山東半島 スタンピート 困難
オーガ上位種登場
分かる人には分かるという小ネタがあります
ただ元の小説を読んだことの無い人には分かりません
視界は悪かった。
二日間の会戦に於いて出来上がった混沌獣の死体の山が邪魔をする。
片付けようにも戦線が近すぎて出来ない。
一五榴で吹き飛ばそうという意見は
「誰が後片付けをするのだ」
「お前が言い出したんだからお前がやるんだろうな」
「ウチの部隊は出さないぞ。東鳥島で迫撃砲に吹き飛ばされた混沌獣の始末が大変だったんだからな。何人後方送りになったか分からん」
「そんなに大変なのか」
「モツが飛び散っている。物凄く臭い。それがあの気温で腐るんだ。まだ肥溜めに浸かる方がましかも知れない。ここだってすぐに腐る温度だ」
「すまん。前言を撤回する」
「「分かればいい」」
小銃弾や機関銃弾で傷付いた内臓は有るだろうが、バラバラよりはましだ。ただ、上位種や大型種が出てくると贅沢は言えない。戦車砲で飛び散ることになるだろう。
しかし、たった数日で東鳥島の数ヶ月分の魔石と思うと後始末はほんとにいやになる。
その前に上位種を何とかしないといけないのだが。
昨日の夕方、東鳥島やギルガメス王国連邦からの増援が到着した。
ムカライはエルクやケイルラウと旧交を温めている。
「教頭ともあろう者が、この程度の奴らを殺れんかったのか」
「フン、あの山があの向こうにもう一つある。合わせて三千を超えるだろう。一千くらいなら殺れるが殺った後で三日は使いものにならん」
「衰えたもんだな。焼却とか言われたくせに」
「よせ、大昔の話だ」
「焼却ですか?聞いたことがありませんね」
「ケイルラウか、知らなくていいぞ」
「いや、お嬢さん。聞いておいた方が良いぞ。こいつはな、ケンネル一千匹ほどのスタンピートの群れを纏めて火葬にしやがった。素材も取れないほどにだ。残ったのはボロ屑みたいなサイモスとケンネル上位種だけだった。七級当たりでも簡単に倒せたな。その後始末の大変な事。外側は全部ダメだな。サイモスの肉も焼けてしまっているし、魔石くらいしか取れる部分が残らなかった。一級二級の奴らは魔石取りの仕事で潤ったが、動員された上級冒険者は楽しみにしていたサイモス焼き肉大会がお流れになった上に素材も採れん。皆ブ-たれたな」
「ヘー。知りませんでしたよ。教頭」
「若い頃は誰でもあるだろう。些細な事よ」
「その後始末をオレと二人でやらされたんだ。焼いてしまえと」
「お前、一回しか焼かなかったな」
「焼くのは苦手なんだよ」
「教頭、どのくらい焼いたんですか」
「三回だ」
「それで焼却ですか」
「そうだよ」
「拗ねないで下さい」
「まあ昔話は止めよう。お前も色々あるからな」
「オレはそんな無様な二つ名は頂戴しなかったぞ」
「洪水」ポソッと
「何だと」
「何回も水魔法の加減を間違えて混沌獣ごと仲間を流してしまったな。付いた渾名が「洪水」」
ププっと笑うケイルラウ。
司令部では真田司令官が上級指揮官を集めて会議を行っていた。
「応援の冒険者は皆上位の冒険者だ。大型種と上位種を相手にして貰う」
「我々日本軍は中級以下を相手に無双すれば良いのですね」
「無双とはいかんな。今日は数十人の負傷が出ている。危ない奴もいた。幸いにして大怪我用の魔方陣が有ったから命が助かったようなものだ。無ければ十人程度は死亡していたと軍医から報告があった」
「失礼しました」
「相手を侮るなよ。どんな牙が有るか分からん」
「はい」
「真田司令官、我々十九連隊はどこに布陣しましょうか」
「十九連隊はすまんが後詰めだ。中級以下を殲滅した後の前線で冒険者が突破されんとは限らん」
「了解です」
東鳥島の十九連隊から分派されてきた部隊の先任指揮官である、三田麻伊矢少佐が疑問と回答を得た。
シェーンカップ少佐と亜天慕楼少佐はその指揮下に入るよう八雲少将から指示を受けていた。
三日目の戦いが始まった。今日もケンネルを先頭に突っ込んでくる。小銃と軽機関銃で始末をしている。まさしく始末だった。一日目の始めの頃は魔石をと言う考えで頭を狙う余裕が有った。そんな余裕は一時間もしないうちに無くなった。
後はひたすら弾を叩き込むだけの作業だった。自動小銃で良かった。五連発ボルトアクションの六十七式小銃だったらとっくに前線を突破されていたかも知れない。
そんな戦闘の中、死体の山が揺れたと思ったらそこからグレーボアの群れが突進してきた。その後ろにはモスサイがいた。歩兵支援の装甲車から三式重機関銃の火線が伸びる。三式軽戦車はモスサイに三七ミリ戦車砲を叩き込む。
グレーボアとモスサイが倒れるまでに数十メートル接近されてしまった。
モスサイの巨体の陰からハイドッグやハイシシ、コーチン、ウザミの小型で速度の有る狙いが付けにくい混沌獣が迫ってきた。その後にはグレーボアやグレーウルフが続く。
