東大陸 エンキドダンジョン 迷路を行く?
迷路で・・迷路ね
秋津口の地下は長い坂道を下った先が迷路らしい。
しかも、ダンジョン歴数十回の万能研究者でさえ遭遇したことの無い広い通路の迷路らしい。
一行は探索役のサクリエスを先頭に
重戦士のマクドォウガル
盾のサンダース
万能研究者 フェルナンデス
上因少尉
土尊少尉
魔法使い トンプソン
治癒 マクマスター
剣士 ベレナス
と続く。
後続には
探索 ルクレール
剣士 アルゼンティン
雷光姫 エバートソン
弓士 マラドーナ
鈴出満少尉
ベッカー軍曹
治癒 キャリー
魔法使い クリントン
盾 シモンズ
重戦士 ランボー
と言う隊形で迷路に突入した。
未経験の日本人は守られている。推定三級相当では頼りにならないだろう。
一応、ボラールの装備で固めてはいるが本人達は持っている四式小銃を頼りそうだ。
リーダーのフェルナンデスからは火器の使用は控えるよう言われている。
こんな狭い通路で発砲すればどこまで音が響くか分からないとして、余計な混沌獣を呼び込む可能性を指摘している。
なので四人の小銃は万が一を考えて装填はしていない。ゴボウ剣もどきの長い銃剣を付けて短槍代わりだ。この銃剣はボラール素材で出来ており、軍の正式装備では無い。
四人は他にも各種混沌獣素材の装備を身につけており、言わば装備品試用部隊だった。結果が良ければ供給量からして全軍装備とは出来ないものの、構想されている大隊規模の特別選抜戦闘団への装備品に成るかも知れなかった。
集団はサクリエスを先頭にゆっくりと進む。時たまサクリエスがハンドサインで【待て】をする。
仕掛けがあるようだ。解除できればいいが出来ない場合は目印を付けて分かるようにしている。
通常のダンジョンより道幅が広いため確認に時間が掛かる。
五十メートルほどの間に数回の【待て】があった。仕掛けでは無かったのが二回ほど有ったが残りは全部仕掛けだったようだ。
サクリエスがまた【待て】をした。今度はムカライを呼んでいる。
「十五メータ四方の部屋が有るんだがどうする?時間的にはこの部屋で終わりにするか、もう少し進むかだが」
「部屋か。内部は如何なんだろう」
「鏡で見た限りでは普通の部屋だが、ダンジョンだからな」
「入った途端に仕掛け発動か。どうするかな」
「なあ、ムカライさんよ。日本人はかなり威力の有る鉄砲と爆発物を持っているんだよな」
「そうだが、まさか中に使う気か」
「部屋に爆発物を投げ入れてみようと思う。ダメか?」
「音で寄ってこないか」
「それなんだよな」
「じゃあ、この部屋の前にはマライアのチームを残して我々はもう少し進もう。後五〇メータ進んで部屋が無ければここに戻ってきてドカンをしてみよう」
「それでいいなら、あんたから指示を頼む」
「分かった」
ムカライはマライアを呼んでなにか指示を出している。マライアは了承したようだ。
ムカライのチームはマライアのチームを残して進んで行く。
五〇メータくらい行った所で再び部屋を発見した。その向こうには交差点が見える。これ以上進むのは現状では危険と判断して戻ってきた。
「日本軍の人は鉄砲に弾を込めて、なんだたっけ投げて爆発する奴」
「手榴弾ですか」
「そう、それをこの部屋の中に投げてくれ」
「分かりました、少しお待ちを」
四人は小銃から空の弾倉を外して弾入れから取り出した弾倉を装填する。安全装置を確認して槓桿を引いて初弾を薬室に送り込む。
ベルトに装備された手榴弾を持ってからふと気がつき
「何発使いますか?」
「あー、そうだな。この部屋の中を制圧できないにしても何か居た場合に被害を与えたい」
「見えないと言うことでしたが」
「それか。ダンジョン内の部屋では入った瞬間に仕掛けが作動する場合が有る。なので、私が今から取り出すダミーを部屋に入れて反応を見る。混沌獣が居た場合はそいつを投げ入れてくれ」
「分かりました。では投げ入れる前に部屋の入り口から三メートは離れて下さい。部屋側の壁に張り付いて目をつむり耳を手で塞いで口を開けて下さい。炎が飛び出し、かなり強烈な音がして圧力が掛かります。ダメージ軽減のためです。特に獣人の人は耳に注意です」
「そんなに大きい音がするの?」
「かなり」
「ドカンは投げてすぐなのか」
「三秒です」
「すぐじゃ無いか」
「待てよ、頭に巻き付けるから」
数人が布を取り出して耳を保護する。獣人だけでは無くエルフもだった。
「いいか、ではダミーを投げ入れるぞ」
そう言ってムカライがダミーを投げ入れた。その瞬間ゴゴと言う音がして隠し扉が開き奥から飛び出してきた。
「投げろ」
「投げるぞ」
大声で知らせる。入り口の両側から上因少尉と土尊少尉が九七式手榴弾を撃発させ投げ入れた。
日本軍は戦闘訓練で都市や要塞内での手榴弾の取り扱いを教えるために実際に鉄筋コンクリートの建物で爆発させる訓練をしている。これは古い手榴弾の処分も兼ねていた。慣れたもののはずだったが。
ドンドンとかなり大きな音がした。
