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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奇跡の魔剣

作者: アマシロ







―――――誰もが、“役目”をもって生まれてくる。それが、わたしたちの種族に課せられた使命だった。



 火を操る、水を操る、風を、大地を。

 あらゆる自然を操り、世界のバランスを保つこと――――それこそが、(ドラゴン)に与えられた力。


 しかし稀に、自然現象でないものを司る竜もいる。“豊穣”“幸運”のような概念的なものを操る竜である。彼ら彼女らは特に人間や知恵ある生き物たちに神と崇められた。




 だからきっと、それは必然だったのだろう。

 神と崇められた竜たちや魔力ある生物のうち一部が、人と血を交えた。そして強大な力を持った“魔族”が生まれたのである。


 便利な能力を持ち、親と同様に人から崇められた魔族は良かった。しかし戦いに特化した魔族たちは排斥され、彼らの中から“魔王”が出た。





―――――わたしが“奇跡”を司って生まれたのは、ちょうどそんな時分だった。





「アルナ、どうか貴女に幸せがありますように―――――」




 “治癒”を司りつつも虚弱体質な母に似て、同じく虚弱だったわたしはまだ子どものうちに母を失った。“力”を使うためにはそれなりに生命力を消費する。病気で死にかけのわたしを救って母が死んだのである。それから父とも疎遠になり、気づけば父は権力闘争で死んでいた。




 それからは暗い塔に押し込められて、“奇跡”の力を行使させられる日々である。





『姫様、国庫の中身が不足しているのですが』




 最初はそれこそ、クーデターを起こした大臣がちょっとした願いを叶える程度だった。竜は財宝が好きなので、大臣が考えた財宝を出させられるとか、壊れた財宝の修復とか。願いを叶えているとすぐに倒れるわたしが死んではまずいと思っていたのだろう。生活には困っていなかった。




『姫様、あの“洪水”を司る竜が調和を乱すのです』




 暗殺のようなこともさせられそうになったが、“奇跡的に隠居したくなった”その竜に対して大臣は特に何か言うことも無かった。目的は達したので良いということになったのだろう。

 しかし問題は、ある日“豊穣”を司る竜がへそを曲げた時に起こった。



 竜たちは神として崇められながら人を支配していた。

 なのに宝物の取り分が少ないと“豊穣”の竜がへそを曲げたままではとんでもない不作になり、支配している人間たちが死んでしまうか、あるいは暴動でも起こるかもしれない。が、以前から好き放題していた“豊穣”の竜に頭を下げたくなかった大臣は“奇跡”を起こすことにしたのだ。




 “奇跡的に”いつも以上の豊作になったことで“豊穣”の竜は面目を潰され、『働かないのであれば分け前は無い』として分け前を減らされ、歯切りしながら働くことになる。






 だから、彼女が“奇跡”を排除することを考えるまでそう時間はかからなかった。あるいは彼女にも入れ知恵をした“誰か”がいたのかもしれないが真相は闇の中だ。





『生きているから死ぬ心配をする必要がある。ならば、死んだ後に剣にでもしれしまえばいいのだ』




 “豊穣”の竜はどこからか持ち出した“かつて竜だった、自在に焚火を起こすことのできる剣”を宮中に流した。大臣はそれで気分を良くし、言った。




『姫様、いつもご苦労様です。これは私の気持ちです』




 毒杯である。ちょっとした願いで苦労しているのなら、ゆっくり休めというのは皮肉が効いている。

 いい加減に嫌気がさしていたわたしは、これで全てが終わると思ってその杯を仰いだ。









―――――まさか、剣にされても意識だけは残るものだと思いもせずに。






 目が覚めて、剣になっていた時にはもう遅い。

 わたしに意識があると知らずか――――知っていてもまるで気にしなかっただろうが、最早思い通りにならない、道具としての力では“奇跡”で自害することもできず、タガの外れた大臣の願いを叶える他に無かった。





『――――では、“豊穣”の竜も剣になってもらうとしよう』





 それは、それまで仮初なりとも続いていた平和の崩壊だった。大臣は“奇跡”で消費される莫大な魔力に驚きこそしたものの、それでも彼も長い年月を生きた竜である以上は命に関わるほどではなかった。

 逆らう者は剣にされ、大臣はそれを自分を信望する民に下賜することで欠けた秩序を支配する。




 そう長くない期間でおよそ半分ほどの竜が剣に変えられ――――そして、下賜された剣を持った民が反乱を起こす。




 “毒”を操る剣、大臣が警戒して早々に剣に変えた竜の剣を持った民の代表がその力に味をしめ、一番目障りな大臣を毒で排除したのである。彼もまた逆らう者を毒で殺し、脅し、また奴隷の家族を人質に取って命懸けで竜を剣に変える“奇跡”を起こさせた。


