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注:アカウント停止のご連絡(Lv1)  作者: イクラ
Lv1-③
15/33

強奪始めました。

遅れた。。。

ついったー▶︎飯倉九郎@E_cla_ss

 そして一歩踏み出そうとした時、すっ、とソウが僕の行く手を遮るように手を差し出した。彼女はジッと正面を睨んでいる。

「……どうしたの? 行かないのか?」

「いいから、黙って見てて」

 言われた通り、僕は黙り込んだ。

 すると正面に落とされた大きな風呂敷に、二人の人間がふらふらと近づいて行く。顔を綻ばせて、凄く嬉しそうだ。

 彼らは風呂敷に手を差し出し、ごそごそと中身を取りだそうとしているようだ。

 身体が疼く。こんな事をしてたら、良い物資が先に取られてしまうではないか。

 案の定、その男二人は充分に選別した後、両手一杯に物資を抱き込み、喜々としてその場を後にしようとした――が、その瞬間、彼らの行く手を阻むように、数人の男達が周囲から現れて、彼らを囲んだ。

 その手には鉄パイプや、ナイフなどが握られている。どうやらそれを使って、先の男たちがとった物を奪おうとしているようだ。

「どうしてわざわざあんな事……?」

「あれだけの物資よ。一人が持って帰れる量なんてたかが知れてる。だったらその中でも、より良い物資を奪いたいと思うのが人の常でしょ? 鉄パイプよりもナイフ、ナイフよりも拳銃ってね。でもこんな場所でじっくり物資を選んでる時間なんてない。先着順じゃないんだからね。欲に飢えた獣たちが、すぐにポイントに駆けつけてくる。だからまず、先に誰か、物知らずな愚か者が出てくるのを待って、彼らにゆっくりと良質な物資を選別させるのよ。あとはそれを即座に奪えばいい。誰かに襲われる危険もなく、最良質の物資を時間をかけずに得られるっていう寸法よ」

「……なかなかどうして、えげつないやり方だね」

「それを言ったらお終いよ」

 気がつけば、先に出てきた二人の男たちは、諦めてその物資を囲んだ男達に渡していた。

 そして両手を上げて降参したポーズをとっていたが、その男二人を、囲んだ男達が一斉に襲いかかり、殴る蹴るを繰り返した。そして男二人は地面に突っ伏して動かなくなった。

「どうして……もう何も持ってないのに」

「だからああして不必要に他人を傷つける事を楽しむ馬鹿も多いのよ。ここにはね」

 にわかに信じがたい。そして認めたくない。

 だがそれはきっと、僕の知る常識が狭い範疇のものだからだろう。

 あれに対し正義を唱え、しゃしゃり出たところで、ここではそれは不利にしかならない。

 例え目の前でどんな凄惨な事が行われていても、自分の利益のために息を潜めてその時を待たなければならない。

 例えどれだけいらついても――。

「……」

 僕がちらりと見たソウは、その長刀を持つ手に握り潰してしまうのかと言う程に力を込めていて、彼女もまた目の前の出来事を理解はしているが感情としては納得していないように見える。

「でもいいの? あれだったら、あの人達に持っていかれちゃうよ?」

「あれは比較的大きなチームのやり方。ああやって数で押して、圧迫して物を奪う。あれをやるには私たちは数が足らな過ぎる」

「でもその刀で脅せば一発じゃない?」

「私がそうやって奪ってる間に、今度は私の刀を奪おうとする輩が集まるわ。結構レアなのよ、リーチのある日本刀って」

「そうか、既に所持してるものですら、強奪の対象になりうるのか」

 ゲームとは違う。持ち物として武器を登録しておけるわけじゃないのだ。

 彼女の刀も、衣服も、その身体さえも、いつ誰に奪われるかわかったものじゃない。

「しかも女だからね。男って女ってだけで結構強気になれるものなのよ。脅しがきかなかったりする。そうして揉めてる内に、気がついたら大勢の人間に囲まれてるってオチもありうるの……ここで生きて行くにはね、常に安全牌をとり続けなきゃいけない。だから、私たちが動くのは、ここからよ」