混沌獣が、いや上位種が戦術を使ってきた。誰もがそう思った。
「偶数分隊着剣」
「「了解!!」」
日本軍は部隊の半分に着剣をさせ部隊の半分に着剣をさせた。
着剣までの時間、火線が弱くなる。その隙に更に近づいてくる混沌獣。
盛んに小銃弾を浴びせるが的が小さくて動きが速い。如何にケンネルが銃の前にはカモか良くわかる。
「奇数分隊下がれ。格闘戦部隊前進」
「奇数分隊後退だ。急げ。道を塞ぐなよ」
「「おお!!」」
遂に一部戦線で小銃部隊の阻止線を突破され遂に格闘戦に持ち込まれてしまった。
短槍・斧・鉈・剣・強化棍棒で武装し盾と防具を装備した格闘戦部隊が前線に立つ。
「偶数分隊、後退」
「了解」
偶数分隊は先に後退した奇数分隊と合流し部隊の再編を急ぐ。
格闘戦部隊が前線に出でるまでに二十人ほどの負傷者が出た。突進を喰らったようだ。いずれも骨折のようだ。グレーボアに吹き飛ばされた兵は意識が有るのか分からない。ハイドッグの噛み付きは戦闘服で防ぐことが出来た。グレーフルフの噛み付きは強烈だ。戦闘服では防げなかった。骨まで達する咬み跡が付いている。それでも喉を守って腕を出してのだろう。いい判断だった。
衛生部隊は忙しくなった。軍医は昨日の重傷者の内、もう一般看護でいいだろうと言う見極めをして六名を大怪我用魔方陣から出した。代わりに三名の意識不明負傷者が大怪我用魔方陣のお世話になる。他は薬草ベースの塗り薬やポーションと普通の怪我用魔方陣だ。
大怪我用魔方陣は部隊に十三枚が有るだけだった。稼働用の魔石は奢っている。東で捕れたというシロッキの魔石だ。この魔石一個で数十名の命が助かるだろう。誰が十三枚目のお世話になるのだろうか。軍医は不謹慎な事を思った。もっとも光学異性体は治せるかどうか知らないが。
だが他の戦線も阻止線を突破されたという情報が入ってきた。
気合いを入れ直す衛生部隊だった。
三日目の午後、日本軍は更に増援が来た。射撃戦でやれる場所に通常の歩兵を配置して、強化歩兵は格闘戦部隊として応援に入る。
六級以下の冒険者も応援に来た。彼等には殲滅が第一。素材の回収は考えないようにギルドから指示が出ていた。
だが遂にモスサイや上位種が見えるところまで迫ってきた。
ドンッと戦車砲が吠える。大型上級のモスサイでも五七ミリ戦車砲は有効だ。七五ミリ戦車砲なら一撃で頭が吹き飛ぶ。三七ミリ戦車砲だと複数打ち込んでやっとだ。
混沌獣中央部では遂に上位種だけになった。
もう三七ミリ戦車砲ではケンネル上位種しか通用しない。軽戦車は他の支援に向かうよう指示をする。
見えるだけでケンネル上位種が七匹。オーク上位種が六匹、モスサイ上位種は八匹。
そしてオーガ上位種が二匹だ。いつの間にか二匹になっていた。見逃した可能性もあるが厄介なのには変わりない。オーガ上位種は武器を持っていた。オーク上位種でさえ棍棒だったが、これは金属製の棒だった。
戦車砲は撃ち続ける。ケンネル上位種は大方倒せた。オーク上位種もだ。モスサイ上位種には五七ミリ戦車砲は通用しない。一式中戦車の七五ミリ砲が撃ち続けるが中々倒れない。
オーガ上位種は七五ミリが当たっても平気だ。アレはおかしすぎる。
「戦車隊、打ち方止め。冒険者が行く」
「戦車隊了解」
冒険者が万能研究者と教頭の魔法支援の元、近づいていく。さすがにオーガ上位種でも嫌なようだ。魔法を避けている。七五ミリ砲よりも嫌らしいのは日本軍としては驚きだ。
七級八級の冒険者がモスサイ上位種を攻めている。七五ミリ砲である程度ダメージが蓄積されているようだ。徐々に弱まっていく。六級冒険者はケンネル上位種とオーク上位種にとどめを刺している。
銀級冒険者とアビゲイルがオーガ上位種の相手をしている。魔法支援があっても大変なようだ。特にただ一人の剣士で銀級冒険者であるクリント・ノースウッドは格上相手に善戦をしている。
(七級と八級の前衛ではやられてしまうな。せめて一匹ならアビゲイルと二人で何とかなったが)
そこに詠唱が終わっていた雷光姫の電撃が入る。一瞬だが硬直する。いいタイミングだった。
「オオオオオ!!」
気合いを入れて剣に魔力を通して一撃を喰らわせる。左腕を切り落とせた。これはダンジョンで入手したアレナク製の剣だった。威力は凄いが魔力も喰われる。魔法使いと比べると少ない魔力のクリントはだから一瞬しか使えない。今がその時だった。
「ギャウォーーーー」
オーガ上位種が悲鳴を上げる。それを聞いたもう一体が一瞬の隙を見せる。
剣でやり合っていたアビゲイルが隙を突いて蹴り飛ばす。
アビゲイルは魔力を体に纏わせると思いっきり気張る。
アビゲイルが変わっていく。少し光りながら変わる。
龍人の登場だ。
やはり金棒装備は必須でしょう。
アビゲイルは龍属性本領発揮か?
次回に期待。
次回 二月二三日 05:00予定