東大陸 エンキド領域 *100話記念増量*
100話記念です。
よく続いたと自分で思います。
ブックマークとアクセスが励みになりました。
少なかったらきっといい加減に終わらせていたでしょう。エタッたかも。
読者の皆様、ありがとうございます。
増量と言っても二千文字です。たいした分量ではありません。
西住戦車隊は上陸後、指定された場所に集結。後続の戦車と歩兵部隊を待つ。揚陸艇の台数が全部の戦車を運ぶだけ無いのだった。
揚陸艇はほとんどは無事自力で離岸できたが、数艇捕漁船に引っ張って貰った。
歩兵部隊は大発や揚陸艇で同じように川を遡行してくる。初回と同じく最後尾に付く捕漁船にも歩兵が鈴なりだ。
結局全ての部隊が集結を終えたのは、十二日後だった。正直、奥まで川を遡ることの手間を甘く見ていた。これも貴重な戦訓となるだろう。艦隊は陸軍部隊の展開を見届けてから帰ることになっている。予定では二週間で展開終了するはずだが、まだ上陸が完了しただけだ。もう少し掛かりそうだ。
知っている場所では無く未知の場所だ。随時上陸した部隊から駐屯予定地とした場所に行くのが良いのか、全員が集まってから行くのが良いかも、議論の対象になるだろう。
陸軍部隊は現地の人達の格好の話題となっている。ひっきりなしに見に来る。上陸定点では店が増えている気がするのは気のせいだろうか。
余りにも部隊を見に来るので危なくてしょうがない。西住隊長は九十七式中戦車を一両見世物にすることを決定し、警備の兵と共に部隊から離れた場所に展示した。
時々エンジンを掛けて砲塔を旋回させるサービスも忘れない。
陸軍東大陸派遣部隊はギルガメス王国連邦派遣対混沌獣支援部隊と言う名前だった。隊員達はただ単に東派遣軍と言う。
規模は戦車と歩兵を主とした強化連隊規模。
内訳は
戦車一個大隊。充足では無い。一部日本残置。
歩兵一個大隊。日本初の完全自動車化大隊。全員車両で移動する。
支援大隊。正式な編成では無い。今回限り
工兵一個中隊
輜重一個中隊
衛生一個小隊
通信一個小隊
整備一個小隊
歩兵支援戦車一個中隊
三式軽戦車 ケロ車 三十両 ここから各部隊へと配備されるため
中隊自体には十両ほどが残るだけ
本部小隊 派遣軍司令部である。
特徴として
完全機械化部隊である。徒歩移動は一人もいない。
補給を重要視し、各種トラックや軽輸送車多数を揃える。
カラン村謹製の薬を多量に供給された。
衛生問題に関しては、漸く増えてきた魔道具職人により消臭と滅却の魔道具が複数製作され配備された。長期間連続稼働に備えて稼働用魔石はケンネルの魔石で一年は稼働可能な量を持ってきている。
風呂も給湯魔道具によって提供される。ただし水は自分達で汲まなければならない。この魔道具は湯沸かし、循環清浄 風呂のお湯を循環して再利用するのだがその際殺菌と異物除去 を行い、綺麗なお湯として風呂に戻すという凄い奴である。当然お値段はお高い。稼働させるにはある程度の魔力持ちとオーク以上の魔石が必要だ。このためだけに東鳥島で強化中の陸軍兵を連れてきている。
毎日は無理だが三日に一回は入れるようにしてある。これにより病気の蔓延を軽減できるはずだ。水虫・タムシはカラン村謹製の良い薬があり、タムシチンキは主流から外れた。やはりランエールでも水虫・タムシに悩んだようである。
指揮官は、陸軍がこの部隊を重要な部隊と鑑みて一個連隊規模の司令としては異例なことに将官である。
転移前はロシア派遣軍参謀長であった、秋津少将が就いた。次代の陸軍を背負って立つと期待される人物である。
これに対して海軍は対抗上将官を派遣せざるを得なかった。実は水上機部隊の指揮は千歳艦長水原中佐に全て任せる気でいたのである。
任されたのは蓮見少将である。かなり癖の強い人物であるが、経歴の三分の一が水上機部門と言うことで国内から厄介払いの意味も含めて送り出された。
本来大佐であったが、今回の派遣のみの臨時昇進である。
