表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/219

東大陸 エンキドダンジョン 周辺探索

ダンジョン内工事中に付き地上での出来事を


工事いつになったら終わるのか

 仮称エンキドダンジョンであるが、入り口の一つにエンキドと記された入り口が有り、仮称が取れ正式にエンキドダンジョンとなった。

 周辺には日本によって三箇所の空き地が用意され、ギルドの非常用店舗が完成している。自前のテントや仮設小屋を持ってきた商人もいる。

 しばらくして集まってきた冒険者達は、到着したら夕方という時間だったので、今日は注意事項を聞き明日早朝からダンジョンに潜るようだ。

 周辺探索の連中は少し見てみるらしい。夜間はこの広場に出入りすることは禁止されているので、それまでに帰ってくるのだろう。

 この広場周辺はオークとグレーウルフの戦闘で荒れているし、少し外側は日本軍が充分荒らした。この周辺では余り良い物は残っていなさそうだ。


「おい、こんなものが有ったぞ」

「何だって。これは、おい!ヨクナリ草じゃないか」

「ヨクナリ草だと!お宝じゃ無いか。よく見つけたな」

「あそこの草むらにあった」


 帰ってきた連中が騒いでいる。


「ふーん、ヨクナリ草だと。じゃあダンジョンの中はもっと良い物が有りそうだな」

「そうだな。モットヨクナリ草とかヨクキキ草とかか?」

「ダンジョンの中は外に比べてだいたい一ランク上の奴だと言う噂だからな。有るんじゃないか」

「それでも究極のトキワ草は無いだろ」

「アレの値段、桁にゼロが付く信用貨だぜ。見つければ大金持ちだ」

「お前が見つけるのはせいぜいカッ草だろ」

「ひでえな、滑って転べってか」

「「「「わはははは」」」」


 明日早朝からダンジョンに入るのだろう五級以上の冒険者が馬鹿話をして緊張をほぐしている。


 翌朝、日の出と共にギルド前広場に集まる強者ども。

 出張ギルド長からの話を真剣に聞く。


「良く集まってくれた。感謝する。既に昨日地上で良い物が見つかったと聞いた。それを励みに周辺探索をする者は頑張って欲しい。ここに有った混沌領域では中型中位のオークとグレーウルフ以上の混沌獣は確認されていないが、油断すること無く無事探索を終えて欲しい。それから、昨日。ギルドと軍の会合で負傷者救護を行うことにした。負傷して行動不能になったら狼煙を上げろ。見つける。その救助作業の時貴重な薬草を踏み潰してしまうかも知れないがこちらとしては問題にしない。では、周辺探索者は行け。元気に帰ってこい」


「「「「おお!!」」」」


 周辺探索者達が去ったのを見計らって、ダンジョンに潜る者達へ話を続ける。


「さて、ダンジョン行きを選んだ諸君には、ギルドから多少の便宜を図らせて貰おう。地上のように救護できないからな。高級薬品を少しだが配給する。ギルドにも都合があるのでな、潤沢にとは言えん。返還する必要は無い」


「質問なんだが、どのくらいの奴を貰えるんだ?」


「ヨクキキ草とヨクナオリ草の薬だ。ヨクナオリ草の薬は対毒対策の薬だ。とにかく内部状況が不明だ。ひょっとしたら毒持ちが多いかも知れん。無理をせず帰還を最優先にしろ、いいな。昔話で悪いが俺はダンジョンで油断してこの手の指を三本無くした。素手で毒草を不用意に触ってしまってな。皆にはそんな事になって欲しくない。お前達のような上級冒険者にはいらぬお節介かも知れんがな。では、行け。必ず帰ってこい」


「「「おお!!」」」


「全員無事だといいですな」


「そうだな。しかし、何であんたがこんな所に?商業部の偉いさんじゃ無いか」


「そう言うあなたもね。冒険者部北部統括代理さん」


「お互いここが重要なダンジョンと考えている、ということだろう。違うか?」


「違いませんね。女神セレーネ様が直々に降臨されてしかも有益とおっしゃったと」


「あんたらは有益の一言ですませるが、俺たちは危険度だからな。そこの所は認識は一致しないぞ」


「金儲けの仕方の違いですな。見解の違いは置いとくとして、まだ帰ってくるに時間があるでしょう。お茶でも飲みませんか」


「高く付きそうだが、いいだろう。茶葉は良い物なのだろうな」


「もちろん」


 商業部ダンジョン統括部長エルストロム・ゲヘナーは、冒険者部北部統括代理リヒャール・ベッケンバンアーを伴って商業部支部長室へと向かった。



 周辺探索者達は昨日ヨクナリ草が採取されたことで皆気合いが入っていた。欲に目が眩んでいるとも言うが。

 ほとんどが混沌領域に入ることの無い四級以下の冒険者だ。混沌領域で採取できる物など今手に持っているギルド発行の配布物で確認するしか無かった。


 普段はチームで行動するのが基本だが、混沌獣が確認されていないという事で単独あるいは少数での行動が目立つ。

 エンキド領域が小さい方と行っても直径10キロは有る。外縁・中間・中央の比率は決まっていて外縁2中間2中央1だから、中央領域は半径1キロ有る。ただ真ん中の500メートは荒らされてしまってほぼダメだろう。勢いその外周へと足は向かう。

