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春 星ねこ鉄道の春  作者: あめのにわ
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 時はさかのぼり、数千年ほど前。


 この地帯の火山活動は活発であった。


 大規模な噴火によって溶岩が大量に噴出し、空洞化した地下が大きく陥没したのである。そしてその後、火山活動は沈静化し、復活することはなかった。そしてこのままゆけば、この地域は平凡な荒れ果てたカルデラ盆地になる運命であった。


 しかし、一つだけ違う点があった。


 隣接地域の火山地帯の活動が、予想以上に長期化していたのだ。


 言うまでもなくそこは一つ前に「星ねこ号」が停車した駅の付近であった。この駅は数十年前に測候所そっこうじょが設営されたのをきっかけに併設されたのである。


 その隣接地域では数百年にわたり何度も小さな噴火が起こり、マグマが細かく噴出した。しかし地盤が安定していたせいか、巨大な噴火はむしろ珍しく、地底には完全に噴出しきれない巨大なマグマまりが、長期にわたり安定して保持されていたのである。


 その結果、隣接するこのカルデラ盆地には大量の地熱がもたらされることになった。地熱で温められた地下水は温泉となって地上に湧き出し、それによって地表の気温が上昇したところに、少しずつ飛来した植物の種子が芽を吹いた。


 そこに鉄道が敷設されたのはわずか約五十年ほど前のことであった。


 駅が出来ても、しばらくの間はこの僻地へきちの開発は進まなかった。ところが経済的な事情によって、にわかに観光化が進んだのは、やはりこの数年間である。


 現在この盆地には温泉保養施設が五か所あった。施設とともに、本来は自生じせいしない観葉植物なども多量に持ち込まれ、亜熱帯と見まがう植生しょくせいが急速に繁茂はんもして行ったのである。


 「いやーひなびた温泉があるというのは知ってましたが、ここまで開発が進んでいるとは思いませんでしたよ。ちょうど良かった。私もお客を放り出すよりは、このほうがずっと良い」


 車掌は感慨深げに言った。長距離列車の担当なので、前回ここを訪れたのはかなり以前、もう十年近く前のことになるらしい。


 「ありがとうごぜえました」


 そう言ってブチ猫は探偵にペンダントを手渡し、降車した。観光課の猫たちが案内するためすぐに駆け寄ってきた。ぜひうちの旅館へ、と各々客引きに喧しい。


 「あのおいら、銭ねえすから、泊まれねす」


 ブチ猫は困った顔で頭を下げて謝絶すると、一瞬客引き達は黙りこんでしまったが、すぐにまたやかましく、住み込みでお手伝いをやってくれ、と勧誘を始めた。売り出し中の観光地なのでむしろ人手不足であり、なにがしかの半端はんぱ仕事には事欠かないであろうと思われた。


 「星ねこ号」は動き出した。ホームが遠ざかってゆく。客引きに囲まれながらブチ猫は、何度も列車の方に頭を下げて見送っていた。


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