 そう言って、ソウは今し方二人の男から物資を強奪し、さらには残った物資の山から持てるだけの物資を抱いた男達が進んだ方向へと進み出した。

 目の前に残っている大量の物資には目もくれず。

「どこ行くんだよ。まだいっぱい余ってたろ?」

「別にいいけど、それじゃあここでのイニシアチブは取れない。ただ食べて、ただ生きて行くだけじゃ、すぐにジリ貧になってチェックメイトよ。ここでは常に有利になれる、もしくわ死のリスクを回避できるものを手に入れておくのが最低限なの」

そしてそれだけの価値を秘めた物資は、初めにあらかた奪われてしまう。

「ま、まさかあれを奪うのか?」

 ようやく気付いた僕がそう尋ねた時には、もう視界の先に男達の姿が見えていた。彼らは全員で五人。前後に二人の男が手に武器を持って内側の三人を護るように警戒して歩いている。残りの三人は、両手一杯に物資を持って固まるようにして歩いている。

 よく統率のとれた動きだ。相当な場数を踏んでいるのだろう。欲をかいて全員で物資を持たないところが、経験の差を感じさせる。

「五対三だよ?」

「五対二だ。オンは戦わない」

「ますます持って無茶だね」

「オン。他のチームは近づいて来てないか?」

「んー今丁度さっきのポイントで乱戦が始まったとこみたいだけど、こっちに近づいて来てる足音はないかにゃ。数が多いからはっきりとは聞き取れないけろ」

 なるほど、耳が良くても別に細かい音を細部まで聞き取れるわけじゃないのか。

「そう、なら好都合ね」

 と、ソウが自分の長刀に手を乗せた瞬間。僕は彼女の手を止めるように、掴んだ。

「何?」

「何? じゃないよ。結局それで、僕はどうすればいいのさ?」

「私が突っ込むから、最悪の場合助けて。それまではオンを護ってくれればいいから」

「助けてって簡単に言うね。あんな凶器持った相手に、何をどう助けろと?」

「後ろから殴り掛かるなり、大声出して威嚇するなり、なんでもいいわ。一瞬でも時間を作ってくれれば、私は体勢を直せる」

 それは素晴らしいこって。

「今回は君の試験という事だけど、でも私たちが君に求めてる役割は、その程度の事なの。別に前線に出て物資を力尽くで奪ってこいなんて言って無い。私たちのチームとして、チームワークの中で物資を得られれば、それでいいの。わかった?」

「わからない。でもこれ以上聞いてもわかりそうにないから、もういいよ」

 と投げやりに言う。だってそう言うしか、しょうがないのだろうから。

「じゃあ行くわね」

 そう言って彼女が足を踏み込んだ瞬間、僕の目の前から、ソウが消えた。

 と思ったら、僕らの先を歩いていた男達の中から、うめき声が上がった。

「いてぇ!」

 後方を護るように歩いていた一人の男が、足を抑えて地面に倒れ込んだ。

 前方の四人は何事かと唖然に彼を見下ろす。そしてすぐにその男の側に立つ、さっきまでは決していなかったはずの、黒い長髪の女を見た。

「な、何だおめえ!」

 前方を守る男が、他の三人を守るようにしてソウの方へ歩み出て、その手に持ったナイフを突きつける。

 が、すぐにソウの持つ長刀を見て怖じ気づいたように一歩後退した。

「お、お前……もしかして《黒塵ノ矢》か!?」

 どうやらソウは、このゴミ箱において相当な有名人らしい。その長い長い黒髪と、長い長い刀が特徴となり伝聞され、珍妙なあだ名まで作り出した。

 《黒塵ノ矢》――と。

「決して大衆の前には現れず、常に陰から人を襲い、確実に物資を強奪していく黒い髪の女……矢の如き速度で相手を切り裂き、殺した数は三桁を超える……だったか。噂は聞いてるぜ、《黒塵ノ矢》。うちの大将がお前に懸賞金をかけてるくらいだからな」

