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第8話

 俺は不満だった。とても不満であった。

なぜなら、今回もまた『聖水』をかけられた事だ。

俺はこの『聖水』があまり好きではない。

これをかけたからと言って、敵に勝てるのか? 

しかも今回の『聖水』はニンニクのにおいがした。相手はドラキュラか何かか? 

そしてもうひとつ、俺が不満に思った事があった。

それは俺が配置されたポイントには、小生意気な若造もいたからだ。

何がルーキーだ。

何がエースだ。

世の中の事を何も知らないただの勘違いじゃないか。

だが俺は気持ちを整理した。俺も昔、きっとこうだったに違いない。

世代交代は恒に行われる。現場には絶えず若い波は必要だ。


 そう気持ちを整理したつもりだったが、俺は引退間近の老人でもないし、

俺が若い頃はエースみたいに失礼だったわけではない。

不満な気持ちを整理できず、エースの方に視線を送ると

変な光景が目に飛び込んできた。

俺の場所から約二十五メートル程離れた場所に立つエースは、

長い髪の毛をギュッと一本に縛り、地面の泥を顔や手に塗り何かの呪文を

ぶつぶつ唱えている。お前はアメリカインディアンか? 

それにお前は『寺の住職の息子』だろ? 

なんでロン毛なんだ? どうして髪の毛があるんだ?


 面をくらって、しばらくエースの様子を注視して驚いた。

彼の武器は弓だ。

弓? 

弓だって?  

エースは手に持った矢を全部取り出し、ぶつぶつ言いながら念を送っている。 

なんだ、それは? 破魔矢か?  破魔矢は神社、神道だろ?  

なのにエースの様相は、まるでアメリカインディアンだ。

お前はたしか住職の息子だったはずだ。エースは仏教徒のはずだ。

俺はわけがわからなくなった。

俺たちの敵は『黒魔術使い』だ。

まるでここは『スピリチュアル見本市』か何かか? 

あらゆる『未知の力』が集まっているようだ。

まあ、俺が使う銃弾は『生け贄の怨念』が込められた『銀の銃弾』なのだが。


 俺の立つポイントから五十メートル離れた場所にリョウは陣どっていた。

リョウがお気に入りの苔の生えた火山弾の上に腰掛け、

これから来る敵を待っている。手には、いつもの抗黒の剣。

あいかわらずだな、と俺は思った。リョウのその姿が微笑ましかった。

五十メートル離れたリョウを見つめてる俺に、誰かの視線を感じる。


 誰だ、俺を見ているやつは? 

その視線はリョウの背後の、ここから約百メートルほど離れた場所から

送られていた。デブだ。筋肉質のデブが俺を見て笑ってやがる。

なんて失礼なやつだ。

今すぐここを駆け出して筋肉質のデブに文句を言いに行きたかった。

異常な状態なこの雰囲気なら、パンチの一発ぐらいをお見舞いする勇気が

湧いてきたはずだろう。だが、それは出来なかった。

この状況がそれを許さないし、俺自身それをする勇気がなかった。


 風が吹いた。今の季節のこの時間なら、さわやかな風が吹く頃だ。

だが、俺のほおをつたった風は、とてもさわやかなどと言う物ではなかった。

冷たく刺すような、ひんやりとした風。俺はふと風の吹いた方向を見た。

俺たちが立つ山荘は、ちょっとした丘の上に建っている。

遠くに山の連峰が見渡す事ができる。

絶景とも言える方向を見て愕然とした。


雲だ。

あの雲だ。

『兄』との接触の際に俺が目撃した無気味な雲が、美しい山の連峰を

隠さんばかりに湧き出ている。

と言う事は、あの雲の下に兄がいると言うのか? 

