僕はあなたを処刑します。
ラーメン食べ続けても健康でいられる薬が欲しい。
ついったー▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
「おうおう! 兄弟!」
《オタカ帝國》のホームである神社に戻った僕に、カイザーはそう言いながら笑顔で歩み寄ってきた。そして僕の肩に手を回した。
「兄弟……?」
「そうだよ。おれたちゃ今から兄弟だ!」
「どういう、意味ですか?」
「おいおい、余所余所しいしゃべり方すんなや。な? ほら、飲め」
半ば無理矢理に僕はカイザーから欠けたおちょこを渡される。そしてそこには溢れんばかりの……水? が入っていた。酒ではないだろう。ここはそう言った趣向品の一切は認められていないのだから。
同じ容器をカイザーも持っており、彼は僕の目を見つめながら、そのおちょこを僕のものと軽く合わせて口に含んだ。
「兄弟。お前も飲め! これは区切りの杯だ!」
一瞬、意味がわからなかったが、しかし彼の言いたいそれが、おそらく『契りの杯』であることに気付く。ただそれをツッコむ仲でもないため、僕は黙って自分の分の液体を口に運んだ。
ん? この味は水でも酒でもない、スポーツ飲料水だ。こんなものまであるのか。こういった場で使うのだから、それなりの貴重品なのだろうか。
おちょこを飲み干した僕に、脇にいた女の子が近づいてきて跪く。そしてその手を差し出し、僕のおちょこを受け取ってもう一礼して戻っていった。
それは確か、カイザーだけにする忠誠の所作だったはずだ。
「それで、兄弟って?」
「ん? あ~お前さんがそれだけの価値のある人間だ、って事だ。この《ゴミ箱》でよ、まともな人間ってのは指折るくらいしかいやしねえ。どいつもこいつもくだらねえ人間ばかり……でもよ、お前さんは違った。作戦、大成功だったじゃねぇか」
「……まあ」
「敵の本拠地に攻め込む際の作戦の立案、そんでもって最後、あの《黒塵ノ矢》を自分で引き受けて、しかも一人で倒しちまうその度胸と実力……俺は拍手万歳を送りたい気分だぜ」
おそらく拍手喝采と言いたかったのだろう。
まあいちいちこの人の言葉の使い間違えに反応するのはよそう。話が進まない。
「何より俺様の銃弾をお前は避けた……あれには度肝を抜かれたぜ。あんな事できる奴は、二人もいねえ! お前となら、俺はきっとこの《ゴミ箱》全土を支配できる! そうだろ? 《新生オタカ帝國》の誕生だ! がっはっはっ! だから俺はお前さんを俺の右腕にすることにした! 嬉しいだろ?」
「復讐が終われば、僕は死刑じゃなかったのかい?」
「ノンノンノン。そんな馬鹿の一つ覚えみたいに処刑するのはアホのすることだ。例え敵だったとしてもな、そいつが有能で使える奴ならそいつを諸手を挙げて仲間に引き入れるくらいの器量がねえとな! そしてそれがお前だ! シュン! 歓迎するぜ、俺様と一緒に、天下を目指そう」
天下? たった半径五キロ円の土地を統一して、天下?
笑えない。僕らはそれまでに何人殺せば良いんだ。
何度こんな思いをしなければいけないのだ。
「……ところで、ソウは?」
「あ? ああ、《黒塵ノ矢》か? あいつならお前を吊してた部屋に吊してるぜ。どうせならお前と一緒にどうするか決めようと思ってな。どうするよ? ひんむいて晒すか? それとも壮大に公開処刑をするか? 俺様ァどっちでもいいぜ! 兄弟、お前が決めな! お前の名前をチーム、そして《ゴミ箱》中に知らしめるいい機会だ!」
「いいね。楽しみだよ。でもどうするかは後で報告するから、僕は少しソウに会ってきていいかな。最後のお別れをしたいんだ」
「ああ、いいぜ。お前さんの好きにしな! ……ああでも」
終始ご機嫌だったカイザーは、少し睨むようにその手を僕に差し出した。
「《鍵》、返しとけ。それは俺様のもんだ」
「……」
忘れていたわけではないのだが。しかし自分には必要ないと言っていても彼は結構抜け目ない。僕はポケットの中から取りだしたメタリックな青色の《鍵》を、カイザーの差し出す手に置いた。
「これは使わなくても、大事な交渉材料になるからな。これからは銃と一緒に俺様が自分で持つことにするぜ」
言って《鍵》を着ていたコートの内ポケットにしまいなおし、カイザーは歩いて行く。僕はそんな彼を一瞥しつつ、本殿の仏像が置いてある場所の右脇の扉へと入った。
そこから今にも抜け落ちそうな音のする長めの廊下を歩き、その一番奥、右手の扉に入った。改めて外から見ると、そこはこの本殿の中でも見窄らしい部屋で、何より狭い。恐らくここは物置か何かのような所だったのだろう。
そしてそこに、ソウが逆さに吊られていた。
彼女は特に乱暴を受けたわけでもないらしく、僕と争った後のままの様子だった。
「こうしてみると、今度は全く逆の立場になったね」
僕の声に、ソウはゆっくりとその目を開いた。何時間も逆さに吊られていたからか、酷く辛そうだ。
「前は君が僕をこうやって見下ろしていた。本当だね。滑稽だよ。こうして見ると」
「……」
ソウはもはや魂ここにあらずと言ったように、何も言葉を発しなかった。
「結構辛いだろ? 僕はこれを二回も経験したんだ。一度は自分のせいで。もう一度は、君のせいで」
僕はソウから奪いとった長刀を抜き、彼女に向けた。
よくこんな長い刀を自由に振り回せたものだ。僕には長すぎて抜刀するのも一苦労だというのに。
「君は僕に言ったよね。生きろ、と。ゴミでも人だ。感情がある。その本能に従えと。君はどうだい? こんな状況になっても、生きたいと思うかい? 仲間も殺され、アジトも失い、抗うための武器をも失って。それでもやっぱり生きたいって、思うものなのかい?」
「お前が……お前のせいで……!」
ようやく喋ったソウは獣のように歯を剥き出しにし、そして自分を縛る紐を物ともせず、僕に食らいつこうと暴れた。
「僕も悪い事をしたとは思っているけれど、でも自業自得だろう? それにここには善悪はない。そんなもの、僕らはとうの昔に切り捨てた」
「それでも私はお前を許さない! 死ぬまで恨んでやる!」
「……」
やめろよ。そんな顔で見るなよ。
自分のことを棚に上げて、僕ばかり糾弾するなよ。
自分だってたくさん人を殺してきたくせに。自分だって僕に酷い事をしたくせに。
独善だなあ、ほんと。
このゴミ箱の人間は、皆独善的だ。でもそうじゃないと生きていけない。だから僕もそうなると決めた。他人の感情に感化されない、自分だけが良い思いをするための、そんな生き方をしようと。
僕は長刀を鞘の中にしまい直し、ソウに背を向けた。
「決めたよ。君は明日、公開処刑する。君のこの愛刀で、この僕が、君を処刑する。そして《黒塵ノ矢》の称号は、僕が引き継ごう。矢のように動けはしないけれどね。でもそうしてやる事が、君へのせめてもの礼儀だとも思うんだ。一応、初めは助けてもらったわけだしね」
一応言っておくよ。ありがとう――それだけ言い残し、僕は部屋を後にした。
ただここに来るまでと違って、何故か帰りはこの長刀が重く感じられた。
これって、こんなに重かったっけ?




