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注:アカウント停止のご連絡(Lv1)  作者: イクラ
Lv1-エピローグ
33/33

はじまりはじまり

ワンタイムパスワードってなに、、、涙

ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss


「いっい湯だな、あははん」

「随分とご機嫌だね。ところでそろそろ僕と代わってくれるという優しさを見せてくれはしないだろうか、ソウ」

「ジャンケンで勝ったのは私よ。私が満足するまでは交替はありえないわ。あと目隠しは絶対取らないでね、シュン」

「気にしなくても君の裸を見たいとは思わないよ。悲しいかな僕らには性欲は一切残されていないんだからね」

「そういう問題じゃないの」

 ソウはご機嫌な様子でそう言った。

 僕らは今、北東部に位置する大きな川辺の側にいる。

 あれからひたすら歩いては野宿を繰り返し、気がつけば大きな川に辿りついた。《ゴミ箱》と言う割に、その川は澄んでいて、僕らは今までの疲れを癒やすようにその川に飛び込んだ。

 そこでソウが言ったのだ。お風呂入りたい、と。

 こんなところで何を言い出すのかと思ったが、確かに女の子としては何日も水浴びをしていないのは耐えられない事なのだろう。

 僕らは川辺のすぐ側に放置してあった大きめのドラム缶に水をいっぱいに満たし、その下に薪をくべて火をつけた。テレビで見たことがあるくらいの、見よう見まねの五右衛門風呂だったが、思いの外うまくいき、簡易風呂が完成した。

 我先にと飛びだそうとした僕とソウだったが、ここは公平にとジャンケンをし、僕が負けた。

 そんなこんなで僕は今、布で目隠しされながら、目の前の薪にむかって息を吹きかけているわけで。

 これが思いの外しんどくて、僕の体力がそろそろ限界であるわけで。

「火、弱くない?」

「うるさいなあ」

 ここ数日、ソウはどこか余所余所しく、覇気という覇気が皆無の状態で漂うように歩いていたが、どうやら水浴びして風呂に浸かり気分を一新させたのか、軽いノリで僕に話しかけるようになった。

 ソウは今、大きな川とその向こうに広がる森林というマイナスイオンマックス状態のパノラマビューを楽しみながら、風呂に浸かっているというわけだ。正直代わってほしい。

「そういえばソウ、君足をお湯につけても大丈夫なのかい? 関節部位から水が入り込んだらマズイんじゃ?」

「大丈夫よ。今更。それくらいで駄目になるような代物じゃないわ」

「ふーん。さすが政府が秘密裏に実験を行ってる試作品だけあるね」

「それでもいつ支障をきたすか、それがわからないんだけどね。結局、今もまだ実験途中ってこと」

 ちなみに僕らはあれ以来、テンちゃんたちや、《オタカ帝國》との出来事について一切喋ってはいない。二人ともどこかそれを避け、自然とその話はもうしない。

 やっぱりそれは、振り返りたい過去じゃないから。

 そして過去を振り返れば、僕と彼女はきっと、(いが)み合う事になってしまうから。

 それは嫌だった。そしてソウもそう思っているのだろう。

「ふう。そろそろいいわ。ありがとう」

 お、やっと交替か。

 絶景パノラマ五右衛門風呂。非常に楽しみである。

「じゃあ私は着替えて休むから」

「ちょ、え? 僕今から入るんだけど?」

「だから?」

「だからって、火を焚いてよ」

「大丈夫よ。今充分燃えてるし、その火が消えてもそんなすぐに温度は下がらないわ」

「……確かにそうだけど」

「あでゅー」

 あれ、僕今納得させられてしまった。

 くそ、僕だって熱々のお風呂でソウに薪をくべさせながら優越感――否、開放感に浸りたかったのに。


「いっい湯だな、あはは~んっと」

 誰もいないので、僕もそう口ずさんでみる。

 ここで人が人を当然のように傷つけ、奪い奪われているという現実が、嘘のようだ。

 こんなに綺麗な場所なのに。

 僕らはついこの間まで当たり前の社会で生きていたはずなのに。

「……む、ぬるくなってきたな」

 お湯が一気に冷め始める。

 空も暗くなってきて、身体が冷めてしまいそうだ。

 僕は慌ててドラム缶から出て、身体をタオル用の布で覆った。

「あがった? 丁度良かった、晩ご飯にしましょ」

 当たり前のようにソウがそう言って、僕に缶詰を差し出してくる。

 食事も持ち歩ける分以外は持ち歩かない、一応のその日暮らしをしている。この缶詰は今朝取った物資の一つだ。

 僕らは――少なくとも僕と共に行動している間はソウも――他人を殺さない、極力傷つけないという戒めを守っているため、物資争奪にたいして強気に出れない。そのため、奪い合った際に落ちた残り物か、ソウが物資を手に取って早々に逃げるという方法でしか物資を得られない。

 そのため見るからにしょぼい量の食事にしかありつけない。

 ただまあそれでいいのだ。

 必要以上を求めれば、きっとそれは争いを呼ぶから。

「そういえばシュン」

「なんだい、ソウ」

「これからどうする?」

 ようやく、彼女はそう訊いてきた。

 やっと訊ける雰囲気になったからだろうか。気持ちの整理がついたからだろうか。

 とにかく彼女は、一番初めに聞くべきことを、今ようやく僕に尋ねた。

「どうするも何も、僕らはゴミだよ。どうすることもできないよね」

「まあね。でもそれでも生きてる。生き延びてる。だから何かをしなくちゃいけない。でしょ?」

「確かにね。ソウ、君はどうしたいんだい?」

「私は……」

 そこで一瞬、ソウが言葉を止め、

「私は、外に出たい。やっぱりこれは変わらない。ゴミの分際で、って思うかもしれないけど、皆を犠牲にして自分だけって思うかもしれないけど、でも私はまだ外の世界に未練がある……何か目的を持つのであれば、私は外に出るために努力したい」

