一冊目『物語時間軸通りに進む訳では無い』
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その部屋はあまり綺麗とは言い難い。地下にあるため窓がなく圧迫感があり、ボロボロの机と椅子が置いてあるだけ。
エナレスは手錠を掛けられながら座らせられる。セレンはその対面に座り、手を組みながらエナレスを睨みつける。
「さて、私達は焦っています。部下のやらかした不祥事によって私達ファミリーはシーレンスマフィアに目をつけられている。
さて、教えてください。
シーレンスマフィアの情報を…」
そう言ってセレンは机の上にナイフを置く。
脅し。
古典的な方法だが、ナイフを見せて命を握られていることを示し、弱みを見せることによって救われる方法を明確にし、情報を吐かせようとする方法。
エナレスはナイフからセレンへと視線を向ける。
「ふふふ、私も貴方達と同じ世界の住人、渡せと言われて簡単に渡すと思いますか?
しかし、私としてもこのまま殺されたくはない。
どうでしょう?一つ勝負をしてみるのは」
「勝負、ですか」
「えぇ、本当に簡単な勝負です。
トランプの数字と絵柄を言って山札の上から捲っていき、最初に言い当てた方の勝ち、という勝負です」
「なるほど、つまらない余興ですね。
いいでしょう。トランプはコチラが用意したものを使います」
セレンが部下にトランプを持ってこさせ、二人が仕掛けの有無を確認してからシャッフルして山札を机の中心に置く。
「では、私からいきましょう。
ハートのエース」
山札の一番上のカードが捲られる。
カードはスペードのA。
次にエナレスがカードを引こう手を山札に乗せた瞬間、ナイフがエナレスの手の甲を貫き山札に刺さる。
エナレスは流れる血から視線をセレンに向ける。
「ふふふ、バカバカしい茶番ですね。
貴方のスキルが『透視』である事は知っています。私の情報収集能力を舐めないでいただきたい」
そう言ってセレンはエナレスの手からカードを一枚抜き取る。
「やはり合ってましたね。ハートのエースです。
貴方は始めから私に敗北しているのですよ。言ったでしょうつまらない余興だと。
さぁ、答えてください。
貴方が持つシーレンスの情報」
エナレスは手から流れる血に視線を移し、薄らと笑みを浮かべる。
「貴方が昨日対人した少年を覚えていますか?
名はイーツと言います」
「えぇ、この辺ではみかけない珍しい少年でしたね。
それが何か?」
「えぇ、彼はシーレンスに仇なす存在です。
異国から来た暗殺者とでも言いますか、まぁ、暗殺者というよりは野原を駆け回り獲物を狩る獅子という方が良いかもしれません。
彼を狩ることができるのならばシーレンスは貴方達マフィアの存在を認め、貴方の部下が犯した罪が消えるでしょう」
「あの少年がシーレンスに仇なす存在だと?
バカバカしい話ですね」
セレンは時間を無駄にしたと感じたのか椅子から立ち上がる。
「この世界の常識、お分かりですね?
それでは」
セレンは礼儀正しく一礼してから扉に手をかける。
「貴方が明日の陽射しを受けることは無いでしょう」
そう言い残して去り、エナレスはまた乱暴に檻の中へと閉じ込められる。
突き飛ばされてじんじんと痛む尻をさすりながら呆けているとまた昨夜の少年が現れた。
「兄ちゃんって馬鹿だよな。
盗聴されてるんだぜ?それなのにあんなに自信満々に自分のスキル言っちゃってさ」
「えぇ、そうですね」
エナレスは眠そうなに緩んだ目を擦りながら答える。欠伸を噛み殺しながら目を閉じて横になる。
まるで自室のように安らかに。
「は?」
少年は呆然と横になって目を閉じるエナレスを見ていた。
盗聴されていたことを気にしていない様子のエナレスに少年は考えを巡らす。もしかしたら何か策があるのかもしれない。そう思ってエナレスの顔を見るが何も読み取れない。
少なくとも明日死ぬと宣告された男の顔ではないことは確かだった。
今更ですが、この物語の最大の謎は主人公です。
読んでいて、わかって頂けたのなら良いのですが、彼が何故転生したのか。目的は?
そもそも、笹島闇頭って?エナレスって何なのか?
あまりにも謎が多すぎて、唐突過ぎて意味不明と思われるかもしれませんが、段々と分かってきます。
そう書いていく予定です。なってくれたらいいなぁ(震え声)
まぁ、気長に読み続けて頂けたらなぁと。
まぁ、目的と言ってもそう大したものじゃないんですよね。
若しかしたら誰もが一度は考えた事のあるものかもしれません。
特に男の子なんかはね(笑)