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注:アカウント停止のご連絡(Lv1)  作者: イクラ
Lv1-⑤
25/33

強気な女の子を泣かすのは気持ちいい。

昨日忘れてました。。。

ついったー▶︎飯倉九郎@E_cla_ss

「近づくなッ! 切るぞッ!」

 僕のかつてのホーム、お化けの出そうな診療所内、その二階奥から叫び声が聞こえる。

 僕は立ち止まるのをやめて、二階の、談話室へと足を踏み入れた。

 そこには一人の人間が転がっている。綺麗なブロンド髪が特徴の、美しい女の子だ。しかしいつもすやすやと気持ち良さそうに眠っている彼女は、今はその顔に絶望を描いたかのような表情で横たわっている。息は……していない。それは見れば分かる。

 だって彼女の全身は赤黒い血でまみれているのだから。

「来るな来るな来るなァッ!」

 僕が今度はその遺体に立ち止まっていると、さらに奥、物置と化していた部屋から同じ聞き覚えのある声が響いてくる。そちらに視線を向けると、その物置への入り口に大勢の人間がたむろするように立っていて、どうやら倉庫の中をうかがっているようだ。

 僕がそちらへ近づくと、僕の姿を見た《オタカ帝國》のチームメイトたちが、さっと割れるように道を作ってくれる。

 扉の開いている物置の中、その中に顔を覗かせると、そのランプの光が届かない真っ暗な空間に、その闇に溶け込みそうな程黒く長い髪をした女が立っていた。

 彼女は酷く狼狽(ろうばい)しているようで、物置の中で誰も近付けないようにその長い長い刀をこちらに向けていた。しかし以前のような凜とした様子は一切無く、彼女の刀を持つ手は震えていた。

「いいよ。ありがとう。後は僕がやる」

 そう言って、僕は《オタカ帝國》の人たちを扉の外に出し、扉をそっと閉めた。

 そして彼女――ソウに向き直る。

「やあ、酷く狼狽してるね。珍しい」

「き……君……そん、な……え、まさか、生きて、たの?」

 ソウはお化けでも見たような顔でそう言った。

 まるで信じられないとでも言うように。

「お陰様でね。僕は君に勇気づけられて、なんと銃弾を避ける事に成功したよ。しかも二回も……誉めてよ。ねえ」

「嘘……そんな」

「その様子だと、やっぱり僕は銃で撃ち殺される予定だったんだね。そして口封じをして、このホームの場所も君たちの正体も隠し通せるはずだった……なかなか抜け目ないね君は」

 僕が皮肉ってそう言うと、彼女は困惑したように視線を泳がせる。

 そんな彼女の様子が、酷くおかしい。人はこんな困惑することがあるのか。

「じゃ、じゃあもしかして、君が……この場所を?」

「当たり前だよね。あれだけ非人道的な事をしておいて、よく仕返しされないと高をくくれたもんだよ」

「あれは、だって……!」

「だって? まさか君の口からまだ言い訳が出てくるとは思わなかったよ。さすがだ。でも大丈夫。知ってるよ。聞いた。《鍵》でしょ? この腐った《ゴミ箱》から抜け出すための《鍵》。君たちはそれがどうしても欲しかった」

 ちらり、とその時ソウの首元に光る青い物体を見つけた。彼女は盗んだそれを、大事そうに首からぶら下げている。

「それが《鍵》なんだ。見せてよ、僕にも」

「来るなッ!」

 僕が一歩踏み出すと、ソウは怯えた猫のようにそう叫んだ。

「なんでだよ。僕のおかげで、僕を囮にしたおかげで奪えたんでしょう? だったらそれを見るくらいの権利はあってもいいと思うけどね」

「君が……君がここを教えたから、皆がッ!」

「……ああ、見たよ。全部。一階にインちゃんと、隣の部屋にオンちゃんがいたよ。もう動いてなかったけどね。……ところでテンちゃんは?」

 僕の質問に、ソウは一瞬視線を上へとやった。

 そう、屋上に。

「なるほど。上か。なかなか粋なことをやるよね、彼らも。テンちゃんは星空が好きだって言ってたから、喜んでるんじゃないのかな」

「そんなワケないだろォッ!!」

 あまりの怒号に、耳が痛い。コンクリが思い切り音を反射させる。

「テンは、あの子はたったの十歳だぞ! そんな子供を、どうしてあんな酷い事ができるッ! あんな……」

 言うのも(はばから)れるのだろう、ソウは続きを言いかけて、震えるように下を向いた。

「知らないよ。あれは僕の趣味じゃない。カイザー様の趣味だ」

「カイザー……様? 君は、あんな奴に、魂を売ったのか!?」

「そうなったのは誰のせいだと思ってるんだよ!」

 今度は僕が、ソウを咎めるように叫び返す。

 酷く冷静だった自分の心が、ここにきて沸騰しだしているのがわかる。

 彼女の自分勝手な物言いに、僕の中の悪魔が呼び起こされる。

「あんなクズ以上に、君たちの方がよっぽど酷いじゃないか! 良い人ぶって裏切るよりも、初めから悪い人間だってアピールしてる方が、よっぽどマシじゃないか! ここで、こんな腐った《ゴミ箱》で生きて行くためには、あの人について行くしかないんだよ! そうしなきゃ生きていけないんだよッ! 僕をこんな状況に追い込んだのは君だろう! 今更被害者面してんじゃねえよッ!」