そんな蓮見少将が秋津少将に面会に来ていた。この後の連携のためだという。
「海軍少将、蓮見流水です。秋津少将のご高名は伺っております。今回本土から島流しになりましたが協力して一兵の損失も無く帰国しましょう」
「秋津紅一陸軍少将です。確かに一兵の損失無くという考えには同じ気持ちです。宜しく」
「ここに水偵で偵察した結果があります。話によるとここから20キロ北へ行った混沌領域と言うことですな」
「確かにそうです。一応簡易な地図は彼等から提供されました。まあ何ですな。伊能図と比べると相当落ちます」
「近世へ漸く届いたかという感じですから、地図はこんなものでしょう」
「伊能図も近世なのですが」
「あの情熱には敬意を払います。このくらいの文明レベルですと正確な地図は国家機密でしょうから、正確精密な地図の提供は期待出来ないでしょう。位置関係がしっかり分かっているだけでも助かります」
秋津少将は事前偵察の結果、渡河地点が限られると言った。
「このサラム川がどうも水深が有りそうでしかも速いのです。架橋戦車を持ってきましたが水深によっては使えない。もっと上流に行くしか無い」
「この橋は使えないのですか」
「戦車の重量に耐えられるとも思えないと言うことです」
「架橋するしか無いと?」
「そうです。資材はある。架橋戦車はあくまでも応急です。川幅100メートル程度なら一週間で戦車に耐えられる仮設橋を造ると工兵隊が頼もしいことを言いました」
「では作戦開始は仮設橋次第ですな」
「全くです。キドレン河が大きな支流の多い川だとは知りませんでした」
「そのおかげでかなり土地は肥えているようです」
「混沌獣さえいなければ、どうだろう。土地の奪い合いはあるか。それとも共存か。一大国家出現か。見当も付きません」
「現代以前のヨーロッパみたいですな」
「ヨーロッパは戦争ばかりでしょう。転移前も戦争だった」
「そうでした。ここには敵国はありませんからな。忘れてしまいそうです」
その日はお開きとなり、蓮見少将は海軍基地へと戻っていった。日の丸の他に蓮華紋を書いた三座水偵で。知らない人が見れば菊の御紋に間違われそうだ。
翌日より、連邦王国の許可を得て仮設橋の工事が始まった。水深を測ると最大3メートルとなった。これでは架橋戦車は使えない。岸からどんどん周辺で集めてきた大きな石や岩を放り込んで仮設道路を造る。土は入れない。バックホーやダンプトラックが一番活躍している。造っている最中にも水流で石が流されていく。堰を作るような物だ。いつまでも持たない。向こう岸には大発で必要な台数を渡した。
これも周辺住民の格好の暇つぶしとなっているようだ。連邦首都からの見学者も多い。
10メートルおきに橋桁の基礎となる部分を造っていく。恒久的な橋ではないので基礎となる部分を掘り返してコンクリで固めたりはしない。大きい石と小さい石をひたすら放り込んでブルドーザーやバックホーで転圧していく。
仮設道路が向こう岸からも中心部に届いた。橋桁は既に立ち上げを始めている。中心部の橋桁が立ち上げを終わり橋桁間に桁材数本を渡した段階で、バックホーは仮設道路中心部から壊して水圧を逃がす部分を造っていく。橋桁部分はそのまま残し橋桁が水流に流されないよう橋桁前方に壊した仮設道路の石を入れていく。橋脚後方の乱流の方が石をさらっていかないかという意見に対しては、上から放り込むで対処するという答えだ。どうせ仮設だからその程度でいいと。
やがて仮設橋が完成した。転落防止の手すりも就いている。幅は五メートル。戦車のすれ違いは出来ない。工兵隊によると、一式中戦車五両が荷重限界だという。一つの桁間には絶対二台入れないようにと言うことだ。
仮設橋手前までは、普通の道路を使ったが履帯の跡がしっかり残ってしまった。おかげで歩兵や他の部隊の手空き総員で道路を馴らしてきた。今度来るときはロードローラーを持ってこなければ。
