピートの混沌獣は強いと文献に有ったと。後は、ダンジョンボスの可能性が有ると言っておりました」
「ダンジョンボス?」
「はい。ダンジョンを支配するものだそうです「表に出てきたのは暴食王になるためだったのだろう。今ならダンジョンが弱体化しているかも知れない」とも」
「そうか。参謀長、ギルドにダンジョン探索と間引きの依頼を出してくれ。予算は問題ないはずだ」
「当面は三ヶ所のダンジョンでよろしいかと。後は道路整備もしておきましょう」
「そうしてくれ。全く困ったものだ。知らないことが多すぎる」
「まだ十年も経っていません。五年ですよ」
「そうだ、五年前はアメリカが仮想敵国だった。ソビエトと共産中国もな」
事後処理は人数を掛けただけ有って順調に進んだ。そこら中で焼いている煙が上がっている。
「エルクよ。お前さんも参加しないのか」
「何がだ。焼くのか」
「そうだ」
「止めてくれ。日本がよく燃える油を使っている。ガソリンと言ったな。伐採してきた木を井桁に組んでそこに死骸を放り込んでガソリンを掛けて火を付けた。よく燃える。私の出番では無い」
「まあ楽でいいがな。それよりも、あの三匹だ。異常だったな」
「そうだな。私はダンジョンボスでは無いかと睨んだ。日本にも伝えてある」
「ボスか、確かにありそうだ。それが三ヶ所の近隣ダンジョン連動というのが気になるが」
「悪いことの先触れで無ければ良いが」
「全くだ。あと五十年もすればお互い墓の下だろう。それまで平和で居てくれれば」
「酷い奴だな。賛成はするが」
その後も話し込んで後始末は若い奴らに任せてゆっくりするのだった。
あっけないかも知れませんが、こういうモノだと思います。
アビゲイルの発射シーンはアレを思って下さい。
発射準備に入ると発射口の前に光の粒子が現れるアレです。
おふざけで技名を『波動・ロア』にしようかと思いましたがとどまりました。
いつか『波動・ロア』と言う技名で発射してみたいですよ。別の話でですね。
後一話始末記を書いて、閑話を数話上げます。
その後最終章へと移行します。
次回 二月二五日 05:00予定