ラッキースケベは蜜の味
「おかえりんぐー」
そう気のない出迎えをしてくれたのは、ブロンド髪の少女――オンだった。彼女はそのままソファへと倒れ込んでいき、いつものように眠ってしまう。
僕はソウに連れられるように戻って来たのだ。この彼女たちのホーム、診療所跡に。
「帰ってきていきなりで悪いんだけど、はい」
部屋に入ろうとしたところで、ソウが僕を制し、そして水を吸い取る気など毛頭なさそうなボロボロの布をこちらに差し出した。
「ごめん、臭い」
そのひと言で充分だった。
僕はまる二日間の汚れをこの身体に宿し、かつ最悪な事に、カイザー様(笑)の小便までかけられたのだ。僕の嗅覚はもはや麻痺していたようだが、しかし彼女たちは別だ。
ソウが言うには、診療所の裏手、その場所に小さな池があるらしい。しかも山から下りてきてすぐの水たまりで、それは酷く澄んでいて、綺麗だった。
「へえ。本当に綺麗だな……ここなら身体を洗っても綺麗になりそうだ」
そう言って服を脱いで脇にかため、そっと足を池に入れた。
まあ綺麗といってもそこそこ汚れは浮いていて、そして温泉とは違い水も酷く冷たいので心地良いとは思えなかったが、しかしとりあえず粘り着くような鬱陶しい汚れを落とせて、僕はほっとする。
ほっとしてしまっている。生きていることに。
上空を見上げると、木々の間からまん丸な月が見える。
「って事は、ここも僕の生きてた街と繋がってるんだよなあ」
そう、しみじみと思う。
さっきまでは外の世界の事などこれっぽっちも気にしなかったし、自分はここで生涯を終えるのだと諦めていたが、よくよく考えればここも同じ地球で同じ日本なのだ。異世界とまで考える必要もなく、同時にともすればすぐに家に帰れるんじゃないかなんて思う。
「帰ったところで……か」
水を手ですくい、顔を洗う。冷たい。
その時、顔を上げた僕の視界に、一体の人間の身体が飛び込んできた。目の前の大きめの岩の上に堂々と立ち、そしてこちらに背中を向けている。
その身体は見事な裸体で、しかもそれは女性の身体だった。だが女性と言ってもまだ若い、小学生くらいのもの。
「ん? ソウか? 今日は遅かったの!」
と、その少女は僕に気付き、こちらをゆっくりと振り返った。
「うわ、え……ちょ」
僕はその裸体の少女と目が合いそうになり、慌てて顔を隠した。
「むむ? むむむむ? あれ、お主、誰じゃ?」
「え、えーっと……」
慌てた僕に対し、しかしその少女は至極堂々と、悠々とこちらに近づいてきて、そう僕を睨み付ける。指の間からは彼女の顔だけが見える。
その顔はやはり子供で、ちらりと見えた胸も全く膨らんではいなかった。
「あの、えーっと……君は……」
「私か? 私はな、テンじゃ!」
偉そうにふんぞり返る少女。恥ずかしいとか言う感情はないのか。
ああいや、おそらくまだ羞恥心を憶える前の年頃なのだ。であれば、僕が恥ずかしがるのも逆におかしい。子供には子供としての対応をせねば。
と、僕は顔を隠していた手を外し、堂々とその少女を見つめた。
「って良いわけないでしょ」
「おぶぼっ!」
ぐい、っと頭を一気に池の中へと押し込まれる。
今の声はソウだ。彼女が僕の頭を無理矢理水の中へと押し込んだ。水越しに、どもった声が聞こえる。
ソウと先程の少女が会話をしているようだ。だが今僕は彼女の馬鹿強い力に抑え込まれているため、息ができない事に危機感を憶えるので精一杯だった。
足掻いても足掻いても、彼女は手を離してくれない。
息が、できない……あ、ダメだこれ……僕、死ぬ。
そして僕の意識は途絶えた。




