皆さんご期待の通りです。
さっむ
ついったー▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
もう一度、僕はネズミ花火をカイザーの進もうとする先へと投げた。そして花火は破裂し、その音に彼らは足を止める。
「だ、誰だァ!」
カイザーは全身から湯水の如く汗を流しながら、その銃口をそちらに向けた。
「い、行け! 行けお前!」
カイザーは音のした方に、自分の警護をさせていた女の子の一人を向かわせる、彼女たちも逃げたいだろうに、しかし後ろからも銃口を向けられれば、その手に持った拙い武器でまだ見ぬ敵に立ち向かうしかない。
ジワジワと、音のした暗闇の方へ進んでいった彼女は、カイザーたちの視界から見えなくなった所で、うめき声を上げた。そしてそのまま、戻ってはこない。
「な、なんなんだよぉ! フー……フー……お前達なんなんだよぉ! 出てこいよぉ! 殺すぞ!」
恐怖が絶頂に届いたのだろう。それがよく見て取れる。
あの男はただ拳銃を持っているだけの、能無し。救いようのない愚か者だ。誰かの上に立ち、誰かに命令するだけの素質は皆無だ。
「い、行けよ! 次お前……お前も! 行けよ!」
嫌がる女の子二人に、しかし彼は銃口を向ける。そうすればその愚かなブタを護るために前に出るしかない。
ちなみに、彼女たちの先にいるのは、ソウだ。
先程のネズミ花火は、彼らを怯えさせ足を止めるための意味と、もう一つ、ソウに僕たちの居場所を知らせるための意味があった。ソウはその脚力を持ってすれば、その音の場所に即座に駆けつけてくれる。案の定彼女はすぐにここに駆けつけてくれ、そしてカイザーを護る最後の砦を引きはがしてくれた。
女の子たちが恐る恐る前に進んでいる途中で、カイザーは彼女たちを置いて自分は逆の方向へと一目散に逃げ出した。のそのそと、醜く汚らしく。
来た――。
この瞬間を、僕らは待ち望んでいた。欲に溺れた愚かな王が、自らの命かわいさに全てをかなぐり捨てて逃げ出し一人になる、この瞬間を。
「止まれ」
少し走らせた後、僕はそう満を持して言った。
周囲は誰もいない。僕と、目の前の醜い男しかいない。邪魔する者は誰も。
「な、なんだてめえ……おおお、お前が敵か!」
カイザーは突如目の前から現れた僕に、当然その手に持った銃を向けた。手は震え、今にも発砲してしまいそうだ。
「う、動くなよ……撃つぞ……お、お前……どこかで会ったか?」
「気のせいだよ」
カイザーと会話をしながら、僕の意識は彼の持つ銃にいっていた。
決して目を離さない。指一本、筋一本の動きを見逃さないように。
君には銃弾を避けてもらう――ソウは僕にとんでもないことを言った。
そう言った彼女を、僕は正気かと言いたげな顔で見返した。
「冗談じゃ無いよ。私は至って真面目。そしてこれはこの作戦の成功を決める最大の要因となる……私たちがするのは、それまでのお膳立てにすぎない」
「ちょ、ちょっと待ってよ。銃弾を避けるって、さすがにそれは無理でしょ」
当然のように、僕はそう言った。
「普通ならね。でも君ならできる。私の攻撃も避けたじゃない」
「だからって銃弾と君とでは速度に隔絶とした差があるよね。矢と銃ではもはや文明が違うよね」
「そりゃあ撃たれた銃弾を見切って避けるなんて事はできないわ。例え強化された反射神経を持つ君でもね」
「……じゃあどうしろっていうんだ」
「だからね、撃つ瞬間を見切ればいいのよ。銃の向きとそれを今から撃つんだってタイミングがわかれば、あとは大きく身を反らせば弾は当たらない。だから君は銃弾を見るんじゃなくて、引き金に掛けた指の動きを注意深く観察すればいい」
彼女は簡単そうに、そう言って笑った。
僕はその言葉を全て納得できたわけではないけれど、でもそれ以上無理だなんだと言う事は堪えた。
そして今、僕はまさにその最中にいる。
目の前には銃を構えたカイザー。その指は引き金に掛けられている。
「くくく、来るなよ……じ、じっとしてろ……」
カイザーの言葉を無視し、僕は一歩前に踏み出した。
「動くなって言ってんだろぉッ!」
「撃ちなよ」
「な、何?」
「撃てばいいさ。でも言っておくよ。撃ったところで、僕を撃ち殺したところで、君は救われない。君はどこまでも醜く、どこまでも愚かな人間だ。それは変わらない」
「お、俺を侮辱すんな!」
ぴくり――と、カイザーの指に力が入った。
撃つ――パアンッ!
