東大陸 エンキドダンジョン 突入
突入と言っていますが作者なので
エンキドダンジョンは入り口が三箇所有る。
エンキド口、ケネディ口、そして秋津口だ。
冒険者と軍は、エンキド口とケネディ口へ侵入。
秋津口はなんと日本がやることになった。
これはダンジョン出現後の会議で決まったことで、当初日本側は「分からないのでお任せします」と言ったのであるが、せっかく秋津口というのが有るのですからどうですかと言われた。
そこへやってきたのが、蓮見少将だった。ダンジョン出現の報告を受けた直ちに基地から飛んできたらしい。
「秋津少将、今から大艇を飛ばせば明後日の午後くらいには帰って来られます。東鳥島で活動中の連中を連れてきてはどうでしょうか」
「しかし、ダンジョンだぞ。混沌領域とは違うだろう」
「いや、どうもシベリア大陸から来ている冒険者がいるそうですよ。彼等に来て貰ってはどうでしょうか」
「そうするか。十三師団の八雲師団長には照会状を書いておこう。ところで誰が行くのかね」
「は?もちろん私が行きます」
「君がか。責任者だろう。離れてもいいのか」
「優秀な部下というのは良い物ですな」
「確かにそうだが。まあいいか」
その後は早かった。照会状を書き終えたと同時に機動乗用車で立ち去っていった。秋津は若干不安だった。船旅の途中で彼の評判を聞いたからだ。
曰く「無駄に行動力がある」「何故か話が大きくなる」「組むと終わるまで気が抜けない」「他の人間や部署を巻き込むのが得意」さらに「退役や予備役強制編入とか降格とかの厳罰物をやらかしているのに何故か現役で降格もされない」等など。
また「水上機部隊の指揮経験は左遷先が水上機部隊のいる離島ばかりだったせいで豊富」「金は無いが人脈だけは豊富」「組むと面白い」「変な指揮をする事があるが、結果を見ると正しい」「高野前海軍大臣からは嫌われていた。井上成美現軍令部総長からはかわいがられている」等、もう訳の分からない評価や噂だった。
要するに、持ち前の行動力によって話を大きくして周囲を巻き込みきちんと結果は出すか。そう考えれば何とか辻褄は合うな。それが、立場によっては余計な事をしたと言われ、あるいは疲れさせられか。
なるほど評価や噂が複雑なわけだ。そしてこれだけ話が有るし、実戦部隊の指揮を執り続けることが出来たと言うことは実力は確かでいい意味で人気者だな。
そんな蓮見に任せたのだ。面白くしてくれるのだろう。
蓮見はキドレン河で水偵に乗ると、入り江で待機中の大艇に発進準備を無線で指示した。入り江で引き継ぎを行い自分は大艇で東鳥島へと向かうのであった。
大艇の中で電文を起草し電波が届く距離になったら直ちに発信させた。多分、東鳥島は大騒ぎだろう。
十三師団長の八雲少将は電文を渡され笑ったと言う。
「村井大佐、誰を派遣しようか」
「は?派遣ですか。十三師団から?」
「そうだ。我々も噛ませて貰うとする。ダンジョンだ。初めて相手にする。混沌獣相手なら十三師団が陸軍中で一番高い練度がある。それに面白そうだからな」
ここにも「面白そうだ」で話に乗っていく人間がいた。
「シェーンカップと毘天はうちのエースです。上位種が出てきた場合の切り札とも言えます。出せません」
「やはり出さない方が良いか」
「いざという時の備えは取っておきませんと。十六連隊と十七連隊は強化して帰りましたし、十四連隊は半分ほどが新入りです。出せません。代わりに来た二連隊と五連隊は始めたばかりで不安いっぱいです。十九連隊からですな」
「その中で、シェーンカップと毘天はダメと言ったな」
「当然ですな」
「誰にしようか」
「三田麻伊矢か亜天慕楼のとこですな」
「じゃあ二人によさげな奴を四人挙げておいておくよう言ってくれ。その四人を出す。自分はダメともな。後は海軍に大艇を二機出してくれないか交渉を頼む」
「了解です」
「おれ、俺行きます。最近光らせることが出来るようになったし。上因も一緒に」
「何故俺を巻き込む、土尊」
「だって面白そうじゃ無いか」
「迷惑だ」
「よし、お前らにしよう。連隊長に言っておく。大艇の出発は一八:〇〇だそうだ。準備するように」
「亜天望楼少佐、これは確定ですか」
「確定だよ、上因少尉」
「了解であります」
「誰にするかな。希望者は、大勢か」
「三田麻伊矢少佐。ここはクジでお願いします」
「そうだな。俺は行けんからどうでもいいか。梅得留、クジを用意してくれ」
「了解です。しばしお待ちを」
「よし、お前ら引け」
「いや、引けって。梅得留大尉、これお祭りのアレじゃ無いですか」
「安心しろ。ちゃんと当たりは二本入っている」
「良し引くぞ。早ければ当たりが残っている」
「そうだな。俺も引くぜ」
「お前ら安心しろ。ちゃんと人数分紐はある。皆掴めよ。掴んだな。さあ引け」
「当たれ」
「お前は外れろ」