「ご紹介ご苦労様。でも、ていうことはつまり、自分が今どうするべきか、わかるわよね?」

「物資を寄越せ、ってか?」

 考えるように、思考するように、二人は睨み合う。

 一歩動けばそれが殺し合いの合図となってしまうかのように、二人は動かない。

「交渉だ」

 相手の男が、静かにそう口火を切った。

「こっちの持ってる物資のうち三分の一、つまり一人が持って帰れるだけの量を、お前に渡そう。その代わり、残りの物資と、俺たちの命は見逃して欲しい」

「……」

 彼らの真意を見抜くように、疑うように、ソウはただジッと見つめる。

「条件がある」

 今度はそう、ソウが言った。

「私が貰うのは、そこのそいつが抱えてる物資よ。それをこっちに渡してくれるなら、私は絶対に手を出さないと誓うわ」

 そう、それは一番初めに風呂敷から取り出された、物資の集まりだ。

 彼女曰く、最良質品の集まり、だそうだ。

 それを互いにわかっているのだろう、男は躊躇うように時間を空けた。

「……わかった。命には代えられねえ。おい」

 男の指示に、その最良質の物資を抱えていた男が恐る恐る前に出て、その物資を地面に置いた。そしてそのまま後ずさるように下がっていく。

「行け」

 長刀を向けたまま、ソウは男達に威嚇するように指示する。

「待て。仲間を連れて帰らせてくれ」

 そう言って男はソウに足を切られた仲間を助けようと、ゆっくりと近づいて来て、その手を伸ばす。

「にゃっ」

 オンちゃんが、突如そう声を上げて、ソウの方を見た。

 仲間を助けようとしゃがみ込んだ男が、仲間の男を肩に担ぐフリをして、その手に持ったナイフをソウに向かって振り上げた。

 だがその不意打ちを予想していたのだろうか、ソウはそこまで焦った様子も見せず、即座にその長刀で男のナイフをはじき飛ばした。

 でも――。

「違う! ソウ、後ろだ!」

 僕の声に、ソウが慌てて後ろを振り返る。

 そうだ。彼らには、もう一人の仲間がいた。五人ではなく、六人だったのだ。おそらく少し離れた所から仲間を見守る役だったのだろう。有事の際は彼らを助けるか、仲間に知らせるか、そういう役割。

 それ故、オンちゃんはその存在を把握しきれなかった。

 彼女の耳はどんな遠くの音も、どんな小さな音も聞き取れるが、しかし微妙な音の差を聞き分けることはできない。周囲に歩いている人間が五人だろうが六人だろうが、そこの小さな差は聞き分けられないのだ。余程距離が違えば、音の大小で聞き分けれただろうが、彼らの距離はそう遠くなかった。それ故、オンちゃんにとっては、一つの足音の塊、としてか判断がつかなかったのだ。