大きく身を転がして、避ける。
避けれた。避けられた!
「な、え……」
撃てば必ず当たると思っていたのだろう。カイザーは何が起こったのか上手く理解できていない様子で唖然としていた。
僕も正直驚いている。でも今の僕に、その感動に興じている余裕はない。
僕はカイザーに向かって一直線に走った。
「おいおいおい、来んなって! 止まれってぇッ!」
パアンッ――再び、銃声が響く。
でもそれも、僕には撃つ前に分かっていた、いいや、見えていた。
集中した僕には、全てがスローモーションに見える。今なら冗談抜きで銃弾すらも見て避けれるかもしれない。
身体を前に押し進めながら、僕は身体を右へ捻らせるようにして銃弾をさけた。おそらく避けたのだろう、目には見えないが、でも身体に痛みはない。
「な、なんで当たんねえんだよぉッ!」
「うああッ!」
三度目の発砲。しかしその発砲を行う前に、カイザーが引き金を引く前に、僕は飛び込むようにカイザーに飛びかかった。そして彼ごと地面へと倒れ込む。
そして銃を握る手を両手で掴み上げる。
捕まえた――。
「ぐ、は、離せよッ!」
汗が気持ち悪い。息が臭い。
でもそれでも、僕はこのままの状態を維持しなきゃ行けない。カイザーの腕を押さえ込んで、銃を撃たせないように。
これが僕に与えられた使命だ。銃弾を避け、カイザーに襲いかかり、彼の拳銃を奪うか、もしくわそれを撃たせないように抑え込む。
抑え込めば、それを確認したソウが助けに入ってくれる。
完璧な作戦だ。そしてそれは完遂された。
「ソウ! 今だ! 拳銃は抑えた! 撃てない!」
「な、仲間か!? ややや、やめろ! 離せ! 死にたくねえよぉッ!」
ジタバタと暴れるカイザーを、なんとか全力で抑え込む。
ここでこの手を離したら、全てが台無しだ。
「ソウ! 間に合わないならオンちゃんでいい! とにかく誰か!」
なかなか姿を現さない彼女らに、しびれを切らしてそう叫んだ。
僕より体格の上回るカイザーの抵抗に、これ以上耐えられそうになかった。僕の力が尽きる前に、早くしてくれ。
その時、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
来た。ようやく来てくれた。
「ソウ! ……っえ?」
暗い闇の向こうから現れたのは、ソウでも、オンちゃんでも、インちゃんでも、ましてやテンちゃんでもなかった。
それは数人の男女。手には鉄パイプやらバットやらを持っている。
「カイザー様!」
「お、お前ら! さっさとこいつをどかせ! 俺を助けた奴は四天王に昇格してやるぞ!」
そう言われた男女は互いに顔を見合わせ、我先にと僕に襲いかかった。
そして誰かが持っていた鈍器で、僕は思いきり後頭部を殴られ、手を離す。
「ハアハア……て、てめえ、びびらせやがって……」
立ちあがり息を整えたカイザーが、僕を憎々しく見下ろしながら言って、銃口をこちらに向ける。
「俺様にこんな事して、タダで済むと思ってんのか……ああッ!?」
「どう、して……皆、は……?」
「カイザー様」
今にも発砲しようとしていたカイザーの元に、もう一人別の人間が現れる。彼女は慌てた様子でカイザーに近寄り、そして言った。
「か、《鍵》が! 《鍵》が納屋から消えています!」
「何ィ!?」
鍵……? なんだそれは?
「納屋に誰か入ったのか? ……まさか、てめえ、最初からそれが目的か!?」
言ってカイザーは僕の頬に銃口を押し付けた。
「言え! 《鍵》を奪ったのはてめえの仲間だな! 俺を誘い出した隙に!」
わからない。というか僕は頭の痛みで喋れる気分じゃない。
カイザーはフーフーと怒りを抑えきれないでいたが、しかし何かを思いついたのか僕から銃口を外して仲間に言った。
「こいつを生かして連れてこい。尋問してやる」
ゴッ、とカイザーは最後に銃を握った手で僕の顔を思い切り殴りつけた。
ご感想などあれば是非。
教えていただければ私も読みに行きます。




