東大陸 エンキドダンジョン 陸軍困惑中
少し短いです。三千文字くらい。
「宮田中尉。貴公を小隊参謀に任命する」
亜天慕楼少佐が、いきなりこんな事を言いだした。
「少佐、何故自分なのでしょうか」
「分からないのか。貴公だけだぞ。ミズスマシカクセイをアッサリ退けたのは。それにあの巨大な手の時。驚かすなよ。自分がどんな危険なことをしたか分かっているのか。それでもだ、我々小隊は貴公の知識?に期待する」
「了解です」
「小隊長、それでは分隊はどうなるのでしょうか」
「それなんだが、俺と毘天、上因少尉・土尊少尉、フィリップスブルフ二曹は東鳥島に戻る。代わりにシェーンカップ少佐と鈴津中尉他三名がやってくる。予定は知らせるので、それまではダンジョンの入り口近くの部屋だけを当たってくれ。冒険者も半分に減る。これは山東半島の奥で発見されたダンジョン対策だ。フェルナンデス殿を求めている。このダンジョンの特異性を考えると、ここに慣れてしまうと危険だと言われたこともあり、専従としたい」
「専従ですか」
「そうだ。このダンジョンのつもりで他のダンジョンに行けばかなり危険だと言うからな。貴公が言っていたお笑いか?その手に造詣のある兵が居ないか今駐屯地で当たっている。居れば、ここに引き込む。これは秋津少将も賛成してくれた」
「では今度の小隊長はシェーンカップ少佐ですか」
「それがな、奴は最前線を希望だと」
(同じですね)
「では誰が」
「連絡将校として来ている神田少佐がやることになった。あの人はほとんど強化してないからな。上因少尉以下だ。気を付けてやってくれ」
「了解です」
あの日、ミズスマシカクセイを倒してアイテムを入手後ダンジョンを出た一行は休みに入った。フェルナンデスから精神的に持たないと言われたのだ。ダンジョン攻略の時は三日入って三日休みというのが疲弊しなくて済む。そう言った。問題はこのダンジョン特有の罠や混沌獣だがな。とも言った。慣れない内は休みを多く取らないとダンジョンの雰囲気に飲まれるぞ。とも。
東鳥島に帰る面々は、これ以上このダンジョンに慣れてしまうと危険として帰還日まで入らないことになる。
残ってくれる冒険者は、マクドォウガル、ルクレール、マクマスター、トンプソン、キャリー、サンダース、ベレナスの八人で、帰るのがフェルナンデス、サクリエス、エバートソン、マラドーナ、クリントン、ランボー、シモンズ、アルゼンティンだった。
弓士がいなくなるが、小銃で代用できるだろうと言うことだった。攻撃魔法使いがいなくなるが、六級の攻撃魔法使いがやって来るという。
交代要員が到着するまで、再びダンジョンに入る一行。
今度は大ベテランや攻撃魔法使いがいない。入るのは1~5までとB混沌獣部屋1とB湿原1までとした。
通路の罠は復活しているのだろうか。気になる。
通路の罠は復活していなかった。だが復活までの時間が掛かるのかも知れない。部屋1はやはり三日置いているので復活していた。サクッと終わらせる一行。今度は半分くらいがアイテムと化した。基準が分からなかった。
部屋2だ。宮田は思う(ここまでの罠の具合からして殺しに来てはいない。安心してはいかんが。それにどうも狙いに来ているようだ。何故だ?B通路のハリセンは避けたら次の奴が出た。スイッチは無かったという。本当に見ているのかも知れん。ならば、部屋2の金タライで試してみるか)
「宮田中尉、部屋2では何か注意する点は?」
神田少佐が聞く。
「特にありません。ただ、気になることが有るので試します」
「気になること?」
「はい。どうも誰かが見ている気がします。でなければ正確に当てることが出来ない罠も有ります。
「見ているか。君は誰だと思う?」
「恐らくダンジョンを作った者が管理する者」
「それなら辻褄は合いそうだな。だがなぜだか」
「楽しんでいるのでは無いかと思います」
「楽しんでか・」
「悔しいことに」
