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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
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調査隊の危機

危機ですね。

 二つの目は日本人達が上陸後、内陸に宿営地を造成し始めるのを見てから、静かに後退していった。背中を見せて走り去るなどと言う下手を打つようなまねはしなかった。


 工兵大隊大隊長の金山大佐は、植生や土壌の違いを見つけようとしたが本土や南アタリナ島の時と大して変わらないと思った。

 とにかく宿営地を作ってからだな。学者先生達に活躍してもらわないと。

 ある程度切り開いた頃、日が傾き始めた。作業を中止させ、野営の準備に入らせる。


 歩兵大隊が夜間警備をするので、工兵隊は休んでくださいと丁寧に行ってきた。勿論、社交辞令だろうが、ありがたく寝させてもらうことにする。

 南アタリナ島の時は、工兵も歩兵も無かった。全員交代で張り番をやったもんだ。今度は人数に余裕がある。張り番などやる気は無かった。


 翌日、宿営地を広げると共に第二陣の受け入れを行う。今日中に歩兵連隊は全員上陸する。昨日桟橋を作っておいたので今日は早いだろう。


 真田連隊長も今日上陸した。着任と指揮官交代の挨拶を受ける。

 防疫部隊も上陸してきた。防疫部隊には今のところ異常は無い旨伝える。

 防疫部隊隊長の本間圭一と種苗研究所の柳沢浩三が歩いてきた。学者先生達、もう上陸したのか。


「防疫部隊、着任しました。我々の宿舎はどこでしょうか」

「今、簡易宿舎を組み立てています。あの区画ですね。本格的な宿舎は、次の船便です」

「簡易な宿舎で十分です。ちゃんとした宿舎が後になるのは聞いております。それよりも、学者さん達の宿舎を急がせて欲しいのですが、よろしいか?」

「私からもお願いします」


 柳沢が言う。


「教授、早くありませんか」


 金山も船内で一卓囲んだ間柄だった。 


「そんなことは無い。未知への興味は尽き無いのだよ。ほら、あそこを見なさい」


 見ると、十人くらいが付近の植物を採取していた。大騒ぎだ。


「分かりました。至急作ります」


 どう言っても無駄だな。南アタリナ島の時もこうだった。行程を少し変えるか。本間も苦笑いだ。


 

 真田は今後の部隊活動に思いやっていた。

 初期の参謀本部の計画だと、分隊単位で散開捜索となっていた。こんな地図の無い場所でだ。航空写真を地図にしろと言うことらしい。馬鹿だろうか。

 馬鹿だと思っていたら、いつの間にか参謀本部作戦課の人員が刷新されていた。どうも上層部にいろいろばれたらしい。参謀総長も替わってしまった。よほどまずいことをしたのだろう。


 現計画だと、まず地図の作成が優先されていた。宿営地から離れる場合は必ずロープで道を示すことになっている。

 これは南アタリナ島で十kmほどの行程を無事往復出来たことで採用されたようだ。迷子紐のようで嫌であるが、遭難するよりはましだろう。

 また、分隊単位での無線通信機と衛生兵、小隊単位での軍医の派遣を要請したが、断られた。

 だが、参謀本部の人員が替わった途端、増員が決定された。前の奴らはほんとに何だったんだろう。


 他にも、下着や手袋・靴下などの衛生に直接関わる品々の増量やそれらを管理する連隊主計も強化された。

 兵站も強化され、輜重部隊が二個大隊付くことになった。


 飯の良し悪しも行動能力に繋がる事が、災害派遣や南アタリナ島の経験で分かっていたので、食事面もかなり良くなっていた。

 災害派遣の経験から、内務省の防疫部隊とは別に防疫給水部隊も大隊規模で付いてきた。


 いつの間にか一個歩兵連隊が、二個歩兵連隊を超える規模になっていた。これで装甲部隊が付いてくれば立派な旅団だな。真田は思った。



 柳沢は本間と共に、未知の植物などの採取にはしゃぎ廻る集団を見ていた。どうせ半年は日本本土に上陸はできんのだ。もっと落ち着けと思う。いや、自分も南アタリナ島の時はこうだったな、と思い出し笑いをする。それを見た本間はちょっと引いた。




