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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
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第一村人

いよいよ遭遇です

 タマヨは昨日の場所に行った。人種が居た場所だ。

 そこには、木で出来た家が建っていた。半分くらいは解体して持って行ったようだが、結構残っている。



 日本軍は、最初に建てた簡易な小屋程度の建物は解体しなかった。時間を惜しんだのだ。本格的な宿舎は資材の関係もあり、きっちり解体して持って行った。



 どこに行ったのかな。足跡を追うべし。足跡を追って海岸に出でようとしたところで沖に何かでっかい船がいた。あれがほんとに船なのかタマヨの少ない知識では分からなかった。タマヨの知識には、あんなでっかい船は無かった。でも、海に浮いて動いているから船だ。汚い灰色だな。ずいぶん汚れている。

 そう言えば人種も皆枯れ草色の服を着ていたっけ。



 調査団の学者さん達も軍属扱いで、軍から被服を支給されていた。これは病害虫対策と感染症対策で、もし病原体や小さい虫が付いていても、回収してしまえば国内持ち込みをかなり防ぐことが出来るという考えからだった。



 船に見つかると不味いと思い、海岸に出るのは諦める。



 正解だった。常に見張り員が海岸線を監視していた。見つかったら大騒ぎをして陸戦隊を派遣するだろう。



 タマヨは船から見えないであろう位置を移動していた。とりあえず、南に向かう。

 南には居なかった。あの貝から逃げたのならこちらには来ないだろう。そう考え、その日は時間が無くなり、村に帰った。



「ただいまー」


「お帰りタマヨ」


「なにも無かったんだよー」


「おや、そうかい」


「そうなんだよー」


「長の所へ行くのかい」


「うん、そうだよー」


「行ってきな」


「ありがとー」


 ランランばあちゃんはいつ見てもラブリーだ。


「おさー、帰ったよー」


「タマヨか、はいりなさい」


「はーい」


「如何だった?」


「昨日の所より南に行ったけど居なかった。だから、明日は西に行くよ-」


「人種の跡地にも行ったのだろう?」


「うん、使えそうな家が結構残ってた」


「家が?」


「うん、昨日慌ててたから置いてったんじゃ無いかな」


「引っ越せそうかな?」


「この村が?」


「そう。この建物ももう古い。いろいろ腐ってきている。でも僕らには建て替えることも出来ない」


「止めた方が良いよー」


「なぜ」


「一番近い水場が、あの気持ち悪い巻き貝の居る所なんだ」


「彼等は水を持ってきているのか」


「多分?」


 長は考える。タマヨの言うように一千人を超える人数に水を提供出来るのなら、後ろにいるのは国だろう。

 だが、どの国だ?


「おさー、そう言えばねー、海にでっかい船が浮かんでたよ」


「でっかい船?」


「うん、灰色の汚い船だけど、凄くおっきいんだよー」


「大きさは分かるかい」


「んーと、川で漁をする船があるよね」


「あるね」


「あの船の、んーと、二十倍くらいかな」


「二十倍?」


「うん、船に人が居たからその大きさでいいと思う」


「そんなに大きい船か」


 長の知識にも無かった。川船は五メータだった。なら百メータは有ると言うことだ。我々を追ってきた国の物では無いと思った。


「タマヨ、明日は西の川を渡るのだろう」


「うん」


「なら、アビゲイルとモーリタを連れて行くと良い。小舟を持たせよう」


「いいの、ぬれるの嫌だったから嬉しいけど」


「かまわない。今はその人種に接触することが大事だと思う」

 

 巫女が神託で聞いた、我々を差別しない国かもしれない。魔法が使えないと言うから、魔法を売り込めば。



 翌朝


「いってきまーす」

「行ってくる」

「行ってきます」


 三人の異なる挨拶をおいて村を出た。


 アビゲイルは龍属性という珍しい属性だった。力が強く、魔法も龍魔法の他、水と風と雷の三属性という強力な魔法使いだった。

 モーリタは牛の獣人だ。ラブリーな耳がトレードマークだ。おっとりしているが怒らせると怖い。気は優しくて力持ちだ。

 あの、歩くとユラユラする物はトレードマークでは無い。絶対無いとタマヨは思う。私もいつかは大きくなる。長も巫女も言っている。信じる物は救われる。かな? まだ十一歳だ、望みはある。