 わたしもある程度自分の持っている魔力を融通したりしなかったりという程度のささやかな反抗は可能だったものの、分不相応な願いを叶えようとした人間の魔力は残らず剣に吸い込まれ、願いも叶わない。そして次の願いのための貯蓄になる。


 多くの人間が死に、そして人間と比べれば少ないが残り僅かだった竜が剣になっていく。ごくごく僅かだった知り合いを剣にさせられた時は気が狂うかと思ったけれど、いつしか心は錆びついていく。





 そうして数百年後には竜はいなくなり、多くの魔剣が人間たちの手に渡る。そしてわたしは邪魔者を殺したり、あるいはその圧制者をどうか死なせて欲しいというような願いばかり叶えさせられた。竜がいなくなったことで魔王と、魔族たちが台頭するようになり魔王を倒すための力が欲しいというような願いもあった。

 あるいは金銀財宝が欲しいとか、枯れない井戸が欲しいなんてものもあった。人の数だけ欲望があり、願いがあった。十年、百年、いつしか年月を数えることを諦め、考える事を止めたはわたしは、ある願いを耳にした。





『どうか、この子に幸せな未来を――――』




 それを願ったのは、死にかけの母親だった。

 病弱な息子のために、“呪いの魔剣”だとかでいつの間にか封印されていたわたしに命懸けで願い、息絶えた。


 それは、わたしのお母様を思い出させる願いで――――溜めていたなけなしの魔力で僅かばかりの援助すると、無事に願いは叶い。わたしは久々に満足して眠りについた。





 次に目が覚めたのは、その助けた息子が剣を手に取った時だった。

 “奇跡”の剣を求めてか、彼の村が他の“剣”を持った魔の血を引く者、魔人に襲われていたのである。少年の祖母は命懸けで足止めし、このままでは犠牲者は増え続けるだろう。





「頼む、俺に力を……皆を守れるだけの力を貸してくれ――――」




 その少年には、少年の母が遺した魔力があった。

 ただの村人なら即死するほどの純粋な“力”を引き出した少年は魔人と互角に打ち合い。打ち合う度にわたしは相手の剣から魔力を奪い取る。


 剣の力は、基になった竜の実力に比例するのだろう。

 魔王の持っていた“豊穣”の剣を除いて力負けしたことが無かったわたしは奪った魔力を少年に還元し、更にこれまでわたしを振るった勇者の剣技をトレースさせることで魔人を撃退することに成功した。





 そしてそれから少年、カインは“勇者”(わたしのような力のある魔剣を持っている人間を勇者というらしい)として魔人の再度の襲来に備えるため、殺された祖母の復讐のため、そして村を襲わせないために旅に出ることになった。





―――――のだが。『時々くらいなら力を貸してあげようかな』という呑気なわたしの考えは早々に頓挫した。




 旅の序盤、とある剣豪に弟子入りしたカインは「剣の声を聞くのだ。それこそが強さに繋がる」という教えを真に受けたのである。




「―――――二つ目の願いだ。お前と話ができるようにしてくれ!」

『……そういう意味じゃないと思います…っ!』




 どう考えても『力任せに振るんじゃなくて剣を上手く使おうね』的な基礎の心構えだったはず…っ! 良く言えば素直、悪く言えば能天気なカインにわたしは思わず叫んでしまった。




「おお、ホントに声が聞こえる。……やっぱり願いが叶う魔剣だったんだな」

『……………』




 不意に、この何百年か誰とも話していなかったことを思い出す。

 嬉しいような、こそばゆいような。微妙な気分になったわたしは、一応言っておくべきことを思い出した。




『……言っておきますが、ヒトの身にわたしの力は過ぎたものです。あと一つでも何か願いを叶えれば侵食を抑えきれずに貴方は死にますから』


「マジでか。………いや、でもまぁ特に願いも無いしなぁ」




 そんなことを言うカインに、どうしてかわたしは昏い気持ちになった。ロクでもない願いばかり叶えていたせいで荒んでいたのかもしれない。あるいはそれがわたしの本性なのか、極めて意地悪くわたしは言った。