川の向こうは混沌領域まで道は無いという。混沌領域には名前が付いているらしい。これも新知識だ。
名前はエンキド領域。小さめで強い混沌獣はいないという。いても中型中位だと。
「一曹、狙えるか」
「充分です。この銃にも慣れました」
「反動が強いのだろう。怪我しないでくれよ。エースなんだから」
「気をつけます」
田口一曹はエンキド領域の外から四式狙撃銃で中型中位とみられるオークを狙っている。ただ、東鳥島で撃破した個体と違い色が濃いのが気になる。
四式狙撃銃で通用するはずだが、通用しなかった場合ホ-103で射殺することになっている。
この領域はオークの巣のようで航空偵察の結果中心部までオークで溢れていると言うことだ。
もしかしたらスタンピートの発生も考えられると警告が出ている。
日本陸軍の実力を調べたいのだろう。手間が掛かりそうな場所を紹介された。
領域外に出ている個体は不思議なことにいなかった。
東鳥島ではいくらでも領域外にいると言うのに。
--------------------------------
四式自動小銃は転移後の世界で七ミリ小銃弾の威力不足を補うために開発された。
従来の七ミリ小銃弾を使う六七式歩兵銃は既に制式化されてから三〇年以上になるボルトアクション5連発の高い信頼性を持つ扱いやすい銃であった。
後継の一式自動小銃は同じ七ミリ小銃弾を使う一〇連発自動装填式の単発小銃だった。つまり威力は変わらない。厳密に言えば、ガス圧を自動装填機構に使うので若干だが低下する。陸軍では発射薬の強化で威力が落ちないように計画しているが、六七式が現役で残っているうちは無理だろうと言われる。
だがそこに転移があった。転移後、混沌獣との戦いで七ミリ小銃弾の威力不足が問題になった。
歩兵の主要兵器が中型混沌獣には通用しがたいのである。勿論多数を叩き込めば有効だがそんな時間を与えてくれる相手は居ない。
また海外から食肉・皮革の輸入が無くなった日本にとって、混沌獣の肉と皮は有用な物であった。
多数の小銃弾で使い物にならなくなるのは避けたい。
そこで新型小銃の開発が行われることになった。
問題は弾である。既存の小銃弾は七ミリ六七式実包、三〇三ブリティッシュ、八ミリ村田、十一ミリ村田である。うち村田は既に軍用では無く民間で猟銃用しかない。
七ミリ弾の問題は高速で有るが軽質量であり、分厚い脂肪や強い皮を持つ混沌獣の体表で減速される事であった。混沌獣によっては体表で止まってしまう。
その点は三〇三ブリティッシュも八ミリ村田も変わらない。多少ましな程度であった。
十一ミリ村田は低速であり大質量であるが貫通力が無いとされた。黒色火薬であり、使いづらいことこの上ない。
結局新規に開発となる。
陸軍や海軍が対空用に試験導入や開発していた十三ミリ級という意見もあったが、十三ミリの強装弾でありとても普通の歩兵銃として扱える弾では無かった。
ホ-103の弾はどうだろうと言うと、前記十三ミリよりは低威力であり、何とか歩兵でも扱えるのでは無いかと言うことだったが、十三ミリ級の弾を扱う銃は重量も重くなり15kgと携行は無理な上、手持ち射撃が困難だと言うことになった。
新規に十ミリ小銃弾を開発、小銃自体は一式自動小銃の機構を強化することとなった。装弾数は10発。
弾頭は10ミリ✕85ミリ。あくまでも軍用でありホローポイント弾の設定は無い。全てフルメタルジャケットである。ホローポイント弾は着弾後弾頭が変形し周辺組織をグズグズにしてしまう。肉や有用な内臓、さらに魔石を傷つけてダメにする可能性がある弾頭は使えなかった。
初速は800メートルとした。実際は780メートルであった。
機関部の長さが長くなった部分を避けるため ピストルグリップになった。
一式自動小銃は開発に五年以上掛けただけ有り、堅実な動作が売りだった。十ミリに拡大しても強大なガス圧を逃がす工夫をしただけで各部の強化で使えてしまった。銃口にはマズルブレーキを装備し反動を抑えることにした。