「そう言うと思ったよ」

 としたり顔で言ってみて、僕はポッケの中から取りだした。


 青く光輝く《鍵》――を。


「これ……あれ、カイザーが持ってたんじゃ?」

「診療所でね、彼興奮してて胸ポッケががら空きだったから、すっておいたのさ。意外とバレないものだね」

 僕が差し出した《鍵》をソウはきらきらした瞳で見つめていた。

 ようやく彼女の目に、生というものが戻ってきた気がする。

「ソウ。僕も外に出たい」

「え?」

 ソウは視線を上げ、僕の瞳を見つめた。

「やっぱり、納得いかないよ。ううん、僕が碌でもないゴミ野郎って事じゃないんだ。それは納得してる。こうでもならなきゃ、頑張ろうなんて思えなかったろうしね。その点は感謝してると言ってもいいくらいなんだ……でもね、やっぱり人はそう簡単に見切っていい存在じゃないと思う。見切れる存在じゃない。どういう判断基準で人間ゴミと判断を下しているのかわからないけれど、でもここにはそこまで言われるべきでない人間もいた。テンちゃんだってソウだって、もっと言えばカイザーだって、いくらでも更正の余地はあったと思うんだ。僕らにはまだまだ変えられる未来があったと思う。それを一方的に更正の余地無し、消費するだけのゴミだと断絶できる、その根拠を僕は尋ねたい」

「……」

「そしてもう一度僕らに、人生の底を知った僕らに、やり直すチャンスを与えてもらいたい。むしのいい話かもしれないけれど、それでも今なら、きっと社会に戻っても頑張れる人はいると思うんだ。こんな所に押し込められるくらいなら頑張ろうっ、て思えるようになっていると思うんだ」

 だから僕は、外に出てみたい。

 出て、外の人たちと、この《ゴミ箱》という物について、話し合いたい。

 そして僕たちのこれからについて、訴えたい。

 もう一度だけ。もう一度だけ、チャンスをください、と。

「この《鍵》は、きっと政府からの僕らへの試練なんだ。本当にここから出たいなら、その意志を、泥水をすすってでも、地べたを這いつくばってでもする努力を見せてみろ……っていうね。だから一つじゃない。五つもあるんだ。五つも集めるのは困難だろう。でも本当に生きたいなら、外に出たいなら、それくらいやってのけろ。そういう意味が込められてるんじゃないかな」

 僕はそう思う。

 かなり好意的に受け取ったけれど。

 そう思いたいのだ。

 政府の人間がアメリカドラマのようにわかりやすく腐った組織ではない、ちゃんと血の通った人間味溢れる存在だと、思いたい。

「これは僕と君との共通目的。僕らは仲間ではないけれど、でも同じ目的を持って、同じ方向に歩いて行く、それだけ」

「……また、私は君を欺すかもしれないよ? 《鍵》を自分のものにするために」

「やればいいさ。でも僕だってもう欺されやしない。君の一言一句、一挙一動を疑ってかかってやる。かかってこい」

 両手を胸の前に持ってきて、構えるポーズを取る。

「ふふっ。何それ」

「笑うなよ。確かに僕は避けるしか能がないけどさ」

「充分よ。君が避けて、私が攻める。きっとここで私たちに適う人はいない。きっとすぐに、《鍵》を集められる」

 僕らは空になった缶詰を脇に置き、立ちあがった。

「じゃあどこへ向かおう。他の《鍵》っていうのはどこにあるんだろうか」

「さあ。他は聞いた事ないわ。でもきっと五大勢力……もう四大勢力か。彼らならきっと持ってると思う。貴重な物資は彼らに流れ着くようになっているから」

「なるほど。じゃあまず向かうはどこから?」

「そうね、一番好戦的でない《黒色旗》に接触してみるのが無難でしょうね。反政府組織である彼女たちなら、きっと外に出るための《鍵》の事も良く知ってるでしょうし、何よりいきなり襲いかかってこないだろうから話し合いの余地はあるはずよ」

「それは救いだね。もう僕は殺し合いは御免だよ。疲れるから」

「誰だって、そう思ってるわよ」

「……それもそうか」

 誰だって死にたくない。

 ゴミだろうがなんだろうが、生きたいから、生きてる。

 争いごとなんてなければそれに越したことはないけれど、この《ゴミ箱》の環境はそれを強制する。

 この先僕らはどれだけの人間と会い、どれだけの争いごとに遭遇するのだろうか。

 どれだけの人間の死を見なければいけないのだろうか。

 それを考えると果てしなく気持ちは暗く、億劫になるけれど。

 それでも進まなければならない。

 僕は、生きて行かなければならないのだ。


 例え僕が人間だろうとゴミだろうと、その気持ちに変わりはない。


これで終わりです。

最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。よければツイッターなどで繋がってください。感想とかも遠慮なく。お待ちしております。

めちゃ喜びます。

とりあえずこの物語は、ありがとうございました!

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