『わたしなら今すぐに魔人を殺すことも、死者を蘇らせることすらできるのに?』




 驚いたのか息を呑むカインだったが、僅かな間の後苦笑して言った。




「確かに復讐しようとは思ったけど……俺の復讐だしな。それにそんな願い、叶えたくないだろ? 婆ちゃんは……うーん、死んでまで生き返らせたりしたら祟られそうだ」






 それからの旅は長かった。

 これまではすぐに幾つかの願いを叶えて(魔力が逆流して侵食するため最大三つ)使い手が交代していたのだが、カインの叶えた願いは「力を貸してくれ」という非常に大雑把なものだったため、侵食が非常に緩やかに起こったのである。


 剣豪に弟子入りし、カインがわたしの力に頼らずとも戦えるようになったこと、そして自慢ではないけれど、わたしと会話することを選んだこともなんだかんだで大きかった。


 願いは解釈次第で自由にできる部分もあるので、夢の中で直接会って話ができるようなったのだ。それを利用して、これまでわたしを使った剣士の剣技を覚えさせたのである。夢の中ではカインのイメージが優先されるため、わたしも人間の姿になっておりそのあたりも便利だった――――。





「――――でも、なんでこんな姿なのですか…っ?」




 白い髪、白い肌。まあそのあたりは元々だし、剣も真っ白なのでまあいい。が、いくら刀身が長くないからと言って完全に子どもにされたのは噴飯ものである。死んだときは確かに子どもだったけれども!




「いや、まあ、うん。……そこはほら、アルナの普段のイメージ?」

「………淑女レディにそれは開戦です…っ」



「いや、だって常識ないし……。兎とか切ろうとすると凄い抗議してくるし……」

「あんな可愛い生き物をわたしで斬らないでっ!」





 カインは乙女心が全く分かっていない。可愛い生き物と脂ぎったヒトは斬りたくないのである。あと蜘蛛もイヤ。別に感触とかは無いものの、嫌なものはイヤ。

 ただやる気はあったので、毎晩特訓して一年もする頃には時々はわたしにも勝つくらいにはなってきた。いえ、いくら竜とはいえ素人のわたしに負ける程度じゃダメダメなのですが。



 力を付けたカインは、修行と称して困っている人を助けて歩いた。

 名声を高めれば活動がしやすくなるし、魔力を持った生物を斬ることで魔剣に魔力を貯めることもできるので一石二鳥と言えた。




 そして、二人で色々なものを見た。

 貧困の中でも生き抜く人々。どこまでも続く海。魚の群れに、巨大なクジラ。魔剣の力で空に浮かぶ鳥人の島に行ったこともあった。神秘の森の深くでエルフと交流したり、ドワーフにわたしの身長(刀身)を伸ばせないか直訴した(カインにさせた)こともあった。


 草原を、砂漠を、海を、空を、森を、火山を、流氷を、世界を巡り、“奇跡”に頼らずともカインと力を合わせて多くの願いを叶えるのは楽しかった。


 魔王との間で大きな戦乱が起こり、カインもその先頭に立って戦ったが“奇跡”を使うことなどほとんど無かった。






 ただ、それでもわたしの、竜の魔力がヒトにとって劇薬なのは変わらず。

 徐々に不調になっていくカインを見て考えた。




『――――……多分ですけど、十分に魔力を貯めれば元の身体に戻ることも可能なはずです。魔物を斬って魔力を貯めましょう』


「へー。それやれば何回でも願いを叶えられるのか?」




『それは――――同じ毒を何度も受けると拒絶反応が出そうなので止めた方がいいと思います』

「そっか」




 魔力が無くとも、もうカインは十分な強さを手に入れた。

 かつてとある民族に伝わった剣術やら、王都に伝わる宮廷剣術、エルフの魔法剣、ドワーフの豪剣、鳥人の空中戦、古今東西織り交ぜたカインに純粋な剣技で勝てる人間などそうはおらず、卓越した魔力操作で縮地のような裏技まで使えるようになった。魔力も十分に集まり、およそ叶えられない願いもないはずだった。



 それなのに――――。





『カイン、もういい加減に十分な魔力が集まったはずです! これ以上は……っ』

「いや、ほら。ちょっと叶えたい願いを思いついてさ」




 何気なく言われたその言葉は、どうしようもない裏切りに思えた。

 カインが生きていてさえくれればと思うのに、叶える願いなんてないと言っていたはずの本人がそれを拒否するのである。


 剣になった竜と人間、全く立場は違っても笑い合ったことは、これまでの旅は嘘じゃないと思っていたのに。……相棒だと、思っていたのに。





『ふざけないで! それなら、わたしはもうカインに協力するつもりはありません!』






 それはきっと、わたしが初めて自分の意思で叶えられた“奇跡”を拒絶した瞬間で。きっとわたしは自分を蔑ろにされたようで拗ねていたのだろう。困ったように笑うカインは、そのことを理解していたのかよく分からない。