単体重量は8キロ、携行火器の限界じゃないかと言われる。普通の歩兵がこの銃と通常の背嚢に弾百発を装備するとかなりへたばるのが早くなった。弾百発は7ミリ実包三百発相当の重さがあった。
結局、強化歩兵専用装備となった。単体重量で8キロだ。二脚や狙撃眼鏡を取り付ければ重量増だ。
東鳥島で実用化試験を繰り返し、二〇年二月に制式化された。
----------------------------------
田口一曹は東鳥島で強化中にこの部隊に編入された。他にも大勢居る。ここに来てから給湯魔道具の起動しかやっていない兵も多い。
この領域の周辺では同様にして四式狙撃銃や四式小銃を構えている兵が大勢いる。
「一曹、時間だ」
田口は目標のオークに向けて撃った。命中は当然だが心臓を狙ったそれは背中に貫通孔を空け大量の血肉を後方に飛散させた。(魔石が無事だといいが、まあ多少はどうでもいい)
色が濃い奴にも通用する。それが分かれば良かった。続けて他のオークを撃っていく。魔石以外は用の無い混沌獣だ。腹だろうが頭だろうがお構いなしで撃っていく。強化中は少し弱らせてからの白兵戦であるが、今回は殲滅戦だ。撃ち殺していい。
ホ-103も撃ち始めた。次々オークが倒れていく。これは魔石拾いが面倒だな。そう思った時
咆吼が響き渡った。
田口は聞いたことがあった。オークの上位種だ。マズい。奴が来る。
小隊の最大火力は装甲車に装備されている二十ミリ対戦車銃だ。三十七ミリ砲でさえ通用しないのだ。逃げるしか無い。
「小尉、オーク上位種です。スタンピートの発生です。部隊に警告を」
「上位種だと。確実か?」
「この咆吼は東鳥島で聞きました。危険です。至急警告を」
「分かった」
「本部、本部、こちら・・・・・・」
田口は後ろで通信兵の担いだ無線機で本部を呼び出し交信するのを聞き流しながら、撃ち続ける。
俺の装備はこの銃と閃光手榴弾に銃剣とスコップか。相手はオークの上位種だ。とても通用しねえ。
そう思ったとき、少尉から声が掛かった。
「小隊、後退する。全員トラックに乗れ。急げ。戦車が来る。上位種は戦車が相手をする」
「了解」そこら中で返事があった。
後方に万が一の決戦場所として切り開いた場所がいくつかあり、そこまでの後退命令が出たという。
こちらが風上になる所を選んで後退していく。頭上を見れば水上機が飛んでいる。何か投下している。
東鳥島で寄せ餌として大変有効だったボラールの内臓だろう。アレで群れを誘導する。
遠くで土煙が立っている。皆集合場所に向かっている。順調そうだ。これなら損害も少ないだろう。
スタンピートの時、東鳥島ではケンネルとオークが率いるとサイモスに乗って得意げにやってくる。ここでもそうなら、いい的だ。
オーク上位種を倒すには五十七ミリ戦車砲が必要だ。七十五ミリだとオーバーキルでバラバラだから困るんだ。田口は素材を考える自分に苦笑いをする。
同じトラックに乗っている奴らが怪訝な表情をする。
「ああ、すまんな。実はな・・・・・」
聞いた事が無いのだろう。半信半疑だ。少尉は「そう言えば、渡された教本にそういう場合が有るとなっていたな」と忘れている。
決戦場所に到着すると既に戦端は開かれていた。サイモスが見える。ああ、倒れた。もう上位種はやられた後なのか?
戦車砲が響く。どうやらまだやられてはいないようだ。かなりのオークが倒れている。
「小隊全員下車、上位種は倒された。掃討戦に入る。油断するな。掛かれ」
「了解」
少尉が命令する。
全員下車して、オークの生き残りに撃ち掛かる。
あと少しで掃討戦も終わりだろう。
ただエンキド領域がああなるとは思ってもみなかった。
ほんと戦闘場面少ないですね。
強化歩兵 何やらSFっぽい響きです。
コブラシリーズとか思い出します。寺沢コブラじゃ無いですよ。
アメリカSF小説です。作者ティモシイ・ザーン
次回 一月十八日 05:00予定