 それ故、見逃した。

 ソウの後ろから虎視眈々と彼女を狙う、もう一人の存在を。

 ナイフを持った男はあくまでソウの意識を彼に吸い付かせるための囮。本当の不意打ちは、その背後からだったのだ。

 ゴッ――と、ソウの背後から現れた男は、その手に持った鉄パイプで、ソウの後頭部を思い切り打ち付けた。自然、ソウは前向きに倒れ込む。

 そしてその頭を抑えるソウに対し、男達は躊躇う様子もなく、再度その武器を振り上げた。

「う、うあああぁぁァァッッ!」

 叫んだ。

 ただひたすら大きな声を吐き、僕は男達の意識をこちらに集中させる。そしてソウを助けようと、走り出した。

「仲間か!」

 僕はソウのように一瞬にして数十メートルも動けやしない。のそのそと、とろい足で彼らに近づいて行く。男達は充分な余裕を持って、僕に向きなおった。

 僕の目の前には二人の男。一人は鉄パイプ。一人はナイフを所持している。

「止まれ、殺すぞ!」

 鉄パイプの男が叫んで、前に出る。

 だが僕は止まらない。いいや、止まれない。勢いがなければ、今の僕は相手の威圧に気圧されて為すがままになるだろう。

 だったら相手がこっちを把握しきれない程に、むしろ圧迫してやる程に、時間を与えず突っ込んでやればいい。

 仕方が無い、と鉄パイプの男はそれを手に構え、僕を待った。その差五メートル。あんな物を振り回されたら、僕はなすすべがない。

 でも――

「らあッ!」

 ブオン――と風を切るように、振り下ろされる鉄パイプ。

 だがそれは僕には当たらなかった。

 まるで彼の横をすり抜けるように、鉄パイプの男を抜き去る。

「あ……?」

 いきなり目の前からいなくなった対象に、男は唖然と声を漏らす。

 だが僕はそこに一瞥もくれてやることなく、今度は目の前のナイフを持った男に集中した。

 きらりと光るナイフ。見ているだけで足がすくみそうで、それを向けられているというのは、僕の人生からしておぞましい事極まりない事だった。

 刺されれば死ぬ。いいや、当たって怪我をするだけで、誰も治療なんかしてくれない。下手すればそのまま出血多量でも死ぬだろう。

 嫌だ。逃げたい。刺されたくなんかない。

「うわあァァッ!」

 だとしても、僕は止まれない。

 あの子を、ソウを放って、逃げられなんかできやしない!

 今度は僕が彼女を救うのだ。仲間として。

 それが、僕の生きる目的、価値なのだから。

「じゃあ死ねよ!」

 ひゅっ、と小さな音がして、男はナイフを僕目がけて横に薙いだ。

 見ろ。よく目を凝らすんだ。

 僕なら見える。今までずっと、馬鹿みたいに速い小さな玉を延々追い続けてきたじゃないか。それに比べれば、こんなナイフ程度――

 長さにすればほんの数ミリだったろう。僕の鼻先を短いナイフの先端が空を切っていく。

僕は全力で身体を後ろへ反らし、間一髪のところでそのナイフを避けた。

「なっ……!」

 驚いている。ナイフを避けられるなんて微塵も思っていなかったのだろう。

 だがその油断が、隙が、命取りだ。

「ぐおっ!」

 僕は男の振り抜いた腕の二の腕辺りを、自分の頭と右肩の間に挟み込むようにして身体ごと突っ込み、相手を思いきり向こう側へと押し倒した。

 押し倒された男は強く頭を打ったのか、大きなうめき声を上げて動かなくなる。

「なんなんだよてめえは!」

 背後から叫び声がする。そうだもう一人残っていた。

 後ろを振り返ると、再び鉄パイプを大きく振り上げた男がいて、今にもそれを僕に振り下ろさんとしていた。

 でも何故か、その動きが酷くスローに見える。

 おそらく本当に遅いわけではないのだろう。ただ僕が、僕の集中力が最大限まで研ぎ澄まされている。今の僕には、全てがスローモーションに見える。

 来た。鉄パイプが、容赦無く僕に向かってくる。

「僕は、生きるんだ!」

 ギリギリで身体を横に動かし鉄パイプを避け、僕は立ちあがりながらその男目がけて突っ込んだ。

「ぐ……おあ……」

「あれ……?」

 鉄パイプは避けた。相手の懐には飛び込んだ。ここまでは計算通り。

 でもどうしてだろう。いつの間にか僕の手に握られていたナイフが、いつの間にかその男の胸に、心臓に、突き刺さっている。

 男は鉄パイプを手離し、震えるように後ずさりして、地面に仰向けに倒れ込んだ。その胸からはまるで温泉のように血があふれ出し、彼の衣服を濡らしていく。

「はあ……はあ……」

 ようやくスローモーションの世界が終わり、現実に引き戻される。

 僕は血みどろになった自分の手と、今まさに事切れようとしている男を交互に見た。男は僕とそう変わらない、高校生くらいの男に見える。

「……う、あ……お、で……死に、だ……ない……か、かあちゃぁん……」

 その血と同じくらいに、彼の目からは大量の涙が溢れ出て、頬を濡らす。

 彼は何を見ているのだろうか。その視線の先に、何を。

 そしてすぐに、彼の声も、鼓動も、全てが途絶えた。

 僕が、殺した。

「……つっ」

 ずきり、とこめかみに鋭い痛みが走った。

 そしてあまりの痛みに立っていられず身体よろめかせる。

「よくやったわ」

 その言葉と同時、僕の身体を支えてくれたのは、ソウだった。

 頭から少しだけ血を流していたが、無事そうで、少しだけ微笑んでくれた。

 彼女が無事でよかった。その安堵からか、はたまた安心からか、僕は全身の力が一気に抜ける感覚に襲われ、そしてすぐに気を失った。


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