「だが気を抜けば致死性の罠が有る場合も有るのだろう。違うか」
「恐らく。ですから冒険者達はいやなのだと思います」
「慣れれば、他のダンジョンで危ないと言っていたな」
「それです」
「亜天慕楼少佐が秋津少将に相談して専従とさせる意味がそれか」
「他には心当たりが有りません」
「試すと言ったな。どうするのだ」
「次の部屋は、金タライが落ちてきます。当たってから少し踊ります」
「踊るとは?」
「観客を楽しませるのです」
「必ず金タライなのか」
「2回はそうでした。今度もそうならいいのですが」
「そうか、では気を付けて行け」
「了解」
日本軍は部屋に入り混沌獣を倒す。そしてアイテムと混沌獣を手に入れて部屋を出ようとするとカチッと言う音と共に金タライが落ちてきた。山田兵長を押しのけてあえて頭に受ける宮田中尉。
そして、フラフラと千鳥足で2・3歩、歩いたところで両手を広げて仰向けに倒れる。口を笑いの形にするのも忘れない。
ポーンと言う音共に金タライの中に拡張袋が現れる。皆目を見張った。
宮田中尉は(良し!受けた)と思った。
出入り口の外であんぐりとした表情で宮田と拡張袋を見る冒険者。
((いかん、早いところ交代しないと感覚がおかしくなる))
と思った。
B通路に行き混沌獣部屋1とB湿原1まで行く。混沌獣部屋1は問題なくクリアした。
湿原1で他の者がやってみることになった。
宮田中尉だけが通用するのか、他の者でも通用するのか確認する意味も有る。
1番、砂田二曹。
[アメンボアカイナ][アメンボアカイナ]
「アメンボアカイナ、ア、イ、ウェッ」噛んだ。
ドバッと水しぶきが押し寄せ部屋の外に押し出された。見ていた面々にもしぶきが飛びぶつくさ言われる砂田二曹。
2番、芸鈴具中尉
[アメンボアカイナ][アメンボアカイナ]
「アメンボアカイナ、ア、イ、ウ、エ、オ」
グサッと短槍で倒されるミズスマシカクセイ。ドヤ顔の芸鈴具中尉。ちょっとむかっとする面々。
[アカマキガミ][アカマキガミ]
「アカマキガキ、え?」
今度もドバッと水しぶきで押し出された。
そんな感じで何とか部屋をクリアした面々。濡れたついでに部屋3・4・5を当たる。
部屋3ではやはり金タライなので同じ事を試みるもオマケは無かった。ひょっとして1回のみなのか。
次の部屋4は誰もがいやな カキーン の部屋だ。さすがの宮田中尉もいやだった。
ここで誰が犠牲者になるか分からない。名演技に期待するのみだ。
役者はポルシェ上等兵に決まった。
カキーン
「オウ( ´-`)、もっと~」
全員が引いた。時に女子の引き方がすさまじい。
次の瞬間、天井から巨大ハエ叩きが出現しポルシェ上等兵を部屋の外に文字通り叩き出した。お気に召さなかったようだ。
ポルシェ上等兵はケツを押さえ呻いている。本当に痛いようだが自業自得である。
次の部屋が問題だ。濡れる。
冒険者は通路の角まで後退した。
うん。ずぶ濡れだった。
そこで帰還することになった。最初からここまでしか認められていない。
アイテムは豊富だった。特に宮田中尉の頑張り?で入手した拡張袋は日本軍が初めて手にした拡張袋 中 だった。
湿原1で入手したアイテムは外れ薬草がほとんどだった。やはり一気にいけないとだけなのだろうか。
他は、いつもの拡張袋 小 が8個とポーチが6個、弁当入れに保存袋五十分の一から五百分の一まで各種9個。薬草はトキワ草の入手はならなかった。
駐屯地に帰った日本軍を待っていたのは、命令の変更だった。
増援を増やすので、船便になると言う。到着は1ヶ月後。それまでは安全に留意して出来る限り進めておくべし。
フェルナンデスが言うには、湿原2の倒し方が分からないがA区画なら現有戦力で問題ないだろうと言う。
ならば1ヶ月間はひたすらA区画を探索するのみ。
こういうことなので増援はお察しかと。
次話でエンキドダンジョンは終わり。
山東半島に戻ります。
次回 二月十五日 05:00予定