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一冊目『物語には登場人物が必要だ』


魔術学園スペリオはこの国一番の知名度と人気を誇る学園だ。

レベルも高く、身分に関係なく能力があるものは採用される。


故にエナレスは入学不可能だとされていた。

『戦闘』『知識』『不可思議』『スキル』全てにおいてエナレスは満足のいく点数を取ることができなかったらからだ。


点数の大半は『ステータス』によって決められる。『ステジオの水晶』と呼ばれる魔道機械によって能力を数値で測る。

エナレスはその全ての『ステータス』が一般人レベルであった。


しかし、親の影響力や本人の意思を鑑みて、仕方なく入学が許されたのである。


だからこそ、周りから非難の目で見られるのは仕方なく、エナレス自身も気にしてはいなかった。


入学式や授業など、礼儀作法は両親に躾られていたし、本を読んで雑学だけは豊富に持っているのでついていけないという程でもない。

唯一『模擬訓練』は端で見学している事が多くあった。


「あー、エナレスは今日も見学しとけ」


「はい」


教師であるニートル・トータスの声に周りからクスクスと声を押し殺すような笑いが漏れる。


『模擬訓練』とは、魔物と戦う時に重要である体力と立ち回りを学ぶ訓練だ。

ここにいる生徒達の大半は王宮魔導師や王宮騎士を目指す者ばかりであり、将来魔物と対峙する生徒ばかりなので、このような授業内容となっている。


エナレスは真剣に取り組む生徒達を観察する。

魔法が得意な者、剣が得意な者など色々な武器を持つ生徒達。


「…期待はできないな」


ここに集まる生徒達は王都の中でもそれなりに優秀な者達なのだろう。しかしそれは、温室の中で育てられた花だ。血を知らず、恐怖を知らない綺麗な花ばかり。


「懐かしい気分です」


まだエナレスが幼い頃、マフィアのルールではパートナーを作ることが掟だった。もし片方が死んでも片方が生き残り情報を持ち帰る役目を担うためだ。

親に捨てられ、ただひたすらマフィアのために腕を磨き続けたエナレスとってパートナーという存在は目障りでしかなかった。


「あの時は相当苦労しましたね」


仲間集めと人付き合いは難しいものだ。

それを教えてくれた彼女の後ろ姿を思い出していると叩きつけるような音と振動が訓練場に響く。


エナレスは目を細くして訓練場の中心へと目を向けると金髪赤目の生徒が立っていた。側には血だらけで倒れる生徒がおり、保険医が担架を持ってきていた。


ツンツン頭の少年、確か名前はイーツだったはずだ。入学した生徒の中で唯一平民から実力を評価されて入学した生徒だ。


その風貌は前世でも見かけたことがある。

所謂ヤンキーというやつだ。制服をだらしなく着て、真っ黒なサングラスを掛けている。これで煙草でも吸っていたら百点だ。


エナレスは目を細めてじっと、イーツを見る。

服の上からでもある程度筋肉が均等に無駄なく付いているのがわかる。

山育ちなのか柔軟性もありそうだ。


「…あぁ、なるほど」


それともう一つ、彼には面白い特徴がある。

本人は上手くそれを封じ込めているようだが、わかる者にはわかってしまうだろう。


「アァ、ココには雑魚しかいねぇのかよ!

これじゃあここに来た意味ねぇなぁ」


「平民の癖に」と周りの生徒達の目はそう語っていたが誰も言い出せずにいた。


「つまんねぇ」


イーツはどっかりとエナレスの横に腰を下ろして座る。


「機嫌、悪そうですね」


エナレスは膝を抱えて隣のイーツに向けて話す。


「あぁ?あぁ、まぁな」


イーツはポケットから煙草を取り出すとマッチで火をつける。

不良学生百点満点の花丸だ。


「ふー、俺は根っからの山育ちでさ。親もハンターが生業だから毎日山ん中で死に物狂いで特訓してた。実際、死にそうになったこともある。

……それでも戦い続けたのは強くありたかったからだ。理由はねぇけどよ。ただ親父の背中をずっと見てきてそう思うようになっていった。親父自身にもそう言われ続けてきたしな。

魔法は使えねぇが山ん中で魔物との戦闘で培った体術が俺にはある。もっと強くなりてぇ。そう思ってきたのによォ!」


イーツは煙草をクシャりと握りつぶす。


「睨んだだけで誰も突っかかって来ねぇ。貴族だからそれなりに教育はされてるんだが型にハマり過ぎて柔軟な対応が全くできてねぇ。

戦闘ってぇのには完璧な公式なんてねぇんだ。それなのにアイツらは型に入れた動きしかできねぇ。ありぁ、戦争に出てもすぐ死ぬな」


そう言ってイーツは二本目を取り出して吸い始める。


「まぁ、お前に言ってもしょうがねぇな。

何でテメェは参加しねぇんだ」


イーツは横目でエナレスの体を見る。

腕や足は線のように細く見えるがそこには柔軟さがある。存在感も希薄だし、目線も時々鋭くなる。暗殺者の特徴だ。

もし暗殺者だとしたら自分の力を見せることはしないだろう。そもそも学園にも通っていないはずだ。


「暗殺者、では無いよ」


思考を読み取られたことにイーツは驚きながらそれでも顔に出すことはない。


「実際私は体術も魔法もそれほど得意では無いしね」


「『スキル』持ちか?」


この世界にも『スキル』という者が存在する。しかし、それはエナレスの前世に存在した『異能力』とは異なる物だ。


「正解、でもそれもあまり戦闘向けの物じゃないかな」


そう言って薄く微笑むエナレスに君の悪い何かを感じながらイーツは他の生徒達の戦闘を傍観する。

型通りの戦闘、いやルールが儲けられた試合を見ている気分だ。それは華があるのだろう心震えるのだろう、しかし戦場ではあまりにもそれは無力だ。


イーツは満たされない乾いた心のまま、ただただ見ていた。






▼▼▼


戦いに染まった人間を何百人と見てきた。

『異能力』が存在する世界、裏世界に住む人間達にとってそれは当たり前の感覚だ。

それはつまり殺すことさえ出来れば全てが手に入るのと同義であった。

しかし、そこまでならいい。殺した向こうの幸せを求めての行動だからだ。

一番狂ったのは殺した向こう側が見えなくなった人間だ。


「さて、君はどちらかな」


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