 けど、それでもカインは止まらなかった。




 奥の手を失い、不調の身体を抱えて。

 祖母の仇である魔人と、その親玉のいる国に乗り込んだ。


 それがカインが独りで戦った初めての戦いで。彼の最後の戦いになった。









 魔人を斬って殺された祖母の復讐を果たし、カインの身体はもう限界だった。

 四肢は焼け焦げたように黒ずみ、右目はもう見えていないだろう。音が聞こえているのかも怪しい。わたしが協力しても限界は早まっただろうと分かっていても、これほどまでに苦しまなかったのではないかと思うと胸が張り裂けそうだった。




『―――――…ごめん、なさい………ごめんなさい、カイン……』

「…………泣くな…っ、て。………ガキ…だな、ほんと」




『……カインっ! はやく、早く願って下さい! 生きたいでも、元気になりたいでもいいんです! はやくしないと、貴方が――――』

「大丈夫……だよ。この、願いは―――…死んでも叶えるって、決めたんだ」





 それは、やはり生きるつもりはないという宣告で。

 疾うの昔に錆びて朽ちた筈の心が軋むように痛んだ。もう、そんな願いを抱く資格はないはずなのに。浅ましくも希望を抱きたいと思っていた。泣いて縋るのが彼を困らせるのだとしても、それでも叫びたいほどに心が揺れていた。





『なんで、なんで生きようとしてくれないんですか!? …………イヤ、イヤです…っ! わたしを、独りにしないでよ…っ! カイン…っ!』

「俺は、色々なものを切り捨て過ぎた。でも、お前ならきっと……たくさん友達ができるさ、アルナ」





 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 カインが叶えたい願いは、わたしを蔑ろになんてしてはいなかった。そして同時に、どうしようもなく行き違っていた。





『え―――――カイン?』

「最後の願いだ―――――アルナを、生き返らせてくれ」






 願いは、叶えられた。

 カインは笑顔で、魔力を補うかのように剣を自らに突き刺した。


 魔力の逆流に痛めつけられ、自らその身体にトドメを刺し。

 最早、生き返ることすらできないだろうという代償を払って。







――――――――――――――――――――――――――









 アルナは、人間として生き返った。

 カインがイメージした通りに、というか正直理想を盛ってたような気がしないでもない美少女として。


 魔力の逆流で灰になったカインを泣きながら埋葬したアルナの前に残されたのは、“奇跡”の魔剣。もう中身の無い抜け殻ではあったものの、アルナが使えば魔力タンクの代わりにはなりそうで。





「…………会いたいよ、カイン…っ」





 だからきっと、最初に叶える願いは決まっていた。

 生まれて初めて、自分のためだけに叶える願い。


 もう、カインは生き返らせられないほどにボロボロで。

 例えなんとか元通りに組み上げたとしても何も覚えてはいないのではないかというほどだった。





―――――ただ、それでも。“奇跡”は起こった。『元気だったころのカインに会いに行きたい』という願いが叶う。










 とある、田舎の辺鄙な村。

 未だ、世界に戦乱は起こっていない。“奇跡”の魔剣は未だに辺境の村に封印されているが抜け殻であり。


 時折変な夢を見る以外は何の変哲もない少年の元に、ひとりの少女が訪れる。白い髪に白い肌。少年の思い描く美少女そのままなその少女は、“まだ何も知らないはずの少年”に何か言おうと口を開くものの、言葉にならずに涙を溢れさせる。そんな少女に、少年は言った。











「………ほんとにガキだな、全く」

「――――――カイ、ン…?」




 いつものように、呆れた目でアルナを見るカインに本人なのだと確信する。

 そんな奇跡に、初めて自らの能力に感謝したアルナは、泣きながら彼の胸に飛び込――――もうとした。





「いや、お前が生きてれば願いとか叶え放題なんだし、もっと我儘言えば良いだろ。俺が死んだくらいで取り乱しやがって……お前が願うなら生き返るくらいするっての」

「な………な…っ、ふざけないでっ! カインが死んでしまってどれだけ悲しかったと思ってるんです!? もう生き返らせられないくらいボロボロだったのに!」




「え、マジで? アテが外れたな。サプライズが裏目に出たか……」

「さぷら――――カイン…?」




「うおっ、待て。目から光が消えてるから!? お、落ち着け」

「―――――そういえばわたしも自由に願いを叶えられるようになったのです。でも、前からカインが女の子を口説いてばかりなのが気になってまして。それは勇者としてどうなんです?」




 つまり、奇跡でそのへんをなんとかしてみようかという脅し。

 いくら向こうが求めてくるからって、わたしが剣で何も言えないからって、相棒を無視して彼女を決めるのはどうなんでしょうか。


 てきめんに顔色が悪くなったカインは言った。




「………待て待て待て。ほら、ユフィーとかお前とも仲良かっただろ?」

「―――――わ、わたしをこんなお子様にしておいて、やっぱり大人のお姉さんがいいんですか!?」




 確かにユフィーのことは好きだけどそれはそれ。敵は敵! どうせならわたしももっと妖艶な美女をイメージしてくれれば良かったのに!