距離は、そうまだ数十キロと言えるところだろう。

だが、距離が離れているからと言って安心はできない。

なぜなら彼の『力』のすごさは、この俺が身を持って体験したからだ。


 『兄』が近づいている事をリョウに、仲間に知らせようと手信号を掲げた時、

異変が起きた。雲に閃光が走り、ズズーンと言うにぶい地響きが響いてきたかと

思うと、『兄』がいると思われる場所から、火の玉が飛んできた。

火の玉はまるで火山の噴火のように中心から広がり、こちらめがけ飛んできた。

火の玉はまるで火山弾のように俺たちの付近に降り注いだ。

あんなところに火山口などあるわけはない。

だが活火山が噴火したような勢いで飛んでくる。

最初の犠牲者はデブだった。

名前も所属も知らない失礼な筋肉質のデブが、飛んできた火山弾によって

バラバラにされた。結局筋肉質のデブが誰かわからずじまいだった。

可哀想な彼に対して何の感情も持たなかった俺だが、火山弾の異常行動には

少し驚いた。筋肉質のデブを吹き飛ばした火山弾は、カーブを切ってコースを

変えて再び空に舞い上がった。 

何だ、あの火山弾は?  あの火の玉はいったい何なんだ?


 しばらくして、その答えがわかった。あれは『人魂』だ。

しかもただの『人魂』ではない。

復讐に燃える悪鬼の表情を浮べた『人魂』であった。

まさに『人面魂』と言えた。


飛んでくる。

火の玉が四方八方に飛来する。

復讐に燃える『人面魂』がまるで打ち上げ花火のように飛んでくる。

それはまさに『意志を持ったミサイル』だ。あらゆる場所に隠れた俺たちの仲間の

居場所を突き止め、駆逐していく。

俺の所にも人面魂が飛んできた。俺はぼうっとしていたわけではないが、

反応が鈍っていた。あわてて地面に身を伏せて第一回目の『爆撃』を寸前の

ところで避ける事に成功した。力いっぱい避けたために、

顔を地面に押し付けていた。土のにおいが俺の鼻に飛び込んでくる。


 くそっ! いつまでもこんな俺じゃダメだ。

こんな事ではリョウに見捨てられ、新人にもバカにされる。 

決意を固め、力強く銃を握りしめターゲットとなる人面魂を探した。


来る。

人面魂が襲ってくる。

のろい俺の動きを悟ったのか、人面魂はニヤリと笑みを浮べ俺に向ってきた。

こんな人魂にバカにされてたまるか。

俺は迫りくる人面魂に狙いを定め銃口を向け発砲した。


『生け贄の怨念』が込められた銃弾は、悲鳴に似た音を上げながら人面魂を

目指し空を舞った。一発、二発と空気を切り裂く重い音が俺の耳を麻痺させた。

意志のある人面魂は何事もなく銃弾を避け、俺を小馬鹿にする笑みを浮べ俺に

向ってくる。


ヤバい! やられる!

そう思って力を込めた三発目も見事に避けられてしまった。

人面魂が俺の目前まで迫る。

どうする、避けられるか? 

そう躊躇している俺の直前で人面魂は爆発したように炸裂して飛び散った。

砕け散る人面魂の絶叫が爆発音とともに響きわたる。

なぜだ? 誰だ? 

誰かが俺を助けてくれたのか? 


 あわててあたりを見回すと弓を構えたエースが俺に合図をしていた。

俺を助けてくれたのはエースだった。俺は複雑な気持ちだった。

後輩のルーキーに助けられた事に変なプライドを誇示している場合ではない。

だが、エースが送ってきた手信号はそんな俺の気持ちを逆なでした。

『帰ッテ、寝テロ』だと? 

何を失礼な!  

だが俺はエースに対して文句を言える状況ではなかった。

俺は今は戦場にいるのだから。住職の息子で仏教徒のはずのエースは、

神道の破魔矢のような矢で人面魂を次々に駆逐していく。

その様相はさながら『エース』だ。


 俺もプライドがある。

認めたくはないが、それが現実なのだ。

数は減った物の相変わらず人面魂は俺たちに襲いかかってくる。

リョウの所も例外ではない。抗黒の剣で次々に人面魂を切り裂いている。

だがリョウも無敵ではない。反撃の拍子に足をとられふらついてしまった。


あぶない! 

そう思った時、三方向に飛散し人面魂が体勢を立て直しリョウめがけ

襲いかかる。俺はあわてて宙を舞う人面魂を狙った。かなり離れている。

撃ち落とせるか? それとも間違ってリョウを撃ちはしないか? 

とても不安であったが時は待ってはくれない。

三つの人面魂は三方向からリョウに襲いかかる。

その様子をエースも気づいていた。

いったん俺を見たエースは俺の意志を確認して弓を構えた。

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