「……」

 返す言葉が無いのだろう。ソウは悲痛な面持ちをこちらに向けるだけだった。

「テンちゃんだって同罪さ……知ってて僕を見捨てたんだから」

「ち、がう……」

「え?」

「テンは、あの子は、この作戦を知らなかった……あの子はまだ子供だったから、こんな酷い作戦きっと了承してくれない。それでも私たちはやらなきゃならなかった……外に出るために。だったら知らない方がいいって、そうなったの。だから、テンは何も知らなかったの! ……あの子は、テンは君の事を気に入っていたから……」

「だから助けろって? だから悪くないって、そう言うつもりかい? どんだけ独善的なんだよ……じゃあ僕は? 僕は何か君たちに悪い事をしたかい? 裏切られ、見捨てられる事をしたかい? 何もしてないよね? むしろ君たちを信じて、仲間と慕って、全力で手伝ったよね。銃弾を避けろなんて無茶な難題も文句言わずやり遂げたよね? そんな僕に君たちは何をした? 自分達だけ甘く見てもらおうなんてふざけるのも大概にしろよ! ソウ!」

「でもォ……でも、あんな、あんな酷いことしなくたって……」

 ソウはため込んでいた哀しみをはき出すように、ひくひくと泣き始めてしまった。

 至極女の子らしく。両手の平で顔を目を覆って。

 それがいたたまれない。殺したい程憎んで、心を鬼にしきっていたはずなのに。それでも僕は、今の彼女を直視できない。

「どうしてだい? 僕を信じてくれればよかったじゃないか。僕を信じて、初めから《鍵》を奪う作戦を立てれば良かったじゃないか……どうして僕に真実を話してくれなかったんだよ?」

 僕はようやくずっと尋ねたかった事を尋ねた。

「……《鍵》は、《鍵》の本当の正体は、誰も知らない……」

 嗚咽を吐きつつも、ソウはなんとか言葉を吐く。

「実際、あれを差し込めば、外に出られるのかどうか、それがわからない。あくまで推測……そして本当に五つ集めたとして、外に出られるのが一人なのか、五人なのか、はたまた全員なのか、それがわからない……だったら余計な人数を増やせなかった……」

「そういうわけか。でもどうしてそんなに外に拘るんだい? ここで一緒に生きて行くしかない、そう言ってくれたじゃないか」

「家に帰りたくないわけがないじゃない!」

 ソウは僕を睨んだ。大きな目で。目を真っ赤にして、睨んだ。

 それは当然だ。言われてから、僕はそう思った。

「こんなとこで、死ぬまで生きてくなんて嫌……どうして足を怪我しただけで私の人生が終わらなきゃいけないの? 怪我してちょっと休んでただけで、私は邪魔なゴミなの? そんなの認めたくないっ!」

「足を、怪我したって?」

 僕の知らなかった真実に、そう反応すると、ソウは躊躇(ためら)うように時間を作った。

「……そう。私は昔陸上をしてたって、言ったよね? でも、高校二年の時、車に()かれて私は脚を……両脚を切断した」

 ソウは自分の両脚を見下ろした。全く健康に見える、自分の脚を。

 それ確かにだぼだぼの作業着のようなものに隠されてはいるが、彼女は問題なく歩いていたはずだ。

「この脚はね、義足なの……太ももから下全部、義足。全くそうは見えないでしょ? 私が脚を切断して全ての事からやる気を無くしてた時、あの白い服を着た政府の人間が私の病室に来た。彼女は言ったわ。私は両脚を無くして、まともに働けない人間になった。そのくせその悲劇に浸って過去を噛みしめ、新しい自分に、これからの未来に向き合おうとしなかった。そんな私を《人間ゴミ》に認定したって……理不尽だと思った。両脚を無くして、悲観する時間も与えてくれないのか、って。でも抵抗もできず気がついたら私はここにいた。この腐った人間を押し込める《ゴミ箱》に。そしてその時、私の無くなったはずの両脚がここにあった……」

 ソウは優しくその両脚の義足をさする。

「初めは嬉しかった……歩ける事に。でもきっとこれも政府の人間にとっては情けでも治療でもなく、いかに高性能な義足ができたかの実験。実際に私で義足の試験を行ってる……でもこれが例え試供品だとしても、私が実験対象だとしても、私は両脚を与えてくれた事に感謝してる。おかげで化け物染みた動きもできるようになった」

「そうか。あれは義足の能力なんだね」

「でも、それでも私はここに、この《ゴミ箱》に捨てられた事は納得してない。こうして自由に動かせる脚ができたんだから、私はきっと外の世界でも生きていける! だからすぐに外に出て、今まで遅れていた分を取り返すの! そうすればきっと政府の人たちも私を認めてくれる! 社会は私を必要としてくれる!」

「そのために、君を信用した人を殺してもかい?」

「……っ」

 僕は、辛辣にそう告げる。

 ずっぷり、と彼女の心臓に深くナイフを突き刺すように。

「それで外に出たって、君はまたそうやって人を出し抜いて生きて行く。人の犠牲の上に成り立つ成功なんて、所詮まがい物さ。少なくとも人の社会ではね」

「しょうがないじゃない! そうやって(だま)して欺されてを繰り返すのが、この《ゴミ箱》の生き方でしょ!? 理想や道徳感情なんて重石なの! それじゃあ生きてけない!」

「だから、だったらそのために君は、テンちゃんなんて小さい子すら犠牲にするんだね」

「な……それは、君が……!」

「違う。違うよ、ソウ。それは大きな勘違いだ。彼女を殺したのは僕じゃない。君だ」

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