不合格なのじゃ!だって。
寒い日が続きます。
ついったー▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
ふ――と、目が覚める。正面を見据え、現状を把握する。
「ここは……」
ゆらゆらと、僕の見据える白い天井が、ランプの光に揺れている。暖かい色だ。
身体を起こし周囲を見ると、そこは診療所の一室。僕はその和室の畳の上に寝かされているようだった。
「あれ、皆は……うわっ!」
動かない頭を無理矢理動かし、僕が後ろを向いた瞬間だった。
そこに等身大の人形――じゃない。陰の薄さで評判の、絶対寡黙少女インちゃんが正座してこちらを見ていた。まるで市松人形だ。
怖いよ。マジで。
「あ、えっと……もしかして、看病しててくれたの?」
僕が尋ねると、インちゃんは少し視線を逃がして、頷いた。
見れば彼女は両手で蝋燭の乗った器を持っている。どうやら番をしていてくれたらしい。
「そっかありがとう。そういえば君とこうして一対一で会うのは初めてだね。よろしく」
「……」
「うー。あーっと。あんまり喋るの得意じゃないんだね。でもいいんじゃないかな。僕は寡黙な子の方が可愛いと思うし」
「……」
何とか会話を繋げようとそう言ってみたら、インちゃんは気のせい程度にどこか恥ずかしげに視線を逸らす。
どうやら人形のようなというのは僕の偏見で、この子は本当はただの引っ込み思案なのかもしれない。
「ところで皆は?」
ひょい、と彼女は腕を上げてある方向を指した。
「じゃあ行こうか」
重い腰を上げ、僕はその和室を出て皆がいつも溜まっているソファが四角く並べられている部屋へと入った。
そこでは僕とインちゃん以外の三人が、難しそうな顔をして中心の背の低いテーブルを睨み付けていた。
「やあ」
「起きたか、シュン。頭は大丈夫か?」
「それが僕を馬鹿にした発言でないなら、僕の頭は大丈夫だよ。痛みももう無い」
「そうか」
「……どうしたの?」
僕は訝しげに三人に近づき、同じようにテーブルを見下ろした。
テーブルの上には、おそらく僕らが奪ってきたであろう物資の山ができていた。
「これが今日の収穫?」
「そうなんだけどね……どうやらハズレを引いたらしい」
ソウがため息交じりに呟く。
机の上には、箱に入ったフライパンと、生卵や油、その他諸々の食材が並べられている。
「シュン公よ」
テンちゃんが、僕の名を呼んだ。
犬か僕は。
「何?」
「お主に課した試験は、不合格だ」
「え……?」
ちょっと待ってくれ。それは話が違うじゃないか。
物資をとってきたなら合格、そういう約束だったはずだ。
「どうして? 僕はこうして物資をちゃんと持ってきたでしょ? ねえソウ?」
「どれも食えんではないかあほー!」
「あほー!」
涙目で、テンちゃんが叫んだ。それに追随するように、オンちゃんも叫んで泣き始めた。
どうして?
「馬鹿者! こんな食材ばっか並べられても、生では食えんではないか! 加工食品を持ってこい加工食品を!」
確かに僕らが奪ってきた食材はそのどれもが、いわゆる素材であり、菓子パンやスナック菓子といったような、そのまま食べられるものはほとんどない。
強いて言うなら水が三本とお湯で溶かすだけのコーンスープはすぐにでも口にできる。
「阿呆! 妾は腹が減っておるのじゃ! こんな生ゴミをどう食せと申す!」
ポカポカと、テンちゃんとオンちゃんが、僕の身体を叩いた。
ソウはソウで、この世の終わりのように頭を抱えて下を向いている。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ! だったら作ればいいだろ? 料理しようよ!」
「……は?」
全員が、僕以外の全員が、ぽかりと口を開け、マヌケ面を浮かべた。
まるでそんな考え微塵も持っていなかったかのように。
「え、だから、調理したら食べられるでしょ?」
「何抜かしてけつかっちん。シュン公よ」
「なんだよその日本語は……え、何、皆料理とかしないの? 女の子なのに?」
「ば、ばっか。私はするよ。インスタントラーメンにはいつもブラックペッパーをかける」
「それは料理じゃないよ。ソウ。君本気で言っているのかい? 」
ソウは逃げるように視線を逸らした。
僕は周囲を見渡すが、全員が逃げるように視線を合わせない。
唯一僕を見ていたオンちゃんは、本当に僕が何を言っているかわからないかのように、ぽかりと口を開けて首を傾げて僕を見上げていた。
「いや、確かに近年の男女平等化の影響かなにか知らないけれど、女が家に入って男は黙って金を稼いでくるという構図が変化、ともすれば侮蔑されている世の中で、君たちに女の子だからと言って料理ができて当たり前だろうなどという女性差別的発言ともとられない事を言うつもりはないけれど」
しかもここには僕以外が全て女性という完全なアウェイであるため、そんな発言は恐れ多くてできはしないが。
「でも皆、簡単な料理くらいはしようよ。これ卵。フライパンの上で火を通すだけで充分食べれるよ。卵焼きでもスクランブルエッグでもいいじゃん。調理実習で習ったでしょ? 火を通す事は料理とは呼ばないよ、今どき」
「わ、妾は調理実習はまだ習っとらん」
今だ、と言わんばかりにテンちゃんがそう胸を張っていった。
えばるなクソガキ。
「はあ」
大きくため息をつく。
まさか、こんなところで役に立てる時がこようとは。
「ねえソウ。ここは調理器具とかある?」
「え? あーっと、取ったけど使えそうにないものは全部あっちの部屋によけてある。そこにガスコンロがあったかな」
「そう……じゃあオッケー。皆、机の上を綺麗にかたしといて。君たちにできる最大の仕事はそれだよ」
僕はそう言い残して、隣の部屋へと向かった。