すかさず鈴出満少尉とベッカー軍曹が小銃を構えて入り口を覗く。煙が収まりかけた時、中に倒れている混沌獣とまだ呆然としている混沌獣が居た。一瞥してハイシシと分かる。
「ハイシシです。それ以上の脅威は無いよう」
ベッカー軍曹が報告する。
「サクリエス、ベレナス」
ムカライが呼ぶ。
「「おう」」
「内部、ハイシシ以上なし。仕掛けも見えず。ベレナス頼む」
「行く」
後はすぐに終わった。ハイシシ数頭など六級の手に掛かればあっという間だ。
サクリエスが部屋に入り、更に仕掛けが無い確認する。大丈夫なようだ。サクリエスが部屋を出るとマライアのチームが入っていった。
調査をした結果、混沌獣はウザミとハイシシだけだった。数は十頭ずつであり、三級のチームでは危険だった。また、幾つかのアイテムを発見したようだ。
サクリエスが発見できなかったのは、サクリエスの探索系スキルが罠発見に寄っているためでアイテムの発見は苦手だった。
マライアチームのルクレールはサクリエスほどの罠発見能力は無かった。しかし、お宝発見能力はサクリエスよりも上だった。
また混沌獣はウザミは手榴弾の破片が肉に有る可能性があり廃棄とされた。ハイシシは回収した。
「フェルナンデスさん。あの死体はどうするのですか」
土尊少尉が聞く。
「アレか。死体は不思議なことに一時間で消えて無くなる。皆で原因を突き止めようとしたが無駄だった。だから気にするな。ついでに大小も五分ほどで消えるからな」
「不思議ですね。魔石も消えるのですか」
「魔石もな。だから拡張袋が無い連中はまず最初に魔石を取り出すんだ」
「そうなんですね」
「今回のアイテムに袋があったが拡張袋じゃ無いかと思う。これは帰ってから確認するが間違いは無いだろう」
「たのしみです」
ムカライの帰るぞと言う声に全員が行動開始する。
帰りも罠を避けて確実に進む。帰りに油断して罠に引っかかる連中は多かった。
全員外に出るとまずギルドに向かうことにした。アイテムの確認をするためだ。
アイテムの確認が出来る人間は貴重で千人に一人程度しか居なかった。鑑定スキルはそれ程珍しいスキルだった。取得できれば絶対におまんまの食いっぱぐれが無いどころか国・各種ギルド・商人等から積極的な勧誘があるほどだった。
ギルドに着いた一行は漸く緊張が取れたのかホッとした雰囲気になる。
「フェルナンデスさん。どうでしたか」
ギルド長が待っていた。
「迷路型だったよ。普通とは違ったが」
「違いましたか」
「ああ、三十分ほどの行動だったが、まず明るかった。そして通路が広かった」
「それはまた。で、罠とかはありましたか」
「そうだな。罠は通常と変わらないくらいの数かと思う。罠には引っかかっていないので種類は分からない。ただ広い通路で探索に時間が掛かる。部屋と部屋の間隔は二部屋しか見ていないが広いと思う。五十メートルほどの間があった」
「五十ですか。少し間隔が開いていますね。ダンジョンが広いせいでしょうか」
「それは分からんが、通路の広さと関連しているのかも知れない。あとは一五〇〇メータのダンジョンだから、今の人員だと一層のマップ製作に一ヶ月以上掛かりそうだ」
「そうですか。話は変わりますがアイテムはどうでした。他の入り口からはあまり出ないのです」
「最初の一部屋しか見ていないが、幾つか出た。拡張袋と思わしき袋も有った。その部屋は入ると仕掛けが発動する厄介な部屋だったぞ」
「どういう仕掛けでしたか」
「入ると隠し扉から混沌獣が出てくる奴だ。割とよくある奴だな」
「出てきた奴は?」
「ウザミとハイシシだけだった」
「そちらもですか。他の入り口から入った層もそんなものです。ケンネルとオークは今のところ出ません」
「いいことだと思うが」
「アレを歓迎する奴はいないですからな」
「ではもういいかな。アイテムを鑑定して貰って帰ることにするよ。新規ダンジョンは緊張する」
「我々もそうです。新規はほとんど無いですから」
「この地でもそうなのか」
「やってはいけないのに、わざとダンジョン化させるバカが時々います。後は今回のような自然発生のダンジョンですね」
「バカは尽きないか」
「全くです」
「では、また明日」
そう言ってムカライは鑑定をするために窓口へ向かった。
鑑定の結果は
拡張袋 小 三個
薬草 モットキキ草 二束
薬草 トキワ草イシモリ種 一束
外れ キカナ草 二束
と言う結果だった。これにはギルド中に驚きの声が上がった。
一部屋でこれである。特にトキワ草イシモリ種という貴重な薬草が出たことだった。
拡張袋の小はどこのダンジョンでも結構出るので不思議ではなかったが、最初の部屋で出たことに驚きだった。
秋津口は大当たりだろうと思われた。他の入り口からはまだトキワ草は出ていない。
ただ普通はダンジョンアイテムとしては出ないキカナ草がアイテムで出るのが不思議だった。
トキワ草イシモリ種が出たことによって、他の入り口でも期待が持てるとして気合いが入るのだった。
たった一部屋でした
鑑定スキル登場させました。ただし貴重なスキルとして。
次回 二月二日 05:00予定