「本間先生、ここにおいででしたか」

「何だ、はざま君、ここでは先生では無く、隊長と呼ぶように言っただろう」

「私にとっては先生は先生です。私が先生を先生と呼ばなくなるのはご恩を忘れた時です。そんなことは絶対ありません」

「頑固だな、君は。それで何があった。急ぐのだろう?」

「はい、気にしすぎかもしれませんが、水場を見て頂けないでしょうか」

「水場?」

「はい、ここから五百メートルほどの所に川があります。その様子がおかしいのです」

「おかしいとは?」

「小さな巻き貝がびっしりといます」

「小さな巻き貝か。それでどういう対応をした」

「マスクと手袋をして、箸で数個を採取。現在ガラス容器にて観察中です」

「何か気になるのか」

「ミヤイリガイに似ています」

「何だと!」

「ミヤイリガイだって?」


 これには本間も柳沢も驚いた。もしミヤイリガイならここは危険地帯と言うことになる。事は重大だった。


 昨日から行動している陸軍にも最優先で知らせた。陸軍の防疫給水部隊の人間は真っ青になっていた。


 確かに見た目は大きさも形もそっくりだ。急ぎ、顕微鏡で解体した貝を観察する。


 見えた。日本住血吸虫とは違うが似たような姿だった。ここが危険地帯と言うことが分かった瞬間だった。


 上陸部隊指揮官の真田大佐に伝えた。


「ここが危険ですと?」

「そうです。ここには日本住血吸虫に似た生物が確認出来ました。是非引っ越すべきであると申し上げます」

「日本住血吸虫?」

「真田大佐、甲斐あるいは山梨の腹水病をご存じか」

「いえ、寡聞にして存じません」

「罹患後の死亡率、かなりの高確率であり、治療しても根治は不能」

「何ですと」

「同じ系統の生物だとは断定出来ませんが、危険は避けるべきと考えます」

「連隊長殿、防疫給水部隊としても同じ考えであります」


 しばらく黙考した後、真田は言った。


「引っ越すべきでしょう」


 それからは早かった。みんな危険のそばには居たくないのだ。せっかく設営したのにとか文句が一番多いのは工兵隊だった。だが危険は犯せなかった。

 宿営地付近には湿地も無く貝も見当たらなかったが、危険からは遠ざかるべきであると首脳部の意見は一致していた。


 一度海岸に戻り、次の宿営地の候補へと向かう。沖に停泊中の船団は驚いていたが、無線で事情は説明済みだった。

 全員に咬まれた後が無いか検査をしたが、幸いにも居なかった。念のため検便を二週間に一回、三ヶ月にわたって行うことを決定した。

 防疫部隊にはとんでもない負荷がかかることになった。


 「安全が確認されるまでは、どんなに暑くても長袖長ズボンでさらにゲートルを推奨。現地の動植物に触るときは直接素手で触らない」という措置が功を奏したのかもしれない。


 次の候補地はここから南側に四kmほどの場所だったが、近すぎるとして却下された。


 対岸に渡ることにした。川はあるが貝の発生していた川筋とは違うし間に急峻な山脈があるから大丈夫では無いかという考えだった



挿絵(By みてみん)



 貝のサンプルは解体済みのものと生体を本土に至急送るよう手配した。駆逐艦を2隻出してくれるという。


 この「日本住血吸虫に似た生物発見」の一報は政府や軍部を震撼させた。日本住血吸虫は原因は分かっていても現在有効な治療法が無かった。知っている人にとっては感染後の発症=死亡だった。 


 新聞記者や作家が行きたがっていたが、有害な生物が発見されたとして、民間人の西大陸上陸は無期限延期した。

 彼等は抗議したが、表面上のものだった。


 


 二つの目は今日も来ていた。奴らに、見つかるようなへまはしないと思いながら。

奴らが急に慌てだした。あの忌々しい小さな巻き貝のいる川で大騒ぎしている。何か棒のようなもので巻き貝を採取してそっと入れ物に入れた。あんな透き通った入れ物は見たことが無かった。

 

 奴らの後を付け、あの集団の所まで行く。

 

 しばらくしたら、慌てて引っ越していった。何だろう。声が聞こえるような距離じゃ無い。耳のいい奴を連れてくるべきだったかと思いつつ、考える。


 なぜだろう。巻き貝を見てからだな。ひょっとしてあれは不味い物なのだろうか。村に帰ろう。そして皆に有った事を言おう。 


 

「ただいま帰りましたよー」

 

「お帰り、タマヨ。早いけど何かあったのかい」


 ランランばあちゃんだ。白い髪に黒耳がラブリーだと思う。


「うん、それでみんなに聞いて欲しいんだ」


「大切なことかい」


「多分」


「そうかい、それじゃ皆を集めるかね」


「お願い」


「任せな、あんたは長のところに行くんだよ」


「はーい」



「おさー、ただいまー」


「タマヨか、入りなさい」


「入りますー」


「お前その最後のばすの、なんとかならないのかな」


「むりー」


「そうか」


「そう」


「じゃあ仕方ないな」


 いつものやりとりだった。これがホッとする。


「あのねー、長」


「如何した」


「昨日来た人種だけど、今日もう出ていったよ」


「は?」


「うん、もう出ていったよ」


「なぜだ?理由があるはずだ。なんだろう」


「うん、人種の何人かがあの気持ち悪い小さな巻き貝を見てから慌てて出て行ったよ」


「巻き貝だって?」


「うん、小指の先より小さい巻き貝がたくさん居るんだ。それを棒みたいな物で透き通った入れ物に入れて、家がたくさんあるところまで持って行ったんだ。そうしていくらもしないうちに大騒ぎになって慌てて出て行ったよ」


「慌ててか」


「そうだよ。絶対あの巻き貝のせいだと思うんだ」


「確かにあの巻き貝は小さいしウジャウジャしているし見ても気持ち悪いよな」


「うん、そうだよー」


「食べられないしな」


「うん、それが一番大事なんだよー」


「タマヨ、明日その人種に接触出来ないかな」


「う~ん、必要?」


「多分」


「多分かー、でも長の多分はよく当たるから。うん、やるよー」


 その晩、村の全員が集まったところで、長から近隣にいきなり出現した人種について不可解な出来事があったと説明があった。

 タマヨを接触に向かわせることも。タマヨが一番隠形に長けていたので異論は無かった。

 ただ、タマヨってポンコツだよねと言う意見も有ったことを記しておく。


 長はきれいな金髪だった、かなり腹が出ているが。他にも腹がパンパンな者が数人居た。



日本住血吸虫は現在、日本国内では撲滅宣言が出されています。

努力の結果です。尽力された方には頭が下がる思いです。


寄生虫とかで気持ち悪い思いをされた方ごめんなさい。


本間先生と言えば、間 黒男。

柳沢と言えば、教授。


次回


タマヨはどう行動する?ほんとにポンコツなのか?

日本人達の対応は?金髪の長とは?


九月十四日 〇五:〇〇予定

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