 アビゲイルとモーリタの二人が自分の荷物と共に小舟を持って運んでいる。タマヨも手伝うと言ったら、お前じゃぶら下がるだけだよ。と言われ素直に手伝うのを止めた。


 二人は仲が良かった。内緒のつもりだろうが、村では公然の秘密だった。

 長がこの二人を選んだのは、人種と友好的に接触すると共に二人の仲を進展させようという目的は見え見えだった。


 時々現れる小さな川は、ロープを持ったアビゲイルが飛び越えて小舟を引いて渡らせてくれた。


 アビゲイルは龍属性と魔法の力で百メータくらいの川なら飛び越えることが出来る。これは楽ちんだ。

 だが、村の守りの要であるアビゲイルをこんな所に連れ出しても良かったのだろうか。

 長が決めたのだ。村の者達もなにも言わなかった。皆二人を気にしたのだろう。 


 簡単な携帯食でお昼を済ませ、日も暮れようかという頃、西の川に着いた。今日はここまでだ。

 野営の準備をする。


「モーリタありがとう。おいしいよ」

「もう、お世辞が上手ね。アビゲイル♡」


 いけない。何か口の中が甘々になってきた。甘々を吐きそうだ。さっさと食べて、川へ洗いに行こう。うん、それがいい。


 野営で見張りをアビゲイルと交代で行う。モーリタはこういうことは慣れていない。寝かしておいた。

 翌朝、小舟で川を渡る。

 三人が乗れないこともない小舟だが、アビゲイルとモーリタは大きかった。うん、沈むね。


「モーリタ、タマヨと一緒に乗って」

「アビゲイル、あなたは」

「俺は大丈夫だよ。モーリタ。魔法使いだからね」

「素敵♡」


 ハイハイ、よそでやってくれませんかね。


 アビゲイルが呪文をサラサラと唱えると杖に気合いを込めて「水よ我と共に」と言って川に入る。


 アビゲイルが小舟を押して川を渡る。この川、川幅が四百メータくらい有る。深いし流れも速いんだけどね。如何するの。


 アビゲイルが小舟を押している。何だ、こいつ沈まないだと。そう言えばアビゲイルと小舟の回りだけ流れが無いよ。これが魔法なのか。凄い・


「凄い♡凄い♡アビゲイル♡」


 あー、その、何だ。勘弁してください。


 川を渡り終える。楽なことは良い事だけど


「アビゲイル、濡れていない?冷たくなかった?」


 うん、ほんと、もー。アビゲイルは信じられないことに濡れていないんだよ。魔法すげー。


「大丈夫。濡れていないよ。ありがとう、モーリタ♡」


 ちっ、遂にアビゲイルの語尾にまでハートマークが付いているように聞こえ始めた。早く人種の所に行かないと。こちらの精神が持ちませんよ。



挿絵(By みてみん)



 小舟を木陰に隠して、人種が居るだろう所へ向かう。長からは隠形を使わず、堂々と行くよう言われている。なぜだろう?

 居るとすれば、西の川の河口から少し上流に開けた草原がある。まずはそこに向かう。


 アビゲイルよ、モーリタの手を引いてさりげなく守っていますよアピールをするな。


 モーリタよ、確か突進力では村有数ではなかたっけ。


 ハイハイ、熱い熱い。

 

 木立の中を進む。

 モーリタ、わざとらしくよろけるな。けっ。

 アビゲイルも腕を抱え込まれて嬉しそうにするな。ぺっ。



「待て」


 アビゲイルが突然言った。


「何かあるの」


 モーリタが聞く。


「索敵魔法に反応がある。左前の方、二百メータくらいだ」

「どうするの」

「タマヨ、頼む」

「分かった。二人はどこかに隠れて」

「任せた」



 タマヨは隠形を使い、二百メータと言われた方に慎重に進む。


 いた。枯れ草色の服を着た人種だ。この前の集団と同じだ。



 どうしよう。長は堂々として接触しろと言うけれど、怖いよう。


 どうしよう。


 怖いよう。


 どうしよう。


 ふと、思い出す。


 巫女がタマヨをなでなでしながら言った言葉を思い出す。


「あなたは可愛いの。あなたが語尾に「ニャ」を付けると、きっと皆メロメロなの」


 そうだ。私は可愛いのだ。語尾に、ニャ?


