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第1話

 小鳥たちが集まっている。私が来るのをまっている。

ここへ来て、もうどのくらい立つのだろう? 

私はなぜ、ここにいなくてはいけないのか。


 都会の喧噪から、はるか離れた高原の山荘。

私は『あの事件』以来、ずっとここにいる。

私の自由を認めてくれる事もなく、ずっと、ここにいる。


 小鳥たちが、私が来るのを待っている。

どんな種類かわからない。

どんな種類でも構わない。そんな事は、関係ない。

さまざまな種類の小鳥たちが、私が来るのを待っている。


****


 この高原の坂道を歩くのは、何回目になるのだろう。

自分が何回きたかわからないほど、俺はこの高原の坂道を上がった。

ここに来るのは大変で、よほどの事がない限り車では来れない。

三時間に一本しかない路線バスを使って、ここに来る。

いくら鉄道が整備されているとは言え、まる一日かけ、列車を乗り継ぎ、

やっとこの高原にたどり着く。

いくら任務とは言え、大変な移動距離だ。普通の任務であれば、きっと

イヤでしょうがないだろう。普通なら、そうだ。

だが、俺は違った。ここへ来るのはイヤではなかった。

むしろ、楽しみにしていた。


 息が弾む。日頃現場で鍛えているとはいえ、高原の坂道はつらい。

近くの木々の上で鳥たちが鳴いている。どんな種類かわからない。

どんな種類でも構わない。そんな事は、関係ない。鳥たちのさえずりを

聞きながら、ようやくめざす高原の山荘にたどり着いた。地元の人でも、

こんなところに豪華な山荘があるとは、誰も知るまい。それもそのはず、

この山荘は政府機関の物だ。広大な敷地の中にポツンとある豪華な山荘から、

外に出るための『門』があるところまで歩いて約一時間半かかる。


『門』から敷地内にはいり、目指す山荘までの一本道を歩いて、

ちょうど一時間十五分が過ぎた。そろそろ、なだらかな岡の上に

建てられた山荘が、遠くに見えてくる頃だ。

普通なら、迎えの車で運んでもらうのだが、俺は歩く。俺は歩きたかった。

『あの事件』を再考するためにも、俺は歩いていきたかった。


 歩く途中の木々や草むらで、ところどころ動く物がある。

監視カメラだ。俺がここに来た事はとうに伝わっているだろう。

そもそも『門』から中に入る時に、厳重にIDのチェックは受けている

から心配はない。『門』でのIDチェックは味気のないものだ。

まるで壁のような門に向って立つだけで、IDチェックは終了する。

ものの十五秒ぐらいで終わる。赤く光る『モニターホン』に目をかざすだけだ。

俺は目をかざすIDチェックは好きではない。

それが無害であるとわかっていても、俺は好きにはなれない。


 自然に囲まれた人気のない高原の山荘だが、ここはこの場所には似合わない。

厳重に管理された、いわば『収容所』だ。小鳥たちのさえずりで、俺が今どこに

向っているか、忘れてしまいそうだが、ここは『のどかな場所』ではない。

俺は『ピクニック』に来たのではない。俺は『収容所』に向っているのだ。


 小高い丘にある山荘まで、あと百メートルと言う場所にたどり着く。

地面に突き刺さり盛り上がった岩の上で、リョウが俺を来るのを待っていた。

この火山弾は、大昔この辺の活火山が噴火した時のなごりだ。

今では、草や苔に囲まれ、渋い色合いを見せていた。

リョウは、この三メートル程の大きさの火山弾に登って、

あたりを監視するのが好きらしい。

リョウは俺に目線をあわせる事なく、つぶやいた。

「一人か?」

「ああ。」

俺とリョウの会話は、いつもこうだ。それもそのはず、長い期間、

ともに作戦行動をしてきた。俺が何も言わなくても、リョウはわかっていた。

だが俺は、リョウが何を考えているか、わからない時がある。

小鳥たちが集まっている。『秘密の花園』と呼べるような庭園に小鳥たちが

集まっている。その中心で小鳥たちとたわむれる、一人の少女。

俺が彼女に見とれていると、リョウがつぶやいた。


「大きくなったろう。」

「…。彼女は、どうだ?」

「問題ない。」

「…そうか。」

 俺は、そう答えるしかなかった。なぜなら、俺が彼女にこうして会えるのは、

年に二~三回だ。だが、リョウは違う。リョウは毎日彼女に会っている。

監視役と言う名目で、リョウは彼女に毎日会っている。

彼女は俺たちの視線に気がついたようだ。燐とした眼で、俺の方を見る。

遠く離れていても、彼女の表情ははっきりとわかる。彼女は、俺が来た事を

確認すると、荘園の奥へと隠れていった。小鳥たちも彼女について回った。

俺は、それを見つめながらつぶやいた。

「変わりは、ないのか?」

「ない。」

「…そうか。」


 突然、警報が鳴った。どこからともなくサイレンが響きわたった。

その途端、あちこちから黒服の特別科学警察SSPのメンバーが飛び出してきた。

ゆうに、十人以上はいるだろう。こんな自然に囲まれた木々の中にどこに

隠れていたのだろう。

さすがはプロだ。つまりは俺も、ここに来るまで、ずっと監視されていたの

だろう。何人かのSSPのメンバーは、知っている奴だった。俺と同じように、

『あの事件』に参加した連中だった。彼らもここに配備されていたのか。

ここに配備されていないのは、俺だけなのかも知れない。


 リョウがインカムで連絡を取っている。

今、鳴り響いている警報の理由を確認しているのだろう。二~三回うなずいた後、

リョウはボソッとつぶやいた。

まるで何事もない、大した事がないかのようにつぶやいた。

だが、それはとても大事なのだが。


「…兄が…兄が脱走したそうだ。」

「…えっ?」

「…これからまた、忙しくなるな…。」


 この時はじめて、俺はリョウに視線を合わせた。

リョウも俺の驚く顔を涼しそうに見つめ返した。

サイレンが鳴った理由を確認したリョウは微笑んでいた。

たしかに笑っていた。

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