一件落着。だと思う。
FF14やってみたい。
ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
コンクリの室内に、銃声が反響する。
「嘘……だろ?」
ほぼ数十センチの距離で撃った銃弾を、僕は頭をそらし、ほとんどギリギリで避けた。
銃弾は僕の頭のあった後ろの壁に着弾している。
信じられないというカイザーの油断をつき、僕はカイザーの近くにあった消えた電気スタンドを投げつけるように振るい、その隙に立ちあがって背後へと駆けた。
「ま、待てよこらァッ!」
そして揺れる頭を抑え、二階への階段を急いで昇った。
カイザーも後をつけてくる。
僕は二階の長く細い廊下をその先、談話室の手前まで行って、そこで止まった。カイザーの方を振り返る。彼は僕とは真反対の、廊下の先にいる。
「動くなよ……絶対動くな。こんだけ狭い廊下だ。もう左右にゃ避けられねえぞ」
「……そのくらいの距離なら、避けられるよ」
「だろうな……だからこのまま距離を詰めればいい」
その時、カイザーの背後の襖が開いて、そこからソウが出てくる。彼女は長刀を抜刀した状態で、それをカイザーに向けた。
僕とソウが、カイザーを板挟みにしている状態だ。
「ちっ……時間稼ぎしてると思ったら、そういうことかよ。俺様を挟み撃ちか……でも俺様には銃がある。そんなもん関係ねえぞ」
「そうかい? でも君は気付いていないけど君の持つその銃は、リボルバー式。見たところ銃弾は六発込められる仕様になってる」
「あァ? だからなんだ。ガンマニアか?」
「僕が初めて君と相対した時、君は僕に二発銃弾を放った。そしてその後見た時、君のそのリボルバーには弾が補充されてはいなかった。そこで僕は君には銃弾のストックがないんだと悟った」
「……くっ」
「そしてここにきて、君は僕らに三発の弾をみまった。ということはここまでで君は五発撃ってしまっていることになる……算数はできるかい? まあできないよね。つまり、君が撃てる弾数はあと一発だ」
ぴん、と指を一本だけ立てた。
「てめえ……そのために、俺様を挑発して銃を撃たせてたのか」
「あんな挑発で大事な弾を撃ってくれるとは思わなかったけどね。しかも残弾数を把握していないなんて思ってもみなかった」
カイザーは身体を横向きにして、僕とソウ、両方を見れるように体勢をとった。
「さて。残弾数は残り一発。敵は僕とソウ、二人だ。どう足掻いても殺せるのは一人」
「どっちかが、死ぬ作戦ってか?」
「その通り。さあ、どうする? 最後の弾を、好きな方に撃てよ」
カイザーの思考回路はこうだろう。
僕に撃っても、また避けられる可能性が高い。心配性の彼は、この左右に避けられない狭い廊下でももしかしたら僕が避けるのではないかと疑心する。
じゃあソウを撃つか。
しかしソウを撃って当たったところで、弾が切れる。そうすれば僕と拳銃は無しで戦う事になる。そうなれば、どうなるかわからない。
じゃあやっぱり僕を撃つか。
でも僕を撃ったところで、撃てたところで、ソウと差しでやり合えば、勝ち目はない。
《黒塵ノ矢》の異名を持つ相手に、適うとは考えない。
じゃあどうすればいい。彼は考える。
そして思いつくのだ。片方を脅して人質に取り、この場を脱しようと。
ここで怒りで沸騰した彼は、ようやく逃げることを思いつく。
じゃあ人質はどちらを取ろう。でもソウは――ありえない。近づけば切られる。それだけだ。
「うあああァァッ!」
じゃあ僕を捕まえて人質にし、ソウに手出しをさせずにこの場から逃げ出せば良い。
それが最も有効的で、現実的で、無難な、臆病者の彼が取る、唯一無二の選択肢。
カイザーは勇ましく叫びながら、僕に襲いかかってくる。
でも――
「そこ、床抜けてるよ」
ズザン――と、勢いよく走っていたカイザーの身体が、下へと消えた。
そう、以前そこは青いビニールシートで穴を塞いでいた場所。でも今そこは暗くてよく見えず、注視しなければ見えない。そしてこの状況で、興奮しているカイザーがそんなものに気付けるわけがない。僕はソウにそのブルーシートを取り去るように頼んでいたのだ。
元々ボロボロだった床はカイザーの重い体重と勢いで、踏んだ瞬間にさらに穴を大きくした。そしてそこにカイザーは落ちた。
まるでコメディの落とし穴のワンシーンのように。
呆気なく。面白いくらいに。
「ぐあ……あ……」
開いた穴から、下をのぞき込む。
一階まで突き抜けたそこには、痛みに身をよじらすカイザーと割れた木の破片などが散乱している。無数の木の枝は容赦無くあちこちカイザーに刺さっている。
「ちゃんと足下は見ないと。上ばかり見ているからそうなる」
「て、てめぇ……」
結構な高さだ、恐らく足を折ったりくらいはしているかもしれない。少なくともすぐには動けないだろう。
「カイザー」
僕は彼の名を呼び、彼は僕を見上げた。
僕の手には、銃が握られている。カイザーが落としていった、残弾数一発の拳銃を。
「ひィィ! や、やめろ! こっちに向けるなァ!」
「……本当に君は、可哀相な人だよ」
僕はそのまま持っていた銃を天井にむけて、放った。
最後の一発を撃ちきった。
「僕はもう、絶対に人は殺さない。そう誓った。誰かを殺すくらいなら、自分が死ぬ。それが僕がここで生きて行く上での、最後の尊厳だ」
それを守れなくなった時、僕は自分を殺す。そう決めた。
弾の入っていない拳銃を下に投げ捨てる。それは虚しく地面に当たって、音を立てる。
「こ、ここから出たら憶えてろよ! 絶対に、絶対にてめえは殺す! 俺様を侮辱した奴は許せねえッ! あのガキどもみたいに、晒しものにしてやるからなァッ!」
僕の隣にきて下を覗いていたソウが、その言葉に対し長刀に手をかけたが、でも僕はそれを制止、彼女に向かって無言で首を振った。
するとソウは渋々といった感じで自分の感情を押し殺し、背を向けた。
僕らは下から聞こえる負け犬の遠吠えを耳にしながら、一緒に診療所を後にした。
ソウが一瞬、僕を睨んだ。
きっとどうしてあいつを殺させてくれないのか、と言いたかったのだろう。あのクズにとって、僕の中途半端な行為は逆効果だ。逆上させて、復讐の機会を与えてやるだけだ。
そう言いたいのだろう。
だが違う。
カイザーが落ちたあの場所は、昔診療室だった場所。以前僕も、そこに入って寝泊まりさせられた。あそこはそう、建付が悪く、中からは扉が開けられないようになっているのだ。絶対に。
中に入ってしまえば、そこは完全な密室。
外から助けてもらえなければ、もう出られない。
そして助けてくれる仲間など一人もいない、カイザーにはそれはありえない。
だから彼はあそこから出られはしない。
「ふう……それにしても結構疲れたね。これからどうしようか」
診療所を出ると霧はもう晴れていた。
僕は明るい空を見上げながら、隣に立つソウに尋ねた。
ソウは黙って同じように空を見上げた。
「さあ」
彼女はそう漏れ出るように言った。
その目は何を見ているのか、それはわからなかったが、僕は黙って歩きだした。
どうせどこに行ってもここは《ゴミ箱》。
人間ゴミの、たまり場。
だから行く場所なんて、あるようでないのだ。
僕らは自然と同じ方向に進み出した。
行く当ては特にない。