 こんな感じかな。


「こんにちわニャ」


 しまった。タマヨは時々ポンコツだった。喋ると隠形が解けてしまう。





 突然目の前に現れた人影が


「こんにちわニャ」


 兵隊は驚いた。自分たちは気をつけて進んでいたはずだった。こんな至近距離になるまで人に気がつかないはずは無かった。



 しかも突然


「こんにちわニャ」


 変な挨拶をされてしまった。


「誰か」


 誰何する。


 




 え?言葉が通じる?


「私はタマヨだよ・・ニャ?」

 

 タマヨは狼狽えた。 





 誰何に答えてくれたはいいが、


「タマヨ?」

「ニャ?」

「言葉が通じる?」

「耳が、耳が」

「ミミガーは沖縄」

 こいつはどつかれた。こんな時にボケるなアホ!

 

 こいつらも十分狼狽えていた。


 思い出したように、銃を構える。


 が、


「構え、解け」


 分隊長の上村曹長の命令だった。


「しかし、分隊長。正体不明の相手です」

「お前達、資料に目を通しただろう。あの子は獣人だ。可愛い女の子じゃ無いか」

「可愛い?」

「獣人?」

「女の子?」

「とにかく、構えを解け。命令だ」

「「「了解」」」


 さすがにスペイン内戦を経験したベテランだった。落ち着いていた。


 内心では、


 こんな至近距離になるまで気がつかなかった?なぜ?分からん。とにかく分隊を落ち着かせねば。冷静さを欠くとやられるからな。しかし、女の子だよな?うん、多分女の子だ。可愛いじゃ無いか。


 ドキドキだった。





 タマヨは変な会話をしながら狼狽から立ち直った集団に鉄の棒を向けられた。


 あれは轟音と凄い煙が出て小さいつぶてを目に見えない速さで飛ばす道具だ。


 怖い。怖いよう。どうしよう。



「構え、解け」


 皆鉄の棒を上に向けた。助かった。


「可愛い女の子じゃ無いか」「可愛い女の子じゃ無いか」


 頭の中で繰り返している。エヘヘ。いい人だ。


「可愛い?」

「獣人?」

「女の子?」


 失礼な奴らだ。許せん。


 あ、さっき私のこと可愛いといった人が近づいてきた。


「自分は、日本陸軍西大陸調査隊、真田連隊第二大隊第三中隊、第二小隊第一分隊分隊長、陸軍曹長上村甚一であります」


 なっが。えーと・・・・・

 覚えられないよう。何でこんな長い名前なの。





 あ、しまった。つい正式名称を全部言ってしまった。自分だって一回では覚えられない自信はある。

 目の前の女の子は、かわいそうに頭をひねっている。


 ええい、もといだ。もとい。


「お嬢さん、自分は上村甚一。カミムラ ジンイチ」


 女の子は、「ジンイチ?ジンイチ」と言って、ぴょんぴょん跳ねる。分かったらしい。良かった。


 後ろを見ると部下の目が生温い。にらみ返す。




 

 良かった。あの呪文のような長い名前は称号とかだったんだ。カミムラ ジンイチ か。

 うん、ジンイチ ジンイチだ。嬉しくて思わず飛び跳ねていた。恥ずかしい。



思ったよりポンコツではないタマヨ。でもやっぱりポンコツでした。

魔法でました。よくわかんない魔法。


第一村人と遭遇した調査隊。どう出る?


次回 本日 〇六:〇〇 予定


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