 という心底からの恨みを込めた睨みをきかせるとカインは引き攣った笑みで言った。




「ルルシャとかほら、友情的なアレがあっただろ?」

「ルルはもう大人なのでわたしと違って希望が無いですけど」




 150歳のエルフはもう人間でいう成長期を終えていて、身長も女性の平均くらいあるルルシャは子どもっぽいからと見た目までお子様にさせられたアルナとは事情が違うのであった。(ルルシャもお子様不可避なアルナを哀れんでいたが)




「酷い?! いや、あれはあれで可愛い――――」

「………カインが女の子にモテなくなればいいのに」



「やめろぉ!? 待て待て、無節操に願いを叶えるのは良くない。その時になってから考えよう。な? 昔の友達にいきなり嫌われたりしたらホント悲しいから! “こっち”だとまだ会ったことも無いけど」

「……カイン、友達少ないですからね」



「お前が言うな」

「なのに女の子にはモテモテで」



「アルナも大人気だっただろ。ほら、大司教とか」

「なんであの変態をチョイスするのですか!? あの人ただの魔剣コレクターじゃないですか!」




「魔王とか」

「あの人は奇跡が欲しかっただけですし」




「俺とか?」

「―――――そ、れは。わ、わたしも――――」





「ぷっ、耳まで真っ赤にしてやんの! いやぁ、無口で無表情だったころのアルナが懐かしいな。こっちの方が面白いけど――――」


「――――カインが王都のオカマバーで大人気になりますように」




「あああああっ!? いや、ほんとに良い人達だけどやめろぉおおおっ!? アルナが嫉妬して大変だったんだからな!? なんでオカマにまで嫉妬するんだよ! 夢の中で投石機滅多打ちとかなんて拷問!?」


「しっ――――嫉妬なんかぜんぜんまったくしてにゃいです! ………ぜんぜんまったくしてません」




「「………よし、もう止めよう」」





 激しく騒いで疲れきった二人に、いつの間にか家から顔を覗かせていたカインの祖母が微笑ましいものを見る目で言った。




「おやおや、可愛らしいお嬢ちゃんだこと。どうしたんだい、カイン」


「実は俺の彼女で」

「実はわたしの大切なヒトで」




 と、互いに相手を慌てさせてやろうと思ったのが見事に重なる。というか半ばハモった。びっくりする祖母より二人の方がもっと驚いた。



「「というのは嘘で」」

「おやおや。てっきりリーナの一人勝ちかと思ってたけど、強敵登場かねぇ……」



「………カイン、まだ女の子がいたのです!?」

「ちょっ、リーナは大切な幼馴染だからな!」





 ギャーギャー騒ぐ二人を見ながら、素直になれない孫に嘆息しつつもお婆ちゃんは言った。




「アタシの嫁入り修行は厳しいよ? 付いてこられるかい?」

「お嫁さん―――――は、はいっ」


「……で、今何百歳だっけ?」




 ぽつり、と呆れたように呟くカインに、多分数百年くらい生きていただろうアルナは笑顔で言った。




「(ヒトとして)生まれて三十分くらいです」

「………カイン、ちゃんと節度は守るんだよ?」


「婆ちゃん!? いや、そいつ竜だから! うん千歳とか行っててもおかしくないからな!? というか明らかに嘘だろ三十分とか!」




「こんな可愛い子に失礼だよ。大丈夫だよ、お嬢ちゃん。カインはお嬢ちゃんみたいな可愛らしい子が好きだからねぇ」

「そうなんです? まあわたしはカインの欲望から生まれた(嘘ではない)のですけど」


「ヤメロォ!? 人の婆ちゃんに何を吹き込んでるんだ!」





 こうして、何気ない話ができることが。

 一緒に笑い合えることが、これまで叶えた無数の、どんな奇跡よりも輝いているように思えて。


 お茶を淹れに離れたカインの祖母を見送って、アルナは言った。





「だから、その。改めて、はじめまして―――――カイン」

「ああ。おかえり、アルナ」





「「これからもよろしく、相棒」」










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