 昨日「ヨクナリ草」を見つけて自慢していた奴もその範囲で見つけたらしい。基本的な周辺警戒も怠って下ばかり見ている。大丈夫だろうか。

 中には早々諦めて中間領域に向かった者も居る。そこらも日本の戦車部隊で荒らした後なんだが。履帯でゴリゴリ踏み潰していますよ。


 そのほとんどの者が下を見て必死になっている中で、基本に忠実にチームで周辺警戒をしながら慎重に探っている冒険者達が少なからずいた。



「アリス、これを見てくれないか。この木の実なんだがギルドで貰った手引き書に似ているんだ」


「なに~。私になんか用~」


「用が有るから呼んだんだよ。この実を見てくれ」


「ん~と?ほへ?ム!これは」


 アリスの糸目が見開いた。珍しい物を見たと、ジョージ。


「これはね、多分、アレよ。あれ」


「いや、アレじゃ分からんないんだが」


「どうしたの」


 マリーがやってきた。コニーもなんだか近づいてくる。ワイツもだ。リックは何だかなと言う目で見ている。


「これ、アレだよ、アレ。セリナ婆が言ってたアレ」


「ねえ、アレってなに?」


 コニーが聞く。やはりアレでは分からんらしい。


「この手引き書のルコリヒョウタンジじゃ無いの?」


 マリーが言う。


「違うの。えーと、んーと、そうだ!」


「どうしたんだ」


「これアレよ。セリナ婆が万が一混沌領域に行ったら絶対持って帰ってこいと言った奴。薬草なんかほっとけとも言ってたアレ」 


「あーそう言えばそんなこと言ってたな。セリナ姐さん」 ジョージ


「百五十歳なんて婆で充分よ、婆で」 コニー


「確かに百五十歳であの幼児体型は無いわ」 ワイツ


「いやクランの中にはそれがいいといっている奴もいるぞ」 リック


「いやさすがに百五十歳のロリBBAはいやだぞ」 ジョージ


「あんたらね。アリス、ほんとにセリナ婆の言ってた奴なの?」 マリー


「ルコリヒョウタンは縦に縞が有るのね。このヒョウタンには縞が無いわ。これセリナ婆が言っていたセンナリかも知れない」 アリス


「「「「ゴク」」」」


「センナリなら切って、汁をひと舐めすれば分かると言っていたな」 ジョージ


「俺が舐める」 リック


「「「いや私が」」」


「待て、チームワークを乱してどうする。ここはリーダーの俺だろう」 ワイツ


「旨い!」


「「「「なに?」」」」


 そこにはしっかりとヒョウタンから出る汁を舐めた、シドがいた。チームの探索者だ。


「「「「「「シド~」」」」」」


「なにかな諸君。こいつは旨いぞ。セリナ婆の言っていたセンナリに違いない」


「ねえ、この辺多いんですけど」 マリー


「でもほとんどがルコリヒョウタンみたいだよ」 コニー


「いや、構わないから採れるだけ採っていこう。中にはセンナリも有るんじゃないか。それにルコリだって結構な値段で売れるぞ」 ワイツ


「そうね。そうしましょうよ。ワイツ、拡張袋の用意」 マリー


「ハイハイ、お嬢様」


 そう言ってチーム「暁の帰還者」は手当たり次第にヒョウタンを採り始めた。ジョージとリックはヒョウタンが倒れないよう木枠の組み立てを始める。もちろんセンナリとルコリは別だ。

 拡張袋は上級者が持っているような大容量では無いが、三級と二級で構成される「暁の帰還者」には贅沢な容量だ。これは彼等の持ち物ではなく、彼等が所属するクラン「大地の風」からの貸し出し品だ。クランに所属するとこのように様々な利点が有る。「大地の風」のクランリーダーは七級のジャン・フォッシュだ。セリナ婆はクラン所属の薬師でエルフ。八級である。セリナ婆がクランリーダーをやらないのは面倒だからだそうだ。幾つかのチームが集まりクラン結成と言う時にセリナ婆の「やれ」の一言でフォッシュがクランリーダーにされたという。

「暁の帰還者」は探索薬のシドに周辺警戒を任せ採取に勤しむ。


 センナリは高級菓子や高級料理の味付けに使われる甘味料だ。くどくなく後味の良い上品な甘さで菓子や料理の美味しさを引き上げる。混沌領域でしか採れないため上級冒険者の美味しい収入源となっている。

 ルコリヒョウタンは信じられないだろうが味醂味だ。これも人気の有る調味料だ。最近漸く人工的に似たような味と風味の調味料が開発されて出回るようになったが、やはり天然物の方が味が良く高級レストランでは未だに天然物を欲しがる。


 時折遠くで「このやろー」とかブキーとか言う悲鳴が聞こえるが、シドが何も言わないから関係無いだろうと採取を続けた。


 その日の臨時ギルドは帰ってきた皆で混雑している。皆良い物が採れたのだろう。笑顔が多い。中には余り良くない連中もいるようだ。


 さっきのブキーの奴らもその一つだ。下ばかり見ていてハイシシの接近に気付かなかったらしい。慌てて戦闘態勢を取ったときには接近されて危なかったらしい。というのがシドの見解だ。

 奴らの戦果はハイシシ一頭と多少の薬草で、負傷者と装備破損だから普通だったら赤字だ。

 負傷者はギルドで面倒を見てくれるらしい。だが装備破損までは面倒を見ないという。当たり前だな、自分達の落ち度だ。負傷者の面倒を見てくれるだけでも運がいいのだ。


 やはり見張りは重要である。

ハイシシにやられた連中は二級中心ですね。経験不足と欲目で下ばかり見て警戒が疎かになっていました。


次回 一月二八日 05:00予定

次回こそダンジョン突入できるといいな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