醜い争いだった。
「俺の部下はこんなのか」
「少佐、今日は特別です。酷い方に」
「鍛え直しかな」
「御随意に」
「当たりは、ベッカーと鈴出満か。大艇の出発は一八:〇〇だ。急げよ」
「「了解」」
「師団長、グナイゼナウ中佐からです。四人決まったと」
「村井大佐、連絡将校としてペガサスと神田少佐を付けるように。冒険者の方は決まったのか」
「はっ、十五人来てくれます」
「大艇二機じゃ足りんな」
「それが海軍の方で四機出すと言っています」
「常駐は三機だろう」
「来た機体が往復すると言っています」
「搭乗員は大丈夫なのか」
「こちらの控えを出すそうです」
「では海軍に任せよう」
東鳥島の冒険者達は大騒ぎだった。新規のダンジョンに入るなんて彼等は初めての経験になる。
今、島にいる四十人の中で当然激しい参加枠争奪戦があった。この二人を除いて。
「ムカライ様、推薦ありがとうございます」
「なに、気にするな。マライア君。実力的には我々二人は当確みたいな物だ」
「そうですわね。他は七級の方四名と六級の方四名と五級の方五名ですか」
「そうだな。新規ダンジョンだ。どうなっているか分からない。上級者は多い方が良いが、経験を積むという意味では六級と五級も連れていかないとな」
「それでこの人数配分ですか。この島にも残していかないといきませんものね」
「そうだ。スタンピートが結構起こるからな、この島は」
「東大陸ですか。ギルガメス王国連邦と言うそうですが。どう行くのでしょうか」
「君はいつも空を飛んでるでかい奴、知っているか」
「ええ、いつも海岸で浮いていますわ。その後飛び立ちますけれど。まさか?」
「そう聞いている。船だと急いで五日掛かるそうだ。向こうは急いできて欲しいらしい」
「それでアレに乗るのですか」
「そうだ。わくわくするな」
「なにか怖いですわ」
雑談は続いた。
蓮見少将を乗せた大艇が東鳥島に到着したのは出発した翌日の一三:〇〇だった。
蓮見少将は八雲少将と多少打ち合わせをしてすぐに戻ると言う。
本当はすぐ戻りたいらしいが乗ってきた九七大艇の整備と給油が有りそうはいかなかった。
一八:〇〇大艇は四機とも無事飛び立った。
東鳥島に常駐している大艇は二式大艇で蓮見が乗ってきた九七大艇とは巡航速度が違いすぎて編隊は組めなかった。九七大艇は置き去りにされて寂しく飛んでいる。
エンキド口とケネディ口から侵入した冒険者と軍であったが、草原ダンジョンであることにまずホッとした。草原ダンジョンは余り強い奴が出てこない。と言ってもダンジョンなので中級から出てくることが多かった。又内部が明るいのが特徴だ。これが洞窟型だと一気に夕方程度の暗さになる。迷路型だと壁の松明が頼りな所もある。洞窟型・迷路型ダンジョンは明るさがまちまちで違い注意が必要だった。
一層入り口付近で遭遇したのはウザミだった。一行はホッとした。入り口からオークやグレーウルフではたまったものでは無い。
これなら二級以上なら入れるかも知れない。そんな考えも浮かんだ。二級冒険者が入ることが可能なダンジョンは無かった。最低でも三級以上の技量が無いとい無理だった。
ただ問題は広さだった。地上部三〇メートは大きい方だ。最大級と言ってもいい。普通は二〇メートくらいだ。最初の混沌獣がウザミなのは一〇メート級のしょぼいダンジョンだ。明らかにおかしかった。
地上部✕五〇が地下の広さになる。長年の探索からの結果だ。
直径一五〇〇メートのダンジョン。
やはり女神セレーネ様のおかげだろうか。
内容もしょぼくなければいいのだが。
一回外に出て入った先でどうなったのか確認する。
マズい事態かも知れなかった。エンキド口は草原ダンジョンだったが、ケネディ口は草原と洞窟の融合型だったようだ。
一層が草原で二層が草原と洞窟の融合型なのかも知れない。
では秋津口は三層なのか?
調査を継続する。その結果、一五〇〇メートのダンジョンはエンキド口は内部が四箇所に区分けされていた。全て草原ダンジョンだ。所々に柱が有り、位置関係を見失うことはなさそうだ。女神セレーネ様のおかげだろうか。
ケネディ口は草原三箇所に洞窟二箇所だった。同じように柱があり、こちらも草原部分での位置関係の把握は楽だと思われた。
今のところ、ウザミ、コーチン、ハイシシ、ハイドック、グレーボアが遭遇した全てだった。
薬草は豊富なようだ。ただ、アイテムが無かった。もっと調査をしないと分からないがだいたい草原ダンジョンはアイテムが少ない事は知られている。
調査団は区画を一つずつ調査していく。
まだ外が明るいうちに調査を切り上げた。初めてのダンジョンで野営はマズかった。
最後に入りました。
秋津口は日本が頂きます。
草原型ならともかく洞窟や迷路だと直径一五〇〇メートルは厄介だと思います。
次回 一月三〇日 05:00予定